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第十二章
戦災の子-12
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リントヴルムは欠伸を溢しつつも、自身の後ろを歩む二人の女性に視線を向けた。
自分の指を噛んで血をダラダラと流していながらも、むしろそれが落ち着くと言わんばかりに表情を綻ばせるズィマー。
俯き、ずんと重たい表情を浮かべて、ただ歩く霜山睦。
二人は対ショック用のパイロットスーツを着込んだまま老化を歩き、今格納庫へとたどり着く。
「あん? ミハリちゃんいねぇじゃん」
なぜ彼が二人を連れて来たかというと、風神の操縦試験の際に同行して意見を聞かせて欲しいと修一から依頼を受けたからに他ならない。
その為彼女達を部屋まで迎えに行き、格納庫まで連れてくるように頼まれたのだ。
「しゃーねぇ。ちょい待つかね」
物資コンテナに座り込んだリントヴルム。彼の隣に座って頬を掻きむしろうとするズィマー。二人に目も暮れず、ただ風神を見つめる睦。
リントヴルムは睦に向けて「なァ」と声をかける。
「どうしてシューイチに従ってンだよ? 四六の隊長だろ? お前さんは」
睦は何も答えない。しかし顔を僅かに俯かせたので、何か思う所がある事は確かだろうとした。
「答えたくねェなら別にいいけどよォ。でもオリヒメとか、クスノキだっけ? アイツらをライジンとやらに乗せといて、お前さんが敵になるんじゃ、アイツらもやり辛ぇだろうなぁ」
「……私は、修一様に従うだけです」
初めて声を聴いた気がして、リントヴルムは「おお」と彼女の綺麗な声に驚きつつも、しかし語った答えが想定外で、首を傾げた。
「シューイチの事、崇拝してンのか? 敵になったのに」
「敵じゃありません。彼は、雷神プロジェクトと同じく、風神を用いて平和を作り出そうとしています。その手助けが出来るなら、私に出来る事を、なんでもするだけです」
「その割にゃ、お前さん世界の終わりみたいなツラしてるぜ? もうちょいまともにウソつきな」
リントヴルムからすれば、彼女が何を企んでいるかなど、知った事では無い。せいぜい現場を面白く引っ掻き回してくれればいいとして、ハンッと笑った。
「ず……うぇい」
「ん? ズィマーちゃん何か言った?」
「んん、んんん」
「何言ってンのかわっかんねェなぁ」
ズィマーの頭を乱雑に撫でるリントヴルムと、少々顔をしかめながらも赤くした彼女の事を、睦はただ見ているだけだった。
そんな三人のいる場所に、ミハリとリェータが戻る。
「お、帰って来たなミハリちゃん」
「えっと、リントヴルム、さん」
「そーそー、オレの事、オリヒメから聞いてる?」
「バケモノの変態だって、言ってました」
「おぉ、アイツから直接言われてぇ罵倒だなぁ」
ゾワリと体を震わせた哨に「三割冗談だよぉ」と笑って弁明したリントヴルムと「残り七割は本気なのね」とため息をついたリェータが、哨の手を引いて彼から遠ざける光景を、ズィマーはじっと見ていた。
「なに、お前さんら、仲良くなったの?」
「トモダチ」
「友達になりました」
「オレも友達にしてくれよぉ、カワイコちゃんだったら何時でも大歓迎だからよぉ」
「ミハリ、この男に近づいちゃ、駄目」
「うん、怖いし、近づかない」
「あらら、嫌われたなぁオレ」
そんな他愛もない会話を繰り広げていた全員に、睦は割って入り、哨に声をかける。
「哨さん、風神の整備は」
「え、あ。ごめんなさい、あと少しで終わります」
「お願いします。……申し訳ないけれど」
「……いえ。ボクも目標が出来たので、精いっぱいやります!」
急いで風神の整備に取り掛かる哨。その動きは早く正確で、リントヴルムが「ありゃスゲェ」と珍しく真顔で言う。
「確かのあの子の技術を求めた結果なら、お前さんらを囮にしてまで組んだ作戦も意味はあらぁな」
「そもそもあの作戦には、オースィニ以外は特に何とも思っていません」
「で、そのオースィニちゃんとかヴィスナーちゃんはどこよ。今日は何も予定なさそうな感じなら、一緒に風神でも見ようと思ったのによぉ」
リェータは「知る筈無いでしょう」とぶっきらぼうに返してくるが、その態度もリントヴルムからすれば、快楽にしかならないとは黙っておいた。
