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第八章
謎の機体との戦闘にて-02
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「……え?」
男は、短く切られた短髪の黒髪、頬に火傷と切り傷を負った、三十台にも見える男性だった。
ポケットから取り出した紙巻タバコを口に咥え、ライターで火を点け、煙を吸い込んだ。
観客席にいた何人かが、驚きのあまり席を立った。
そして楠も、目を見開いて呆然としながら、男の正体を口にした。
「お父、さん……?」
男の名は、城坂修一。
この世にアーマード・ユニットという兵器を生み出し、多くの機体設計を手掛け、国家間AD機密協定というモノを国連に認可させ、雷神プロジェクトを立ち上げた……オレ達の、父親だ。
「どうして、お父さんが、生きて」
『それはまだ内緒だ。お父さんは秘密主義でね』
「おい、ふざけるなよ、親父……親父ッ!!」
『……また会おう。織姫、楠。聖奈によろしく』
一号機が親父を掌に載せて、高く跳び上がった。
すぐに後を追おうとしたオレだったが、楠が雷神のエンジンを緊急停止させた為、すぐには動けなかった。
「楠どうしてッ!?」
「お父さんだったんだよ!? レイスのトップが、お父さんっ!」
「だったら尚更追わないとッ!」
「お兄ちゃんは、お父さんと戦うつもり!?」
「ッ、!」
込み上がる疑問、雑念、苛立ち。
色んな感情はあるけれど――オレは、携帯端末に入って来たメールデータを見て、すぐにそれを梢さんに転送した。
爆弾の位置が全て載せられた、地図データだったから。
**
城坂聖奈は、電源を切っていた携帯端末を起動した。
彼女は今まで、高田重工が所有するTAKADA・UIGへと出向き、被害の状況確認を行っていたのだ。
愛知県にあるTAKADA・UIGは先日リントヴルムが率いる新ソ連系テロ組織【ミィリス】によって被害を受け、中でも機体設計データが多く盗まれており、高田重工の重役がひどく頭を抱えていた事を思い出していた。
TAKADA・UIG内は定められた携帯端末以外の使用不可区画であり、朝から視察を行っていた彼女は、帰りの自家用ジェットに乗り込んだ時にようやく起動できたという事だ。
携帯の起動が終わり、電波が入ると同時にメールが大量に入ってくる。しかしそれは慣れたものだと、着信履歴の方に目をやった。
二十五件。あまりに多いとそれを見るが、全て秋沢楠からの電話だった。
「楠ちゃんから?」
最愛の、自慢の妹である楠は、現在AD学園で行われている交流戦の指揮をしている筈だ。何かトラブルだろうかと折り返すと、電話はすぐに取られた。
「もしもし、秋沢さんですか? どうし」
『お姉ちゃん』
「え、楠ちゃんが私の事を『お姉ちゃん』って呼ぶって事は、今プライベート? 交流戦は?」
『お父さんが、生きてた』
思わず、手に持っていたジュースを、つい落としてしまう。
「……え、楠ちゃん。ちょっと……冗談は、やめ」
『冗談でこんな事言わないよッ!』
「お、落ち着いて楠ちゃん! 順序立てて、一から説明してくれる?」
落ち着きのない楠から携帯が離れたか、僅かに声が遠のき、しかし続けて声を吹きかけたのも、彼女がよく知る家族からだった。
『姉ちゃん、オレだ』
「あ、姫ちゃん? 楠ちゃんがちょっと混乱してるみたいで」
『無理もない。オレも正直、内心は驚きと怒りでいっぱいいっぱいだ』
聖奈は、弟である城坂織姫から色々な説明を聞いた。
AD総合学園島の全土に時限式爆弾が設置された事。
爆弾を設置した人物は【レイス】の関係者であったという事。
爆弾の位置を知る為には、雷神で交流戦に参加し、優勝する必要があった事。
何かレイス側でトラブルがあった為、アルトアリス一号機と名乗る機体と戦い、勝利した事。
捕らえようとした時――城坂修一が乱入し、アルトアリス一号機と共に逃げて行ったという事。
「嘘」
『こんな事、嘘つくかよ』
「だって、お父さん……アメリカで、テロに巻き込まれて、死んで……」
『顔に火傷の跡があった。その時のもんだろ』
「嘘、嘘嘘嘘っ! だって、だってじゃあ、レイスを指揮しているのは……っ!!」
『親父なんだよ――親父が全部の黒幕なんだよッ!!』
