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第八章
ティレニア海上の小さな島にて
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現地時間、2089年7月23日、1151時。
ティレニア海上。
リントヴルムは、与えられた一つの部屋を出た。
ティレニア海上にある小さな島に建てられた豪邸が、リントヴルムに与えられた住処だった。
平和な風景が一望できる窓に手をかけたリントヴルムは、湧き出る嫌悪感を抑える事が出来ず、窓から唾を吐きだした。
「つまンねぇな」
先日、レイスへ迎え入れると連れて来られたこの場所で、リントヴルムは傷ついた体を癒していたし、何ならば今でも彼の体には無数の打撲跡や骨折が見られる。
しかし彼は痛みに慣れているし、言ってしまえばそれを快感へと変化させることもできるので、それは構わない。
彼が一番退屈するものは平和である。
血沸き肉躍る戦場を求めて今まで戦っていた筈なのに……リントヴルムは、伝えられていた会議室と呼ばれる部屋へ早めに出向き、扉を開けた。
「げ」
扉の先には、一人の少女が既に腰かけていた。
白銀のロングヘア、琥珀色の瞳、そして何よりリントヴルムを睨む時の視線が、平和に嫌悪していた彼を刺激する。
「昨日の嬢ちゃんじゃねぇの。その目、オレにゃ気持ちいいだけだから、止めといた方がいいぜ」
「ふん、お生憎様だけどね、この目は生まれつきなの」
「嬢ちゃんもロシア人だろ? 仲良くやろうぜぇ」
「ヴィスナー。それがコードネームよ」
「本名は? オレみたいに隠してるってわけじゃねェんだろ?」
「誰がアンタなんかに」
リントヴルムは彼女の隣に腰かける。
机は円卓状になっていて、椅子の数は六人分。
二人だけしかいない部屋に、二人の幼げな少女が来訪する。
少女たちは双子なのか、顔立ちは非常に似通っていた。年は十代前半に見える。
「お姉ちゃん、そこ座ろ。ね?」
落ち着いた雰囲気の少女は、黒髪を首元まで伸ばした綺麗な子供だった。まぶたは重そうだが、眠いのではなく元々の目付きなのだろう。
「う、う……っ」
一方お姉ちゃんと呼ばれた少女は、同じ長さの黒髪でも、乱れていた。まるで掻きむしった跡のようなものが肌の至る所に点在し、リントヴルムは「自傷癖たぁ頂けねぇな」と聞こえないように呟いたが、落ち着いた少女には聞こえていたようで、ギロリと睨まれた。若干気持ちよくなったリントヴルムは「おお、イイネ」とだけ呟いた。
「貴方がリントヴルムね。ロシアの豪龍」
「そういうオメェらは、中京人か。ニッポン人って面じゃねぇな」
「私はリェータ。こっちはズィマー」
「あ、う……ズィ、ズィマー……」
「おう、よろしくな」
リェータがズィマーへ椅子を用意し、彼女は腰かけると同時に親指を噛み始めた。リェータが椅子を近づけて「お姉ちゃん、駄目だよ」と声をかけるも「う、う」と呻くだけで、噛む事を決してやめる事はない。
「おや、揃っているね。今日は皆早いんだな」
続けて入室した女性は、今までの若い女性達とは違い成人女性だった。
輝かしいまでの金髪と蒼の瞳が印象強く、さらには顔立ちと体系も整っている美女で、リントヴルムは「べっぴんさんだ」と褒めた。
「やぁ、君がリントヴルムさんだね」
リントヴルムへと近づき、手を差し出した女性。
「私はエミリー・ハモンド。コードネームはオースィニさ」
「オメェは本名教えてくれンだな」
「私たちは君のフルネームを知ってしまっていてね。私だけでも公平性を欠かないようにという、私の勝手な気づかいさ。いらないならば忘れてくれて結構」
「そうかい。オレぁフルネームキライなんで、言わないでくれりゃあ別に気ぃ使わなくていいさ。よろしく、オースィニちゃん」
「ふふ、火傷の跡だったりが無ければ、好みの顔なんだけれどな」
「今晩抱いてやろうか?」
「辞退しておこう。君は重度のドエムと聞いている」
「レイスはオレの性癖まで調べてンのかよ」
握手を交わす二人。視線は互いの目を見ているが、何か本質的なモノを見定めようとする睨み合いにも見える。
「揃っているな」
最後に入室した人物には、流石のリントヴルムも驚きを隠せなかった。
「オメェは」
「僕がレイスのボスと言っていいだろう。名は名乗る必要があるかな」
「必要ねぇ。アンタ、シロサカ・シューイチだろ?」
「その通り。息子が世話になったようだな」
「だからこそ解せねぇンだよ、なんでADの父と呼ばれた奴が、レイスの親玉なんざ」
「それは君が知る必要は無い。かけたまえ」
椅子を示し、座るように指示した城坂修一の言葉に、リントヴルムはしぶしぶ従い、ヴィスナーはクスクスと笑う。それもリントヴルムの心に刺さる嘲笑い方で「オメェは俺に犯されてぇの?」と聞いて「何でそうなる!?」というやり取りが彼自身面白かった。