**
ヴィスナーは、自身の駆るアルトアリス試作二号機のコックピットより見える、そんな全員の表情を見据えつつ、回線を開いてアルトアリス試作一号機のコックピット内で押し黙るオースィニへ通信を図る。
「聞こえる?」
『聞こえているよ。どうしたんだい?』
いつものあっけらかんとした声が届いて、ヴィスナーは「意外ね」という言葉を先に口ずさんだ。
『意外とは?』
「アンタの事だから、シューイチのやる事に文句でもあると思ってたのに」
『あったさ。けれど、彼の口から聞けることを全て聞いてね』
「また嘘かもしれない」
『彼は一度だって嘘をついた事は無いよ。騙す事はあってもね』
ヴィスナーにとって、嘘と騙しの根本的な違いが判らない。彼女はしかし「そう」とだけ言って押し黙る。
『なぁ、ヴィスナー君。君は彼のやろうとしている事を、知っていたのかい?』
「……どうだろ。アンタが聞いた事とアタシが知ってる事、どれだけ合っているかも疑わしいじゃん」
『全て聞く事は恐ろしいが――その計画の中で、私はやっぱり死ぬのかい?』
「……死ぬと思う」
『なら合っているだろう』
「アンタはさ、死ぬことが怖くないの?」
『怖いさ。君は子供の頃に「死」という概念について考えた事はあるかい?』
「無かったと思う」
『死とは、何だろうねぇ。死んだら人間はどこに行くのだろう? 魂という存在は本当にあって、それらはどうやって報われる? いや、報われるのだとしたら、今まで私達が殺してきた人の命は、報われているのだろうか?』
――それとも、死ねば意識はただ闇の中にあるのだろうか。
オースィニの言葉に、ヴィスナーは初めて、身体を震わせた。
『私は死ぬ。けれど私が死ぬことで、君たち子供の命が救われるならば、私の命など全て投げ打とうじゃないか』
「どうして。アタシはアンタの事なんか何も知らない。ズィマーだってリェータだって、リントヴルムだってそう」
『ああそうか。君にはしっかり私の事を教えていなかったね。リントヴルムさんには色々と語ったが……』
「元SASの父親がアンタに技術を叩き込んだんだっけ?」
『そうそう。本名はエミリー・ハモンド、好きな言葉は端麗かな』
「それ以上の事は?」
『無いよ。……無いんだよ。私の過去なんて、殺し殺されの戦場にいた事以上のものが無いんだ』
「無残なもんね」
『日がな一日を、ただ惰性で生きる人々よりは、まともな人生を歩んでいると思っていたよ。……昔はね』
「今は違うの?」
『何も危険な事の無い一日というモノが、尊ばれる世界というものさ。世界はそうした安寧の中にある方が好ましい』
「そんな世界、例えシューイチの成した世界でも、作れないよ」
『そうだねぇ。彼の作った世界では、確かに平和は訪れるだろう。だが平穏ではない。安寧でもない。――しかし、無駄に命を落とす子供たちを救う事は出来るだろう』
私はそれ以上を求めない。
オースィニとの会話は、それ以上等ない。
何故なら。
『ヴィスナー、オースィニ、機体にいるのかい?』
二人の間に割って入る、城坂修一による音声通信があったから。
「何よシューイチ。乙女二人の会話に割って入りやがって」
『それは失礼した。だが緊急事態でね』
『何があったのかな』
『敵襲だ』
修一の言葉と共に。
屋敷全体に響き渡る警報の音が、全員の鼓膜を刺激する。
脳に直接叩き込まれるかのような音が、その場にいる者全員を委縮させるが、しかし五人だけは違った。
オースィニは搭乗しているアルトアリス・試作一号機を起動させる。
ヴィスナーも続けて、搭乗しているアルトアリス・試作二号機を起動させる。
リェータはアルトアリス・試作二号機に乗り込み、機体を起動させる。
リントヴルムはアルトアリス・試作五号機に搭乗し、機体を起動させる。
風神に搭乗するべきズィマーと霜山睦はその場で待機し、整備班の人間によって保護された後、四機はシステム起動を終了すると同時にデータリンクを開始。
『何の警報だいコイツぁ?』
リントヴルムの質問には、修一が答える。
『敵襲だ。機体識別コードからして、アーミー隊のAD部隊だな』
『アーミー隊だけかい?』
オースィニが続けて問いかけると、修一は『だろうね』とだけ答えた後、各機にデータを送信する。
『目には目を、歯には歯を……とはこの事だな。連邦同盟で規定されている以上のAD部隊を動員している。恐らくだが、アーミー隊の特殊部隊班をテロ組織に偽装して導入してきた。流石ガントレット、考えたな』
通常、日本・アメリカ・ドイツの三国他は、連邦同盟という機密協定によって、一部隊における最大保持可能のAD総数が定められいる。