遂に怒りを抑えきれないと言わんばかりに声を荒げた織姫。
そして聖奈も……ボロボロと瞳から溢れ出す涙を抑える事が出来ずにいた。
**
交流戦はオレと楠が途中辞退し、久世先輩と天城先輩の一騎打ちで久世先輩が勝利した事によって、久世先輩が優勝。
しかし既に観客は突如として現れたADの父・城坂修一の蘇りに夢中で、誰も結果なんか気にしていなかった。
交流戦が終了した後、四六が所有する試作UIGの応接室に、多くの人間が呼び出されていた。
オレ……城坂織姫。
城坂楠。
神崎紗彩子。
久世良司。
島根のどか。
村上明久。
明宮哨。
明宮梢。
清水康彦。
城坂聖奈。
そして――霜山睦さんと、肩に負傷をしている遠藤二佐もいて、更には何故か彼女らの隣にジャーナリストである藤堂の姿までがあった。
「皆さんに集まっていただいたのは、他でもありません。藤堂さん、写真を」
「これっす」
タブレットに映された写真には、横からの画ではあるが、城坂修一の姿が収められていた。彼が撮った写真だろう。
「AD総合学園では生徒以外の携帯端末使用禁止、写真撮影も許可されたマスコミだけで幸いしました。
マスコミには規制を行い、生徒たちにも教師陣からSNS等への投稿を禁ずる方向で統制しております。外部に漏れる事はこれで防げるでしょう。
もし仮に防げなかったとしても、防衛省や高田重工からの公式コメントはありません」
「聞きたいのはそういう事じゃない。わかるだろ?」
代表してオレがそう聞くと、彼女もわかっていると言わんばかりにため息をついた。
「城坂修一様が生きていました。これは、私にも説明が出来ない事です。我々も彼は死亡したモノとしておりました」
「でも親父は生きていた」
「はい。しかも生きていただけではなく、彼はレイスに属する人間だった……確かに彼はこれまで建設された諸外国UIGの情報も得ておりましたので、ミィリスや他の新ソ連系テロ組織が、各UIGの場所を知り得て、攻撃を行える理由もわかりました」
「あの、霜山一佐」
オズオズといった様子で手を挙げた姉ちゃん。僅かにまぶたが腫れていて、随分と長い時間泣いていた事が分かる。
「お父さん……城坂修一の、目的は……?」
「……分かりません」
「分かりませんじゃ、ないですよ」
ゆったりと立ち上がった楠が、未だに流れる涙を止めず、喚く。
「お父さんは雷神プロジェクトを『お兄ちゃんと私が幸せに戦う為に必要な兵器として残した』って、貴女が私たちにそう言ったんですよ!?
なのに、お父さんが生きてて、私たちと敵対する道を選んだ理由も、何もわからないなんて……そんなの……っ!!」
「落ち着いて楠ちゃん、落ち着いて」
姉ちゃんが楠を抱きしめ、頭を撫でて、彼女の涙を受け止めている。
「睦さん、オレも楠と同意見だよ。
親父が遺した雷神プロジェクトだから、オレと楠は戦う事を決めたんだ。
なのに親父は、雷神プロジェクトに敵対し、あまつさえ、戦争の火種となるレイスを率いている……落ち着けるわけがないんだ」
「残念ですが、私にもこれ以上の事は分かりません。
――唯一、何かを知っているとすれば、彼だけ。
レビル・ガントレット、アメリカ空軍大佐」
「ダディ……っ」
オレがアメリカで身を預けていた、アメリカ空軍の大佐で、親父の旧友。
そしてオレが所属していた、陸海空軍の垣根を超えた特殊部隊【アーミー隊】の総隊長だ。
「彼は城坂修一様が最後に姿を消した連邦同盟会議にて、検証等にも参加されていた方です。何かを知っているとすれば、もう彼しかない」
「ダディに会いに行く」
「落ち着いてください」
「落ち着けるか。父親二人が何を企んでるのか聞きだすだけだ、邪魔すんな」
「そうではありません。交流戦が終わり、あなた方AD学園の生徒は、明日から夏休みに入ります。
なので……明日から四六に所属する生徒たちに、アーミー隊への社会科見学と称した遠征任務を命令します。
神崎紗彩子さんは四六組ではありませんが、どうします?」
「参加させて下さい。ここまで内情を知っているのに置いてきぼりは、納得できません」
「宜しい」
そこにいた全員も納得し、今日の会合はこれで終了かと思われたが。
「そして皆さんには、もう一つお話があります。
――先日このUIGを襲撃した、ミィリスのエースパイロット・リントヴルムもまた、生きています」
