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第十二章
戦災の子-11
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「私達は、超兵士のレンタル品扱い。生命維持を行う薬物を定期的に投与されないと、生きることが出来ない。
シューイチはこの薬を作っている共栄党へ、高い金を払って投与剤を買い取り、私達を生かしてくれている。
多分お姉ちゃんは、本能的にそれを知っているからこそ、シューイチに懐いているんだと思う。
だから、お姉ちゃんを連れて行くことも出来ないし、私も日本へ行ったら、二日と持たずに死んでしまう」
「そんな……ッ」
「でも、嬉しい。貴女が本当に優しい子で、聡い子だという事が分かった。貴女を知る事が出来て、本当に良かった。
ねえ、教えてミハリ。こんな風に、自分の事を話したり、相手の事を想う事が、トモダチなの?
胸がポカポカして、ずっと貴女と一緒にいたいって、思えるの。こんな感覚初めてで、私には、よくわからない」
「――うんっ、ボクとズーウェイは、友達だよ」
「そう。良かった」
初めて、ズーウェイは笑いという表情を浮かべた気がする。
初めて出来たトモダチという存在を嬉しいと思ったのだ。
姉以外に初めてできた、大切な人。
そう言って哨の頬に軽く口づけたズーウェイ。
――しかし、哨はだからこそ、修一に対し、怒りを抑える事が、出来なかった。
整備を置いて、歩き出す哨。
彼女の様子を見て、驚きと戸惑いを隠せずに追いかけるズーウェイ。
「どうしたのミハリ。整備は」
「いいから。来るなら来て」
哨は、彼女の手を握りながら、修一のいる部屋へと向かい、ドアを乱雑に開け放った。
ドアの向こう側には、怪我をしたのか額に包帯を巻いた修一の姿があった。
彼は量子PCのキィボードに何かを打ち込んでいたものの、しかし哨を認識すると回転椅子を回して哨へと向く。
「どうしたんだい、哨君。整備の事で何かあったのか?」
「お願いがあるんです」
「リェータも一緒か。別に彼女の監視は頼んでいないが」
「もし全部の事が済んだら、ズーウェイとズーメイを解放してあげて下さい」
ピクリと、修一の表情が曇った。
視線はズーウェイに向き、彼女は頷く。修一はため息を溢すと同時に首を振った。
「無理だ。彼女達は定期的な薬物投与によって生命を維持している特殊な子供だ。僕の下から離れれば、それは死を意味する」
「その薬物、貴方は複製する方法を知っているんでしょう? 毎回毎回共栄党から買ってるとは思えないですし」
「……確かに複製は可能だ。だからこそ共栄党と僕にしか、彼女達を生き長らえさせる方法は無い」
「その方法をボクに下さい」
「駄目だと言ったら、君はどうすると?」
「ズーウェイ。銃、貸して」
哨の言葉に、ズーウェイは珍しく戸惑いを隠せずに「えっ」と素っ頓狂な声をあげてしまう。
修一は視線で「駄目だ」と彼女へ訴え、しかし哨も真っすぐな瞳で、ズーウェイを見つめてくる。
「ズーウェイ、お願い」
「なにをするの、ミハリ」
「ちょっとね。別に、修一さんは撃たないよ。安心して」
笑いかける哨の言葉と表情に、ズーウェイは思わず、護身用装備であるグロック26を、彼女へ渡してしまう。
修一は僅かに冷や汗を流し、動こうとするも、しかし哨の動きは速かった。
スライドを素早く引き、右手で構えながら左手でマガジン部分を押さえて反動に注意し、二重構造になっているトリガーを、引く。
銃声と共に、修一の足元に着弾する9㎜の銃弾。
彼も足を止め、両手を上げる。
「何を」
「安心してください。今のは警告です」
「何をする気かと聞いているんだ」
「こうするんです」
銃口を自身のこめかみ付近へと持っていく哨に、ズーウェイも思わず銃を奪おうとするも「動かないで」と警告を発する哨に、思わず足を止めてしまう。
「ていうか、暴発したら危ないから、今触らないで。ボクも一応プロスパーで研修受けたけど、扱い慣れてるわけじゃないし」
「その割には、随分と手慣れているように見えたが」
「珍しい体験だったし、練習したんですよ。でも、今も心臓バクバクしてます」
笑いながらも、彼女の眼は真剣そのものだ。
少しでも動けば引き金を引くぞ、と。暴発を防止する為、トリガーに指をかけていないものの、何時でも動かせると人差し指を動かす彼女の動きが危なっかしくて、修一も唾を飲み込んで、問う。
「もし仮に、僕が君の要求を呑まないとしたら、どうするんだい?」
「撃ちます」
「どうして君は、そこまでリェータの事を慮る? 確かに彼女の境遇は同情に値するものだろうが、しかし君の生きる世界には、何ら関係の無い事だろう?」
「仮にも世界に平和を、とか言ってる先導者様の言葉とは思えないんですけど」
