私たちの試作機は最弱です

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第九章

兵器足りえるもの-08

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 それまで、霜山睦は何もしていなかったわけではない。

  ひとひらの艦橋で、聖奈や遠藤二佐と共に世界中から得られる情報を吟味し、今回の襲撃に関する有用性を鑑みていたのだ。


「……どう見ます?」


 睦がそう口を開くが、聖奈も遠藤も口を閉じたままだ。


「正直、今回のこの襲撃、全く意味が無いように思えるんです」

『同感だな』


 会話に、ガントレット大佐も割って入った。


『最初のAD十二機による襲撃は、この島では一日に一度ある事だった。だから冷静に、それこそ事務仕事を片付けるかのように処理を行った。

 しかし、後のリントヴルムを含めた、あのアルトアリス型と言ったか? 新型二機による襲撃は、どんな意味があったのだろう』


  一番あり得る答えとしては、プロスパーを制圧する事によって、日米共同の補給拠点を潰す事。

  しかし、それならば他に幾らでも手はある。

  他に動かせる新ソ連系テロ組織は山ほどあるし、いかに最新鋭のADであるとしても、二機で制圧を行うとは思えない。

  では牽制か――と考え、世界地図とこれまでに入ってきた新ソ連系テロ組織の動きを照らし合わせても、レイスが動いた形跡はない。


「……ひとまず、監視衛星や諜報部からの情報を待ちましょう。何よりも今は、彼らを労わなければ」


 遠藤の言葉に全員が同意し、睦や遠藤、聖奈やガントレットが、プロスパー港に集まり、今回の功労者達を労った。


「ダディ!」


 僅かに駆け足でこちらへと向かってくる織姫の事を抱きしめたガントレット。

  そんな彼らの抱擁を見て、潤んだ瞳で見据える聖奈。

  ラダーから降りて来た紗彩子と藤堂を見据え、織姫が手を振ると、彼女は表情を赤くしつつも振り返す。

  織姫がガントレットから離れると同時に抱きしめに行く哨が、今日の戦闘についてを愚痴り、それについて平謝りするしかない織姫と、織姫へ抱き着くなと哨を引きはがそうとする楠、そんな彼らの事を笑って見ている良司、梢、康彦、明久……。

  笑いがそこにあったが。

  
『至急、至急』


 緊急連絡を告げるブザーと共に、島全域に鳴り響く音声。

  睦とガントレットは顔を上げ、すぐに手元にある通信機を取り、耳に付けた。

  
『USA-X・UIGに、襲撃有り。繰り返す、USA-X・UIGに、襲撃有り』

 
  報告を聞いた二者は、顔を合わせた。

  何せ二人とも【USA-X・UIG】等というUIGは、聞いた事も無いのだから。

  
「説明を要求する。USA-X・UIGとはなんだ。フロリダにあるUSA・UIGの事か?」


 織姫がガントレットの言葉に反応する。

  そのUIGこそ、自分の人生を左右させたUIGに他ならないから。


「ダディ?」


 問う織姫、しかしガントレットも、彼の知りたがっている答えを、まだ知らない。

  
『……打電した内容を、読み上げます』


 基地内の通信手から読み上げられた内容は、以下の通りだった。

  
『USA-X・UIGに、襲撃有り。敵は正体不明……北緯三十四度、西経六十六度……!? 座標位置は――バミューダ諸島より、200㎞程……』

「内容は正確に!」


 焦るようなガントレットの言葉に、全員にも動揺が走る。

  だが――こればかりは、通信手を責めることなど出来ない。

  UIGは、アンダー・インダストリ・グラウンド、地底産業都市だ。

  しかし、読み上げられた座標は、睦が知る限り、海上。

  陸など、あろうはずもないのだ。

  
『三機の、所属不明ADの襲撃で――当該UIGで最終試験段階にあった新型機を、奪取、とのことです』

「その新型機の型番は!? わからんことが多すぎるっ!」

『えっと……これは、日本の漢字だな。自分が読む限りでは……【フウジン】と読めますが』


  その言葉に、睦が尻もちをつく。

  ガクガクと震える足に、何とか喝を入れて立ち上がろうとするも、しかしそれは叶わない。

  膝から崩れて、跪くだけだ。


「……通信手、今、フウジンと言ったか……!?」

『はい、自分も漢字は読みなれませんが、風と神と書き、フウジンかと』

「……なんて事だ……っ!」

 
  ガントレットも、頭を抱えて表情を真っ青にさせる。

  睦は、何も声を発さず、ただ荒い呼吸を整えようと、必死だった。

  聖奈は、そんな二人に「気を確かに!」と叫ぶものの、二者は聞いてなどいない。

  遠藤どこかは、何かを察したかのような表情をしていたものの、しかし二人以上の事を口にしない。

  
  そしてその場にいる子供たちは――十分ほど放置された後、自室待機を命じられるのであった。


 **


 北緯三十四度、西経六十六度。

  そこは世界地図上でバミューダ諸島より左の方面へ二百キロの地点を探してみればいい、と。城坂修一は言う。

  オースィニ、リェータ、ズィマーの三人がいる格納庫は、AD用格納庫だが、この格納庫は注水を行う事によって水中用装備のADが発進できるようになっている、強襲用潜水艦の艦内だ。


『回収目標は開発中のAD一機だ。それ以外は破壊しようが何をしようが構わない』


 艦橋からの通信で、城坂修一の声が聞こえてくる。

  ズィマーは震える手で何とかヘルメットをかぶろうと必死で、その彼女を手助けするような形で、リェータも手一杯だ。

  ならば問うのは私しか出来ないと、オースィニが「ボス」と声を挙げる。


「例のプロスパーとやらに襲撃をかけるのではなかったので?」

『かけたさ。というよりは今もかけているのかな? 念のため鎮圧部隊も用意はしているが、どうせ無駄だろう。

 今あの島には四六がいる筈で、いくら何でもポンプ付き十機、高機動パック二機、フルフレーム一機、高火力パック一機、それに加えて雷神を相手に、あの二人だけで鎮圧出来るわけがない。今は撤退している頃じゃないか?』

「では、我々はどこに向かっていると?」

『通称【X-UIG】と言う。まぁ僕が名付けたんだが、連邦同盟上存在している筈の無いUIGの事さ。AD学園にある試作UIGと呼んでいるUIGもそれだね』

「そこには何があると?」

『奪取してみれば早いよ』


 通信は、そこで途切れた。

  オースィニは城坂修一が苦手だった。

  彼女は楽観主義ではあるが、しかし腹に一物を抱えた彼に信頼をおけぬとし、訝しんでいる。

  が、憎たらしい事に、彼の采配にいつも間違いは無いのだ。

  故に何時だって、彼女はその命に従い、全力で戦う。


「この先に、平和があるのならば、私は……どんな罪悪だって被ってみせる」


 ズィマーのヘルメットを着用させ、ポンポンと頭を撫でたオースィニ。二人が機体に乗り込んだ事を確認して、彼女も自分の機体を起動させる。

  
  オースィニの駆る、アルトアリス一号機。
  
  リェータの駆る、アルトアリス三号機。
  
  ズィマーの駆る、アルトアリス四号機。
  

  それぞれ水中用装備をマウントした上で、注水が開始される格納庫内で、デュアルハイブリットエンジンを稼働させ、水中にモーター音を響かせる。


『さて――始めようか。睦ちゃん、ガントレット、聖奈、織姫、楠』


 城坂修一は、独り言を呟く。
  

『本当の平和を勝ち取る為の――戦争を始めよう』


 今、三機のアルトアリスが、出撃した。
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