全員が、背筋に冷たい物を感じたように、震えた。
男は、短く切られた短髪の黒髪、頬に火傷と切り傷を負った、三十台にも見える男性だった。
ポケットから取り出した紙巻タバコを口に咥え、ライターで火を点け、煙を吸い込んだ。
観客席にいた何人かが、驚きのあまり席を立った。
そして楠も、目を見開いて呆然としながら、男の正体を口にした。
「お父、さん……?」
男の名は、城坂修一。
この世にアーマード・ユニットという兵器を生み出し、多くの機体設計を手掛け、国家間AD機密協定というモノを国連に認可させ、雷神プロジェクトを立ち上げた……オレ達の、父親だ。
「どうして、お父さんが、生きて」
『それはまだ内緒だ。お父さんは秘密主義でね』
「おい、ふざけるなよ、親父……親父ッ!!」
『……また会おう。織姫、楠。聖奈によろしく』
一号機が親父を掌に載せて、高く跳び上がった。
すぐに後を追おうとしたオレだったが、楠が雷神のエンジンを緊急停止させた為、すぐには動けなかった。
「楠どうしてッ!?」
「お父さんだったんだよ!? レイスのトップが、お父さんっ!」
「だったら尚更追わないとッ!」
「お兄ちゃんは、お父さんと戦うつもり!?」
「ッ、!」
込み上がる疑問、雑念、苛立ち。
色んな感情はあるけれど――オレは、携帯端末に入って来たメールデータを見て、すぐにそれを梢さんに転送した。
爆弾の位置が全て載せられた、地図データだったから。
**
城坂聖奈は、電源を切っていた携帯端末を起動した。
彼女は今まで、高田重工が所有するTAKADA・UIGへと出向き、被害の状況確認を行っていたのだ。
愛知県にあるTAKADA・UIGは先日リントヴルムが率いる新ソ連系テロ組織【ミィリス】によって被害を受け、中でも機体設計データが多く盗まれており、高田重工の重役がひどく頭を抱えていた事を思い出していた。
TAKADA・UIG内は定められた携帯端末以外の使用不可区画であり、朝から視察を行っていた彼女は、帰りの自家用ジェットに乗り込んだ時にようやく起動できたという事だ。
携帯の起動が終わり、電波が入ると同時にメールが大量に入ってくる。しかしそれは慣れたものだと、着信履歴の方に目をやった。
二十五件。あまりに多いとそれを見るが、全て秋沢楠からの電話だった。
「楠ちゃんから?」
最愛の、自慢の妹である楠は、現在AD学園で行われている交流戦の指揮をしている筈だ。何かトラブルだろうかと折り返すと、電話はすぐに取られた。
「もしもし、秋沢さんですか? どうし」
『お姉ちゃん』
「え、楠ちゃんが私の事を『お姉ちゃん』って呼ぶって事は、今プライベート? 交流戦は?」
『お父さんが、生きてた』
思わず、手に持っていたジュースを、つい落としてしまう。
「……え、楠ちゃん。ちょっと……冗談は、やめ」
『冗談でこんな事言わないよッ!』
「お、落ち着いて楠ちゃん! 順序立てて、一から説明してくれる?」
落ち着きのない楠から携帯が離れたか、僅かに声が遠のき、しかし続けて声を吹きかけたのも、彼女がよく知る家族からだった。
『姉ちゃん、オレだ』
「あ、姫ちゃん? 楠ちゃんがちょっと混乱してるみたいで」
『無理もない。オレも正直、内心は驚きと怒りでいっぱいいっぱいだ』
聖奈は、弟である城坂織姫から色々な説明を聞いた。
AD総合学園島の全土に時限式爆弾が設置された事。
爆弾を設置した人物は【レイス】の関係者であったという事。
爆弾の位置を知る為には、雷神で交流戦に参加し、優勝する必要があった事。
何かレイス側でトラブルがあった為、アルトアリス一号機と名乗る機体と戦い、勝利した事。
捕らえようとした時――城坂修一が乱入し、アルトアリス一号機と共に逃げて行ったという事。
「嘘」
『こんな事、嘘つくかよ』
「だって、お父さん……アメリカで、テロに巻き込まれて、死んで……」
『顔に火傷の跡があった。その時のもんだろ』
「嘘、嘘嘘嘘っ! だって、だってじゃあ、レイスを指揮しているのは……っ!!」
『親父なんだよ――親父が全部の黒幕なんだよッ!!』
遂に怒りを抑えきれないと言わんばかりに声を荒げた織姫。
そして聖奈も……ボロボロと瞳から溢れ出す涙を抑える事が出来ずにいた。