「だが事実なんだよ。確かに僕は、世界に平和をもたらす為に行動している。例えばリェータを殺す事で平和を作り上げる事が出来るなら、僕は彼女を殺そう。
けれど、君は違う。君はリェータと同じ人生を歩んでもいなければ、僕のように平和をもたらす先導者様でもないだろう? なのになぜ」
「友達だからですよ。友達の為に命張るなんて、当たり前の事です」
「当たり前ではない。誰だってまずは自分の命を守るべきだ。それにリェータだって自分の為に君が死ぬことを望んではいない」
「独りよがりだっていい。自分勝手だっていい。――ボクは、友達の幸せを願えない位なら、死んだって良い」
彼女の眼は本気だ。
修一はそう信じたからこそ、頷いた。
「分かった。全てが終わったら、リェータとズィマーを解放し、投与剤の複製方法を君に委ねよう。だから、その銃を僕かリェータに渡しなさい」
「約束ですよ」
こめかみから銃口を外し、床に向けて装填済みの銃弾を放った哨は、セーフティを入れて、ズーウェイに返却する。
彼女も呆然としながらそれを受け取り、修一の部屋を出て行こうとする哨についていく。
「待ちなさい」
「まだ何か?」
「君は、友達の為に命を張る事を、当たり前だと言ったね」
「はい。嘘じゃないです」
「その志しは立派だ。けれど、もう二度と止めなさい」
「どうして貴方に説教されなきゃいけないんですか?」
「その友達や、君の家族が悲しむからだ」
哨はグッと口を閉じて、視線を修一から外し、ズーウェイと視線を合わす。
彼女は僅かに戸惑いつつも、しかし今は哨の安全を喜んでいる。
「僕にも経験がある。僕の友達は、違う友達とその息子を守る為に、娘の命と自分の命を張った」
「その友達は、どうなったんです?」
「娘を残して死んだ。そして、そいつが守ろうとした友も、自責の念に駆られて自殺した」
哨は、何も言わない。修一も言葉を止める事無く続ける。
「僕は一人だけ取り残された。それが辛かったよ、悲しかったよ。けれど、それを原動力にする事が出来たから、今こうして平和を作り上げる為に、行動をしている」
「ボクは、その友達とは違います」
「違くない。君が張った命は、誰かを悲しませる命だ。そうして失う命は美徳でもなんでもなく、ただ愚かなだけだと理解しなさい」
修一の言葉に、哨はとうとう何も言い返せなくなり、彼へ頭を下げた。
「ごめんなさい。その点は、ボクが間違っていました」
「宜しい。友達の為に行動が出来る君は確かに素晴らしい。だからこそ、今後はその行動を、もっと別の方法にして欲しい。それを祈っているよ」
修一は、デスクの中から一つのUSBメモリを取り出すと、それを哨へと差し出す。彼女はそれを受け取り、これはと首を傾げた。
「投与剤の製造方法が記載されている文書データだ。今はロックをかけているが、解除コードは全てが終わったら伝えよう」
「……お姉ちゃんに言えば、多分ロック解除してくれますよ?」
「それでもいい。僕も、友達の為に行動する君に、心を打たれたと思ってくれればね」
そう言って哨とズーウェイを見送った修一。
彼の部屋を離れ、哨は格納庫へ戻る道を歩んでいたが、しかし途中で足を止めて、ズーウェイへ頭を下げた。
「ホントにゴメンね、自分勝手な事をして」
「いいえ。驚いたけれど……それより、その」
「うん? どうしたのズーウェイ」
「ありがとう、ミハリ」
一筋の涙を流しながら、ズーウェイが笑う。
彼女のそんな表情を見れた事が嬉しくて、哨も笑う。
「日本に行ったら、美味しいラーメン食べに行こう」
「ラーメンって何?」
「中国が本場でしょ!?」
「そうなの?」
「あー、でも日本のラーメンはもう日本独自の文化みたいに聞いた事あるしなぁ。いやそれにしたって」
「それより、私はオキナワに行ってみたい。海が綺麗だって聞いて、少し興味があった」
「いいね! ね、ズーウェイは水着とか着た事ある? 可愛いの着て、海で見せびらかしちゃえばいいよっ」
「でも、注射痕とかあるし」
「大丈夫だって、ズーウェイは可愛いし、みんなそんな所見てないって!」
二人は手を繋いで、格納庫への道を戻っていく。
微笑みを交わしながら語られる他愛もない話は、これから戦場へ出向く者たちを送り出す拠点に相応しくない、軽やかな喧騒がそこにはあった。
シューイチはこの薬を作っている共栄党へ、高い金を払って投与剤を買い取り、私達を生かしてくれている。
多分お姉ちゃんは、本能的にそれを知っているからこそ、シューイチに懐いているんだと思う。
だから、お姉ちゃんを連れて行くことも出来ないし、私も日本へ行ったら、二日と持たずに死んでしまう」
「そんな……ッ」
「でも、嬉しい。貴女が本当に優しい子で、聡い子だという事が分かった。貴女を知る事が出来て、本当に良かった。
ねえ、教えてミハリ。こんな風に、自分の事を話したり、相手の事を想う事が、トモダチなの?
