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第十一章

作戦終了ー02

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 痛む頭、いら立つ思考。これらを抑える為、何気なく呟いた楠の言葉に、返事をする。

  元々雷神も、四六と高田重工、アストレイド・ブレイン社の三つが協力して設計したものの、それをオレと楠が搭乗する為に必要な整備を、哨に依頼した。

  設計と整備は違う。整備士は搭乗するパイロットに合わせた機体整備を行う事により、そのパフォーマンスを万全に発揮できるようにする事が仕事だ。

  哨はその点に関してだけ言えば、全世界で一番優秀な整備士だろう。

  機体の損傷個所・異常個所等を検査システムなど使う事なく判別してしまう目、損傷を判断した上で適切な修繕を行える技術、更にはそれらをこなすスピードまでが一級品だ。

  先ほど彼女との会話で「雷神の修理に三日はかかる」と言っていたが、それでも彼女なら二日かけずに修理を終わらすことが出来ただろう。

 彼女は納期を長めに言う癖があるので、それを理解していたオレも、深く指摘はしなかったが。

  後は梢さんだが、元々彼女に関しては確保対象でなかったとしても、彼女の名を知っていた事、更に哨の技量を知り得ていた事を鑑みても、梢さんのOMSを設計するプログラマーとしての腕も知り得ていたんだろう。

 彼女も在学中からアストレイド・ブレイン社に推薦を貰う程の逸材であり、清水先輩程ではないが、それでも雷神のOMS設計にも力を出している。


『姫っ』


 そんなオレ達の思考を振り払うかのように、村上の声が聞こえた。声はいつもの呑気なものではなく、非常に焦りを見せていた事が珍しい。


「無事か、村上。状況は」

『マズいんだよ! 三人が敵に狙われて』

『姫ちゃんっ』


 別の通信が割り込まれる。声は姉ちゃんからだ。通信妨害が解消したので、恐らく神崎たち三人の下からだろう。


「姉ちゃん、皆は」

『今急いで下山してる! 紗彩子が、紗彩子が――っ!!』


 何か、ゾワリとした嫌な予感が背中をよぎる。

  雷神を立ち上がらせ、覚束ない足取りで、姉ちゃんたちの来るであろう道を行く。

 登山口まで行くと――そこから姉ちゃんの秋風が、なるべく衝撃の無いように走って来た事が、事態を物語っている。


『うぅ――あぁ、っ!!』

『紗彩子、コックピット付近をやられて、お腹に破片が……!』


 姉ちゃんのコックピット内、姉ちゃんに抱かれながら、神崎が呻き、叫び、痛みを堪えている。

  しかし医務室はここからでは若干遠いし、何より揺れの激しい状況では出血を酷くしてしまう。


「姉ちゃんそこで神崎を下せ、オレが止血する! 村上、格納庫にある緊急治療キットをすぐに持ってきてくれっ!」


 姉ちゃんがすぐに機体を止め、ハッチを開いて機体から降りる。オレはすぐにコックピット内にある防寒用毛布とシーツ、簡易医療キットを取り出し、コックピットハッチを開いて、飛ぶ。

  着地。僅かに足に残る衝撃を無視しつつ、神崎の所へ走る。


「神崎っ」

「っ、織姫……さん……っ」

「くそ、破片は抜けちまったのかっ。……いや、いい。喋るな。痛むが、我慢しろよ……っ!」


 パイロットスーツを脱がし、彼女の綺麗な身体が露わになる。けれど今はそんな所を見ている場合ではない。

 シーツをあてがいながら治療キット内にあるゴム手袋を着用、その上でガーゼを取り出して、シーツをどかして、ガーゼを当てがって圧迫する。


『姫、持ってきたぞ!』

「ここに置いて、医務室に連絡! すぐに車と担架の用意をさせてくれっ」


 大量出血は30%の血液が失われると命の危険がある。止血も重要だが、輸血の必要もあるかもしれない。

  更には破片が肉体内部に侵食してしまう事も非常に恐ろしい。破傷風以外にも様々な感染症の可能性もあるので、早く手当しなければならない。


「神崎……神崎……っ」


 こんなことが、前にもあった。

  あの時は、マークの身体。

  今度は、神崎の身体だ。

  もう嫌なんだ。大切な人が、大好きな人がいなくなるなんて。

  ――哨も、梢さんも、その上神崎まで、失いたくない。


「織姫、さん」

「喋るな神崎っ! じっとしていろっ」

「大丈夫、です。痛みも、だいぶ、慣れて……っ」


 若干顔が青白く見えたので、楠へ「毛布を丸めて足下に敷いて、頭を下げさせるっ!」と指示し、血流の流れが頭に行くようにする。


「そんなに……泣かないで、下さい」

「泣くに決まってんだろ!? お前が死んじまったらどうしようって考えるだけで、不安で不安で頭がいっぱいなんだよッ!!」

「ふふ……今日は、何だか……正直ですね」

「オレは何時だって正直だよ。お前が生きる為だったらなんでもやってやる。だから、だから喋らず、じっとしててくれ……っ」

「なら……ひとつ、お願い……いいですか?」

「後じゃダメか……!?」

「今……キス、してください」


 傷口を左手で圧迫しながら、彼女の顔へ自身の顔を近づけ、その上で唇を合わせる。

  時間を指定されなかったので、五秒ほどで口を離し、キスの位置調整の為に空けた右手を再び圧迫する腹部へ戻した。


「……ふふ。あっさり、です……ね」

「してくれって、言われたからな。ここまでさせたんだ。絶対に死ぬんじゃないぞ」

「なら、続きは……目が、覚めてから……ですね」


 意識を落とす神崎。しかし呼吸は一定だし、顔色も先ほどよりはだいぶ改善されたので、まだ死なない。

  更に、基地に常設されている医療チームの車が到着し、処置を変わってくれた。村上が素早く呼んできてくれたおかげだと、ほっと息をつく。

  
  ――幸い、神崎の体内に侵入した破片は全て取り除かれ、傷もそこまで深くなかった事もあり、一命を取り留める事は、容易だったという。
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