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第十三章
ズィマー-03
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レイスの撤退が終了し、もぬけの殻となったティレニア海上の小さな島に入り、ガントレットは悲惨な光景を目に焼き付けていた。
「これは、予想以上だな」
修一の手に堕ちた風神だが、その基礎スペックは雷神と同等性能を誇る。
更に雷神では火器管制システムを排する事で機体自体の性能を高める事に特化していたが、風神は火器管制を有している。
だが、ガントレットには風神が火器を優先して使ったようには思えない。
突入した十二機のポンプ付きは、ほとんどが風神の拳や蹴り等によって装甲を拉げられた物が多い。
確かに風神は設計段階からT・チタニウムによる強固な装甲を有するものの、しかしそれはポンプ付きとて同じである。
ではなぜそれを拉げる事が可能かというと、それは的確に装甲と装甲の繋目を狙った攻撃が成されているからに他ならない。
「しかし、クスノキの様に制御を行えるパイロットがいない状況で、正確に狙えるとも思えない」
となれば、それは「機体システムによる演算処理によって攻撃した」わけではなく「パイロット自身の操縦技術によって攻撃した」事に他ならない。
正確、しかし大胆に行われる風神の操縦を、ガントレットは評価せねばなるまいが、しかし疑問も同時に湧き出てくる。
修一は、如何なる手段を用いて、風神をそこまで使いこなせるパイロットを用意したか、だ。
それを考えている内に、破壊されたポンプ付きの回収完了、そして屋敷の突入部隊によって内部の安全を確認した所で、恐らく修一の使用していただろう部屋に入る。
暖炉には焼け焦げた紙屑が多くあり、彼が隠したかった内容は全て消されたのではないか、と最初こそ考えたものの、しかし彼は諦める事無く、彼が残した量子PCのセキュリティ解除を部下に頼み、その間に部下が届けてくれた映像を閲覧する。
それは、風神に堕とされたポンプ付きに残っていたカメラ映像だ。実戦中は映像が届く事は無かったが、しかし機体にデータは残るので、こうして映像の回収は不可欠である。
そして、ガントレットは息を呑んだ。
圧倒的なスピードと、速力を有した拳の威力、そして織姫の繊細かつ大胆な操縦とは違い、豪傑としか形容しようのない暴れっぷりは、長くADという兵器を見て来たガントレットですら、本当にこの風神という兵器がADであるのかを再確認したいほどであったが、しかし企画原案を出した人物は間違いなく自分自身であるので、それを苦笑と共に受け流し、映像を見終わると同時に、頼んでいたセキュリティ解除が終了したとの知らせを受け、内部を閲覧する。
「これは」
「罠、ですかね」
量子PC内には、今後の撤退先候補が五つほど記載されていた他、明らかに彼の野望に関連すると思われる資料が点在している。
こちらの突入が早すぎたせいで彼を焦らせ、量子PC内のデータ削除等を行わせなかったとも考える事は出来るが、今まで周到に姿を隠してきた事を鑑みると、それは考え辛い。
ならば罠か、とも考えたが、罠にしては情報を残しすぎている気もする。
「輸送機を追う事が出来れば、これに合わせて情報吟味も出来たのだがな」
「申し訳ありません。敵のステルス技術には、まだ不明瞭な点が多く」
「いや、それを言っても始まらんし、私も責めているわけではない」
修一の率いるレイスは、現状米軍でも解析不可能のステルス技術を有している。だからこそ、ここまで大それた行動をとる事も可能なのだ。
「そんな奴が、ここまで情報を残していくという事は、全てが正しい可能性すらあり得るが……いや、違う」
撤退先候補は、インド・ベトナム・ロシア・日本・アメリカの五つ。
しかしそれぞれが首都や有名な都市を指定しているにも関わらず、ロシアだけが樺太島の山岳地帯の場所を指定している事から、ガントレットはここに目を付けた。
「この場所の衛星写真、出せるか?」
「三時間前の写真となりますが」
「構わん」
衛星写真を出させると、そこは木々に囲まれた山岳地帯であったが――しかし、ガントレットは一部の木々が削られた場所を指さし、ビンゴ、と小さく呟く。
「UIGだ」
「ですが現在樺太島はロシア領です。ロシアは連邦同盟に加盟していない国家ですし、UIGなど聞いたことが」
「例のX-UIGとやらだろう。それに修一の事だ、どこにどんな事をやっていたとしても不思議ではない」
ひとまず、次の指標となり得る情報を得る事は出来た。ガントレットは各員に情報取得を任せ、そのまま部屋を出ようとした。
しかし、そこで一枚の写真が目に入って、思わずそれを、手に取ってしまう。
それは、修一がまだ二十代の頃。