胸がポカポカして、ずっと貴女と一緒にいたいって、思えるの。こんな感覚初めてで、私には、よくわからない」
「――うんっ、ボクとズーウェイは、友達だよ」
「そう。良かった」
初めて、ズーウェイは笑いという表情を浮かべた気がする。
初めて出来たトモダチという存在を嬉しいと思ったのだ。
姉以外に初めてできた、大切な人。
そう言って哨の頬に軽く口づけたズーウェイ。
――しかし、哨はだからこそ、修一に対し、怒りを抑える事が、出来なかった。
整備を置いて、歩き出す哨。
彼女の様子を見て、驚きと戸惑いを隠せずに追いかけるズーウェイ。
「どうしたのミハリ。整備は」
「いいから。来るなら来て」
哨は、彼女の手を握りながら、修一のいる部屋へと向かい、ドアを乱雑に開け放った。
ドアの向こう側には、怪我をしたのか額に包帯を巻いた修一の姿があった。
彼は量子PCのキィボードに何かを打ち込んでいたものの、しかし哨を認識すると回転椅子を回して哨へと向く。
「どうしたんだい、哨君。整備の事で何かあったのか?」
「お願いがあるんです」
「リェータも一緒か。別に彼女の監視は頼んでいないが」
「もし全部の事が済んだら、ズーウェイとズーメイを解放してあげて下さい」
ピクリと、修一の表情が曇った。
視線はズーウェイに向き、彼女は頷く。修一はため息を溢すと同時に首を振った。
「無理だ。彼女達は定期的な薬物投与によって生命を維持している特殊な子供だ。僕の下から離れれば、それは死を意味する」
「その薬物、貴方は複製する方法を知っているんでしょう? 毎回毎回共栄党から買ってるとは思えないですし」
「……確かに複製は可能だ。だからこそ共栄党と僕にしか、彼女達を生き長らえさせる方法は無い」
「その方法をボクに下さい」
「駄目だと言ったら、君はどうすると?」
「ズーウェイ。銃、貸して」
哨の言葉に、ズーウェイは珍しく戸惑いを隠せずに「えっ」と素っ頓狂な声をあげてしまう。
修一は視線で「駄目だ」と彼女へ訴え、しかし哨も真っすぐな瞳で、ズーウェイを見つめてくる。
「ズーウェイ、お願い」
「なにをするの、ミハリ」
「ちょっとね。別に、修一さんは撃たないよ。安心して」
笑いかける哨の言葉と表情に、ズーウェイは思わず、護身用装備であるグロック26を、彼女へ渡してしまう。
修一は僅かに冷や汗を流し、動こうとするも、しかし哨の動きは速かった。
スライドを素早く引き、右手で構えながら左手でマガジン部分を押さえて反動に注意し、二重構造になっているトリガーを、引く。
銃声と共に、修一の足元に着弾する9㎜の銃弾。
彼も足を止め、両手を上げる。
「何を」
「安心してください。今のは警告です」
「何をする気かと聞いているんだ」
「こうするんです」
銃口を自身のこめかみ付近へと持っていく哨に、ズーウェイも思わず銃を奪おうとするも「動かないで」と警告を発する哨に、思わず足を止めてしまう。
「ていうか、暴発したら危ないから、今触らないで。ボクも一応プロスパーで研修受けたけど、扱い慣れてるわけじゃないし」
「その割には、随分と手慣れているように見えたが」
「珍しい体験だったし、練習したんですよ。でも、今も心臓バクバクしてます」
笑いながらも、彼女の眼は真剣そのものだ。
少しでも動けば引き金を引くぞ、と。暴発を防止する為、トリガーに指をかけていないものの、何時でも動かせると人差し指を動かす彼女の動きが危なっかしくて、修一も唾を飲み込んで、問う。
「もし仮に、僕が君の要求を呑まないとしたら、どうするんだい?」
「撃ちます」
「どうして君は、そこまでリェータの事を慮る? 確かに彼女の境遇は同情に値するものだろうが、しかし君の生きる世界には、何ら関係の無い事だろう?」
「仮にも世界に平和を、とか言ってる先導者様の言葉とは思えないんですけど」
「だが事実なんだよ。確かに僕は、世界に平和をもたらす為に行動している。例えばリェータを殺す事で平和を作り上げる事が出来るなら、僕は彼女を殺そう。
けれど、君は違う。君はリェータと同じ人生を歩んでもいなければ、僕のように平和をもたらす先導者様でもないだろう? なのになぜ」
