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3-3.あの日の余韻
目が覚めると、大学に入学するにあたり契約した自分のアパートとは違う、高い天井が見えた。理央の賃貸マンションだ。
コンパの2次会から抜け出したところをそのまま拉致されてきたらしい。
理央の住まいは、明らかに一人暮らしにしては部屋数が余っている。学生の分際で、リビングが寝室と別にあるわ、寝室自体も複数あるわ――マジで金に余裕のある仕様だ。
自由に出入りしていいからと、その部屋の合鍵を、当然のように俺に渡してきた。
とはいえ、
「姉が顔を出したときに使う用のベッドだから」
と、早々に予備のベッドのある部屋が使用はもちろん、入室も禁止と言い渡されている。何もかもが自由というわけにはさすがに行かない。当然のことだ。
なので、理央のところに泊めてもらうときは、もっぱら理央のベッドを間借りしていた。時々、流れで寝る。
なんとか寝心地の良すぎるベッドからはい出てリビングへ行くと、それに気づいた理央が、ンと飲み物の入ったマグカップを渡してきた。
「ありがと。早いな」
マグカップの中身はインスタントコーヒーだ。牛乳を垂らしこみ、これでもかと氷を突っ込んだうえに砂糖替わりのマシュマロを二個放り込んである。
元々は俺の母親がお目覚に作ってくれていたもので、家に遊びに来た理央に俺が作って出していた飲み物だ。家を出てからは、理央が、たまに振る舞ってくれるようになった。
「最近は、姉ちゃんに会えてるんだ? 高校の時、全然会えてないとか言ってたよな?」
「まあ、だいぶ問題も解決してきてるし、会っても大丈夫だろうって。――なに、突然?」
横に座った理央が、首を傾げて流し目をくれる。
姉弟で落ちついて会えない事情ってなんだろうな。あんまり深く考えてみたこともなかったけど、結構なぞに満ちたヤツだよな。
「こっち来てからいろんなヤツに理央について聞かれるけど、案外知らないことが多いから」
「知りたいことがあるなら、聞けば?」
髪をかき上げる仕草が気障だ。
「知らなくても不都合がなかったし。聞いていいことなのかもわかんなかったから」
ニヤニヤ笑いの理央が、
「答えられることなら答えるし、そうじゃなくても別に怒ったりしないよ」
言葉に加えて視線で先を促してくる。
「えー。あー、じゃあ。えっと、お前って、本当に金持ちの子なん? 会社経営してるらしいって言ってるヤツいたけど」
持ってるよ、とあっさりと理央が肯定した。
「正確には、金持ちの子じゃなくて、曾孫?
前に、海外の血縁がいるって言ったの覚えてる? 祖母さんだか、曾祖母さんだか」
その曾祖母の兄弟が多い上、財産持ち揃いだったらしい。
揃いもそろって独身だったり、子供がいなかったりで相続人がいなくて。結論、――相続名簿に載る中では眞田姉弟が一番若手らしく、その辺りの名前も聞いたことないような親族が死ぬたびに、巡り巡った資産が流れこんでくるらしい。眞田の家自体も二代続きで一人娘、一人っ子。
「俺が二人姉弟なのは、うちでは珍しい」
でも、それが顔を知る唯一の生きてる血縁、と言って理央が苦笑した。
「相続したモノの中に、会社もいくつかあった感じ。扱いが面倒そうなのは売却したり、経営権だけ持って実務は役員に任せたり、いろいろ」
「正直言っていい? めっちゃ羨ましいんだけど」
黙っていても遺産が転がり込んでくるなんて、めっちゃ美味い話だ――と口にはしてみるが、話半分に聞いておく。疑う必要もないけど、事実なのか確認しようもない話だしな。
「相続の連絡が来る度に代理人を立てて対応してもらってたんだけど。偶然とは思えないような事故が頻発するんで、身を隠すように転々と暮らしてた時期があってさ。2、3年の間に10回以上引っ越したかな。姉ともその期間は直に連絡することは控えてたぐらい」
理央がこんなにまとまった量を喋るのは珍しい。それも身の上話。
「うちの学校に編入してきたのも、変な時期だったもんな」
思い返せば、出会った頃の理央は、お前らに関わる気はないと言わんばかりの素っ気なさがあった気がする。比較的早い段階でうちの母親に餌付けられて、それまでの態度がなかったみたいに軟化したので忘れてたけど。
