私たちの試作機は最弱です

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第十三章

ズィマー-05

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 島根のどかは、自分自身で理解できるほど、何時になく真剣だった。

  勿論彼女とて、これまでの戦いが実戦であり、命のやり取りであった事を理解していないわけではない。

  しかし、以前AD学園襲撃に際して迎撃し、自分が敵とは言え多くの命を奪ったのだと、遅すぎる理解を経てからは、戦うという事に億劫になってしまった気がする。

  ADは兵器だ。そんな事は分かっているし、今自分が戦う理由もわかっている。

  だが、それでもたった一つしかない命を殺めてしまったという現実は、彼女の心を変えるには十分な現実だった。


『島根、やれるか?』

「やれるよ、姫ちゃん」


 なるべく、城坂織姫に自分の意識を悟られたくない。だから彼女は表面上だけでも何時も通りにしようとした。

 目の前には、純白の機体が立ち塞がる。

  雷神。城坂織姫と、城坂楠という二人が駆る機体で、実はのどかはこれまで、雷神との模擬戦は、交流戦でのバトルロワイヤル以来なのだ。


『どういうレギュレーションでやる?』

「実戦じゃレギュレーションなんか無いじゃん。ひたすらやり合うだけ」

『OK』


  のどか機がまず、動く。機体は僅かに宙に浮きながら、スラスターを吹かして雷神へと急接近を仕掛ける。

  が、雷神は慌てる事無く、二歩後ろに下がると同時に地面を蹴り、高く舞い上がる。

  のどか機の上を取ると、背部と脚部のスラスターを吹かして屈折し、上空から殴りかかる雷神の一撃を避け、地面へ手を置いた雷神の腹部へと蹴りかかった。

  既に読んでいた雷神は地面に右手を置き、それを起点として右脚部を強く振り込み、のどか機とぶつけ合う。

  互いに弾かれる形で距離を取ると、我慢できないと言わんばかりに、開いた距離を埋めるように、地面を蹴る。

  ジグザグに走りながら、のどかは右肘を雷神に付きつけようとするも、しかし見切っていた雷神は左掌で受け流すと、右脚部を回しながら蹴り込むと、のどか機は左肩部の電磁誘導装置の出力を上げて、雷神右脚部の動きを抑制する。

 がら空きになった胸部と腹部に、右と左の拳を短く振り込んだブローが入り、最後に右脚部を雷神の腹部に蹴り込んだまま姿勢制御で宙に浮きながら左脚部も突き付け、蹴り飛ばす。

  この攻防は、約二十秒の間に行われた。

  しかし、まだだ。


「姫ちゃん、もっと早く攻めてきて」

『こっちも辛いんだよ』

『そう、だね。今のでもちょっと頭クラッとした』

「風神に乗ってる奴はもっと早かったじゃん」


 こちらから行くまでだとしたのどかが、先ほどよりも素早く駆けた。

  すると雷神もようやくその気になったか、先ほどのお返しだと言わんばかりに高速の二連撃を繰り出すも、しかしのどかには見える。

  顔面を狙った右手と胸部を狙った左手の連撃を、それぞれ相対する左手と右手で受け止めたのどか機。

 振りほどかれると共に右足を突き出した蹴りの連撃を、右腕で全て受け切ると、最後には雷神の右脚部とのどか機の左脚部が再びぶつかり合う。

  だが、まだだ。もっと早くだ。

  そう叫ぶと、一度距離を取った雷神が、一度地面に両手を置く。

  地面を抉るようにした両手。それと共に地面を這う様に駆ける雷神。

  振り切られた拳を避けるが、しかしのどかが避けたと認識した時、雷神は既に脚部スラスターを逆噴射させて背後から襲い掛かる。

  反射神経のみで読んだのどかが、振り返りつつ機体をしゃがませながら両腕をクロスさせ、殴りかかってくる雷神の右腕部を受け止めると、右膝を突き出して腹部へと突き付ける。

  しかし、雷神は左手でのどか機の右膝を受け止めると、曲げた肘を戻すバネの働きに近い運動によって、再び距離を取る。

 一瞬、そこで動きを止めた雷神だったが――全スラスターの出力を最大にまで上げ、グラウンドの土埃が舞い、視界情報を遮ったはずの雷神が、上空にいる事を察する。

  右脚部を突き付けて、上空から突撃してくる雷神。

 どこかを蹴られるだけでも衝撃が襲うと予想したのどかが、回避優先でバックジャンプし、一撃は避けるものの、しかし着地したと同時に地面を蹴りつけ、背部スラスターを吹かした雷神にコックピットを殴られた事によって、勝負がついた。


「ぎっ――つう、!」


 通常のAD兵器ならば、上空から勢いよく地面へと降り立った場合、衝撃でパイロットに与える影響が大きい。だからこそ避け切れば良しとしたのどかだったが、しかし雷神はそこから次の攻撃に即時行動を起こした。

  となれば、次はそうした隙を無くせばいいと実感したのどかは機体を起き上がらせて、各部異常チェックを行う。問題はない。


「さ! 次行くよ姫ちゃん!」

『ちょっと、タンマ』

「なに、へばったの?」

『いや、違う。整備不良』


 え、とのどかが漏らすと、織姫の深いため息が聞こえる。


『哨がいないとコレだ。正直困った』

「え、でも相当動けてたよ?」

『全関節の動きが悪い。全力が出せてない。多分だけど、関節部が消耗してるけど規定値内だからって処置してない』


 哨がいりゃあな、と漏らした織姫だったが、しかし楠は『仕方ないよ』と励ます。


『島根、悪いけどここまでだ。次の作戦がどうなるかわからないけど、アーミー隊に合流するまでに整備問題を解決しないと、いざって時にオレが動けない』

「あ、うん」

『お前、何か焦ってるか?』


 ふと問われた言葉に、のどかが言葉を詰まらせる。


『人、殺した事を悩んでるのか?』

「……なんで分かるの?」

『それ位しか思いつかなかっただけだけど、当たりか?』


 沈黙が答えとなる。織姫は機体を動かし、整備不良個所の確認を行いつつ、そのままのどかに言葉を投げ続ける。


『悩むなとは言わない。悔やむなとも言わない。けど、その気持ちを戦場に持ち込むな。じゃないとお前が死ぬぞ』

「アタシは、負けないよ」

『けどよく覚えとけ。戦場で死ぬ奴は、大体迷う奴だ』

「迷うって、何を?」

『こうしていいのかな、とか、こうしなきゃダメなんじゃないか、なんて事を戦場で悩む奴が一番死ぬんだ。悩む前に行動し、戦場が通り過ぎてから反省すりゃいいんだよ』

「……人殺した後に反省したって、その人は帰ってこないのに?」

『それを迷うなっつってんだ』


 最後にそれだけを強い口調で言った後、雷神は試作UIGに向かっていく。


「……悩むなって、無茶言うなぁ、姫ちゃん」


 人はいずれ死ぬ。だが、誰かを殺すという事は、本来その者が今後描いていく人生を、終わらせてしまう行為だ。

  戦争だ、殺し合いだ、やらなければお前が死ぬと言われても――迷わない筈がない。


「ああ……アタシ、弱くなったなぁ……」


 嘆く言葉は、誰にも届かない。
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