「友達だからですよ。友達の為に命張るなんて、当たり前の事です」
「当たり前ではない。誰だってまずは自分の命を守るべきだ。それにリェータだって自分の為に君が死ぬことを望んではいない」
「独りよがりだっていい。自分勝手だっていい。――ボクは、友達の幸せを願えない位なら、死んだって良い」
彼女の眼は本気だ。
修一はそう信じたからこそ、頷いた。
「分かった。全てが終わったら、リェータとズィマーを解放し、投与剤の複製方法を君に委ねよう。だから、その銃を僕かリェータに渡しなさい」
「約束ですよ」
こめかみから銃口を外し、床に向けて装填済みの銃弾を放った哨は、セーフティを入れて、ズーウェイに返却する。
彼女も呆然としながらそれを受け取り、修一の部屋を出て行こうとする哨についていく。
「待ちなさい」
「まだ何か?」
「君は、友達の為に命を張る事を、当たり前だと言ったね」
「はい。嘘じゃないです」
「その志しは立派だ。けれど、もう二度と止めなさい」
「どうして貴方に説教されなきゃいけないんですか?」
「その友達や、君の家族が悲しむからだ」
哨はグッと口を閉じて、視線を修一から外し、ズーウェイと視線を合わす。
彼女は僅かに戸惑いつつも、しかし今は哨の安全を喜んでいる。
「僕にも経験がある。僕の友達は、違う友達とその息子を守る為に、娘の命と自分の命を張った」
「その友達は、どうなったんです?」
「娘を残して死んだ。そして、そいつが守ろうとした友も、自責の念に駆られて自殺した」
哨は、何も言わない。修一も言葉を止める事無く続ける。
「僕は一人だけ取り残された。それが辛かったよ、悲しかったよ。けれど、それを原動力にする事が出来たから、今こうして平和を作り上げる為に、行動をしている」
「ボクは、その友達とは違います」
「違くない。君が張った命は、誰かを悲しませる命だ。そうして失う命は美徳でもなんでもなく、ただ愚かなだけだと理解しなさい」
修一の言葉に、哨はとうとう何も言い返せなくなり、彼へ頭を下げた。
「ごめんなさい。その点は、ボクが間違っていました」
「宜しい。友達の為に行動が出来る君は確かに素晴らしい。だからこそ、今後はその行動を、もっと別の方法にして欲しい。それを祈っているよ」
修一は、デスクの中から一つのUSBメモリを取り出すと、それを哨へと差し出す。彼女はそれを受け取り、これはと首を傾げた。
「投与剤の製造方法が記載されている文書データだ。今はロックをかけているが、解除コードは全てが終わったら伝えよう」
「……お姉ちゃんに言えば、多分ロック解除してくれますよ?」
「それでもいい。僕も、友達の為に行動する君に、心を打たれたと思ってくれればね」
そう言って哨とズーウェイを見送った修一。
彼の部屋を離れ、哨は格納庫へ戻る道を歩んでいたが、しかし途中で足を止めて、ズーウェイへ頭を下げた。
「ホントにゴメンね、自分勝手な事をして」
「いいえ。驚いたけれど……それより、その」
「うん? どうしたのズーウェイ」
「ありがとう、ミハリ」
一筋の涙を流しながら、ズーウェイが笑う。
彼女のそんな表情を見れた事が嬉しくて、哨も笑う。
「日本に行ったら、美味しいラーメン食べに行こう」
「ラーメンって何?」
「中国が本場でしょ!?」
「そうなの?」
「あー、でも日本のラーメンはもう日本独自の文化みたいに聞いた事あるしなぁ。いやそれにしたって」
「それより、私はオキナワに行ってみたい。海が綺麗だって聞いて、少し興味があった」
「いいね! ね、ズーウェイは水着とか着た事ある? 可愛いの着て、海で見せびらかしちゃえばいいよっ」
「でも、注射痕とかあるし」
「大丈夫だって、ズーウェイは可愛いし、みんなそんな所見てないって!」
二人は手を繋いで、格納庫への道を戻っていく。
微笑みを交わしながら語られる他愛もない話は、これから戦場へ出向く者たちを送り出す拠点に相応しくない、軽やかな喧騒がそこにはあった。
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