「ではこれより――次の作戦を説明する」
城坂修一の言葉は、非常に冷静だった。
自らの子供である織姫や楠を戦いに誘う父親の顔には見えず、リントヴルムは小さく舌打ちをした。
ティレニア海上。
リントヴルムは、与えられた一つの部屋を出た。
ティレニア海上にある小さな島に建てられた豪邸が、リントヴルムに与えられた住処だった。
平和な風景が一望できる窓に手をかけたリントヴルムは、湧き出る嫌悪感を抑える事が出来ず、窓から唾を吐きだした。
「つまンねぇな」
先日、レイスへ迎え入れると連れて来られたこの場所で、リントヴルムは傷ついた体を癒していたし、何ならば今でも彼の体には無数の打撲跡や骨折が見られる。
しかし彼は痛みに慣れているし、言ってしまえばそれを快感へと変化させることもできるので、それは構わない。
彼が一番退屈するものは平和である。
血沸き肉躍る戦場を求めて今まで戦っていた筈なのに……リントヴルムは、伝えられていた会議室と呼ばれる部屋へ早めに出向き、扉を開けた。
「げ」
扉の先には、一人の少女が既に腰かけていた。
白銀のロングヘア、琥珀色の瞳、そして何よりリントヴルムを睨む時の視線が、平和に嫌悪していた彼を刺激する。
「昨日の嬢ちゃんじゃねぇの。その目、オレにゃ気持ちいいだけだから、止めといた方がいいぜ」
「ふん、お生憎様だけどね、この目は生まれつきなの」
「嬢ちゃんもロシア人だろ? 仲良くやろうぜぇ」
「ヴィスナー。それがコードネームよ」
「本名は? オレみたいに隠してるってわけじゃねェんだろ?」
「誰がアンタなんかに」
リントヴルムは彼女の隣に腰かける。
机は円卓状になっていて、椅子の数は六人分。
二人だけしかいない部屋に、二人の幼げな少女が来訪する。
少女たちは双子なのか、顔立ちは非常に似通っていた。年は十代前半に見える。
「お姉ちゃん、そこ座ろ。ね?」
落ち着いた雰囲気の少女は、黒髪を首元まで伸ばした綺麗な子供だった。まぶたは重そうだが、眠いのではなく元々の目付きなのだろう。
「う、う……っ」
一方お姉ちゃんと呼ばれた少女は、同じ長さの黒髪でも、乱れていた。まるで掻きむしった跡のようなものが肌の至る所に点在し、リントヴルムは「自傷癖たぁ頂けねぇな」と聞こえないように呟いたが、落ち着いた少女には聞こえていたようで、ギロリと睨まれた。若干気持ちよくなったリントヴルムは「おお、イイネ」とだけ呟いた。
「貴方がリントヴルムね。ロシアの豪龍」
「そういうオメェらは、中京人か。ニッポン人って面じゃねぇな」
「私はリェータ。こっちはズィマー」
「あ、う……ズィ、ズィマー……」
「おう、よろしくな」
リェータがズィマーへ椅子を用意し、彼女は腰かけると同時に親指を噛み始めた。リェータが椅子を近づけて「お姉ちゃん、駄目だよ」と声をかけるも「う、う」と呻くだけで、噛む事を決してやめる事はない。
「おや、揃っているね。今日は皆早いんだな」
続けて入室した女性は、今までの若い女性達とは違い成人女性だった。
輝かしいまでの金髪と蒼の瞳が印象強く、さらには顔立ちと体系も整っている美女で、リントヴルムは「べっぴんさんだ」と褒めた。
「やぁ、君がリントヴルムさんだね」
リントヴルムへと近づき、手を差し出した女性。
「私はエミリー・ハモンド。コードネームはオースィニさ」
「オメェは本名教えてくれンだな」
「私たちは君のフルネームを知ってしまっていてね。私だけでも公平性を欠かないようにという、私の勝手な気づかいさ。いらないならば忘れてくれて結構」
「そうかい。オレぁフルネームキライなんで、言わないでくれりゃあ別に気ぃ使わなくていいさ。よろしく、オースィニちゃん」
「ふふ、火傷の跡だったりが無ければ、好みの顔なんだけれどな」
「今晩抱いてやろうか?」
「辞退しておこう。君は重度のドエムと聞いている」
「レイスはオレの性癖まで調べてンのかよ」
握手を交わす二人。視線は互いの目を見ているが、何か本質的なモノを見定めようとする睨み合いにも見える。
「揃っているな」
最後に入室した人物には、流石のリントヴルムも驚きを隠せなかった。
「オメェは」
「僕がレイスのボスと言っていいだろう。名は名乗る必要があるかな」
「必要ねぇ。アンタ、シロサカ・シューイチだろ?」
「その通り。息子が世話になったようだな」
「だからこそ解せねぇンだよ、なんでADの父と呼ばれた奴が、レイスの親玉なんざ」
「それは君が知る必要は無い。かけたまえ」
椅子を示し、座るように指示した城坂修一の言葉に、リントヴルムはしぶしぶ従い、ヴィスナーはクスクスと笑う。それもリントヴルムの心に刺さる嘲笑い方で「オメェは俺に犯されてぇの?」と聞いて「何でそうなる!?」というやり取りが彼自身面白かった。
「ではこれより――次の作戦を説明する」
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