共に写る二人は――霜山彰と、遠藤勉。
「あのバカは……まだこんな物を」
写真立てを倒し、ガントレットはタバコを探す。
しかし、見つかる筈もない。
作戦中は、喫煙など以ての外だから。
**
修一の率いるレイス実行部隊は、五つの輸送機に別れて別々のルートから、樺太島の山岳地帯に設計されたUIGに降り立ち、その堅牢な門に収容されると共に、姿を隠した。
そして各アルトアリス他、風神を自動整備装置へとドッキングさせ、機体から降りたリントヴルムは、共に降り立ったヴィスナーに近づく。
「カラフトって事は、ロシアじゃねぇの?」
「そうよ。アンタも祖国の領土は覚えてんだ?」
「流石になぁ。それにしても、ロシアにUIGがあるなんざ知らなかった。オメェさんは知ってたのか?」
「知ってる――というより、アタシはここで生まれたんだから、知ってて当然よ」
「は? ここで生まれたって、どゆ事?」
「何でもない。忘れて」
ツカツカと早歩きで去っていくヴィスナーの事を追いかける事が出来ぬまま、リントヴルムは続いて機体から降りて来たオースィニへ声をかける。
「オースィニちゃんは、ヴィスナーちゃんの事よく知ってんの?」
「よく、は知らないね。前にも言ったけれど、彼女のお父様が本来レイスの首領だからね。こうしてUIGがある事も、彼女がこのUIGで生まれたという事も、まぁ彼女が言うからには事実ではないのかな」
そういえばそんな話をしたな、と思い出しつつも、しかしこうなってくると色々気になる事は多いとしたリントヴルム。
「そもそもどうしてロシアがUIGを持ってんだ?」
「正しくないね。ロシアが持っている、ではなくレイスが持っているんだ」
「UIGってのは地底産業都市だろ? 大体のUIGじゃ、それぞれに特化した研究や開発を行ってるモンだ。ココは何をしてるってンだ?」
「なに、どこのUIGでもやっている、兵器の開発だよ。――ただ、その兵器がADなのか核兵器なのか、それとも兵器と称される人間なのかの違いはあるけれど」
「胸糞わりぃ話だな。――つまりヴィスナーちゃんは、そういう作られた兵士ってワケか?」
「ああ。だが私もその話自体はあまりしたくないんだ。――貴方の言う通り、胸糞悪くなるからね」
ため息を漏らし、会釈と共にオースィニも去っていく。
続けてリェータやズィマー等がいればと思ったが、しかしリェータは既に三号機から出てどこかへ行っており、そもそもズィマーと睦は風神に搭乗した結果、輸送機内でも緊急医務室にいたこともあり、現在はこのUIG内にある医務室にでも運送された事だろう。
「これは、予想以上だな」
修一の手に堕ちた風神だが、その基礎スペックは雷神と同等性能を誇る。
更に雷神では火器管制システムを排する事で機体自体の性能を高める事に特化していたが、風神は火器管制を有している。
だが、ガントレットには風神が火器を優先して使ったようには思えない。
突入した十二機のポンプ付きは、ほとんどが風神の拳や蹴り等によって装甲を拉げられた物が多い。
確かに風神は設計段階からT・チタニウムによる強固な装甲を有するものの、しかしそれはポンプ付きとて同じである。
ではなぜそれを拉げる事が可能かというと、それは的確に装甲と装甲の繋目を狙った攻撃が成されているからに他ならない。
「しかし、クスノキの様に制御を行えるパイロットがいない状況で、正確に狙えるとも思えない」
となれば、それは「機体システムによる演算処理によって攻撃した」わけではなく「パイロット自身の操縦技術によって攻撃した」事に他ならない。
正確、しかし大胆に行われる風神の操縦を、ガントレットは評価せねばなるまいが、しかし疑問も同時に湧き出てくる。
修一は、如何なる手段を用いて、風神をそこまで使いこなせるパイロットを用意したか、だ。
それを考えている内に、破壊されたポンプ付きの回収完了、そして屋敷の突入部隊によって内部の安全を確認した所で、恐らく修一の使用していただろう部屋に入る。
暖炉には焼け焦げた紙屑が多くあり、彼が隠したかった内容は全て消されたのではないか、と最初こそ考えたものの、しかし彼は諦める事無く、彼が残した量子PCのセキュリティ解除を部下に頼み、その間に部下が届けてくれた映像を閲覧する。
それは、風神に堕とされたポンプ付きに残っていたカメラ映像だ。実戦中は映像が届く事は無かったが、しかし機体にデータは残るので、こうして映像の回収は不可欠である。
そして、ガントレットは息を呑んだ。
圧倒的なスピードと、速力を有した拳の威力、そして織姫の繊細かつ大胆な操縦とは違い、豪傑としか形容しようのない暴れっぷりは、長くADという兵器を見て来たガントレットですら、本当にこの風神という兵器がADであるのかを再確認したいほどであったが、しかし企画原案を出した人物は間違いなく自分自身であるので、それを苦笑と共に受け流し、映像を見終わると同時に、頼んでいたセキュリティ解除が終了したとの知らせを受け、内部を閲覧する。
