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第十二章

戦災の子-03

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 神崎紗彩子は、現在腹部に裂傷を受けている関係上、自宅療養を医者から命じられているものの、AD学園都市部における一軒のカフェテリアで、藤堂敦と共に、とある女性二人と待ち合わせをしていた。

  一人はすぐにやってきた。城坂楠――否、髪の毛を後頭部でひとまとめにし、温和な表情を消している事から、現在は秋沢楠としてここにいるのだろう事が分かり「秋沢さんでいいですか?」とだけ声をかけると、彼女も頷き、やってきた店員にアイスカフェオレを注文した。


「お話とは、いったい何でしょう」


 彼女は城坂楠として会話する時も、秋沢楠として会話する時も、基本は紗彩子に尖った対応をする。言葉は若干だが他の者と話す時よりも棘があり、今もカフェオレにストローを差し込むと、カラカラと氷を鳴らしながらも紗彩子を睨む。


「いい加減貴方は、私にもまともな対応をして下さらない? 可愛い義妹ちゃん」

「誰が義妹ですか。私に兄妹はいません」

「そういう事にしましょう――来ました」


 カフェテリアに来店した女性へ手を上げる。

  女性は、柔らかな雰囲気をしたAD学園の制服をまとった少女で、くすりと笑いながら三人の席へやってくると、まずは藤堂にお辞儀をした。


「あ、どうも。自分、藤堂敦っていう戦場カメラマンですわ」

「ご丁寧なのかどうなのかわからないご挨拶、ありがとうございます。私、天城幸恵って言います」


 名刺を差し出した藤堂と、それを受け取る少女――天城幸恵。

  天城幸恵は、AD総合学園三年Bクラスに属する女性だが、基礎という基礎を極め、AD同士の模擬戦においてはトップクラスの戦績を誇る。


「神崎ちゃん、先にオレの取材、いいかな?」

「天城さんに同意を得てからにして下さいね」

「構いませんかねぇ?」

「ふふっ、取材は慣れてませんので、お手柔らかに」


 幸恵はカプチーノを注文し、藤堂は彼女の注文が席に届くまでの間、録音機と小さなメモを取り出し、ペンをノックする。

  カプチーノが届き、それに口を付けた幸恵に、録音機を指しながら首を傾げると、彼女も頷いて笑みを継続した。


「じゃあ、取材を始めていきます」

「よろしくお願いします」

「天城さんは、現在三年Bクラスながらも、先日の交流戦では三位までのし上がった実力派ですね。自分も観戦していましたが、島根のどかさんとの試合に勝利した事や、織姫・楠ペアの雷神とあそこまで渡り合う実力は、戦場で色々な場面を見て来た私も圧巻されました」

「織姫ちゃんと楠ちゃんっていう一年生に負けてますので、正直自慢は出来ないのですがね」

「それでもだ、天城さんのパイロット能力は抜きん出ている。少し突っ込んだ質問ですが、Bクラスに配属された理由は、ご自身に心当たりが?」


 藤堂の質問に気分を害する事も無く、しかし少しだけ考えた幸恵は、思い出しながら苦笑した。


「多分アレです。私、何分完璧主義というか、徹底主義というか……的を指示通りの順番に撃つって試験があったんですが、試験指示を無視して、近い順に撃ち抜いてしまって」

「なぜそんな、指示を無視するなんて事を?」

「実戦じゃどうかは分かりませんが、一番手前の堕とせると確実に分かっている敵を落とした方が、戦力低下に繋がるでしょう? なのに、奥に行ったり手前に戻ったり、なんて非効率的過ぎます」

「あー、なるほど。個人的にこっちの方が効率が良いのにどうして指示はこうなってる、と考えてしまったと」

「その辺りが私の悪い癖。治さなきゃ治さなきゃとは思っているのですが、どうにも性分で」


 基本を徹底した彼女だからこそ、基本から外れた事を行う試験に我慢ならないという理由は納得が出来、この回答には紗彩子と楠が感心する。


「では次に、天城さんは今年度を以てAD総合学園卒業予定の三年生となりますが、卒業後の進路はどのようにお考えですか?」

「先日の交流戦で、防衛省の方と色々とお話をさせて頂きまして、試験結果も良好な為、防衛大学への入学と、後のキャリアコースを推薦されました」

「おぉ、では背広組だ」

「ですが、どうでしょうね。私のように融通の利かない可愛げのない女より、神崎ちゃんや楠ちゃんのような可愛い女の子が背広組になって、世間の目に触れられるようになった方が、防衛省としても良いのではないか、と思いますが」

「勿論二人も良い女だが、天城さんも良い女ですよ」

「ふふ、ごめんなさい。私ヒゲの濃い男性って苦手なんです」

「あらら。じゃあついでに聞いちゃおうかな。好みの男性はどんなタイプですか?」

「そうですねぇ、やっぱり可愛い子ですね」

「城坂織姫君みたいな」

「ええ、彼は良いですよ。実にいいです。可愛いのにお口が悪くて、でも照れると可愛くて小っちゃくて可愛くて」


 目を輝かせた幸恵。早口になるが、しかし聞き取りやすい言葉で、藤堂もメモを素早く走らせる。


「可愛い連呼ですね」

「実際可愛いので仕方ありません。あ、違うの楠ちゃん。楠ちゃんも勿論可愛いのだけれど、姫ちゃんはどこか違う可愛さがあって」

「聞いていませんし気にしていません」


 いきなり話を振られた為、面倒そうに返答をした楠の頬をぷにぷにと突く幸恵。
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