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第八章
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「藤堂さん、生きてますか?」
「――っぅ、ああ。秋風のコックピットでもあんだけ衝撃来るとか、あの機体何なんだ」
「雷神と呼ばれる機体です。城坂さんと秋沢さんの二人で搭乗する、複座式ADですね」
紗彩子の秋風に搭乗し、カメラを回していた藤堂が、機体内で頭を打ったらしく、打撲箇所を擦っている。ヘルメットを着用する様求めたにも関わらず着用を拒んだせいだと紗彩子は責めた。
「あれが、雷神プロジェクトの機体か」
「雷神プロジェクトをご存じなので?」
「二十年前位に出回ってた噂程度だがね。あの辺に居る防衛省のお偉いさんにも知ってる奴はいるんじゃねぇの? ほら、あそこに防衛装備庁の長官いるだろ?」
藤堂が指した先には、来賓者用の特別席があり、その最前列には確かに防衛装備庁の長官である渡辺誠が目を見開いたようにしていた。
「というより、俺はこんな公の場で雷神を見るなんて思わなかったぞ。何があったんだ」
「――パフォーマンス、程度では無い事は確かでしょう。藤堂さん、先ほどの格納庫で下しますので、失礼してよろしいでしょうか」
「構わんよ。それにしても良い画が取れた。サンキューね」
「それより」
「報酬だろ。今度渡すから連絡先だけ交換しとこう。また頼むよ」
互いの携帯端末を軽く接触させる事で連絡先を交換し合った二人。そして格納庫で藤堂を下した紗彩子は、そのまま機体より降りる事無く、どこかへと向かっていく。
「――自分も化物じみた腕前持ってる事を気付けてねぇんだから、この学校もしっかり教育してねぇって事なのかね」
確かに島根のどかや城坂織姫の腕前は、現役のエースパイロット顔負けの実力を誇っている。
しかし、そんな人物と戦い、健闘出来る能力を持つ自分自身を、紗彩子は一度も自画自賛しなかった。
「気に入った。今後も彼女の取材は続けるとしようか」
駆け抜けていく秋風を、写真に収めよう。
彼女の雄姿は、いずれ誰かが賞賛すべき力であるのだから。
**
「なるほど、そう言う事情でしたか」
敗者復活戦のバトルロワイヤルが終了した直後、神崎がオレ達生徒会メンバーの元へやってきて、事情説明を要求してきた。
こちらとしても今後の参加予定がないメンバーに伝えない理由は無いので、爆弾の事と交流戦に参加していない部兵隊メンバーにも協力を願い出た旨を説明し彼女も概ね理解してくれたようだ。
「残る数は」
「早めに起爆する分の場所データは送られてきてたから、既に回収を頼んである。残り十二個分だな」
「それらの場所は、雷神の優勝が確認でき次第、教えると宣っているのですよね、そのレイスは」
「面倒なのは、やり合わなきゃいけないのが久瀬先輩と天城先輩って所だ」
「同感です。正直、敵に回せば恐ろしい相手です」
今回の交流戦で手合わせ、そして強者の名誉を欲しいがままとする良司は勿論、雷神に搭乗していなかったとはいえオレ自身が一度敗北した天城先輩との戦いだ。
「ひとまず私も爆弾探しに協力いたします。捜索個所等の共有をしたいのですが」
「梢さんに一任してるから、そっちに話を振って欲しい。連絡先知ってるよな」
「ええ、問題ありません」
神崎は携帯端末を使って梢さんへ連絡を付けつつ行動を開始、こっちも哨へと声をかける。
「どうだ哨」
「油圧パルスに若干不調、姫ちゃんと楠ちゃん無茶しすぎ」
怒りつつも、しかし手は止めていないし、正直オレも楠も哨が整備をするのならばとある程度の無理を承知で動いている所もある。だが彼女に負担ばかりかけても悪いので、手伝える所は手伝うとする。
「城坂さん、休憩を挟みつつ次に天城先輩とのセッティングを行います」
「先に天城先輩でいいのか?」
「久世先輩と戦っても、次に万全な状態で戦えるとは思えません」
