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第十二章
戦災の子-06
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城坂修一は思考する。
ピースは揃った。戦力も揃った。後は行動を起こすのみ。
しかし、これまで培ってきた経験や事実を積み重ねても、これから起こせる行動のパターンは、計二十三通りある。
その中で、最も彼が――否、人類の平和に繋がる結果へと至る道を歩めるパターンは、一つだけ。
「……はぁ」
自室でため息をついた修一。
彼は、手元の通信端末に入った情報を見て、更に思考する。
「……ウェポン・プライバシー社が堕ちたか」
先日のプロスパー襲撃に用いたイングランドの民間軍事会社だ。わざと情報を現地に残したとは言え、流石にガントレットは手が早いとした彼は、自室のドアがノックも無しに開かれた事に動揺もせず、椅子を回転させ、その人物と向かい合う。
「オースィニか。レディが男の部屋にノックもせず入るとは、感心しないな」
彼女は、普段ならば温和な表情を浮かべて冗談の効いた返しをしただろう。
だが、今は違う。
彼女の手には一丁のベレッタが握られている。装弾も完了し、セーフティも解除されている。引き金を引けば、それだけで銃弾の軌跡は修一を襲うだろう。
しかし、彼は動じない。
そして、オースィニも、動じない彼を見て、引き金を引く。
銃弾は、窓ガラスを割った。
修一は自身の首元を横切った銃弾に怯える事も無く、警報装置の電源を一旦切り、再び電源を入れる。そうしなければ、屋敷中に警報が鳴り響いていたからだ。
「気が済んだかい?」
「少しはね。でも、今の銃弾は装填した分を吐き出しただけさ。装填している状況でホルスターにしまうのは危険だから」
腰に備えていたホルスターにベレッタを仕舞った彼女は、修一を睨む。
「何が言いたいか、理解できているだろう? シュウイチ」
「ボスとは、呼んでくれないのかい?」
「それは貴方の返答次第だよ。――貴方は、何が望みだ?」
「世界の平和だ」
「このままでは、泥沼に突入するとしか思えないのだが」
「そうした未来へ進むパターンも想定済みさ。二十三通り想定した道のニ十個ほどは、どう足掻いても泥沼化した戦場が待っている」
「今あなたが進んでいる道は、残りの三つだと?」
「そうなるように努力をしてきた」
「聞かせて貰えないのかい?」
「聞きたいのなら、聞かせてあげよう。しかし――君には辛い現実があるぞ」
「それを辛い現実と決めるのは、私自身だ」
よろしい、と言った修一は、オースィニの前で、口を開く。
長く語られた彼の計画に、最初は訝しんだ表情をしていたオースィニだが、やがて口を開き、彼の計画に何か――希望を持ったように、目を輝かせた。
「偽りは、無いんだね」
「ない。これまでの事も謝罪はしない。君たちを騙した事実も、そしてこれから成す事にも、僕は、決して謝らない」
「証明を」
「撃て。それが証明となる」
修一の言葉通り、オースィニは先ほどホルスターに仕舞ったベレッタを即座に引き抜き、修一の眉間に向け、装填・安全装置解除・発砲を、一秒も満たない時間で行った。
修一は倒れる。
しかし立ち上がり、傷口を掌で拭うだけで、笑う。
「貴方は、どうしてそんな体になってまで、平和を望む?」
「こんな体になったからだよ。僕は平和を、必ず掴まなければならない」
「その為に――私は死ぬのかい?」
「私は謝らない」
「それでいい。私には過ぎた未来だよ。ああ――私はようやく、満足に死ぬことが出来るのだね」
「君は、きっと怒ると思っていた」
「怒っているさ。けれど、それでいいんだ」
満足したように修一の部屋を出るオースィニは、最後に一つの敬礼と共に、彼を「ボス」とだけ呼んだ。
返事はしない。その必要も無い。
彼女はそのまま歩き続け、そして修一も、受けた銃痕を拭う様に、ハンカチを乗せる。
『お前さぁ、頭でっかちになってんだよ。もっと脳を柔らかくしねぇと、大切なモンを見落とすぜ?』
声が聞こえる。
『バカってのは良いぞ。何をするにも幸せを感じられる。世の中は頭のいい奴ばっかなんだよ。そんな奴らが世の中作っちまうから、世界は争うんだよ』
懐かしい声だ。
『なあ、修一。俺は……俺達は……間違っていたのかねぇ』
かつて親友と認識し、しかし彼は道を踏み外し、外道となり、それでも――最後に修一へ、タバコの味わい方を教えてくれた人だ。
彼の良く吸っていた、ストライクセブンのボックスを、開ける。
一本を摘み、口へやり、マッチに火を付け、タバコの先端へ火を点しながら、肺に煙を送り込み、吐く。
初めて吸った時、どれだけ咽たか、どれだけ苦しかったか、修一は今にも思い出す事が出来る。
けれど、それは遠き日の思い出だ。
そして今や、その思い出を知っている人物は、彼一人となっている。
「彰――今の僕が間違っているのなら、僕を止めてくれ」
呟きは、煙と共に消えていく。
