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第十二章

戦災の子-04

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「では次ですが――雷神と対峙してみて、如何でした?」

「ケモノですね。あれは」


 溜めずに答えた内容に、藤堂は「ほう」と感心した後「どうしてそういう印象を?」と尋ねた。


「そもそも機体コンセプトとして、あの機体がどの様に生み出されたかは分かりませんが、武装どころか近接武器まで搭載していないAD兵器など、そもそもが邪道です。

 にも関わらず、まるで犬や狼のように、それでいて虫の様なしなやかな駆動、素早い連撃、パイロットの肉体に対する影響を考えぬ超機動等――あれは、人間が行う操縦ではありません」

「実際にそのパイロットを務めている楠さんを前に、豪語しますね」

「だからこそ言いたいんです。確かに雷神という機体は素晴らしい機動性を発揮しています。ですが、アレを他国が真似しようとすれば、日本という国がどのようにあの機体を作り上げたかを知る為、またテロ組織の牽引が引き起こされます。

 そして、万が一その情報が他国に知れ渡り、雷神のコピーでも作られてしまったら、今度はそれを操縦するパイロットが死にます。確実に。

  そうなると、日本の雷神はなぜパイロットが死なないのか、どうして、知りたい、欲しい、と――欲に塗れる事を避けられぬ人間は、必ずその方法を求め、争いとなります」


 人の欲と来た。藤堂は笑みを無くして「欲、ですか」と彼女の言葉を繰り返して尋ねる。


「欲です。過去の戦争を思い返せばよろしいかと。そもそも人々はどうして争いを行うのか。それは人の欲求が限度を知らんが故に。

 核兵器という最強最悪のモノを作り上げておきながら、更に破壊力を強化させる米国。

  細菌兵器という物の開発に手を出した、現在の中京共栄国。

  フランスに至っては放射能汚染の無い核弾頭の作成に取り掛かる等、人は争い、奪い、高め合う事によって、これまでの英知を築き上げてきたと言っても過言ではありません」

「ADでもそれは一緒だと?」

「むしろADの進化は異常です。いえ、ADの進化に躍起になる国の多い事が異常、と言った方がよろしいですね」

「現在ADは、各国の軍事バランスを示す指標な所がありますよね」

「本当にどうしてなのでしょうね。ADなんてただの兵器です。それを経済対策のようにバンバンお金を出して新型機を開発したり、どことは言いませんがテロ組織にお金や資材を流して情報を得ようとしたり、訳が分かりません」


 藤堂は久しぶりに話せる子供だと分かった瞬間、言葉を上ずらせた。


「人の欲と、天城さんは仰いましたね。確かに欲はこれまで争いを発展させてきた諸悪と言ってもいいかもしれない。しかし、例えばレーダーや、それこそ原子炉。これらは戦争に勝利するべく開発された技術が転用されている。勿論戦争がなかったとて、いずれは開発されていたでしょうが、それにしたって現実、たらればを無しにこうなっている」

「欲自体が悪い事、とは言っておりません。そして過去に引き起こされた戦争を無かったことにする、歴史的事実を踏みにじるような事は、最も愚かな事です。起こった事をありのまま受け入れ、次世代へ繋げていく事が、歴史を学ぶ上で重要な事です。

 私は、今後起こりうる戦争の火種を止めたいと言っているだけです。AD総合学園へ入学を果たした理由も、今後の進路を防衛省とする理由もこれです」

「戦争を止めたいのに、兵器を操縦する学校に?」

「そもそも、これだけ平和を維持している日本という国やスイスと言った恒久中立を謳う国があるにも関わらず、なぜ世界は、人類の平和を断言できないのでしょう」

「国という境があるから、でしょうか?」

「足りませんね。そもそも、人間一人ひとり、考え方の違いがあるんです」

「あら手厳しい」

「一番適切な平和を保つ方法としては、適度な軍事力を保持する事です。軍事力を誇示してはならないけれど、しかし軍事に力を入れぬ国に未来はありません。これも、歴史がそう示しています」