「すっかりいろんなことに興味を失ったよね。一応、毎回転編入の手続きは取ったけど落ち着いて学べる環境には程遠いし、親しい友人もできないし。割と人間形成の大事な時期がズタボロになったと思ってる」
おっ可哀想アピールか? と茶化せば、
「でも、朔に会えた」
真顔で言うのかよ、それ。
「えぇ……。ってか、でも理央、めっちゃ成績良かったじゃん」
照れ隠しに慌てて言葉尻をとらえて言い返す。
「リモートで授業を受けてたから。学校変わる度に進み具合違うから、学校の授業でどうこうしようってのは端から諦めてた」
なんか、うん。お前も大変だったんだな。
ってか、ドラマすぎる。うちなんて、凡々家族で、これといって語れることないもんな。
「朔んちの近くに越したあたりでさ、いつまでもこんな状況、引き延ばしても良いことないなって。もう終わりにしたくて、強引に手打ちにする方向で動いてもらった」
ホントはさ、と言葉を切った理央が、
「朔んちの近くに越した後も、どうせまたすぐに引っ越さなきゃならなくなるって最初思ってたから。高校の間の1年半ぐらい一緒にいれて……今も大学に一緒に行けてさ。毎日、ちょっと楽しいなって思ってる、特別なことしてるわけじゃないんだけど」
理央が、イケメン顔をずっとキープして言うもんだから、
「ちょっと、どういう顔をして聞いてればイイのかわかんないんですけどぉ。なんなんだよ、ホントもう、いきなり」
顔が赤くなるのがわかる。
タイミングなんだよな。
俺が理央を好きになってしまって、理央が案外あっさりと流されて受け入れてしまった。
バカだな。お前、その流され具合、ヤバいぞ。
理央に悪いことしたなと思うし、あのタイミングだったからこそ振られなかったかと思えばラッキーだったと思う。
でもな。
いつからでもやり直しは利くと信じているけど、取り返しのつかないこともありそうで。終わるときの傷が深くならないように、俺は用心している。
コンパの2次会から抜け出したところをそのまま拉致されてきたらしい。
理央の住まいは、明らかに一人暮らしにしては部屋数が余っている。学生の分際で、リビングが寝室と別にあるわ、寝室自体も複数あるわ――マジで金に余裕のある仕様だ。
自由に出入りしていいからと、その部屋の合鍵を、当然のように俺に渡してきた。
とはいえ、
「姉が顔を出したときに使う用のベッドだから」
と、早々に予備のベッドのある部屋が使用はもちろん、入室も禁止と言い渡されている。何もかもが自由というわけにはさすがに行かない。当然のことだ。
なので、理央のところに泊めてもらうときは、もっぱら理央のベッドを間借りしていた。時々、流れで寝る。
なんとか寝心地の良すぎるベッドからはい出てリビングへ行くと、それに気づいた理央が、ンと飲み物の入ったマグカップを渡してきた。
「ありがと。早いな」
マグカップの中身はインスタントコーヒーだ。牛乳を垂らしこみ、これでもかと氷を突っ込んだうえに砂糖替わりのマシュマロを二個放り込んである。
元々は俺の母親がお目覚に作ってくれていたもので、家に遊びに来た理央に俺が作って出していた飲み物だ。家を出てからは、理央が、たまに振る舞ってくれるようになった。
「最近は、姉ちゃんに会えてるんだ? 高校の時、全然会えてないとか言ってたよな?」
「まあ、だいぶ問題も解決してきてるし、会っても大丈夫だろうって。――なに、突然?」
横に座った理央が、首を傾げて流し目をくれる。
姉弟で落ちついて会えない事情ってなんだろうな。あんまり深く考えてみたこともなかったけど、結構なぞに満ちたヤツだよな。
「こっち来てからいろんなヤツに理央について聞かれるけど、案外知らないことが多いから」
「知りたいことがあるなら、聞けば?」
髪をかき上げる仕草が気障だ。
「知らなくても不都合がなかったし。聞いていいことなのかもわかんなかったから」
ニヤニヤ笑いの理央が、
「答えられることなら答えるし、そうじゃなくても別に怒ったりしないよ」
言葉に加えて視線で先を促してくる。
「えー。あー、じゃあ。えっと、お前って、本当に金持ちの子なん? 会社経営してるらしいって言ってるヤツいたけど」
持ってるよ、とあっさりと理央が肯定した。
「正確には、金持ちの子じゃなくて、曾孫?
