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第九章
兵器足りえるもの-01
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「見苦しい所を見せてしまったな、セイナ」
「私も一発殴りたくなりました」
「君は変わらんな。十一年前に私の元へ殴り込みに来た時から、変わらずお転婆だ」
「もう、私は普段美人で冷静沈着な大人なんですよ」
「自分からそう名乗るようではまだまだ子供だ」
ガントレットと聖奈は、着艦における手続きを進めながらも、世間話をしている。
「姫ちゃんは、貴方の事をダディと呼び、尊敬していました」
「知っている。私も父親というのは初めてだったのでな、奴を大層甘やかしてしまったものだ」
「雷神プロジェクトのコックピットパーツだったから、教育を施したというわけでは無いのですよね」
「勿論、そういう期待が全く無かったとは言わない。しかし、そこまで私は非人間であるつもりもないし、あの子を引き取る時には、シュウイチに何か返せるモノがないかと思って、引き取った所はある」
「どうして、貴方は」
「言葉の途中ですまないが、私もあの子への心情は分からん。
あの子の幸せを願うのならば、日本へ帰してやるべきだと考えた事も覚えている。
マークの事があった時も、PTSDならば戦場で癒す事が一番であると考えた事も。
しかしそれでも、私はオリヒメを引き取った。
君へ連絡して、心の傷を癒してほしいと頼んだ。
ああ……もしかすると私は、子供が欲しかったのかもしれない」
「ガントレット大佐は、ご結婚を」
「していた。しかし奴も軍人で、戦闘機パイロットだった。堕とされて死んで、それ以来再婚はしていない」
「なのに姫ちゃんを手放したのですか?」
「あの子達は確かにコックピットパーツとして生まれた。その事実はなんと言葉を着飾っても変えようがない。
しかし、生まれた後の道を教えてやれるのは私達大人であり、どんな道を歩むかは、当人たちによる意思だ。
あの子が幸せな道を歩めるのならば、私はどんな悪魔にだってなる。
君とてそう言う道を選んだからこそ、雷神プロジェクトを推し進めたのだろう?」
「でも貴方は、雷神プロジェクトを認めてはいない」
「――認めるわけがなかろう。武器を持つ事が出来ぬあの子に与えるオモチャが、機動性だけに優れた銃弾一発撃てぬ欠陥品なんだぞ。
兵器は、敵を確実に撃破できる性能を持つが故に兵器なのだ。
君たちの言うおとぎ話は――あの子を不幸に陥れるだけだ」
着艦申請が終了する。
二人は、互いに気持ちを知りえると、そのまま言葉を交わす事無く、敬礼だけを残してその場から去っていった。
**
プロスパーは、日米による共同管理島ではあるものの、管理は実質米国主導である。
これは自主防衛の難しい自衛隊による裁量ではなく米軍での裁量が必要になるというのが主だった理由ではあるが、実際には「米国への進行ルートとして北太平洋上の防衛が必須である」とした判断でもある。
その為、連日新ソ連系テロ組織からの襲撃が激しく、ミィリスの壊滅によってアーミー隊の任務が空いた事から、現在はこの島にガントレット率いるアーミー隊が駐在しているという事だ。
「島の半径は約九キロと小さい。日本とアメリカを繋ぐ中継拠点としても用いられる事はあるが、基本は訓練などに用いられる。つまり、お前たちの様なひよっこを育てる事も任務に入れる事が出来る、というわけだな」
「光栄であります、サー」
現在、久世良司・島根のどか・村上明久・神崎紗彩子の四人は、アーミー隊が所有する駆逐艦【スタウト】に乗船している。
イージスシステムを搭載したミサイル駆逐艦であり、現在は四隻の同型艦と共に巡航を行い、敵の襲来に対し警戒を行っている。
「リョウジ、ノドカ、アキヒサ、サエコだったな」
『イエス、サー!』
名を呼ばれ、全員で返答を返す。しかしのどかはニコニコと笑いながらで、他は僅かに緊張している。
「全員緊張するな。今はスクールの社会科見学という体だ。オリヒメのような育て方はせん」
「質問、よろしいでしょうか、サー」
「何だサエコ」
「あの……なぜそこまで日本語堪能なのでしょうか。つい気になりまして」
「理由は二つある。一つはグレムリンの開発に携わった際、関わった一人が日本語しか喋られなかったのでな。必要があったので覚えた。
二つ目は、オリヒメが日本人なので、いずれは日本へ行くこともあるだろうと、教えるために覚えた。
……そしてこの場は、アキヒサとノドカにとって日本語の方が好ましいと判断した」
『てへ』
のどかと明久が笑う。彼らは英語を習得しておらず、現在卒業が危ぶまれている二人でもある。
「ガントレット大佐殿は、織姫さん……彼の元上官、なのですよね」
「義父でもある。そこでコソコソとしている記者も知り合いだ」
「ぎくり」
スタウトに紛れ込んでいた藤堂が、見つかったと言わんばかりに顔を出して「いや、お久しぶりっすね」と楽観的な声をあげた。
(なぜいるんですか)
(いや、折角だしね。ガントレット大佐とは古い付き合いだし、最終的には同行許可もくれるとは思うんだけど)
(けど?)