例えばアーミー隊の全部隊では、AD配備可能総数を二十四機と定められており、更に言えば拠点防衛や正規軍務における配備数などを考えれば、実際に遠方で投入できる総数としては四機から六機が限界である。
にも関わらず、現在名も無き屋敷へと向けて敵襲を仕掛けている機体総数は、十二機。これだけでアーミー隊の所有できるAD総数の半数を消費している。
ならば、この襲撃はどのようにして行われているのか。
『機体を書類上横流し、正規軍としてではなく、テロ組織として襲撃する事で、通常投入できる倍の兵力を投入してきた――という事ですね』
『そうだ。アーミー隊の特殊部隊班は、こう言う場合に連邦同盟の規定を超えた作戦を展開する為、正規軍人扱いにはされていないのでね』
『ガントレットの野郎、やる事がみみっちいなぁ』
リェータが確認し、修一が答えて、リントヴルムが呟いていく。
その間、各機は既に行動開始が出来る状況となっている。
敵は十二機。ADからすれば小さな島にぽつんと立つこの屋敷では、一分もしない内に占拠されてしまう。だからこそ、何時でも動くことが出来る状況を作っているのだろう。
「たかがポンプ付きが十二機でしょ?」
『そうだね。私達ならば、殲滅は容易だ』
『だからこそ、テストにはちょうどいい』
全員に作戦が伝えられる。
しかしその作戦は――作戦と呼べるものではない。
『ズィマーと霜山睦は、直ちに風神へ搭乗し、敵を殲滅する事。アルトアリス各機は待機し、場合によっては風神の援護を』
ただそれだけの内容。
だが、全員はそれに納得していた。
風神は、一騎当千の力を持って、敵を殲滅する為の機体だ。
ならば――十二機のADを相手に、立ち向かえなければ話にならない。
ズィマーの手を引き、風神のコックピットに入る霜山睦。
二人の女性が乗り込み、睦が機体のマニピュレータに軽く触れると、機体は起動を開始する。
動き出す機体。乱雑に推進剤等の補充を行うケーブル類を抜き放ったそれは、格納庫奥より開かれたハッチへと向け、歩き始める。
『お姉ちゃん、頑張って』
リェータの言葉と共に。
『うう――うぁああああああああっ!!』
ズィマーの絶叫が全員のマイクへと届き、機体は飛び立っていく。
その姿を、これから全員は――ただ見ていたという事だけは、先に記しておこう。
自分の指を噛んで血をダラダラと流していながらも、むしろそれが落ち着くと言わんばかりに表情を綻ばせるズィマー。
俯き、ずんと重たい表情を浮かべて、ただ歩く霜山睦。
二人は対ショック用のパイロットスーツを着込んだまま老化を歩き、今格納庫へとたどり着く。
「あん? ミハリちゃんいねぇじゃん」
なぜ彼が二人を連れて来たかというと、風神の操縦試験の際に同行して意見を聞かせて欲しいと修一から依頼を受けたからに他ならない。
その為彼女達を部屋まで迎えに行き、格納庫まで連れてくるように頼まれたのだ。
「しゃーねぇ。ちょい待つかね」
物資コンテナに座り込んだリントヴルム。彼の隣に座って頬を掻きむしろうとするズィマー。二人に目も暮れず、ただ風神を見つめる睦。
リントヴルムは睦に向けて「なァ」と声をかける。
「どうしてシューイチに従ってンだよ? 四六の隊長だろ? お前さんは」
睦は何も答えない。しかし顔を僅かに俯かせたので、何か思う所がある事は確かだろうとした。
「答えたくねェなら別にいいけどよォ。でもオリヒメとか、クスノキだっけ? アイツらをライジンとやらに乗せといて、お前さんが敵になるんじゃ、アイツらもやり辛ぇだろうなぁ」
「……私は、修一様に従うだけです」
初めて声を聴いた気がして、リントヴルムは「おお」と彼女の綺麗な声に驚きつつも、しかし語った答えが想定外で、首を傾げた。
「シューイチの事、崇拝してンのか? 敵になったのに」
「敵じゃありません。彼は、雷神プロジェクトと同じく、風神を用いて平和を作り出そうとしています。その手助けが出来るなら、私に出来る事を、なんでもするだけです」
「その割にゃ、お前さん世界の終わりみたいなツラしてるぜ? もうちょいまともにウソつきな」
リントヴルムからすれば、彼女が何を企んでいるかなど、知った事では無い。せいぜい現場を面白く引っ掻き回してくれればいいとして、ハンッと笑った。
「ず……うぇい」
「ん? ズィマーちゃん何か言った?」
「んん、んんん」
「何言ってンのかわっかんねェなぁ」
