私たちの試作機は最弱です

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第十章

過去の遺産-10

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 リェータとズィマーの二人がパイロットスーツを着込んで各自が搭乗すべき機体へ乗り込んだ事を確認した後、オースィニは格納庫のコンテナに座り込み、ウィスキーを飲んでいるリントヴルムを見据えた。


「作戦前に飲酒とは、感心しないね」

「オレぁ次の作戦に不参加だしな。これ位は構いやしねぇだろ」


 笑ってはいるが、若干不満を持った声色に、オースィニは彼の隣に座り、酒の代わりにパウチタイプの携帯食料を食す。


「貴方に伺いたい事がある。ボス――城坂修一が何を考えているのか、わからないかな」

「さてね。ヴィスナーちゃんは何か気づいてる様子だったが」

「彼女も今回の作戦からは外れているね。まぁ、あの二人と私ならば問題ないとしたボスの判断か、それとも」

「前回みたいに、オレらの知らねぇ作戦に駆り出されてる、とかは考えられるわな」

「では次に聞きたいのだが――ヴィスナーの【お父様】について、何か知らないかな?」

「あー、何か初めて会った時とか、お父様って言ってたのは覚えてるけどよ、そんなプライベートな事まで話す程仲良しにゃなってねぇな。そのお父様がどうしたって?」

「彼女の【お父様】こそ、本当のレイス首領なんだ。城坂修一は、その人物からレイスを任されているらしい」


 初耳だ、とするリントヴルムの様子を見て、オースィニもため息をつく。


「貴方は随分と城坂修一に期待されていたようだからね、何か聞かされていないかと思ったのだが」

「残念、多分アイツ、オレら全員とも信用してねぇぞ」

「どうして、そう言い切れる?」

「アイツの目――ギラギラと輝いて、それでいて他人を寄せ付けねぇあの感じ。ミィリスでオレを利用しようと考えてた大人の目と一緒さ」

「貴方も歴戦の兵士だからね。その感覚は正しいのだろうね」

「お前さん、イギリス人だろ? そもそもどういう経緯でレイスに入ったんだ?」

「随分とストレートに聞くね」


 近くのダストボックスに空のパウチを投げ込んだオースィニは、しかし彼の問いに答える事とした。


「私の父は、元SASでね。私は幼い頃から父より訓練を受け、育ってきた」

「SASとはな。つまりお前さんは、ADに乗るよりはサボタージュの方が好みのタイプ?」

「逆だったね。勿論それも叩き込まれたけれど、私はADに搭乗して戦う事の方がよっぽど楽しかったよ。それも奇襲やだまし討ちではなく、一対一での全うな果し合いの方が好きだった。だから父には嫌われたよ。

 その後はとある民間軍事企業に入社して、色んな戦場に派遣されたよ。レイスへスカウトされたのはその頃だね。

 丁度会社の経営も傾いていたし、会社の方針自体もあんまり好みじゃなかったし、何より楽しそうだったから、スカウトを受けた」

「楽しそう? お前さんはどうにも正義とか平和とかを愛するタイプに見えるんだがよ、それが何でテロ屋を楽しそうと思うんだ」

「うーん、若干の誤解があるね。私は確かに平和を愛する女さ。けれどAD同士の果し合いは好みだし……それに、レイスはただのテロ屋じゃないよ?」

「テロを扇動してるじゃねぇか」

「そうかな。統計を取ってみたのだが、レイスという軍需産業連携機構が形作られる前と形作られた後では、大きな紛争となり得る冷戦が明らかに減っているんだ」


 かつて城坂修一の行った【AD宣言】の後、冷戦と呼ばれる情報を求めた新ソ連系テロ組織による活動は激化の一途を辿った。

  しかし【レイス】が発足され、適正な情報と共に得られる軍事技術、資金援助等により、新ソ連系テロ組織は過激なテロは行わず、本来の情報奪取にのみ着眼した作戦を行う様になり、所謂「人の生き死に」が減ったという。


「私は別にレイスを『正義の味方』だと言うつもりは毛頭ない。けれど、実際に秩序と安寧を求めるのならば、こうした各所方面に影響力を持つ組織を運営していくことも必要だと考えた。だからこそ私は、レイスへ所属したのだが」

「今は、ソイツを取り仕切るあの野郎が、どうにも気に食わないと」

「ただ、実際に彼の作戦にはいつも間違いがない。気に食わなくても従っているのは、それが理由さ」

「まぁ、理念に従ってる兵隊は、上を選べねぇからな。よくある事さ」

「理解してくれるのかい? 貴方のような狂人が」

「そういう奴を沢山見て来たってだけさ。ミィリスだって指導者は何度も変わった。その度にオレの上官だった奴も部下だった奴も不満は垂れてたけどよ、結局ミィリスから脱隊するこたぁなかった」

「ミィリスにも、理念があった?」

「そもそも祖国の為に出来る事を求めてたんだよ。オレぁ別にお国の為とか、柄じゃねぇし考えた事も無かったがよ。それでも若い奴らがそうやって命散らしてく所は、何度も見て来た」


 ホント柄じゃないがね、と笑うリントヴルムの表情を、オースィニは珍しい物を見るかのように見据える。そんな彼女の視線がくすぐったかったか、リントヴルムは自室へと戻っていく。


「ありがとう、リントヴルムさん」

「礼なんか、言われるようなこたぁしてねぇな」

「いいや。若干だが、気は晴れたよ」

「お前さんは楽観主義を気取ってるがよ、神経質過ぎるぜ。ホントのバカになって、人生を愉しみな」


 カンパイと、ウィスキーの入った小瓶を掲げたリントヴルムが、そのまま格納庫から去っていく。

  そんな彼の姿を見届けた後、作戦時刻が近づいている事に気が付いたオースィニが、ヘルメットを着用して、自身の一号機に乗り込んだ。


『作戦前に、余計な事を考える癖、いい加減直したら如何ですか』


 リェータの声に、オースィニが笑う。


「私たち人間は思考して生きる生物さ。余計な事を考えるのも、また必要さ」

『理解できません』


 通信がブツリと閉じられる。リェータは元々口数が多い方ではないので、こうして話しかけられた事自体が珍しく、今の音声記録を自身の携帯端末に移動させたオースィニが、作戦開始時刻になった事を確認する。


「では、二人ともいいかな」

『肯定』

『う……う……っ!』


 二人の了承を得たことを確認し、機体を輸送機に接続させる。

  飛び立っていく輸送機と共に、オースィニは目を閉じ、意識を閉ざす。


  ――子供からオモチャを取り上げる、大人の仕事が始まる。
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