「天城先輩にもほどほどにはやられそうだが、まだマシか」
この交流戦では、所謂整備なども休憩時間にこなさなければならない。これは整備科に所属する生徒が整備所要時間に限りがある中でどれだけ機体のポテンシャルを引き出せるかにかかっているから、だそうな。
実はこの点で言うと久世先輩は卑怯だな。あの人はフルフレームを使う関係上、高田重工の技師が交代制で勤務しているからだ。
「ひとまず一つでも多くの爆弾を回収して、爆発しても被害が少ない箇所へ集中させる必要があります」
「あえて試合を長引かせるか?」
「好ましい方法ではありませんね。雷神には火器管制がないので、長引かせれば格闘戦を仕掛けざるを得ないこちらは消耗しやすいので」
それもそうか、と思いつつ、関節部のグリスを整備装置に入力した所で、オレができる整備は終了、後は哨がどれだけ頑張ってくれるかだ。
こんな時、自分に出来うる事の少なさを情けなく思う。
けれど、そんな気持ちは首を振って忘れよう。
アーミー隊に居た頃、同じく悩んだ事がある。
けれどそんな時、上司であり引き取り手であるダディが言っていたじゃないか。
『オリヒメ、お前は一人で戦争をしているつもりか』
『出来る事が多い方が好ましいだろう』
『それを成せる人材がいないのならばな。だが専門のチームで動いている限り、専門家に任せろ。下手に手を出せば却って迷惑となる。
戦争は一人でするものではない。パイロット、整備士、作戦指令……その他諸々、一人一人が出来うる事をして、何十人いう人間が関わってようやく戦争ができるんだ。
自分にできることが終わったら、体を休めて力を温存しろ。そうして百パーセント以上の力を戦場で引き出すからこそ、皆が生き残る事が出来るのだ』
そう、その通りだ。
オレに出来る事は、コックピットの中で雷神の性能を百パーセント以上引き出すことだ。
その為にオレが今できる事は、少しでも体を休める事。
「……みんな、頼んだぞ」
椅子に腰かける楠の隣に座り、少しでも力を温存しよう。
皆が生き残る最善への道を、生きるために。
「――っぅ、ああ。秋風のコックピットでもあんだけ衝撃来るとか、あの機体何なんだ」
「雷神と呼ばれる機体です。城坂さんと秋沢さんの二人で搭乗する、複座式ADですね」
紗彩子の秋風に搭乗し、カメラを回していた藤堂が、機体内で頭を打ったらしく、打撲箇所を擦っている。ヘルメットを着用する様求めたにも関わらず着用を拒んだせいだと紗彩子は責めた。
「あれが、雷神プロジェクトの機体か」
「雷神プロジェクトをご存じなので?」
「二十年前位に出回ってた噂程度だがね。あの辺に居る防衛省のお偉いさんにも知ってる奴はいるんじゃねぇの? ほら、あそこに防衛装備庁の長官いるだろ?」
藤堂が指した先には、来賓者用の特別席があり、その最前列には確かに防衛装備庁の長官である渡辺誠が目を見開いたようにしていた。
「というより、俺はこんな公の場で雷神を見るなんて思わなかったぞ。何があったんだ」
「――パフォーマンス、程度では無い事は確かでしょう。藤堂さん、先ほどの格納庫で下しますので、失礼してよろしいでしょうか」
「構わんよ。それにしても良い画が取れた。サンキューね」
「それより」
「報酬だろ。今度渡すから連絡先だけ交換しとこう。また頼むよ」
互いの携帯端末を軽く接触させる事で連絡先を交換し合った二人。そして格納庫で藤堂を下した紗彩子は、そのまま機体より降りる事無く、どこかへと向かっていく。
「――自分も化物じみた腕前持ってる事を気付けてねぇんだから、この学校もしっかり教育してねぇって事なのかね」
確かに島根のどかや城坂織姫の腕前は、現役のエースパイロット顔負けの実力を誇っている。
しかし、そんな人物と戦い、健闘出来る能力を持つ自分自身を、紗彩子は一度も自画自賛しなかった。
「気に入った。今後も彼女の取材は続けるとしようか」
駆け抜けていく秋風を、写真に収めよう。
彼女の雄姿は、いずれ誰かが賞賛すべき力であるのだから。