ズィマーの頭を乱雑に撫でるリントヴルムと、少々顔をしかめながらも赤くした彼女の事を、睦はただ見ているだけだった。
そんな三人のいる場所に、ミハリとリェータが戻る。
「お、帰って来たなミハリちゃん」
「えっと、リントヴルム、さん」
「そーそー、オレの事、オリヒメから聞いてる?」
「バケモノの変態だって、言ってました」
「おぉ、アイツから直接言われてぇ罵倒だなぁ」
ゾワリと体を震わせた哨に「三割冗談だよぉ」と笑って弁明したリントヴルムと「残り七割は本気なのね」とため息をついたリェータが、哨の手を引いて彼から遠ざける光景を、ズィマーはじっと見ていた。
「なに、お前さんら、仲良くなったの?」
「トモダチ」
「友達になりました」
「オレも友達にしてくれよぉ、カワイコちゃんだったら何時でも大歓迎だからよぉ」
「ミハリ、この男に近づいちゃ、駄目」
「うん、怖いし、近づかない」
「あらら、嫌われたなぁオレ」
そんな他愛もない会話を繰り広げていた全員に、睦は割って入り、哨に声をかける。
「哨さん、風神の整備は」
「え、あ。ごめんなさい、あと少しで終わります」
「お願いします。……申し訳ないけれど」
「……いえ。ボクも目標が出来たので、精いっぱいやります!」
急いで風神の整備に取り掛かる哨。その動きは早く正確で、リントヴルムが「ありゃスゲェ」と珍しく真顔で言う。
「確かのあの子の技術を求めた結果なら、お前さんらを囮にしてまで組んだ作戦も意味はあらぁな」
「そもそもあの作戦には、オースィニ以外は特に何とも思っていません」
「で、そのオースィニちゃんとかヴィスナーちゃんはどこよ。今日は何も予定なさそうな感じなら、一緒に風神でも見ようと思ったのによぉ」
リェータは「知る筈無いでしょう」とぶっきらぼうに返してくるが、その態度もリントヴルムからすれば、快楽にしかならないとは黙っておいた。
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ヴィスナーは、自身の駆るアルトアリス試作二号機のコックピットより見える、そんな全員の表情を見据えつつ、回線を開いてアルトアリス試作一号機のコックピット内で押し黙るオースィニへ通信を図る。
「聞こえる?」
『聞こえているよ。どうしたんだい?』
いつものあっけらかんとした声が届いて、ヴィスナーは「意外ね」という言葉を先に口ずさんだ。
『意外とは?』
「アンタの事だから、シューイチのやる事に文句でもあると思ってたのに」
『あったさ。けれど、彼の口から聞けることを全て聞いてね』
「また嘘かもしれない」
『彼は一度だって嘘をついた事は無いよ。騙す事はあってもね』
ヴィスナーにとって、嘘と騙しの根本的な違いが判らない。彼女はしかし「そう」とだけ言って押し黙る。
『なぁ、ヴィスナー君。君は彼のやろうとしている事を、知っていたのかい?』
「……どうだろ。アンタが聞いた事とアタシが知ってる事、どれだけ合っているかも疑わしいじゃん」
『全て聞く事は恐ろしいが――その計画の中で、私はやっぱり死ぬのかい?』
「……死ぬと思う」
『なら合っているだろう』
「アンタはさ、死ぬことが怖くないの?」
『怖いさ。君は子供の頃に「死」という概念について考えた事はあるかい?』
「無かったと思う」
『死とは、何だろうねぇ。死んだら人間はどこに行くのだろう? 魂という存在は本当にあって、それらはどうやって報われる? いや、報われるのだとしたら、今まで私達が殺してきた人の命は、報われているのだろうか?』
――それとも、死ねば意識はただ闇の中にあるのだろうか。
オースィニの言葉に、ヴィスナーは初めて、身体を震わせた。
『私は死ぬ。けれど私が死ぬことで、君たち子供の命が救われるならば、私の命など全て投げ打とうじゃないか』
「どうして。アタシはアンタの事なんか何も知らない。ズィマーだってリェータだって、リントヴルムだってそう」
『ああそうか。君にはしっかり私の事を教えていなかったね。リントヴルムさんには色々と語ったが……』
「元SASの父親がアンタに技術を叩き込んだんだっけ?」
『そうそう。本名はエミリー・ハモンド、好きな言葉は端麗かな』
「それ以上の事は?」
『無いよ。……無いんだよ。私の過去なんて、殺し殺されの戦場にいた事以上のものが無いんだ』
「無残なもんね」
『日がな一日を、ただ惰性で生きる人々よりは、まともな人生を歩んでいると思っていたよ。……昔はね』
