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第十六章

リェータ-07

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 現在、樺太島から横須賀基地近海のAD学園へと艦を向け、北太平洋から南下している最中、四六の強襲艦【ひとひら】に、短い暗号通信が送られてきた。

  送信元は不明だが、位置は福島県の大字井出とされており、解析班が解析を行う前に、艦に搭乗していた清水康彦が暗号を一度見ると、身に覚えがある事に気づく。


「これは、AD学園のOMS科で使われている暗号だ」


 AD総合学園には三つの学科が存在し、OMS科はその内の一つである。

  しかしこの暗号を知り得るOMS科は、非常に高度な専門技術を用いる学科である為、中等部と高等部の所属生徒を合わせても三人、そしてその内二人は康彦と、現在修一に拉致されている明宮梢だけ。

  さらに、ひとひらと通信が出来る通信網を知り得ている人物もまた、康彦と梢だけだ。


「つまり、この暗号を送った人物は、コズエだと言うのか」


 ガントレットが問うと、康彦は解析班と席を変わり、暗号の解析を行う。解析時間は三分半、そほど長い時間では無かったが、しかし解析を終えた康彦は、その時間を勿体なく感じた。


「『敵基地から脱出、福島第二原発目指す、救援求ム』」

「現在艦の位置は!?」

「北度三十八度、東度百四十一度で、福島第二原発には、この航行速度では三時間ほどかかります」

「それでは遅い……っ」


 現在梢がどの様な状況におかれているかは不明だが、仮にADを奪取した場合などは、当該位置から一時間もすれば到着できる。

 しかし、こちらが三時間も必要とすれば、それだけ敵に発見され、再び拿捕される危険性が高くなる。


「ダディ、オレが行く」


 たまたま、コントロールセンターへとやってきていた織姫と楠。しかし、彼の言葉にガントレットは悩む。


「今ライジンは、整備を必要とする状況だ」


 二者の搭乗する雷神は、現在ひとひらのドックにて修理を行っている。損耗は激しく、機体を満足に動かす事も難しいし、空中を滑空するなどは以ての外だ。


「ひとひらにはオレの秋風がある。ハイジェットパックを使えれば、無理な飛行で時間を短縮できる」

「でもお兄ちゃん、それじゃお兄ちゃんが危険だよ!」

「危険か? そうでも無いぞ。――なんたってオレの秋風は哨が整備したまま残ってるんだ。下手な整備をされた雷神よりは使える」


 彼の言葉に、ガントレットも頷き、通信機を取り艦内格納庫へ通信を取る。


「至急、オリヒメのアキカゼにハイジェットパックを装備し、出撃準備」

『しかし、ハイジェットパックを秋風へ搭載する事は、高田重工から許可が下りてません』

「既にアキヒサのアキカゼでやっている。いざとなれば責任は取らず揉み消す。グズグズするな」


 乱雑に通信を切ったガントレットと、織姫の目が合い、互いに笑みを浮かべる。すぐに格納庫へと走っていく織姫を楠が追いかけようとするも、ガントレットが止める。


「クスノキはこのまま私と共にいろ。お前には色々と指揮を教える必要がある」

「でも、お兄ちゃんが出るなら私も」

「アイツを信じろ。――奴は雷神に搭乗するより、ポンプ付き秋風の方が、マシな戦績を叩き出せるぞ」


 信じるように言い切ったガントレットに、楠は少々悩みつつも、しかし彼の言葉に頷く事にした。

  兄の事を妹が信じなくてどうする、と自分の心を言い聞かせ、ガントレットの隣に。

  
  そして、織姫は更衣室からパイロットスーツを乱雑に掴み、着替えながら格納庫へと走る。

  整備班を横切って、長く使用されていなかった秋風のコックピットをよじ登り、機体システムを起動させた。

  既にハイジェットパックは接続されており、装備された武装一覧が表示されるも、システムから排除する。

 どうせあっても使えないのだと割り切った彼が武装を切り離すと、身軽になった機体のチェックを行い、問題がない事を確認した上で、ハイジェットパックの設定を完了、通信を艦橋へと繋げる。


「出られる!」

『結構です。ではカタパルト接続、完了次第出撃を許可します』


 声は、ガントレットではなく楠のものだ。


「お前を置いてけぼりにして悪いけど、行ってくるな」

『現地は例の通信妨害によってこちらから通信が出来ない危険性があります、ご武運を。……いってらっしゃい、お兄ちゃん。』


 機体がせり上がり、甲板のカタパルトデッキへと移行。カタパルトに機体脚部を接続すると、出撃可能である事をシステムが知らせるので、小さく呼吸をした末、短く唱える。


「秋風、ハイジェットパック――城坂織姫、出撃っ」


 ハイジェットパックのブースターユニット点火と共に、脚部カタパルトが稼働を開始する。

 急速に加速を開始した機体は、カタパルトから切り離されると海面へと投げ出されるが――しかし急上昇で機体を持ち上げると、そのまま該当位置まで高速で移動を開始した。
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