誰も聞いていない呟きを、彼の想う人物は、聞いてなどいない。
死者は、生者の言葉など、聞いていない。
ピースは揃った。戦力も揃った。後は行動を起こすのみ。
しかし、これまで培ってきた経験や事実を積み重ねても、これから起こせる行動のパターンは、計二十三通りある。
その中で、最も彼が――否、人類の平和に繋がる結果へと至る道を歩めるパターンは、一つだけ。
「……はぁ」
自室でため息をついた修一。
彼は、手元の通信端末に入った情報を見て、更に思考する。
「……ウェポン・プライバシー社が堕ちたか」
先日のプロスパー襲撃に用いたイングランドの民間軍事会社だ。わざと情報を現地に残したとは言え、流石にガントレットは手が早いとした彼は、自室のドアがノックも無しに開かれた事に動揺もせず、椅子を回転させ、その人物と向かい合う。
「オースィニか。レディが男の部屋にノックもせず入るとは、感心しないな」
彼女は、普段ならば温和な表情を浮かべて冗談の効いた返しをしただろう。
だが、今は違う。
彼女の手には一丁のベレッタが握られている。装弾も完了し、セーフティも解除されている。引き金を引けば、それだけで銃弾の軌跡は修一を襲うだろう。
しかし、彼は動じない。
そして、オースィニも、動じない彼を見て、引き金を引く。
銃弾は、窓ガラスを割った。
修一は自身の首元を横切った銃弾に怯える事も無く、警報装置の電源を一旦切り、再び電源を入れる。そうしなければ、屋敷中に警報が鳴り響いていたからだ。
「気が済んだかい?」
「少しはね。でも、今の銃弾は装填した分を吐き出しただけさ。装填している状況でホルスターにしまうのは危険だから」
腰に備えていたホルスターにベレッタを仕舞った彼女は、修一を睨む。
「何が言いたいか、理解できているだろう? シュウイチ」
「ボスとは、呼んでくれないのかい?」
「それは貴方の返答次第だよ。――貴方は、何が望みだ?」
「世界の平和だ」
「このままでは、泥沼に突入するとしか思えないのだが」
「そうした未来へ進むパターンも想定済みさ。二十三通り想定した道のニ十個ほどは、どう足掻いても泥沼化した戦場が待っている」
「今あなたが進んでいる道は、残りの三つだと?」
「そうなるように努力をしてきた」
「聞かせて貰えないのかい?」
「聞きたいのなら、聞かせてあげよう。しかし――君には辛い現実があるぞ」
「それを辛い現実と決めるのは、私自身だ」
よろしい、と言った修一は、オースィニの前で、口を開く。
長く語られた彼の計画に、最初は訝しんだ表情をしていたオースィニだが、やがて口を開き、彼の計画に何か――希望を持ったように、目を輝かせた。
「偽りは、無いんだね」
「ない。これまでの事も謝罪はしない。君たちを騙した事実も、そしてこれから成す事にも、僕は、決して謝らない」
「証明を」
「撃て。それが証明となる」
修一の言葉通り、オースィニは先ほどホルスターに仕舞ったベレッタを即座に引き抜き、修一の眉間に向け、装填・安全装置解除・発砲を、一秒も満たない時間で行った。
修一は倒れる。
しかし立ち上がり、傷口を掌で拭うだけで、笑う。
「貴方は、どうしてそんな体になってまで、平和を望む?」
「こんな体になったからだよ。僕は平和を、必ず掴まなければならない」
「その為に――私は死ぬのかい?」
「私は謝らない」
「それでいい。私には過ぎた未来だよ。ああ――私はようやく、満足に死ぬことが出来るのだね」
「君は、きっと怒ると思っていた」
「怒っているさ。けれど、それでいいんだ」
満足したように修一の部屋を出るオースィニは、最後に一つの敬礼と共に、彼を「ボス」とだけ呼んだ。
返事はしない。その必要も無い。
彼女はそのまま歩き続け、そして修一も、受けた銃痕を拭う様に、ハンカチを乗せる。
『お前さぁ、頭でっかちになってんだよ。もっと脳を柔らかくしねぇと、大切なモンを見落とすぜ?』
声が聞こえる。
『バカってのは良いぞ。何をするにも幸せを感じられる。世の中は頭のいい奴ばっかなんだよ。そんな奴らが世の中作っちまうから、世界は争うんだよ』
懐かしい声だ。
『なあ、修一。俺は……俺達は……間違っていたのかねぇ』
かつて親友と認識し、しかし彼は道を踏み外し、外道となり、それでも――最後に修一へ、タバコの味わい方を教えてくれた人だ。
彼の良く吸っていた、ストライクセブンのボックスを、開ける。
一本を摘み、口へやり、マッチに火を付け、タバコの先端へ火を点しながら、肺に煙を送り込み、吐く。
初めて吸った時、どれだけ咽たか、どれだけ苦しかったか、修一は今にも思い出す事が出来る。
けれど、それは遠き日の思い出だ。
そして今や、その思い出を知っている人物は、彼一人となっている。
「彰――今の僕が間違っているのなら、僕を止めてくれ」
呟きは、煙と共に消えていく。
誰も聞いていない呟きを、彼の想う人物は、聞いてなどいない。
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