「だからこそ、AD学園へと入学し、防衛省への就職を希望する、と」


 ね? と話が繋がった事を笑った幸恵に、藤堂も笑う。

  良い記事になりそうだと思いながら、藤堂は録音機の電源を落とし、メモも閉じて、視線を彼女へ向ける。


「ここからは、取材じゃない。オレ個人の興味だ」

「どうぞ」

「今君は、適切な平和を保つ方法としては、適度な軍事力を保持する必要があると言ったね」

「ええ。過去も、軍事力を低下させたばかりに、国土を奪われ侵略された国もあります」

「適切をどこで見極める?」

「難しい所ですね。ですが、やはり一番いいのは国土に合わせた軍事力ステータスの規定でしょうか。国家間AD機密協定がこれに当たりますが、これはあくまでADだけの協定となっております。国連だけで対応できない、軍事力そのものを規定する必要がある、という事かと」

「連邦同盟ですら、全国家が承認していないのにかい?」

「連邦同盟という言い方は好きじゃありませんが、その通りです。条約や同盟というのは、全ての国を最初から束ねる必要はありません。あくまで自らも加わった方が利益となるという条件を提示していくことが重要なのです」

「連邦同盟ではその辺りが規定できていないと?」

「出来ていないでしょう。そもそもADの情報を得たい無法者達を止める条件が何一つ整っていない。整備を行った国連や城坂修一さんは、いったい何を考えてこれを整えたのか、理解できません」

「マイク止めたらノリノリ?」

「取材じゃないと仰ったでしょう?」


 二者の間にあるのは、互いの持つ意見の交換だ。これは記事にするものではなく、あくまで個々人が話し合う内容である。

  しかし紗彩子と楠は、ここに藤堂の狙いがあると、理解していた。

 紗彩子は若干痛む腹部を抑えた。幸恵はそれに気付き、藤堂へと目配せを。


「ああ、じゃあオレの取材と興味は終了。神崎ちゃん、待たせてゴメンね」

「いえ」


 では、と。話始める紗彩子。楠も、今の話を聞いていて、大体の内容を想定できたので、カフェラテを乱雑に口へ放り込み、氷を口でゴリゴリと砕いた。


「単刀直入にお願いします。――天城幸恵さんには、私の率いる部兵隊の隊長を務めて頂きたいのです」

「私が? 部兵隊を? どうして。貴女が怪我を負っている事はわかる。何をしてたかはさておきね。けれど、貴女には今の部下がいるじゃない。えっと、副隊長は確か、千鶴ちゃん」

「ええ。坂本千鶴がおります。しかし彼女には、まだ指揮を任すには少々早いかと」

「遅い早いは人事にあまり関係はないと思うよ。そりゃ仕事が出来ない人事はともかくとして、慣れの問題なら時間をかけた方がいい。いきなり上に上がらせてさっさと慣れろ、よりも時間をかけてゆっくり指揮に慣れた方がいいでしょう」

「その通りです。――けれど私は、今の貴方にお願いをしたいと思っております」

「だから、なぜ?」

「慣らせる時間が無いのです。――最悪の場合、もう一度このAD学園は、戦場となる」


 紗彩子の言葉に、幸恵はため息と共に「穏やかじゃないね」と口にした。


「いいよ。話を聞きたい。私も、貴女の綺麗な身体に傷がつけられた要因を知りたいしね」

「ではまず、どこから話しましょうか」

「私とレイスの話で良いんじゃないかしら」


 そこで、それまで黙ったままだった楠が、ポニーテールを解き、さらりと髪をなびかせた。


「天城先輩、私の本当の名前は、城坂楠」

「城坂。織姫ちゃんや、城坂修一さんと、同じ苗字ね」

「例の雷神を生み出す雷神プロジェクトという計画を推し進める為に、私の正体は新ソ連系テロ組織にバレるわけにはいきませんでした。その為の措置ですね」

「雷神プロジェクトって何? あの機体は、どうして生み出されたの?」

「それをお話する為には、ここでは場所が悪すぎます。なので、お話できるところまでお話して、同意を得てから、話せる場所へ移動します」
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