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第十二章
戦災の子-05
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楠は、そこで再び紗彩子にバトンを渡す。紗彩子も自分が話すつもりだったからこそここにいるので、それを咎めはしない。
むしろ、部兵隊を任せたいと願い出ているのに、紗彩子自身が説明をしないのでは、気分が悪い。
「雷神プロジェクトという計画については、一度置いておきましょう。話の主題ではありますが、今は話せません。それよりも、レイスについてです」
「レイス――あの軍事産業連携機構の事、だよね」
「ご存じでしたか、なら話は早いですね。私のこの傷は、レイスの構成員によって付けられました。私は、それほどまでに奴らと接敵している、という事です」
幸恵の表情が、変わる。先ほどまで余裕しゃくしゃくと言った様子の彼女だったのに、今では目を見開き、口は閉じず、何かを考えるように視界を泳がせた。
「ちょ、ちょっと待って。どうして実戦をしているの。……いえ、分かるの。貴女の傷が、訓練とかで出来た傷じゃないって事は。でも、どうして」
「簡単です。――既に二度、我がAD学園は戦場となっています。そしてそれを手引きしていたのがレイスだと知った。なので、私は率先してレイスを叩き、今後AD学園への侵攻を無くすため、戦っていました」
二度、AD学園が戦場になったという言葉に、幸恵はそこでようやく、以前あった二つの事件を思い出す。
「一つは、AD学園への襲撃。もう一つは、城坂修一さんの乱入事件、よね」
「あの時パフォーマンスとして参加した機体は、レイスの機体です。そして私の受けた傷は、後日あの機体につけられたものです」
「レイスは、日本の防衛網や米国の監視にも引っかからない、何かしらの術を持っている。そういう解釈でいいかな?」
「察しがいいですね。その通りです」
頭を抑えた幸恵に、楠が注釈する。
「理解をして頂きたいのは、これがまだ前哨戦にしか過ぎない、という点です。レイスは我々の組織を敵視こそしているようですが、あくまで邪魔をするなら殺す、程度の認識です。しかしレイスは、これから活発に動き始めます」
「それは、なぜ」
「ここから先は部兵隊の隊長着任を同意を頂けてから、ですね。説明不足は承知しておりますが、何分ここで話せない事が多すぎます」
「なら私の家でも、学園内でも、それこそ二人の家でも構わないのに」
「レイスどころか、新ソ連系テロ組織が一体どこから情報を取得するか分かりません。我々はずっとそうして裏をかかれ続けてきたのですから」
「でも、レイスの話題も相当だと思うんだけど」
「バレても構わない事しか喋っていません。もう少し喋ると、今度はまとまりが無くなりますので、この程度になってしまうのが心苦しいですが」
紗彩子は幸恵の目をじっと見据える。しかし幸恵は、まだ迷う様に視線を、戦場ジャーナリストである藤堂へ寄越す。
「天城ちゃん、これはオレ個人の意見だ。この意見に流される事なく、君の意見で、ここからは発言をして欲しい。けれど言わなきゃならない。
君は、適切な平和を保つ方法としては、適度な軍事力を保持する必要があると言った。オレもそれに同感だ。
けれど、その適切な平和や、適度な軍事力と言った指標を決めるのは、国連安保理でも、ましてや米軍でも、日本防衛省なんて組織でもないと思っている」
「では、誰が決めると?」
「一人ひとり、平和を願う者が決めるに決まっている。人には何のために五感がある。人には何のために四肢がある。人には何の為に脳がある。一人ひとり考え、行動し、納得をする為だ」
「ですが、そうして争いは起こり続けてきました。人は、自分のエゴだけで動いては、また争いを引き起こします」
「例えどんな世界になったって、争いが絶える事は無い。けれど、平和を慈しみ、誰かと共に歩もうとする志を消す事は、誰にだってできない。
オレは戦場ジャーナリストだ。戦場の悲惨さを市民に届ける事でおまんま食ってる下衆野郎だ。
けれど、それがオレの戦うべき戦場だ。誰かが知りたいとする現実をカメラに収め、それを届ける。
そうして市民が戦場に出る事無く、戦場を知る事の出来る道を切り拓く」
藤堂は、彼女に向けて手を伸ばす。
手は、途中で拳へと変えられた。
まるで空気を掴み取るように、グッと、力強く。
「一人ひとり、出来る事をやっていく。
その為に手を伸ばす。
それ以上の事はしちゃいけないし、する事は出来ない。
そうして手を限界以上に伸ばしたいと考えるからこそ、欲は生まれ、争いだって、戦争だって、引き起こされていく。
君には、守る事の出来る力がある。その力を使う為の腕がある。