「これは」
「罠、ですかね」
量子PC内には、今後の撤退先候補が五つほど記載されていた他、明らかに彼の野望に関連すると思われる資料が点在している。
こちらの突入が早すぎたせいで彼を焦らせ、量子PC内のデータ削除等を行わせなかったとも考える事は出来るが、今まで周到に姿を隠してきた事を鑑みると、それは考え辛い。
ならば罠か、とも考えたが、罠にしては情報を残しすぎている気もする。
「輸送機を追う事が出来れば、これに合わせて情報吟味も出来たのだがな」
「申し訳ありません。敵のステルス技術には、まだ不明瞭な点が多く」
「いや、それを言っても始まらんし、私も責めているわけではない」
修一の率いるレイスは、現状米軍でも解析不可能のステルス技術を有している。だからこそ、ここまで大それた行動をとる事も可能なのだ。
「そんな奴が、ここまで情報を残していくという事は、全てが正しい可能性すらあり得るが……いや、違う」
撤退先候補は、インド・ベトナム・ロシア・日本・アメリカの五つ。
しかしそれぞれが首都や有名な都市を指定しているにも関わらず、ロシアだけが樺太島の山岳地帯の場所を指定している事から、ガントレットはここに目を付けた。
「この場所の衛星写真、出せるか?」
「三時間前の写真となりますが」
「構わん」
衛星写真を出させると、そこは木々に囲まれた山岳地帯であったが――しかし、ガントレットは一部の木々が削られた場所を指さし、ビンゴ、と小さく呟く。
「UIGだ」
「ですが現在樺太島はロシア領です。ロシアは連邦同盟に加盟していない国家ですし、UIGなど聞いたことが」
「例のX-UIGとやらだろう。それに修一の事だ、どこにどんな事をやっていたとしても不思議ではない」
ひとまず、次の指標となり得る情報を得る事は出来た。ガントレットは各員に情報取得を任せ、そのまま部屋を出ようとした。
しかし、そこで一枚の写真が目に入って、思わずそれを、手に取ってしまう。
それは、修一がまだ二十代の頃。
共に写る二人は――霜山彰と、遠藤勉。
「あのバカは……まだこんな物を」
写真立てを倒し、ガントレットはタバコを探す。
しかし、見つかる筈もない。
作戦中は、喫煙など以ての外だから。
**
修一の率いるレイス実行部隊は、五つの輸送機に別れて別々のルートから、樺太島の山岳地帯に設計されたUIGに降り立ち、その堅牢な門に収容されると共に、姿を隠した。
そして各アルトアリス他、風神を自動整備装置へとドッキングさせ、機体から降りたリントヴルムは、共に降り立ったヴィスナーに近づく。
「カラフトって事は、ロシアじゃねぇの?」
「そうよ。アンタも祖国の領土は覚えてんだ?」
「流石になぁ。それにしても、ロシアにUIGがあるなんざ知らなかった。オメェさんは知ってたのか?」
「知ってる――というより、アタシはここで生まれたんだから、知ってて当然よ」
「は? ここで生まれたって、どゆ事?」
「何でもない。忘れて」
ツカツカと早歩きで去っていくヴィスナーの事を追いかける事が出来ぬまま、リントヴルムは続いて機体から降りて来たオースィニへ声をかける。
「オースィニちゃんは、ヴィスナーちゃんの事よく知ってんの?」
「よく、は知らないね。前にも言ったけれど、彼女のお父様が本来レイスの首領だからね。こうしてUIGがある事も、彼女がこのUIGで生まれたという事も、まぁ彼女が言うからには事実ではないのかな」
そういえばそんな話をしたな、と思い出しつつも、しかしこうなってくると色々気になる事は多いとしたリントヴルム。
「そもそもどうしてロシアがUIGを持ってんだ?」
「正しくないね。ロシアが持っている、ではなくレイスが持っているんだ」
「UIGってのは地底産業都市だろ? 大体のUIGじゃ、それぞれに特化した研究や開発を行ってるモンだ。ココは何をしてるってンだ?」
「なに、どこのUIGでもやっている、兵器の開発だよ。――ただ、その兵器がADなのか核兵器なのか、それとも兵器と称される人間なのかの違いはあるけれど」
「胸糞わりぃ話だな。――つまりヴィスナーちゃんは、そういう作られた兵士ってワケか?」
「ああ。だが私もその話自体はあまりしたくないんだ。――貴方の言う通り、胸糞悪くなるからね」
ため息を漏らし、会釈と共にオースィニも去っていく。
続けてリェータやズィマー等がいればと思ったが、しかしリェータは既に三号機から出てどこかへ行っており、そもそもズィマーと睦は風神に搭乗した結果、輸送機内でも緊急医務室にいたこともあり、現在はこのUIG内にある医務室にでも運送された事だろう。
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