私たちの試作機は最弱です

ミュート

文字の大きさ
68 / 191
第八章

整備中にて

しおりを挟む
「藤堂さん、生きてますか?」

「――っぅ、ああ。秋風のコックピットでもあんだけ衝撃来るとか、あの機体何なんだ」

「雷神と呼ばれる機体です。城坂さんと秋沢さんの二人で搭乗する、複座式ADですね」


 紗彩子の秋風に搭乗し、カメラを回していた藤堂が、機体内で頭を打ったらしく、打撲箇所を擦っている。ヘルメットを着用する様求めたにも関わらず着用を拒んだせいだと紗彩子は責めた。


「あれが、雷神プロジェクトの機体か」

「雷神プロジェクトをご存じなので?」

「二十年前位に出回ってた噂程度だがね。あの辺に居る防衛省のお偉いさんにも知ってる奴はいるんじゃねぇの? ほら、あそこに防衛装備庁の長官いるだろ?」


 藤堂が指した先には、来賓者用の特別席があり、その最前列には確かに防衛装備庁の長官である渡辺誠が目を見開いたようにしていた。


「というより、俺はこんな公の場で雷神を見るなんて思わなかったぞ。何があったんだ」

「――パフォーマンス、程度では無い事は確かでしょう。藤堂さん、先ほどの格納庫で下しますので、失礼してよろしいでしょうか」

「構わんよ。それにしても良い画が取れた。サンキューね」

「それより」

「報酬だろ。今度渡すから連絡先だけ交換しとこう。また頼むよ」


 互いの携帯端末を軽く接触させる事で連絡先を交換し合った二人。そして格納庫で藤堂を下した紗彩子は、そのまま機体より降りる事無く、どこかへと向かっていく。


「――自分も化物じみた腕前持ってる事を気付けてねぇんだから、この学校もしっかり教育してねぇって事なのかね」


 確かに島根のどかや城坂織姫の腕前は、現役のエースパイロット顔負けの実力を誇っている。

  しかし、そんな人物と戦い、健闘出来る能力を持つ自分自身を、紗彩子は一度も自画自賛しなかった。


「気に入った。今後も彼女の取材は続けるとしようか」


 駆け抜けていく秋風を、写真に収めよう。

  彼女の雄姿は、いずれ誰かが賞賛すべき力であるのだから。

  
  **

  
「なるほど、そう言う事情でしたか」


 敗者復活戦のバトルロワイヤルが終了した直後、神崎がオレ達生徒会メンバーの元へやってきて、事情説明を要求してきた。

  こちらとしても今後の参加予定がないメンバーに伝えない理由は無いので、爆弾の事と交流戦に参加していない部兵隊メンバーにも協力を願い出た旨を説明し彼女も概ね理解してくれたようだ。


「残る数は」

「早めに起爆する分の場所データは送られてきてたから、既に回収を頼んである。残り十二個分だな」

「それらの場所は、雷神の優勝が確認でき次第、教えると宣っているのですよね、そのレイスは」

「面倒なのは、やり合わなきゃいけないのが久瀬先輩と天城先輩って所だ」

「同感です。正直、敵に回せば恐ろしい相手です」


 今回の交流戦で手合わせ、そして強者の名誉を欲しいがままとする良司は勿論、雷神に搭乗していなかったとはいえオレ自身が一度敗北した天城先輩との戦いだ。


「ひとまず私も爆弾探しに協力いたします。捜索個所等の共有をしたいのですが」

「梢さんに一任してるから、そっちに話を振って欲しい。連絡先知ってるよな」

「ええ、問題ありません」


 神崎は携帯端末を使って梢さんへ連絡を付けつつ行動を開始、こっちも哨へと声をかける。


「どうだ哨」

「油圧パルスに若干不調、姫ちゃんと楠ちゃん無茶しすぎ」


 怒りつつも、しかし手は止めていないし、正直オレも楠も哨が整備をするのならばとある程度の無理を承知で動いている所もある。だが彼女に負担ばかりかけても悪いので、手伝える所は手伝うとする。


「城坂さん、休憩を挟みつつ次に天城先輩とのセッティングを行います」

「先に天城先輩でいいのか?」

「久世先輩と戦っても、次に万全な状態で戦えるとは思えません」

「天城先輩にもほどほどにはやられそうだが、まだマシか」


 この交流戦では、所謂整備なども休憩時間にこなさなければならない。これは整備科に所属する生徒が整備所要時間に限りがある中でどれだけ機体のポテンシャルを引き出せるかにかかっているから、だそうな。

 実はこの点で言うと久世先輩は卑怯だな。あの人はフルフレームを使う関係上、高田重工の技師が交代制で勤務しているからだ。


「ひとまず一つでも多くの爆弾を回収して、爆発しても被害が少ない箇所へ集中させる必要があります」

「あえて試合を長引かせるか?」

「好ましい方法ではありませんね。雷神には火器管制がないので、長引かせれば格闘戦を仕掛けざるを得ないこちらは消耗しやすいので」


 それもそうか、と思いつつ、関節部のグリスを整備装置に入力した所で、オレができる整備は終了、後は哨がどれだけ頑張ってくれるかだ。

 こんな時、自分に出来うる事の少なさを情けなく思う。


  けれど、そんな気持ちは首を振って忘れよう。


  アーミー隊に居た頃、同じく悩んだ事がある。

  けれどそんな時、上司であり引き取り手であるダディが言っていたじゃないか。


『オリヒメ、お前は一人で戦争をしているつもりか』

『出来る事が多い方が好ましいだろう』

『それを成せる人材がいないのならばな。だが専門のチームで動いている限り、専門家に任せろ。下手に手を出せば却って迷惑となる。

 戦争は一人でするものではない。パイロット、整備士、作戦指令……その他諸々、一人一人が出来うる事をして、何十人いう人間が関わってようやく戦争ができるんだ。

  自分にできることが終わったら、体を休めて力を温存しろ。そうして百パーセント以上の力を戦場で引き出すからこそ、皆が生き残る事が出来るのだ』


 そう、その通りだ。


  オレに出来る事は、コックピットの中で雷神の性能を百パーセント以上引き出すことだ。

  その為にオレが今できる事は、少しでも体を休める事。


「……みんな、頼んだぞ」


 椅子に腰かける楠の隣に座り、少しでも力を温存しよう。

  皆が生き残る最善への道を、生きるために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...