だから、君には精いっぱい手を伸ばして、君の腕が届く限りの平和を、掴んで欲しい。
君の腕が届かない場所には――また別の誰かが君と手を繋ぎ、手を伸ばす事だろうさ」
幸恵は――自分の手を見据えた。
そしてグッと握りしめ、目を瞑り、思考する。
言いくるめられるな。
自分で考えろ。
そうして出した結論に従え。
そうして一人ひとりが考えて、手を伸ばして、何かを掴むことが――平和へと繋がっていくのだから。
「分かった。部兵隊の隊長、やる。でも条件が二つあるの」
「お尋ねしましょう」
紗彩子が訪ねるも、しかし幸恵の視線は、楠に。
「一つ目は、雷神プロジェクトや今まであった事を、洗いざらい話してくれる?」
「約束しましょう」
元々そうする為に、楠は秋沢楠から城坂楠として彼女と接するようにしたのだ。問題は無い。
あるとすれば、雷神プロジェクトという計画に賛同できるかどうかだが、賛同が得られなくとも、それは残念ではあるが、仕方のない事だ。
しかし、問題は二つ目だ。
「楠ちゃん、前に見せた画像、覚えてる?」
「…………覚えてません」
わざと視線を逸らした楠に、紗彩子と藤堂は(絶対覚えてる奴だ)と認識する。
「あれ、姫ちゃんと一緒に着て欲しいな」
「……あー、もう。アンタこうなる事分かって私呼んだでしょ!?」
「ええ。しかしその画像というのは分かりません」
「知らなくていいっ!」
紗彩子に怒鳴る楠の顔が真っ赤なので、よほど恥ずかしい衣服でも着せられるのだろうか、と藤堂と視線を合わせた紗彩子。
「……後払いでいいでしょ。全部片付いて、この女が部兵隊の隊長に戻って天城先輩が退いた時に、払ってあげます!」
「うふ、藤堂さん、今の録音してました?」
「してた」
「は!? テープ落としてたんじゃないの!?」
「条件があるって段階から付けたんだよ」
「マジで信じらんない!? コイツら私をハメやがった!!」
見る者が見れば、楠の慌てふためく光景は面白く見えただろう。幸恵は笑いながら立ち上がり、支払いの伝票を藤堂へと渡す。
「アナタは、交渉が大変お上手ですね」
「交渉は下手だよ」
「ですが私の意見をここまで操作したでしょう?」
「それは君の意見だ。オレの意見なんか、二パーセントでも反映されてりゃいい方さ」
伝票を受け取った藤堂。
乱した髪の毛を整えつつ、歩き出す楠。
彼女についていく形で車いすを動かす紗彩子。
そして、彼女の車いすを押す幸恵。
「じゃあ、詳しい話を聞かせて。――その、バカみたいな夢物語について」
むしろ、部兵隊を任せたいと願い出ているのに、紗彩子自身が説明をしないのでは、気分が悪い。
「雷神プロジェクトという計画については、一度置いておきましょう。話の主題ではありますが、今は話せません。それよりも、レイスについてです」
「レイス――あの軍事産業連携機構の事、だよね」
「ご存じでしたか、なら話は早いですね。私のこの傷は、レイスの構成員によって付けられました。私は、それほどまでに奴らと接敵している、という事です」
幸恵の表情が、変わる。先ほどまで余裕しゃくしゃくと言った様子の彼女だったのに、今では目を見開き、口は閉じず、何かを考えるように視界を泳がせた。
「ちょ、ちょっと待って。どうして実戦をしているの。……いえ、分かるの。貴女の傷が、訓練とかで出来た傷じゃないって事は。でも、どうして」
「簡単です。――既に二度、我がAD学園は戦場となっています。そしてそれを手引きしていたのがレイスだと知った。なので、私は率先してレイスを叩き、今後AD学園への侵攻を無くすため、戦っていました」
二度、AD学園が戦場になったという言葉に、幸恵はそこでようやく、以前あった二つの事件を思い出す。
「一つは、AD学園への襲撃。もう一つは、城坂修一さんの乱入事件、よね」
「あの時パフォーマンスとして参加した機体は、レイスの機体です。そして私の受けた傷は、後日あの機体につけられたものです」
「レイスは、日本の防衛網や米国の監視にも引っかからない、何かしらの術を持っている。そういう解釈でいいかな?」
「察しがいいですね。その通りです」
頭を抑えた幸恵に、楠が注釈する。
「理解をして頂きたいのは、これがまだ前哨戦にしか過ぎない、という点です。レイスは我々の組織を敵視こそしているようですが、あくまで邪魔をするなら殺す、程度の認識です。しかしレイスは、これから活発に動き始めます」
「それは、なぜ」
「ここから先は部兵隊の隊長着任を同意を頂けてから、ですね。説明不足は承知しておりますが、何分ここで話せない事が多すぎます」
「なら私の家でも、学園内でも、それこそ二人の家でも構わないのに」
「レイスどころか、新ソ連系テロ組織が一体どこから情報を取得するか分かりません。我々はずっとそうして裏をかかれ続けてきたのですから」
