私たちの試作機は最弱です

ミュート

文字の大きさ
94 / 191
第十一章

作戦開始-01

しおりを挟む
 現地時間、2089年7月29日、1410時。

  北太平洋上日米共同管轄島【プロスパー】山岳地帯。
  
  
  プロスパーには、訓練区画として人工的に作られた山岳地帯が存在する。

  緑生の濃い山に、四機のAD兵器が存在し、それらはただ、練り歩くだけだ。

  ADは、それぞれAD総合学園の生徒が乗り込むものである。

  久世良司の搭乗する秋風・フルフレーム。

  島根のどかの搭乗する秋風・高機動パック。

  神崎紗彩子の搭乗する秋風・高火力パック。

  村上明久の搭乗するグレムリン・セコンド。

  明久は通信をオンにして、声を吹きかける。


『あの、これってどんな意味があるんです?』


 山をただADで歩くだけのハイキングに意味を見いだせず、彼が訪ねた問い。答えは四人の内ではなく、プロスパーにて訓練を監督する聖奈が答えた。


『指令室との連携が難しい状況下での生存率を高めるための訓練っていうのが主だけど、それだけじゃないの。ADとして歩きにくい場所でどれだけパフォーマンスを発揮できるか、それを確認するための訓練ね』

『確かに、足と地面の接地圧調整が非常にシビアですね。少しでも気を取られると』


 と紗彩子が話している途中で、明久機が僅かに脚部を傾かせ、倒れそうになっていた所を、のどか機がポンプ付きの腕を取り、止めた。


『そうなります』

『オリヒメが一番初めに訓練した場所も、そんな山の中だった。如何にADを自分の身体として動かす事が出来るか、それを訓練する場として、こうした山は自然の訓練場だと言うな』


 ガントレットが言葉を挟む。ちなみにこの訓練を提案したのは織姫本人だという。


『AD学園ではグラウンド以外の訓練は月に一回あれば多い程度だから、こうした実地訓練は良い刺激となるね』

『つっても歩いてるだけじゃヒマじゃない? なんかないんですかぁ?』

『そのままコースを五周しろ。その後に山岳地帯での戦闘訓練へと入る』


 了解、と返事をした四人。だがそこで、明久が別の質問をする。


『この訓練を考えたっていう姫は?』

『雷神の修理よ。先日の襲撃で脚部にパイルバンカーを食らっていたし、哨ちゃんと一緒にね』

『明宮さんと、ですか』


 少々面白くなさそうな紗彩子に、聖奈が苦笑する。


『紗彩子と姫ちゃんも、その内デートをプランニングしてあげるから、今は訓練に集中なさい』

『お願いします、お姉様』

『紗彩子はホント素直になったわね。そのまま楠ちゃんとも仲良くなってくれると、お姉さん嬉しいんだけどな~』


 さて、と。そこで聖奈が席を離れた様子が聞き取れた。ガントレットが通信を代わる。


『喜べヒヨッコ共。セイナもお前たちの訓練に加わる事となった』

『理事長が?』


 明久の驚く声が聞こえるも、残る三人は納得済みの様子だった。明久を除く全員は、聖奈の経歴を知り得ている。


『アタシ、理事長とも戦ってみたかったんだ。メチャクチャ強いって話じゃん?』

『そうだな、僕も一度手合わせを願いたい程だ』

『とは言っても、ひとまず今回は戦闘訓練だけだがな』


 お前らはそのまま周回に専念しろ、としたガントレットの言葉を最後に、雑談は終了した。
  

  **

  
  オレと哨が雷神の修繕個所を確かめつつ、楠がプロスパーの物資管理を行うべリスと話をしている時だった。

  パイロットスーツを着込んだ姉ちゃんが格納庫までやってきて、柔軟運動をして体を温めている光景がどこか新鮮に思えて、声をかける。


「あの新しく配備された秋風は、姉ちゃんが乗るの?」

「うん。戦闘指揮はガントレット大佐と霜山一佐がいるしね。アタシはそろそろ現場復帰しようかなぁと。予備はこれだけしかないから、これ無くなると困るけどね」


 以前聞いたが、姉ちゃんは秋風採用テストのパイロットを務めていた事もあるし、何なら元々四六でパイロットとして働いていた経歴もあるらしいので、肩を並べて戦う日が来ること自体は想定していたものの、しかしいざ来てみると、何だか不思議な気分だ。


「雷神を直したら模擬戦でもしましょ。雷神相手でも簡単には負けないわよ」


 コックピットまでよじ登って搭乗した姉ちゃんの姿を見据えながら、オレは哨へ声をかける。


「雷神の修理は、このままだと三日はかかるな」

「応急修理は今日中に出来るけど、ガントレット大佐には『しっかりと修理が終えられない場合は出撃不可』って言われちゃったもんねぇ」


 タブレットの整備項目を見る事もなくチェックを振っていく哨。それはサボりではなく、彼女が整備に慣れている結果、項目を見るまでもなく当該箇所のチェックを終わらせているという意味であり、オレもその点は心配していない。


「これが腕部だったら出撃してもいいんだけどなぁ」


 自立に必要な脚部がやられてしまっている場合、雷神の持つ高機動性の一つが失われることに他ならない。ダディじゃなくとも出撃を許可しない場合が多かろう。


「お兄ちゃん、コックピットまで良い?」


 雷神のコックピットに搭乗しようとしていた楠の言葉に頷き、オレもコックピットまで出向く。機体システムのチェックには起動が必要だし、起動にはオレと楠の二人で生体認証を行わなければならない。


「……コレ、ネックだな」


 例えば出撃の際にオレだけで出撃する必要性はほとんどない。しかし整備やチェックの際にオレと楠の両名がいなければならないのは、セキュリティ上は好ましいが、面倒だ。


「その点に関して、風神はどうなんだろうな」

「え?」

「いや、風神も雷神と同じく生体認証なら、例のテスターでもいないと起動できないのかなって」

「本来ならそうだろうけど、例のX-UIGって所で製造された機体だから、その辺をオミットしている可能性はあるよね」


 そうなると、余計に親父が風神を奪取した理由が気になるけれど、その辺は前に言ったように、情報が無い段階で考えすぎると泥沼になりかねない。

 雷神の操縦桿に触れ、僅かに痺れる感覚と共に生体認証を開始、機体の起動とシステムのオンライン化を進める。


「で、どんなチェックするんだ?」

「エラーチェック。チェックシステムを動かすから、その間動けないよ」

「うげぇ、一時間近くコックピット内で缶詰か……」


 整備性の向上を願い出なければならないかもしれない。

  後で清水先輩に、その辺のシステムをいじれないか、お願いしようと考えたオレであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...