(俺ぁ苦手なんだよねぇ、あのオッサン。何考えてんのかわかんないのが特に)
藤堂と小声で会話を終わらせると、ガントレットは「終わったか?」と小声で話に割って入った後、藤堂の頭を一度殴る事で、彼の同行許可を出した形となった。
「ガントレット大佐殿は、元々の織姫さんをどう評価なさっていたのでしょう。差し支えなければ、教えていただきたいのですが」
「なんだサエコ。お前オリヒメに惚れてるのか?」
「はい」
「素直な事だ。ヤマトナデシコというが、君はどちらかというと英国方面の人間か?」
「祖母がイタリア人ですが、心は大和撫子のつもりです」
「しかし、オリヒメへの評価か……難しい。何せ私はADが苦手でな」
そのAD部隊などを管轄する指揮官とは思えない発言に、その場にいた全員が驚きを隠せずにいた。
「なぜでしょう、サー」
この質問は良司のものだ。ガントレットも苦笑交じりで「老害の言葉として受け取れ」と先に注釈した。
「ADという兵器は確かに革新的な兵器だと考える。それは間違いない。しかし状況によってはADを使用するよりそれ以外の兵器の方が即時対処がしやすい」
「果たしてそうでしょうか。戦車や戦闘機よりも、ADの方が即時性が高く、様々な状況に対応がしやすいかと」
「だから老害の言葉と言っただろう? 私とて状況に応じて兵器を使い分けると言っているだけで、ADそのものが嫌いなわけではない」
なぜオリヒメへの評価が難しいか、彼はそう続けた。
「奴は様々な意味で規格外な子供だった。
四歳で国際AD免許を取得、五歳で私の隊へ入隊希望し、六歳の頃には私が出した訓練メニューを全てこなして、十歳の頃には正式な入隊を果たした。
そして奴は如何なるADでさえ乗りこなした。時に自分が駆るADが撃墜されれば、敵陣のAD兵器を奪取して敵を撃つ事もあった。
テロ紛いな先制攻撃にも積極的に参加した。
――今の奴からは想像が出来ない程に、奴は天性の兵器だった」
子供を【兵器】呼ばわりする事が自分自身あまり好ましいと思わなかったのか、ガントレットは「その辺りはそこの記者に聞いた方が早い」と話題を変えた。
「とにかく、奴は私の想像を遥かに超えた兵士に育った。しかしある事件がきっかけで、奴は引き金を引けなくなり、このままだと奴自身を潰してしまう危険性すらあった。
だから私はセイナへ連絡を取り、AD総合学園へと奴を移した、というわけだ。一応奴の席は残してあるし、奴のポンプ付きも常に現場に持ってきている」
「もし彼の心の傷が癒えれば、大佐殿は彼を服役させるおつもりで?」
「それは奴が決める事だ。お前のような女が奴の心を埋めてくれるのならば、そういう道もあるかもしれないな」
「善処いたします」
「冗談だったのだがな」
楽し気な空気がそこにはあった。
しかし、その空気を一変させる事態が起こる。
敵襲警報だ。
「状況報告」
「北西二十キロ方面より、所属不明AD十二機確認、アイ!」
「横隊を維持したまま、警戒態勢用意」
「横隊維持、警戒態勢用意、アイ!」
英語で交わされる指示の後、ガントレットは「社会科見学の続きと行こう」とした。しかしその場にいるAD学園組は、出撃するのかと命令を待った。
「お前たちは出さん。出す必要がない」
「艦長、ひとひらの霜山一佐より『四六が処理に当たるか』という確認が来ておりますが」
「『お前らの出番はない』と突っ返せ」
通信手からの言葉にもそう返し、のどかが「どうして出ないの?」と呑気な声を挙げる。
「相手がADならADの出番じゃない?」
「我が部隊は一応出るが、ここは海上だ。――海には海の戦い方がある」
「私も一発殴りたくなりました」
「君は変わらんな。十一年前に私の元へ殴り込みに来た時から、変わらずお転婆だ」
「もう、私は普段美人で冷静沈着な大人なんですよ」
「自分からそう名乗るようではまだまだ子供だ」
ガントレットと聖奈は、着艦における手続きを進めながらも、世間話をしている。
「姫ちゃんは、貴方の事をダディと呼び、尊敬していました」
「知っている。私も父親というのは初めてだったのでな、奴を大層甘やかしてしまったものだ」
「雷神プロジェクトのコックピットパーツだったから、教育を施したというわけでは無いのですよね」
