私たちの試作機は最弱です

ミュート

文字の大きさ
上 下
141 / 191
第十五章

オースィニ-02

しおりを挟む
  オレ――城坂織姫は、現在リントヴルムの搭乗するアルトアリス型と交戦中だ。

  戦況はまずまず、と言いたい所ではあるが、そう簡単な話ではない。

  現在確認されている、レイスの所有しているADは風神を合わせて六機。

  内、UIGの外で姉ちゃんと村上の二機が、アルトアリスの一機と交戦中。

  そしてオレがリントヴルムのアルトアリスと交戦中。

  さらに、風神は先ほど交戦した影響でほとんど戦力としては使い物になっていない。恐らくパイロットの負担が原因だろう。

  そして――久世先輩が撃った115㎜滑腔砲の一撃が、風神をかばう様にしたアルトアリス一機に着弾し、沈黙した。

  模擬弾ではない、実弾である115㎜砲の直撃を受けたのだから、墜としたと言っても問題は無いだろう。

  つまり、敵戦力の二機は少なくとも墜とした、という事だ。

  後は風神の確保をしたい所ではあるが、しかしこちらも手負いだ。

  先ほど115㎜砲を撃った衝撃で機体を動かさなくなった久世先輩のフルフレームと、戦場でいらない悩みを抱いた島根。

  こちらの手札は、どちらも使い物にならない。


「チッ」


 短く舌打ちし、リントヴルム機が振るった拳の一撃を避け、脚部キャタピラで後退しつつ、島根機に通信を取る。


「おい島根。機体まだ動かせるか?」

『……うん』

「満足に戦えないなら、久世先輩のフルフレームを担いで離脱しろ。邪魔だ」

『……うん』


 のっそりと動き上がった島根機。しかし戦争ではなく人命救助だという事が頭にあるからか、随分とマシな動きではある。

  フルフレームを担ぎ、そのままUIGから離脱しようとした彼女に目をやる事無く、リントヴルム機は再びオレへ攻撃を仕掛けてくる。

  だが、それでいい。

  リントヴルムとの因縁は、そろそろ決着を付けたい。

  振るわれる拳に、こちらも拳で応対する。

  ゴウン、と響くT・チタニウム装甲同士の衝突音。

  そんな中、リントヴルムが声をあげる。


『あのシマネ・ノドカ、使い物にならなくなっちまったなぁ』

「黙れ」

『ま、いいんじゃねェの? 戦場なんてのは、自分の意志で立つモンだ。誰かに命令されて立ってもよォ、アイツいつか死ぬだけだゼ』

「だから黙れって言ってんだよ、糞野郎……っ」


 何時までもコイツとお喋りをするつもりはない。

  楠へと視線を向けると、彼女もコクンと頷いて、機体の出力を上げ始める。

  一度、深呼吸と共にリントヴルム機とせめぎ合う拳を強く弾き返し、スラスターを吹かす。

  速攻。その言葉が適切な速度で駆け出す雷神。

  リントヴルム機が雷神の接近に伴い振るった拳を、受け流しつつ左肘を突き出して胸部に打ち込むと、右手の拳もついでにプレゼントしてやる。

  しかし、リントヴルムはそれを見切っていたように、右手の拳を受け止めようとしていた。

  奴の手に捕まれば、パイルバンカーの攻撃が襲う。

  それは面倒だ――と瞬時に拳を引くと、虚を付かれたように前のめりになるリントヴルム機。

  右膝を突き出し、腹部を蹴りつけると、そのまま電磁誘導装置の出力を上げ、反発する磁場によって距離を開く。

  そんな時だった。

  ゴゴゴ、と何かが開くような音。

  リントヴルムも『なんだぁ、この音』と言った事から、奴のやった事では無いというのはわかったが、しかしそれでも事態が把握できなければ意味はない。


「――お兄ちゃん!」


 楠の声に、カメラを背後へと向ける。

  先ほど入って来たUIGの出入口、オレ達が足を付けた足場がさらに開かれ、そこから輸送機が顔を出した。


「逃げる気か!?」

「でも、風神も他のアルトアリスもあるのに、逃げるなんてある!?」


 追いかけようにも、今まさにUIGから飛び立っていってしまう輸送機を追いかけるには、雷神の航空能力では分が悪い。


『おいおい、離脱なんて聞いてねェんだけどよォ』


 リントヴルムのあっけらかんとした声。奴だけならば見捨てられたと仮定しても良いのだが、風神が回収されていない状況で、完全に撤退したとも思えない。

 ダディと通信したいのは山々だが、現状は近距離以外の通信が阻害されている状況だ。

  何が起こっているのか、それを確かめる術もないまま、オレは再びリントヴルムの駆るアルトアリスへとカメラを向け直す。

  何にせよ、作戦はまだ続いている。

  風神を無力化出来ている今、一機でも多くアルトアリスは落としておきたいし、そうでなくともリントヴルムという存在を倒せるチャンスがあれば、それは成しておきたい。


  と、そんな時だった。


  先ほど輸送機が飛び立っていった空洞から、もう一機のアルトアリスが姿を現した。


『あ? ヴィスナーちゃん?』


 リントヴルム機と、そのヴィスナーとかいう奴が搭乗するアルトアリスに挟まれる形となってしまう。

  チッと舌打ちをした瞬間、その機体が腕部を雷神へと向けた事が、交戦開始の合図だった。

  掌に搭載された速射砲が放たれる。

  それを背後に滑るようにして避けるが、しかしその動きを見切っていたかのように、アルトアリスが接近を開始。

  接近しつつ放たれる腰部の電磁砲――レールガン。連射力は低いが高速で放たれる電磁砲は非常に厄介だ。

  壁を走りながら、アルトアリスの背後に回るようにするが、しかしそれも見切っていたかのように、左腕の速射砲を向けられる。

  一射程度ならば、とコックピットを守るように腕を回すと、確かに放たれる速射砲。

  だが問題は続いてその機体が、蹴りを放ってきた事だ。

  脚部に搭載されたパイルバンカーが稼働する。

  拉げた右腕部。続けて左足で蹴られた事により、空洞へと突き飛ばされ落ちて行こうとする。

 機体を電磁誘導装置で堪えようとするも、しかし更に撃ち込まれた速射砲が、肩部の大型電磁誘導装置を撃ち込み、磁場出力が落ち込み、落下を余儀なくされる。


「っ、楠!」

「小型電磁誘導装置を全部回してる! 落下の衝撃は無くせるよ!」


 落ちていく機体を制御している間も、追撃がある可能性を捨てきれず、カメラはそちらを向けていたが――しかし、アルトアリスは、まるで任務を終了したと言わんばかりにその場から立ち去っていく。

  閉じられるゲート。落下していく機体を制御させながら、今地面へと足を付けた機体。

  赤外線カメラと、ライトを点灯。

  元々輸送機がここから飛び出していった事を考えると格納庫だと思うのだが、しかし人っ子一人いない。

  先ほどの輸送機で、全員避難したのか、と思いつつ、楠の解析を待つ。


「ADや人間は、居ないね」

「他に出口は?」

「見当たらないね……航空能力自体が死んでいるわけじゃないから、いざとなったら飛ぶって手もあるけれど、大型電磁誘導装置がやられてるんじゃ高度を上げるのは難しいし、よしんば出来ても」

「今は門が閉じられてて、開けられないって事か」
しおりを挟む

処理中です...