私たちの試作機は最弱です

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第十五章

オースィニ-07

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  頭が痛い。

  オレは、今まで聞いた話を頭の中で繰り返す。

  親父は、量産型風神を用いて、統合国家設立に反する国家へのテロ行為を徹底する事により、反統合国家という存在を無くすという。

  確かに、理論上不可能ではないかもしれない。

  統合国家設立によって問題となり得るアメリカ・ロシア・中京は必ずこの話に乗ってくる。

  問題は反統合国家となり得る国々に対する攻撃行動が成功するか否かだが、仮にカタログスペックを引き出せる量産型風神が十機でもいれば、国家重要戦略地へ襲撃を行い、即座に鎮圧する事も難しくはない。


  ――だが、問題はそのパイロットだ。


「お父さん、パイロットをどうするつもり?」


 楠も、オレと同じ結論に辿り着いたようで、そこで今までの困惑顔ではなく、キッと表情を引き締める。


「AIでは、同等の実力を持ち得る、生身のパイロットに勝利する事は出来ない。二人はそう言ったね。

 ああ、その考えは正しい。けれど、それは見方を変えれば、こう言う事にならないかな?
  
  ――生身の人間と同様の知能や思考を持つ自動操縦システムならばどうだろう」


  楠も、オレも、呆然とするしか無かった。

  何を言っているのか、理解できなかったのだ。


「何を」

「何を言ってるの、お父さん」


 理解が及ぶと考えていなかっただろう親父は、クスリと笑いながら、自分の左腕を右手で掴み――引き千切った。

  何が起こっているかわからず、一瞬だけ目を逸らした楠。

  しかし、オレは目を逸らしていない。

  いや、逸らす事など、出来はしない。

  それは、引き千切られたのではない。


  


「親父……アンタ、まさか……ッ!」

「誤解をされているかもしれないが、僕は機械そのものではないよ。

 まぁ、非人間的だとは思うけれど、ちゃんと僕の脳は並列処理コンピュータ内にデータとして保存されているし、意志も存在する。

  食事は出来ないし、する必要もないけれど、夢は見る」


  親父の体は、機械によって構成されていた。

  先ほど引き千切ったように見えた腕は接続を解除された腕部パーツで、今それをつなぎ合わせると自動接続され、一秒の時間もかけずに再び稼働を開始した。


「機械人間――【ヒューマン・ユニット】

 脳内情報をそのまま量子PC上に保管し、そこからこの肉体に命令を送るんだ。

 命令自体は量子では無くてデータだけれど、その程度であれば500mbps程度の速度で通信が出来れば問題ない。

 脳にあたる場所はオフラインでも活動が出来るようにするデータ保管庫と受信用機材が詰まっているし、言葉は人工声帯における発声によって会話も問題ない。他者の言葉を聞くマイクも集音性が高いよ」

「……は。もう、笑うしかねぇな。動力はどうなってんだ? それ」


 思わず乾いた笑いしかオレが訪ねると、親父も苦笑を溢しながら「バッテリー駆動さ」と答えてくれる。


「勉強しているかな。僕と霜山彰は元々ADなんてロボット兵器じゃなくて、パワードスーツの開発をする予定だったんだよ。

 けれど大きくても二メートル台のパワードスーツに搭載できるバッテリーなんかたかが知れてるという事で、機体を大型化させたのがADだ」

「で? そこから何十年と経った今は、その小型化にも成功したってか?」

「ああ。最大稼働時間はスリープモードを一日八時間と仮定して約15日。

 身体は既に三十機が製造されていて、いざという破損にも対応できるようにもしているよ」


 楠が、今膝を落とした。

  あまりの出来事に、何も言葉を発せないと言わんばかりに、口をパクパクと動かしながら、高まる動悸を抑えるように、胸を押さえた。


「……その、大量の親父を模った人造人間軍団が、量産型風神を操るって事か?」

「違うよ。僕のパイロット能力はそれ程高くは無いからね。搭乗するのは、アルトアリス試作二号機のパイロット・ヴィスナーこと、レベジ・アヴドーチカ・ケレンスキーだ」


 先ほどオレ達と交戦した機体のパイロットは、確かにパイロット能力も高かった。

  そして、この流れでそのパイロットを紹介したという事は。


「彼女も、僕と同じくヒューマン・ユニットさ。ただ彼女の場合は少し特殊でね。先ほどまで『脳そのものを所有する人間の彼女』と『ヒューマン・ユニットである彼女』の二種類がいた」