**
「なるほど、そう言う事情でしたか」
敗者復活戦のバトルロワイヤルが終了した直後、神崎がオレ達生徒会メンバーの元へやってきて、事情説明を要求してきた。
こちらとしても今後の参加予定がないメンバーに伝えない理由は無いので、爆弾の事と交流戦に参加していない部兵隊メンバーにも協力を願い出た旨を説明し彼女も概ね理解してくれたようだ。
「残る数は」
「早めに起爆する分の場所データは送られてきてたから、既に回収を頼んである。残り十二個分だな」
「それらの場所は、雷神の優勝が確認でき次第、教えると宣っているのですよね、そのレイスは」
「面倒なのは、やり合わなきゃいけないのが久瀬先輩と天城先輩って所だ」
「同感です。正直、敵に回せば恐ろしい相手です」
今回の交流戦で手合わせ、そして強者の名誉を欲しいがままとする良司は勿論、雷神に搭乗していなかったとはいえオレ自身が一度敗北した天城先輩との戦いだ。
「ひとまず私も爆弾探しに協力いたします。捜索個所等の共有をしたいのですが」
「梢さんに一任してるから、そっちに話を振って欲しい。連絡先知ってるよな」
「ええ、問題ありません」
神崎は携帯端末を使って梢さんへ連絡を付けつつ行動を開始、こっちも哨へと声をかける。
「どうだ哨」
「油圧パルスに若干不調、姫ちゃんと楠ちゃん無茶しすぎ」
怒りつつも、しかし手は止めていないし、正直オレも楠も哨が整備をするのならばとある程度の無理を承知で動いている所もある。だが彼女に負担ばかりかけても悪いので、手伝える所は手伝うとする。
「城坂さん、休憩を挟みつつ次に天城先輩とのセッティングを行います」
「先に天城先輩でいいのか?」
「久世先輩と戦っても、次に万全な状態で戦えるとは思えません」
「天城先輩にもほどほどにはやられそうだが、まだマシか」
この交流戦では、所謂整備なども休憩時間にこなさなければならない。これは整備科に所属する生徒が整備所要時間に限りがある中でどれだけ機体のポテンシャルを引き出せるかにかかっているから、だそうな。
実はこの点で言うと久世先輩は卑怯だな。あの人はフルフレームを使う関係上、高田重工の技師が交代制で勤務しているからだ。
「ひとまず一つでも多くの爆弾を回収して、爆発しても被害が少ない箇所へ集中させる必要があります」
「あえて試合を長引かせるか?」
「好ましい方法ではありませんね。雷神には火器管制がないので、長引かせれば格闘戦を仕掛けざるを得ないこちらは消耗しやすいので」
それもそうか、と思いつつ、関節部のグリスを整備装置に入力した所で、オレができる整備は終了、後は哨がどれだけ頑張ってくれるかだ。
こんな時、自分に出来うる事の少なさを情けなく思う。
けれど、そんな気持ちは首を振って忘れよう。
アーミー隊に居た頃、同じく悩んだ事がある。
けれどそんな時、上司であり引き取り手であるダディが言っていたじゃないか。
『オリヒメ、お前は一人で戦争をしているつもりか』
『出来る事が多い方が好ましいだろう』
『それを成せる人材がいないのならばな。だが専門のチームで動いている限り、専門家に任せろ。下手に手を出せば却って迷惑となる。
戦争は一人でするものではない。パイロット、整備士、作戦指令……その他諸々、一人一人が出来うる事をして、何十人いう人間が関わってようやく戦争ができるんだ。
自分にできることが終わったら、体を休めて力を温存しろ。そうして百パーセント以上の力を戦場で引き出すからこそ、皆が生き残る事が出来るのだ』
そう、その通りだ。
オレに出来る事は、コックピットの中で雷神の性能を百パーセント以上引き出すことだ。
その為にオレが今できる事は、少しでも体を休める事。
「……みんな、頼んだぞ」
椅子に腰かける楠の隣に座り、少しでも力を温存しよう。
皆が生き残る最善への道を、生きるために。
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