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第十八章

戦いの中で-07

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 二人が同時に、降ろしていた銃を、構えた。

  自動拳銃故、勿論持ち上げる速度は修一の方が早かった。

  しかし、放った銃弾は六発。

  銃身の大きなP90で、頭部を守ったガントレットは、三発を銃身で受け、その腹部に命中する三発を身体で受けた。

 それでも、彼は止まらない。

  P90を乱雑に構え、トリガーを引いたガントレットの放つ銃弾は、計二十四発。

  それらはヒューマン・ユニットである修一の身体に当たるが、けれど彼を壊すには至らない。

  だがしかし――その強力な専用弾は、彼の肉体に存在する関節部や装甲同士の繋目等に着弾し、火花を僅かに散らした。


「ぐほっ、がっ」


 血を吐くガントレット。致命傷こそ避けてはいるが、確かに身体を貫通した銃弾によって、彼はいずれ出血多量によって死に絶える事であろう。


  対して、修一に血は流れない。だが彼も着弾した銃弾の影響で、もう満足にヒューマン・ユニットとしての体を動かす事は出来ない。


  既に二人は――満身創痍と言っても良い。


「……はは、僕の、勝ちだ。どうせ、奇をてらって君だけで突入し、僕やヴィスナーを管理する量子PCを破壊するつもりだったのだろうが、それは出来ないよ……なぜなら」

「この……UIG自体が……埋め込まれた、量子PCの……本体だから……だろう……?」


 口に溜まる血を吐きながら言ったガントレットの言葉に、修一が目を見開いた。


「コズエ、が……持って逃げた、データに……UIGの構造が、記載されて、いた……構造が、UIGにしては、明らかに……研究や、開発を行う為の、ものではなかった……ッぅ、……反して、壁は一層毎に、分厚くなって、いて……ADの襲撃程度、では……破壊できない、堅牢な造り……つまり、旧世代、光ファイバー網を、用いて……壁に、埋め込まれた……量子PCと接続する事で……通信する、仕組み」

「何故……それが、それが分かっていながら、何故君は、君はッ!」

「私が……この大事な、局面で……戦力を、出し惜しむ、筈が……無いと、思わんか……?」


 彼の言葉に、修一がようやくそこで、彼の計画を察した。

  今回作戦に参加したADは三機。

  数自体は問題ではない。先日までの戦いで、アーミー隊が所有できるADの総数はかなり減ってしまっている状態であるし、急遽の作戦であれば少数先鋭の部隊で作戦を行う事も、珍しい事じゃない。