「勿論、そういう期待が全く無かったとは言わない。しかし、そこまで私は非人間であるつもりもないし、あの子を引き取る時には、シュウイチに何か返せるモノがないかと思って、引き取った所はある」
「どうして、貴方は」
「言葉の途中ですまないが、私もあの子への心情は分からん。
あの子の幸せを願うのならば、日本へ帰してやるべきだと考えた事も覚えている。
マークの事があった時も、PTSDならば戦場で癒す事が一番であると考えた事も。
しかしそれでも、私はオリヒメを引き取った。
君へ連絡して、心の傷を癒してほしいと頼んだ。
ああ……もしかすると私は、子供が欲しかったのかもしれない」
「ガントレット大佐は、ご結婚を」
「していた。しかし奴も軍人で、戦闘機パイロットだった。堕とされて死んで、それ以来再婚はしていない」
「なのに姫ちゃんを手放したのですか?」
「あの子達は確かにコックピットパーツとして生まれた。その事実はなんと言葉を着飾っても変えようがない。
しかし、生まれた後の道を教えてやれるのは私達大人であり、どんな道を歩むかは、当人たちによる意思だ。
あの子が幸せな道を歩めるのならば、私はどんな悪魔にだってなる。
君とてそう言う道を選んだからこそ、雷神プロジェクトを推し進めたのだろう?」
「でも貴方は、雷神プロジェクトを認めてはいない」
「――認めるわけがなかろう。武器を持つ事が出来ぬあの子に与えるオモチャが、機動性だけに優れた銃弾一発撃てぬ欠陥品なんだぞ。
兵器は、敵を確実に撃破できる性能を持つが故に兵器なのだ。
君たちの言うおとぎ話は――あの子を不幸に陥れるだけだ」
着艦申請が終了する。
二人は、互いに気持ちを知りえると、そのまま言葉を交わす事無く、敬礼だけを残してその場から去っていった。
**
プロスパーは、日米による共同管理島ではあるものの、管理は実質米国主導である。
これは自主防衛の難しい自衛隊による裁量ではなく米軍での裁量が必要になるというのが主だった理由ではあるが、実際には「米国への進行ルートとして北太平洋上の防衛が必須である」とした判断でもある。
その為、連日新ソ連系テロ組織からの襲撃が激しく、ミィリスの壊滅によってアーミー隊の任務が空いた事から、現在はこの島にガントレット率いるアーミー隊が駐在しているという事だ。
「島の半径は約九キロと小さい。日本とアメリカを繋ぐ中継拠点としても用いられる事はあるが、基本は訓練などに用いられる。つまり、お前たちの様なひよっこを育てる事も任務に入れる事が出来る、というわけだな」
「光栄であります、サー」
現在、久世良司・島根のどか・村上明久・神崎紗彩子の四人は、アーミー隊が所有する駆逐艦【スタウト】に乗船している。
イージスシステムを搭載したミサイル駆逐艦であり、現在は四隻の同型艦と共に巡航を行い、敵の襲来に対し警戒を行っている。
「リョウジ、ノドカ、アキヒサ、サエコだったな」
『イエス、サー!』
名を呼ばれ、全員で返答を返す。しかしのどかはニコニコと笑いながらで、他は僅かに緊張している。
「全員緊張するな。今はスクールの社会科見学という体だ。オリヒメのような育て方はせん」
「質問、よろしいでしょうか、サー」
「何だサエコ」
「あの……なぜそこまで日本語堪能なのでしょうか。つい気になりまして」
「理由は二つある。一つはグレムリンの開発に携わった際、関わった一人が日本語しか喋られなかったのでな。必要があったので覚えた。
二つ目は、オリヒメが日本人なので、いずれは日本へ行くこともあるだろうと、教えるために覚えた。
……そしてこの場は、アキヒサとノドカにとって日本語の方が好ましいと判断した」
『てへ』
のどかと明久が笑う。彼らは英語を習得しておらず、現在卒業が危ぶまれている二人でもある。
「ガントレット大佐殿は、織姫さん……彼の元上官、なのですよね」
「義父でもある。そこでコソコソとしている記者も知り合いだ」
「ぎくり」
スタウトに紛れ込んでいた藤堂が、見つかったと言わんばかりに顔を出して「いや、お久しぶりっすね」と楽観的な声をあげた。
(なぜいるんですか)
(いや、折角だしね。ガントレット大佐とは古い付き合いだし、最終的には同行許可もくれるとは思うんだけど)
(けど?)