**
交流戦はオレと楠が途中辞退し、久世先輩と天城先輩の一騎打ちで久世先輩が勝利した事によって、久世先輩が優勝。
しかし既に観客は突如として現れたADの父・城坂修一の蘇りに夢中で、誰も結果なんか気にしていなかった。
交流戦が終了した後、四六が所有する試作UIGの応接室に、多くの人間が呼び出されていた。
オレ……城坂織姫。
城坂楠。
神崎紗彩子。
久世良司。
島根のどか。
村上明久。
明宮哨。
明宮梢。
清水康彦。
城坂聖奈。
そして――霜山睦さんと、肩に負傷をしている遠藤二佐もいて、更には何故か彼女らの隣にジャーナリストである藤堂の姿までがあった。
「皆さんに集まっていただいたのは、他でもありません。藤堂さん、写真を」
「これっす」
タブレットに映された写真には、横からの画ではあるが、城坂修一の姿が収められていた。彼が撮った写真だろう。
「AD総合学園では生徒以外の携帯端末使用禁止、写真撮影も許可されたマスコミだけで幸いしました。
マスコミには規制を行い、生徒たちにも教師陣からSNS等への投稿を禁ずる方向で統制しております。外部に漏れる事はこれで防げるでしょう。
もし仮に防げなかったとしても、防衛省や高田重工からの公式コメントはありません」
「聞きたいのはそういう事じゃない。わかるだろ?」
代表してオレがそう聞くと、彼女もわかっていると言わんばかりにため息をついた。
「城坂修一様が生きていました。これは、私にも説明が出来ない事です。我々も彼は死亡したモノとしておりました」
「でも親父は生きていた」
「はい。しかも生きていただけではなく、彼はレイスに属する人間だった……確かに彼はこれまで建設された諸外国UIGの情報も得ておりましたので、ミィリスや他の新ソ連系テロ組織が、各UIGの場所を知り得て、攻撃を行える理由もわかりました」
「あの、霜山一佐」
オズオズといった様子で手を挙げた姉ちゃん。僅かにまぶたが腫れていて、随分と長い時間泣いていた事が分かる。
「お父さん……城坂修一の、目的は……?」
「……分かりません」
「分かりませんじゃ、ないですよ」
ゆったりと立ち上がった楠が、未だに流れる涙を止めず、喚く。
「お父さんは雷神プロジェクトを『お兄ちゃんと私が幸せに戦う為に必要な兵器として残した』って、貴女が私たちにそう言ったんですよ!?
なのに、お父さんが生きてて、私たちと敵対する道を選んだ理由も、何もわからないなんて……そんなの……っ!!」
「落ち着いて楠ちゃん、落ち着いて」
姉ちゃんが楠を抱きしめ、頭を撫でて、彼女の涙を受け止めている。
「睦さん、オレも楠と同意見だよ。
親父が遺した雷神プロジェクトだから、オレと楠は戦う事を決めたんだ。
なのに親父は、雷神プロジェクトに敵対し、あまつさえ、戦争の火種となるレイスを率いている……落ち着けるわけがないんだ」
「残念ですが、私にもこれ以上の事は分かりません。
――唯一、何かを知っているとすれば、彼だけ。
レビル・ガントレット、アメリカ空軍大佐」
「ダディ……っ」
オレがアメリカで身を預けていた、アメリカ空軍の大佐で、親父の旧友。
そしてオレが所属していた、陸海空軍の垣根を超えた特殊部隊【アーミー隊】の総隊長だ。
「彼は城坂修一様が最後に姿を消した連邦同盟会議にて、検証等にも参加されていた方です。何かを知っているとすれば、もう彼しかない」
「ダディに会いに行く」
「落ち着いてください」
「落ち着けるか。父親二人が何を企んでるのか聞きだすだけだ、邪魔すんな」
「そうではありません。交流戦が終わり、あなた方AD学園の生徒は、明日から夏休みに入ります。
なので……明日から四六に所属する生徒たちに、アーミー隊への社会科見学と称した遠征任務を命令します。
神崎紗彩子さんは四六組ではありませんが、どうします?」
「参加させて下さい。ここまで内情を知っているのに置いてきぼりは、納得できません」
「宜しい」
そこにいた全員も納得し、今日の会合はこれで終了かと思われたが。
「そして皆さんには、もう一つお話があります。
――先日このUIGを襲撃した、ミィリスのエースパイロット・リントヴルムもまた、生きています」
全員が、背筋に冷たい物を感じたように、震えた。
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