  問題は、何故作戦に参加したFH-26【グレムリン】の装備が、ハイジェットパック――つまりポンプ付きと呼ばれる機体ではなく、旧世代型の高機動パックだったのか。


「そう、か……この作戦も、テロ部隊による攻撃行動に見せかけたものと言うわけか。

 確かに、ポンプ付きは一部例外を除き、テロ組織に渡っている総数は少ないが、通常のFH-26であれば、確かに横流しされた機体も、珍しくはない。

 そして僕は……君がいるこの場所を艦隊攻撃が襲う筈無いと高を括り、油断する」

「ようやく……分かったか……お前は、頭がいい癖に……時々、バカになる、からなぁ……っ」

「君は……君自身は、僕を殺すつもりなんか、無かった」

「ふふ……だが……先ほどの、お前には……心底ムカついた……この手で……殺したい、程に……」

「ガントレット――君は本当に、僕の事を理解してくれないのかい?」

「そう、だなぁ。……まぁ、もう私と……ムツミ位しか、理解してくれる、者など……いない、だろうなぁ……ふふ」


 僅かに修一の元へと歩を進めたガントレット。

  しかし、彼の視線も、もう既に定まっていない。

  よろける老体。抱き留める修一。

  彼の流す血によって、彼の体は染まっていくけれど――それでもいい。


「……なぁ、修一……一つ、いいか……?」

「何かな」

「お前を、統括する……量子PCが……破壊されたら……織姫と戦う、お前は……動作を、停止させる、か……?」

「いいや。風神に搭乗する個体は、バッテリーの許す限り、自立行動をし続ける」

「そうか……良かった……」

「何がだい?」

「オリヒメと、楠、は……お前の、事を……殴りたいと、思っているだろうから、なぁ……」


 壁にもたれ、力無く項垂れながらも。

  修一とガントレットは、最後の会話を、続けている。

  ガントレットがポケットから、クシャクシャになったソフトのタバコを取り出すと、修一が二本摘まみ、一本をガントレットの口に、もう一本を自分の口にやって、ライターで火を灯す。

  そして、ガントレットの咥えるタバコと自分のタバコを近づけ――シガーキスで灯される、ガントレットのタバコ。


「さようなら、シュウイチ――最後の時を親友と共にいられて、嬉しかった」

「さようなら、ガントレット――僕もすぐに逝くから、彰や勉と共に、待っていてくれ」


 二人は目を、閉じた。


  **
  
  
  福島第二原発より、約百海里程離れた海上に、古びた一隻のミサイル巡洋艦が航行している。

  艦に名はない。あってはならない。

 元々は米軍の有する巡洋艦だが、既に退役して博物館にでも飾られているべき骨董品である筈なのに、それが同盟国である日本の領海へと領海侵犯し、武装を展開しているにも関わらず、米軍の所有艦として名がある事は許されない。


 これからこの艦は、福島県大字井出に存在する、城坂修一が有するX-UIG……仮称・福島UIGへと攻撃を開始する。

  だが、それはアーミー隊としての攻撃ではない。

  あくまで所属コードは書き換えられ、テロリストによる日本への攻撃行動と言う体にされる。


  今この艦の乗組員として搭乗する者たちも、本来ならば米国――祖国に忠誠を誓った愛国者である。


  けれど、今の彼らには正式な米軍兵として名は無く、テロリストの汚名を着なければならない屈辱もあろう。


  しかし、それでもやらねばならない事がある。


  レビル・ガントレットと言う男が、命を賭してでも成し遂げたい事があると。

  その為に皆へ汚名を着てくれと、頭を下げた男の事を想えばこそ――彼らはその仕事を、成し遂げねばならない。


  対艦対ハープーンミサイルが射出されると、誘導射出されたそれは海面を這うように高速で移動を開始し、大字井出の山中に存在する、福島UIGの開かれたゲート内へ侵入――UIG内部で、着弾し起爆。


  爆発に吹き飛ばされぬように、撃破した量産型アルトアリスの機体を風よけとして利用していたガントレットの部下――グレムリン一号機のパイロット、カウレス・ダーニー少尉は、コックピット内で敬礼を崩す事無く、一筋の涙を、流した。


「オリヒメ――ガントレット大佐は、最後までお前の、ダディだったよ」


 言葉は誰にも、聞かれる事は無い。

  
  **
  
  
  ハープーンが着弾した事により、今二人の体が揺れ、ガントレットは咥えたタバコを、落とした。

  修一の肩に頭を乗せ、静かに眠る彼に、修一は最後に問いかける。


「最後のタバコは……どんな味がしたんだい、ガントレット」


 答えはない。

  ある筈が無い。

  既に死に絶えた彼が言葉を放つことなど、ある筈が無い。

 壁が崩れる音がする。パラパラと降り注ぐ亀裂片と共に、今瓦礫が目の前に落ちた。

  崩れていくUIG内に存在する城坂修一のサブ機は、計二十八機。今この場所にいる彼を含めると、二十九機。

  つまり、残る城坂修一は、今まさにAD総合学園で戦う一機だけとなる。


「僕には味覚も無いから……タバコの味が、もうわからないよ」


 この場所にいる城坂修一、計二十九機の意識は――そこで終わりを遂げた。
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