(俺ぁ苦手なんだよねぇ、あのオッサン。何考えてんのかわかんないのが特に)
藤堂と小声で会話を終わらせると、ガントレットは「終わったか?」と小声で話に割って入った後、藤堂の頭を一度殴る事で、彼の同行許可を出した形となった。
「ガントレット大佐殿は、元々の織姫さんをどう評価なさっていたのでしょう。差し支えなければ、教えていただきたいのですが」
「なんだサエコ。お前オリヒメに惚れてるのか?」
「はい」
「素直な事だ。ヤマトナデシコというが、君はどちらかというと英国方面の人間か?」
「祖母がイタリア人ですが、心は大和撫子のつもりです」
「しかし、オリヒメへの評価か……難しい。何せ私はADが苦手でな」
そのAD部隊などを管轄する指揮官とは思えない発言に、その場にいた全員が驚きを隠せずにいた。
「なぜでしょう、サー」
この質問は良司のものだ。ガントレットも苦笑交じりで「老害の言葉として受け取れ」と先に注釈した。
「ADという兵器は確かに革新的な兵器だと考える。それは間違いない。しかし状況によってはADを使用するよりそれ以外の兵器の方が即時対処がしやすい」
「果たしてそうでしょうか。戦車や戦闘機よりも、ADの方が即時性が高く、様々な状況に対応がしやすいかと」
「だから老害の言葉と言っただろう? 私とて状況に応じて兵器を使い分けると言っているだけで、ADそのものが嫌いなわけではない」
なぜオリヒメへの評価が難しいか、彼はそう続けた。
「奴は様々な意味で規格外な子供だった。
四歳で国際AD免許を取得、五歳で私の隊へ入隊希望し、六歳の頃には私が出した訓練メニューを全てこなして、十歳の頃には正式な入隊を果たした。
そして奴は如何なるADでさえ乗りこなした。時に自分が駆るADが撃墜されれば、敵陣のAD兵器を奪取して敵を撃つ事もあった。
テロ紛いな先制攻撃にも積極的に参加した。
――今の奴からは想像が出来ない程に、奴は天性の兵器だった」
子供を【兵器】呼ばわりする事が自分自身あまり好ましいと思わなかったのか、ガントレットは「その辺りはそこの記者に聞いた方が早い」と話題を変えた。
「とにかく、奴は私の想像を遥かに超えた兵士に育った。しかしある事件がきっかけで、奴は引き金を引けなくなり、このままだと奴自身を潰してしまう危険性すらあった。
だから私はセイナへ連絡を取り、AD総合学園へと奴を移した、というわけだ。一応奴の席は残してあるし、奴のポンプ付きも常に現場に持ってきている」
「もし彼の心の傷が癒えれば、大佐殿は彼を服役させるおつもりで?」
「それは奴が決める事だ。お前のような女が奴の心を埋めてくれるのならば、そういう道もあるかもしれないな」
「善処いたします」
「冗談だったのだがな」
楽し気な空気がそこにはあった。
しかし、その空気を一変させる事態が起こる。
敵襲警報だ。
「状況報告」
「北西二十キロ方面より、所属不明AD十二機確認、アイ!」
「横隊を維持したまま、警戒態勢用意」
「横隊維持、警戒態勢用意、アイ!」
英語で交わされる指示の後、ガントレットは「社会科見学の続きと行こう」とした。しかしその場にいるAD学園組は、出撃するのかと命令を待った。
「お前たちは出さん。出す必要がない」
「艦長、ひとひらの霜山一佐より『四六が処理に当たるか』という確認が来ておりますが」
「『お前らの出番はない』と突っ返せ」
通信手からの言葉にもそう返し、のどかが「どうして出ないの?」と呑気な声を挙げる。
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