私たちの試作機は最弱です

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第十四章

ズーメイ-07

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  ズィマーは、今自身を拘束するベルトが外された感覚で目を覚まし、周りを見渡した。

  慌ただしく動き回る医療スタッフたち。

 自分は、身長百八十センチ弱の男性に抱きかかえられ、移送用のベッドに寝かされようとしていると、気付く。


  ――ああ、多分外では、戦争しているんだ。


  男の胸を押しのけ、地面に落ちる。

  お尻から落ちた体を起こし、胸に感じる痛みに耐えながら、走り出す。

  追いかけてくる男性。しかし腕を掴まれる度に振りほどき、三度ほど繰り返した所で面倒に感じ、頬を殴った。

  それだけで、男は気絶した。

  そしてズィマー自身も、胸に走る痛みが辛くて、膝を落とす。


  ――でも、ズーウェイは戦ってる。


  グッと堪えて、ただ走る。

  道は分からない。けれど兵士とは逆方向が戦場である筈だと、そう信じて走っていくと、そこには、まだ収容されていない、アルトアリス試作四号機があった。

  止めに入る兵士たちの言葉など聞こえない。

  腕を振り回し、静止を振り払い、ただ機体をよじ登って、開いていたコックピットハッチまで、辿り着く。


  ――ズーウェイが戦っているのなら。

  ――お姉ちゃんが、守ってあげなきゃ。


  ハッチ閉鎖、モード調整開始、パワーパッケージリンク。

 そんな調整文が目の前で流れる事すら新鮮に感じられたけれど、それを喜んでいられない。

  機体を歩ませる。動かす。

  そして――センサーが反応する、戦場へと、駆ける。
  

  血を吐く。

 意識が飛びそうになる。

 その都度、ズィマーは自分の唇を噛み、意識を保つ。

  衝撃吸収に特化したパイロットスーツなど着ている暇も無かったから、機体を走らせるだけで内臓を揺らされる感覚。


  けれど、それでいい。

  自分の内臓などくれてやる。

  自分の命などくれてやる。


  ――もとから、そんな上等な命ではないのだから。


 **


 久世良司は、揺れる機内の中で、目を覚ました。

  じんわりと、頭が濡れているように感じる。

  恐らくコックピットの一部が破壊された事によって、破片か何かが頭部へ当たったのだろう。

  ヘルメットで止めきれなかった衝撃だったが、脳震盪を起こす程度で済んだという事ならば僥倖だったか、と勝手に納得しながら、フラフラとする頭を振り、意識を保つ。


  ――自分はどれだけ眠っていた?


  急ぎ、システムをダウンさせている機体を再起動させる。

  秋風がまとうT・チタニウム装甲は、堅牢な装甲に加えて電力を通す事で更に装甲強度が増す特殊合金であるので、機体を稼働させた方が防御性能は良い。

  メインカメラが起動する。

  映る光景は、雷神と取っ組み合いを行うアルトアリス――恐らくリントヴルムの搭乗する機体。

  そして、落とされたのかどうしたのか、それは分からないが、沈黙したままの島根のどかが登場する秋風が膝を折っている。


  ――では、風神は、どこに?