「先ほどまで……?」

「人間である彼女は死んだ、というより僕が殺したよ。自分の正体を知って発狂されても困るから」


 サラリと言いのけた親父の言葉と共に、今いる部屋の扉が開かれた。

  銀色の頭髪をなびかせた少女が、頭を撃たれて死んでいる、同じ顔の少女を抱えて現れる。

 楠が見ない様に彼女の顔を抱きしめ、オレは親父を睨む。


「そんなモン、楠に見せんな……ッ!」

「……そうだね。織姫はともかく、楠に死体を見せるのは僕も好ましくない」


 銀髪の少女に目配せした親父と、そんな彼の言いたい事が分かったように、フンと鼻を鳴らした少女。


「シロサカ・クスノキは本当に甘っちょろい雌豚ね」

「おい」

「戦場に自分で立つって決めておいて、いざ死体を見たら怖気づくの? 何それ、ホント意味わかんない。

 そんな生半可な覚悟で戦場に出てた奴に、このアタシは今まで負けてたっての?」


 ボトッ、と。

  自分と同じ顔、同じ体をした少女の死体を床に落とし、その顔面を踏みつける。


「あは、でもいいじゃん! これでアタシはもっと強い身体を手に入れたんだッ!

 こんな生身で、邪魔な肉体なんかいらないじゃんっ! むしろ何で生かしてたのよシューイチッ! アンタもさぞ邪魔だったんでしょねぇ!?」

「邪魔じゃなかったよ。自分の正体や、お父様の事を知ろうとしなければ、試作二号機のパイロットを続けて欲しい能力は有していたし、子供を殺す事に抵抗がない訳じゃない」

「ハッ、そうね。アタシらヒューマン・ユニットにも感情はあるもんねぇ。

 データの思考とは言っても脳内情報をそのまま保管してそこから命令を送っているだけだから、思考回路は人間そのものだし!

 でもAIに自動操縦を任せるんじゃなくて、アタシらヒューマン・ユニットが搭乗すれば、肉体強度も考えなくていいし、人間と同じく感覚で行動も可能!」


 死体の顔面に向けて、強くつま先を振り込んだ少女。

  首の骨が折れる様な音と共に、楠が思わず「や」と小さく呟き、耳を塞ぐ。


「ていうかさぁ、もうそんなガキ二人もいらないっしょ? 何で生かしてるワケ?」

「風神の戦闘データだけでは量産するにあたっての情報不足だからだ。雷神にはこれからも戦ってもらわなければならない」

「ならどうしてアタシらを使って風神のテストせずに、ズィマーとリェータなんていうヤク中使ったのよ?」

「多様性ある戦闘データが欲しかったからだよ。まぁ、本音を言えばもう少し持つと思ったんだが、思いのほか人間の体が脆いという事は分かったのは収穫だ。ヒューマン・ユニットの強度参考にも出来る」


 少女――ヴィスナーと言うコードネームであった彼女の死体を抱きかかえた親父が、ヒューマン・ユニットであるヴィスナーの入って来た道へ行き、オレ達へ言う。


「このままここにいなさい。僕達は後五分で撤収するから、その間に突入するだろうアーミー隊が救出に来るだろう」

「……アンタは、人じゃないんだな」

「僕は非人間的だとは思うけれど、人間だよ。言葉を話し、思考もする」

「違う。お前の心は、もう人間じゃない」

「……織姫」


「ああ、遠藤二佐が何を言いたかったのか、ようやくわかった。

 確かに、人を殺すのに慣れちゃいけなかったんだ。

 それは、人を殺す手段に慣れるかどうかじゃなくて、人を殺さないと先に進めない、なんて強迫観念に慣れる事だ。

  お前は、自分の目的を果たす為の手段を、もう選んでなんかない。

  それが非人間的だと知っていても、それが必要だからって思考停止して、人を殺す」


「織姫、聞いてくれ、僕は」


「その女を殺す以外に道はあっただろうに。

 邪魔だったから殺して、その罪の意識をただ『抵抗がない訳じゃない』なんて言葉で着飾るだけ。

 ――断言してやるよ。お前はこれから先、どれだけ死体が積み上がろうと、その先に必ず平和があるから、その為の犠牲だと割り切る。

  そんなのは優しさでもなんでもない、ただの思考停止だ。

 そんなお前が作り上げようとする未来に、価値なんかない。

  ――お前に、楠の父は、名乗らせない」


 もう、親父と呼びたくもない。

  城坂修一と言うヒューマン・ユニットに、オレの言ったどう届いたかは、わからない。

  けれど、目を見開いて、僅かに手を上げて、その手をオレ達に向けて歩み寄って来たので、払いのけてやる。


「僕は……僕は……っ」

「もう、話す事なんかない。楠に触るな」

「織姫、楠……僕は、僕はお前たちや、聖奈が、幸せに暮らせる世界を……ッ」


 何度手を伸ばしてきても、オレもその度に何度も払いのける。

  オレにも触れさせないし、楠に触れようものなら、どんな手を使ったってぶっ殺してやる。


「僕は――ッ!」


 最後に叫び、死体を放って走り、逃げていく城坂修一の姿を――オレは最後まで見届けた。
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