前に、海外の血縁がいるって言ったの覚えてる? 祖母さんだか、曾祖母さんだか」
その曾祖母の兄弟が多い上、財産持ち揃いだったらしい。
揃いもそろって独身だったり、子供がいなかったりで相続人がいなくて。結論、――相続名簿に載る中では眞田姉弟が一番若手らしく、その辺りの名前も聞いたことないような親族が死ぬたびに、巡り巡った資産が流れこんでくるらしい。眞田の家自体も二代続きで一人娘、一人っ子。
「俺が二人姉弟なのは、うちでは珍しい」
でも、それが顔を知る唯一の生きてる血縁、と言って理央が苦笑した。
「相続したモノの中に、会社もいくつかあった感じ。扱いが面倒そうなのは売却したり、経営権だけ持って実務は役員に任せたり、いろいろ」
「正直言っていい? めっちゃ羨ましいんだけど」
黙っていても遺産が転がり込んでくるなんて、めっちゃ美味い話だ――と口にはしてみるが、話半分に聞いておく。疑う必要もないけど、事実なのか確認しようもない話だしな。
「相続の連絡が来る度に代理人を立てて対応してもらってたんだけど。偶然とは思えないような事故が頻発するんで、身を隠すように転々と暮らしてた時期があってさ。2、3年の間に10回以上引っ越したかな。姉ともその期間は直に連絡することは控えてたぐらい」
理央がこんなにまとまった量を喋るのは珍しい。それも身の上話。
「うちの学校に編入してきたのも、変な時期だったもんな」
思い返せば、出会った頃の理央は、お前らに関わる気はないと言わんばかりの素っ気なさがあった気がする。比較的早い段階でうちの母親に餌付けられて、それまでの態度がなかったみたいに軟化したので忘れてたけど。
「すっかりいろんなことに興味を失ったよね。一応、毎回転編入の手続きは取ったけど落ち着いて学べる環境には程遠いし、親しい友人もできないし。割と人間形成の大事な時期がズタボロになったと思ってる」
おっ可哀想アピールか? と茶化せば、
「でも、朔に会えた」
真顔で言うのかよ、それ。
「えぇ……。ってか、でも理央、めっちゃ成績良かったじゃん」
照れ隠しに慌てて言葉尻をとらえて言い返す。
「リモートで授業を受けてたから。学校変わる度に進み具合違うから、学校の授業でどうこうしようってのは端から諦めてた」
なんか、うん。お前も大変だったんだな。
ってか、ドラマすぎる。うちなんて、凡々家族で、これといって語れることないもんな。
「朔んちの近くに越したあたりでさ、いつまでもこんな状況、引き延ばしても良いことないなって。もう終わりにしたくて、強引に手打ちにする方向で動いてもらった」
ホントはさ、と言葉を切った理央が、
「朔んちの近くに越した後も、どうせまたすぐに引っ越さなきゃならなくなるって最初思ってたから。高校の間の1年半ぐらい一緒にいれて……今も大学に一緒に行けてさ。毎日、ちょっと楽しいなって思ってる、特別なことしてるわけじゃないんだけど」
理央が、イケメン顔をずっとキープして言うもんだから、
「ちょっと、どういう顔をして聞いてればイイのかわかんないんですけどぉ。なんなんだよ、ホントもう、いきなり」
顔が赤くなるのがわかる。
タイミングなんだよな。
俺が理央を好きになってしまって、理央が案外あっさりと流されて受け入れてしまった。
バカだな。お前、その流され具合、ヤバいぞ。
理央に悪いことしたなと思うし、あのタイミングだったからこそ振られなかったかと思えばラッキーだったと思う。
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