  すぐに見つける事が出来た。

  随分と痛手を負っているようで、機体を満足に動かす事も出来ないのか、のそりのそりと離脱していく光景が映っている。

  このままでは、奥の通路へと行かれ、逃げられる。

  重たい手を動かし、トリガーに指をかける。

  フルフレームに搭載された115㎜滑腔砲を掴み、上手く狙いが付けられない状況ではあるが、しかしトリガーを、引く。

  放たれた弾丸。

  響く轟音。

  揺れる機内。

  瞬間、フルフレームの電源が、再び落ちた。


「……ああ、撃った衝撃で、機体がイカれたな」


 弾頭の行方を、彼は知らない。

  
  **
  

  リェータは、ヘルメットを外してコックピット奥にあるエチケット袋を乱雑に掴むと、耐え切れなくなった吐瀉物を吐き出し、すぐに口を結んでダストボックスに投げ入れた。

  実はそんな事をしている暇も惜しい程に、彼女と、彼女と共に風神へ搭乗する霜山睦は疲弊していた。

  これ以上の戦闘行動は難しいとしたリェータは、撤退を睦へ進言し、彼女もそれに頷いた。

  満足に機体を動かす事も出来ず、のそりのそりと動かす事しか出来ない自分の現状を恨めしいと思いつつ、雷神と戦うリントヴルム機に背を向け、奥の通路へと向かう。

  壁に手を付け、今左側の通路へと行き、格納庫まで行こうとした、その時だった。


「え」


 機体が、グラリと揺れた。

  目の前には、アルトアリス・試作四号機の姿が。

  それは、自身の姉――ズーメイが搭乗する機体。

 その機体が、今風神を突き飛ばした。


「お姉ちゃん?」


 呟いた瞬間。

  目の前で、試作四号機の胸部目掛けて着弾した、砲弾が。

  ゴウン、と轟音を響かせて放たれた弾頭は、四号機の堅牢な装甲を破るまでには至らなかったが、しかし数十メートルと吹き飛ばした。


「お……お姉、ちゃん……?」


 認めたくない。

  あの機体に乗っているのは、ズーメイではない。

  だって、そうではないか。

  彼女はそもそも重症の身だった。

  ならば、今あの機体に乗れているわけがない。


 ――そう、信じたかったのに。


『ズー、ウェイ』


 声が、聞こえた。

  聞こえてしまった。

  弱弱しく、儚げな、自らの姉が放つ声を。


『いき、てる……?』

「あ、あああ、ああああ……ッ!!」


 どうして?

  どうしてなんだ?

  姉は、投与剤の影響を克服しかけ、言葉を話せている。

  そして今、私の名を呼び、私の事を心配してくれている。

  それだけで、嬉しい筈なのに。


  ――どうして、どうして今、弾丸が放たれた?


『よか、た……』

「良くない……良くないよ、お姉ちゃん……っ」

『間に、あた……』

「だから良くないんだよ、お姉ちゃんッ!!」


 機体ハッチを開け、四号機へと走る。

  上手く走れず、転んでしまっても、それでも構わないと地面を駆ける。

  辿り着き、コックピットハッチの強制開放レバーを操作し、搭乗する姉の姿を、見る。

  パイロットスーツも何も着ずに、ただ診察着を着たままの姉が、拉げたコックピット内で、身体の半分がつぶれた状態で、それでも尚、リェータ――否、ズーウェイの事を観て、微笑んだ。


「ズーウェイ……最後に、会えた」

「最後なんて、言わないで、お姉ちゃん……っ、私は、お姉ちゃんと、一緒に、ずっと一緒に、居たいのに……ッ!」

「泣かないで……ズーウェイ」

「そんなの無理だよッ! お姉ちゃんが、お姉ちゃんが死んじゃうのに、泣かないなんて出来ないし、お姉ちゃんを死なせたくないし、お姉ちゃんを傷つけたあのフルフレームが憎くて憎くてしょうがないし、もう頭の中ごっちゃごちゃで、意味わかんないんだよぉ……っ!」


 ボロボロと溢れ出す涙。呂律の回らなくなる言葉。

  けれど、認めたくない。

  こんな最後を、認めたくないのだ。


「お姉ちゃん、ズーウェイには、笑ってて、欲しいなぁ……」

「無理、だよぉ……そんなの、無理だよぉ……ッ!」

「じゃあ、せめて……トモダチって人を、大切に……ね……?」


 沈黙が、十秒ほど、続いた。


「お姉ちゃん……?」


 彼女へと近づき、肩を揺らす。


「お姉ちゃん……っ」


 何度も何度も揺らして、それでも尚、彼女に反応はない。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん……っ」


 当たり前の事だろうと、誰かが自分の中で言った気がした。

  死んでいるんだろうと、誰かが自分の中で言った気がした。

  でも、認めたくなくて、ずっとずっと、彼女の肩を、揺らし続けた。
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