「でも、レイスの話題も相当だと思うんだけど」
「バレても構わない事しか喋っていません。もう少し喋ると、今度はまとまりが無くなりますので、この程度になってしまうのが心苦しいですが」
紗彩子は幸恵の目をじっと見据える。しかし幸恵は、まだ迷う様に視線を、戦場ジャーナリストである藤堂へ寄越す。
「天城ちゃん、これはオレ個人の意見だ。この意見に流される事なく、君の意見で、ここからは発言をして欲しい。けれど言わなきゃならない。
君は、適切な平和を保つ方法としては、適度な軍事力を保持する必要があると言った。オレもそれに同感だ。
けれど、その適切な平和や、適度な軍事力と言った指標を決めるのは、国連安保理でも、ましてや米軍でも、日本防衛省なんて組織でもないと思っている」
「では、誰が決めると?」
「一人ひとり、平和を願う者が決めるに決まっている。人には何のために五感がある。人には何のために四肢がある。人には何の為に脳がある。一人ひとり考え、行動し、納得をする為だ」
「ですが、そうして争いは起こり続けてきました。人は、自分のエゴだけで動いては、また争いを引き起こします」
「例えどんな世界になったって、争いが絶える事は無い。けれど、平和を慈しみ、誰かと共に歩もうとする志を消す事は、誰にだってできない。
オレは戦場ジャーナリストだ。戦場の悲惨さを市民に届ける事でおまんま食ってる下衆野郎だ。
けれど、それがオレの戦うべき戦場だ。誰かが知りたいとする現実をカメラに収め、それを届ける。
そうして市民が戦場に出る事無く、戦場を知る事の出来る道を切り拓く」
藤堂は、彼女に向けて手を伸ばす。
手は、途中で拳へと変えられた。
まるで空気を掴み取るように、グッと、力強く。
「一人ひとり、出来る事をやっていく。
その為に手を伸ばす。
それ以上の事はしちゃいけないし、する事は出来ない。
そうして手を限界以上に伸ばしたいと考えるからこそ、欲は生まれ、争いだって、戦争だって、引き起こされていく。
君には、守る事の出来る力がある。その力を使う為の腕がある。
だから、君には精いっぱい手を伸ばして、君の腕が届く限りの平和を、掴んで欲しい。
君の腕が届かない場所には――また別の誰かが君と手を繋ぎ、手を伸ばす事だろうさ」
幸恵は――自分の手を見据えた。
そしてグッと握りしめ、目を瞑り、思考する。
言いくるめられるな。
自分で考えろ。
そうして出した結論に従え。
そうして一人ひとりが考えて、手を伸ばして、何かを掴むことが――平和へと繋がっていくのだから。
「分かった。部兵隊の隊長、やる。でも条件が二つあるの」
「お尋ねしましょう」
紗彩子が訪ねるも、しかし幸恵の視線は、楠に。
「一つ目は、雷神プロジェクトや今まであった事を、洗いざらい話してくれる?」
「約束しましょう」
元々そうする為に、楠は秋沢楠から城坂楠として彼女と接するようにしたのだ。問題は無い。
あるとすれば、雷神プロジェクトという計画に賛同できるかどうかだが、賛同が得られなくとも、それは残念ではあるが、仕方のない事だ。
しかし、問題は二つ目だ。
「楠ちゃん、前に見せた画像、覚えてる?」
「…………覚えてません」
わざと視線を逸らした楠に、紗彩子と藤堂は(絶対覚えてる奴だ)と認識する。
「あれ、姫ちゃんと一緒に着て欲しいな」
「……あー、もう。アンタこうなる事分かって私呼んだでしょ!?」
「ええ。しかしその画像というのは分かりません」
「知らなくていいっ!」
紗彩子に怒鳴る楠の顔が真っ赤なので、よほど恥ずかしい衣服でも着せられるのだろうか、と藤堂と視線を合わせた紗彩子。
「……後払いでいいでしょ。全部片付いて、この女が部兵隊の隊長に戻って天城先輩が退いた時に、払ってあげます!」
「うふ、藤堂さん、今の録音してました?」
「してた」
「は!? テープ落としてたんじゃないの!?」
「条件があるって段階から付けたんだよ」
「マジで信じらんない!? コイツら私をハメやがった!!」
見る者が見れば、楠の慌てふためく光景は面白く見えただろう。幸恵は笑いながら立ち上がり、支払いの伝票を藤堂へと渡す。
「アナタは、交渉が大変お上手ですね」
「交渉は下手だよ」
「ですが私の意見をここまで操作したでしょう?」
「それは君の意見だ。オレの意見なんか、二パーセントでも反映されてりゃいい方さ」
伝票を受け取った藤堂。
乱した髪の毛を整えつつ、歩き出す楠。
彼女についていく形で車いすを動かす紗彩子。
そして、彼女の車いすを押す幸恵。
「じゃあ、詳しい話を聞かせて。――その、バカみたいな夢物語について」
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