私たちの試作機は最弱です

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第十五章

オースィニ-03

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 ここから脱出したいのは山々だが、このまま機体の外へ生身で出てしまえば危険もあり得る。

 このまま救援を待つのが吉か――そう考えた時、機体正面にある扉が、開いた。


『やぁ、織姫。楠』


 機体が、何やら通信を受信した。その声は、二度ほどしか聞いた事はないが、しかし確かに分かる。


「親父……っ」

「お父さん、だよね?」

『ああ。君たちと話したい事がある。是非雷神から降りて、こちらまで来てくれないか?』


 楠が声に出す事無く、扉の厚さを計測。雷神が殴ったりすれば破れる厚さでない強固な厚さであることが分かり、舌打ちをしつつ「断ると言ったら?」とだけ聞いてみる。


『断られたら、そのまま閉じこもってもらうしかないね』

「でもお父さん、私達丸腰だから、武器を持った大人たちに囲まれたくないんだよ」

『その点は安心しなさい。先ほど脱出した輸送機に、このUIGで活動する作業員の他、白兵戦部隊も全員搭乗している。残っているのは非戦闘員と撤退準備を進めている一部作業員のみで、二人が今いる作業庫と、そこから先には僕しかいないよ』

「哨と梢さんはどうした」

『彼女達も先ほどの輸送機で飛んでもらった。ガントレットの事だから安全確認が出来るまで歩兵部隊の突入は避けると考えたが、それでも危険だったからね』

「つまり、オレ達の安全もある程度は保証してくれるって事でいいんだな?」

『ああ。それに、僕としても雷神は無事にお返ししたい。それ以上破損してしまうと、僕の計画に支障も出かねないから、機体にも触れる事は無いと約束しよう』


 まぁ、雷神には元々オレか楠のどっちかが搭乗しなければセキュリティ上の問題もない。

  舌打ちしつつ、オレは一応機体に備えていたポケットピストルを楠に見つからないようパイロットスーツの袖に隠し、機体ハッチを開ける。楠は、ロックを行った上で機体のシステムを落とし、共にコックピットを出る。

  機体を降り、開かれた扉の向こうへと出る。

  そこには、親父が一人でいた。

  その若々しくも火傷の跡が痛々しく感じる頬、さらには額にガーゼと包帯を巻いている事から、恐らく怪我でもしたのだろう顔を微笑ませ、彼はオレ達の元へと歩み寄ってくる。


「そこで止まれ」


 だが、数メートルほど距離が開いていた所で、オレがポケットピストルを構えて、歩みを止まらせる。

  親父はため息をつきながら「無茶をするな」と言った。

 オレも、跳弾の可能性があるので撃ちたくはないが、それでも危険を排除する為だ。


「織姫、お前は銃を持つだけで震える子だ。そんな危ない事をするのはやめなさい」

「震えようがどうしようが、構うもんか。楠を守る為なら撃つ。その為に予行演習だってした」

「まさか、ウェポン・プライバシー社の捕虜は、お前が殺したのか?」

「その前に何百人と殺してる。三人なんか些細な数字だ」

「これは……また計画に修正が必要か」


 少々、親父が苦い顔をした。それでも彼は「お話に戻ろう」と背中を見せ、付いてこいと顎で示した。


「……話したい事は、僕の計画についてだ」

「親父が、レイスを使ってやりたい事って事か?」

「お父さんは、どうしてレイスの首領なんかになったの? 風神なんて機体を使わずに、もっと穏便に事を起こす事は出来なかったの?」

「ああ。雷神と言う機体だけではダメだ。風神と言う機体だけではダメだ。……どちらも存在し、どちらも存在意義として正しい物だ」


 ついていく先にあったのは、一つの部屋。

  そこは、小さなソファと机が置いてあって、照明も点りの小さな豆電球のみという、薄暗い空間だった。

  壁に点在するのは、恐らくコンピュータ関連だろうか。

 現在は通信を量子通信で行う時代に、これはデータ通信を光ファイバーで行うタイプとみた。


「ではまず話したい事だが――前提として、知っておいて欲しい事がある。

 AD兵器と言う存在が、なぜここまで世界に浸透したか、その理由だ」

「説明できるってのか?」

「まぁ、異論は出るだろうね。しかし、これ以上の答えなど存在しないよ。

 人間の善性を信じる事は自由だし、僕としてもそうして欲しいけれど、お前やリントヴルム、島根のどかという存在を知ってしまったからには、この理由を覆す返答を期待する事は出来ない」