「今は違うの?」
『何も危険な事の無い一日というモノが、尊ばれる世界というものさ。世界はそうした安寧の中にある方が好ましい』
「そんな世界、例えシューイチの成した世界でも、作れないよ」
『そうだねぇ。彼の作った世界では、確かに平和は訪れるだろう。だが平穏ではない。安寧でもない。――しかし、無駄に命を落とす子供たちを救う事は出来るだろう』
私はそれ以上を求めない。
オースィニとの会話は、それ以上等ない。
何故なら。
『ヴィスナー、オースィニ、機体にいるのかい?』
二人の間に割って入る、城坂修一による音声通信があったから。
「何よシューイチ。乙女二人の会話に割って入りやがって」
『それは失礼した。だが緊急事態でね』
『何があったのかな』
『敵襲だ』
修一の言葉と共に。
屋敷全体に響き渡る警報の音が、全員の鼓膜を刺激する。
脳に直接叩き込まれるかのような音が、その場にいる者全員を委縮させるが、しかし五人だけは違った。
オースィニは搭乗しているアルトアリス・試作一号機を起動させる。
ヴィスナーも続けて、搭乗しているアルトアリス・試作二号機を起動させる。
リェータはアルトアリス・試作二号機に乗り込み、機体を起動させる。
リントヴルムはアルトアリス・試作五号機に搭乗し、機体を起動させる。
風神に搭乗するべきズィマーと霜山睦はその場で待機し、整備班の人間によって保護された後、四機はシステム起動を終了すると同時にデータリンクを開始。
『何の警報だいコイツぁ?』
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『敵襲だ。機体識別コードからして、アーミー隊のAD部隊だな』
『アーミー隊だけかい?』
オースィニが続けて問いかけると、修一は『だろうね』とだけ答えた後、各機にデータを送信する。
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通常、日本・アメリカ・ドイツの三国他は、連邦同盟という機密協定によって、一部隊における最大保持可能のAD総数が定められいる。
例えばアーミー隊の全部隊では、AD配備可能総数を二十四機と定められており、更に言えば拠点防衛や正規軍務における配備数などを考えれば、実際に遠方で投入できる総数としては四機から六機が限界である。
にも関わらず、現在名も無き屋敷へと向けて敵襲を仕掛けている機体総数は、十二機。これだけでアーミー隊の所有できるAD総数の半数を消費している。
ならば、この襲撃はどのようにして行われているのか。
『機体を書類上横流し、正規軍としてではなく、テロ組織として襲撃する事で、通常投入できる倍の兵力を投入してきた――という事ですね』
『そうだ。アーミー隊の特殊部隊班は、こう言う場合に連邦同盟の規定を超えた作戦を展開する為、正規軍人扱いにはされていないのでね』
『ガントレットの野郎、やる事がみみっちいなぁ』
リェータが確認し、修一が答えて、リントヴルムが呟いていく。
その間、各機は既に行動開始が出来る状況となっている。
敵は十二機。ADからすれば小さな島にぽつんと立つこの屋敷では、一分もしない内に占拠されてしまう。だからこそ、何時でも動くことが出来る状況を作っているのだろう。
「たかがポンプ付きが十二機でしょ?」
『そうだね。私達ならば、殲滅は容易だ』
『だからこそ、テストにはちょうどいい』
全員に作戦が伝えられる。
しかしその作戦は――作戦と呼べるものではない。
『ズィマーと霜山睦は、直ちに風神へ搭乗し、敵を殲滅する事。アルトアリス各機は待機し、場合によっては風神の援護を』
ただそれだけの内容。
だが、全員はそれに納得していた。
風神は、一騎当千の力を持って、敵を殲滅する為の機体だ。
ならば――十二機のADを相手に、立ち向かえなければ話にならない。
ズィマーの手を引き、風神のコックピットに入る霜山睦。
二人の女性が乗り込み、睦が機体のマニピュレータに軽く触れると、機体は起動を開始する。
動き出す機体。乱雑に推進剤等の補充を行うケーブル類を抜き放ったそれは、格納庫奥より開かれたハッチへと向け、歩き始める。
『お姉ちゃん、頑張って』
リェータの言葉と共に。
『うう――うぁああああああああっ!!』
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