 何を言っているんだ、と思いつつ、親父の語る事に耳を傾ける。
  

  ――親父は、ADという兵器が発展した理由は、そもそも人間が『人と人が争う』という本能に近しい兵器だったから、と語った。


「そ……そんな事、ある筈無いじゃないっ! だって、人間は……っ」

「人間は、何だい? 楠」


 親父は笑いながら、楠の言葉を待つけれど、しかし楠もそれ以上の言葉を出せずにいる。


「面白い理屈だな」


 対してオレは、親父の言葉に納得していた。


 ADという存在は、確かに人と人が争う為にうってつけの兵器だろう。

  人の形をしていて、人と同じ可動域を持ち、人以上の力を持つけれど、それは人が意思を持って操縦しなければ、動かす事は出来ない。

  自動操縦もあるけれど、現状は定型の行動に沿ってでしか、それを成せない。

  そして、相対する物もADであれば、それは人と人の殺し合いと同義であろう。

  人は、それを無意識の内に感じ取っていたのだろう。

  だからこそ、ADという兵器はこれまでの発展を遂げたのだ。


「で、でも人が人を殺すなんて、それは本来やってはいけない事でしょう。それを、無意識の内に、誰もが望むなんて事、無い」

「やってはいけない事……そうだね、本来はそうだ。けれど、それは織姫の前で言う事では無いな」


 ハッと、楠が抱き着くオレの事を見る。

  けど、オレはそんな事を気にしていない。


「事実だろ。人が人を殺すなんて、本来はあっちゃいけない。けれど、オレはそうしなければ生き残る事が出来なかったからした。それだけだ」

「そう、それも事実だ。楠、覚えておきなさい。確かに人が人を殺すなんて、あっちゃいけない事だ。

 けれど、それを成さなければ生きていけない人種もいるし……昔から人間と言う存在は、闘争によって発展を遂げて来た生物だ」

「だから、これから先、争いを止める事は出来ない――そう言いたいのか?」

「その通りだ」


 親父は言い切った。

 雷神なんて、平和に戦える兵器という夢物語を作り、さらには風神なんてもんを「世界平和の為」と言って作り上げた張本人が、何を言う。


「なら、アンタの目的は何だ?」

「世界平和だ」

「矛盾してる。争いを止める事は出来ないって言ったのはアンタだろ」

「争いを完全に止める事なんか、出来やしない――けれど、争いの火種を事前に鎮火し、可能な限り小火で止める事は出来る」


 親父は、壁に備えられていたスイッチを入れた。

  壁の一面が開かれ、ガラス越しに向こう側を見えるようにし、オレと楠は、そちらを注視した。

 一面に、紺色のAD兵器がズラリと並んでいる。

  その数は、約五十はあるだろうか。


「先ほど、二人はアルトアリス・試作二号機と交戦し、ここへ落ちて来ただろう。あの機体さ」

「アルトアリスを量産して、テロ組織に売り渡そうってのか?」

「そんな事をすれば、より多くの死者が出るだけだ。テロ組織の軍事力は適切に管理しなければならない。

 その為に僕の前にレイスを率いていた人物は、レイスを軍需産業連携機構として作り上げた」

「ちょっと待って、レイスは新ソ連系テロ組織や国家を裏で操っている組織じゃないの?」

「その理解で概ね間違っていないが、操る理由が誤解されている。

 レイスは技術を目的としたものではなく、新ソ連系テロ組織の軍事力を管理する事によって、大きな紛争を止める為に存在する」


 レイスとは、元々軍需産業連携機構として、新ソ連系テロ組織を運用する国家とパイプを持ち得、資金援助を行う事で技術の取得を行わせていると考えられていた。

  だが、実際には違うというのだ。


「レイスは新ソ連系テロ組織を有する国家へと資金援助を行い、冷戦機構を用いた技術奪取を行わせる。

 そして受け取った技術を吟味し、適度な軍事力となるように調整し、新技術を開発、新ソ連系国家へと横流す……。

 こうすれば連邦加盟国家と新ソ連系国家のパワーバランスは常に七対三程度の割合に留める事が出来る。

 双方ともに適切な軍事力を有する事によって、大規模な戦争へと発展する事は無い。それこそ第三次世界大戦なんてものは起こり得ない」


  確かに、正しい考え方だ。

  双方共に適切な軍事力があれば、言ってしまうと『互いにリスクのある戦争』を避ける事に繋がる。

  小規模な紛争はなくせないまでも、あくまで大きな火種を根絶やしにする事は出来るのだ。


「じゃああの機体は何だ? アルトアリス型のカタログスペックはどうか知らないが、それでも秋風と同等程度はありそうな機体だ。

 あんなのが量産されれば、練度の低いパイロットでもポンプ付きと対等に渡り合えるようになってしまう。

 それこそ七対三の割合が、六対四……いや、場合によっては五対五の割合になっても不思議じゃない」

「だから、あの機体はそういう意図で開発されたものではないし、あくまで前段階だ」

「前段階、だと?」

「最終的には、風神の量産型を大量生産する予定だ。

 風神を建造させた理由も、雷神に多くの戦闘をさせたのも、この為さ」


 親父は一体、何を言ってるんだ?

  確かに、以前AD学園で交流戦があった時。

 親父はオレ達へ雷神に搭乗して交流戦に参加させ、しかも「多く戦ってもらわなければ困る」とまで言っていた。

  それは、雷神の戦闘データを得る為の物だったのだろう、と考える事は確かに出来る。
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