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Pattern2.加倉井竜二郎──悪役は願う──
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悪役は誰にも手加減しない。悪役は卑怯なことしかしない。悪役は絶対的なヒーローの悪役。悪役は家事が絶望的。
そんな、そんな、正義の偏見。そんな、そんな、妄想。
・・・・・・それは確かに事実だが、それが全て、真実だなんて誰も言ってはいない。
『リューちゃん、これ買ってやー!』
『リュウジー! オモチャありがとな!!』
『・・・・・・お前ら、煩い。騒がしい』
『ごめんなさい、リュウジさん。静かにするように言っとくね』
『・・・・・・いいや、いい。子どもは煩いくらいが丁度いい。お前だって、もっと煩くして良いんだ。というか、煩くしろ。要望を言え』
『ふふっ。なら、スカート、買ってくれる?』
『それくらい、買ってやる』
『ありがとう、リュウジさん』
騒がしかった子ども達の声。おもちゃを一人一つ買ってやっただけで、そこら中を駆け回る奴らだった。
あの子には、彼女には、たった一度、スカートを買ってやっただけだった。煩い奴らの面倒をいつも見てくれていたから、そのお礼で買ってやった。最初で最後の彼女に対しての誕生日プレゼント。白いスカート。十万もしなかった。
でも、あの子はたったそれだけのもので、いつも以上に顔を綻ばせて笑った。
──――守りたかった。そのまま平和な時間が続けば良いなんて、考えていた。
『おい、糞ガキ。立ちやがれ。オレはこんな死にかけに負けるだなんて認めない』
『死にかけ、なんて、言うなっ! 俺は、お前を、絶っ対に、ぶっ倒してやるんだよっ!!!!』
『うるせぇ。やるなら、やってみろ。真っ正面からコテンパンに叩きのめしてやる』
『こっちだって、あんたをコテンパンにぶっ潰してやるよっ、ヴィラン、リュー!!』
『はっ、やってみろっ、ヒーロー、アズマっ!! オレを倒してみろよっ!!』
お互いに真っ正面から何度もぶつかり合った。殴り合った。それはヴィランとして、ヒーローとしての関係だったけど、お互いがお互いに別の奴に倒されるのが嫌だった。だから、いつも戦いあった。
だから、だから、だから──――──
〈ヒーロー「アズマ」、ヴィラン「つぶら」により討伐との連絡あり〉
何度も、何度も、何度も、何度も、その通知を見直した。見間違いだと思った。だから、何度も、何度も、何度も。
でも、彼と会うことは二度となかった。
────約束だったのに。約束だったのに。どうして。
『おい、糞坊主。お前、アズマの後継者だな。確か、名前はイブキ、だったよな』
『あなたは、確か、ヴィラン「リュー」』
『そうだ。・・・・・・敵の敵は味方。今回は休戦と行こうぜ、ヒーロー』
『・・・・・・分かりました。必要なら、ヒーロー達を説き伏せます』
『話が通じる奴で良かったよ』
あいつの後継者。初めてその顔を見たときはあまりにもあいつと違いすぎて、腑抜けかと思った。でも、話してみれば話が通じて、あいつよりもやりやすいとすら思ってしまった。
でも、一つだけ文句があるとすれば──
『僕の相方、リュウジというんですけど』
『あ?』
『あなたに育てられたとか言ってました、彼。だから、育ててくれた人であるあなたの名前から捩ったヒーロー名らしいです』
『それ、なんでオレに言うんだよ、お前』
『何となく』
『ふっざけんなっ!!』
分かっていながら、オレの地雷を踏むこと。絶対に分かっている。絶対に全部分かっていて、オレの地雷を丁寧に一つずつ踏んでいった。
『ヴィラン「リュー」っていうのも、リュウジがそうあなたのことを呼んでいたから、そう呼ばれるようになったんですよね』
『そこまで話してんのかよ、あのガキ』
まさか、オモチャ一つ買ってやっただけで喜んでいた子どもの一人が数年後にヒーローになっているとか、誰が思うか。誰も思わねぇ。
さらにそいつが、オレの地雷を踏み抜くヒーロー「イブキ」の相方なのも納得いかねぇ。どうして、イブキを選びやがった、お前。こいつはオレの地雷を悉く踏み抜く天才なんだぞ。
──――地雷を踏み抜くヒーロー。それでも、ヒーロー「イブキ」はヒーローだった。
だから、だから、だから、だから──――ヴィランとして死ぬなんて、思いもしなかったんだ。
『リューちゃんって、料理得意だよな』
『黙れ』
うるさいガキにはチャーハンを作ってやった。
『リュウジって、きれい好きだなー』
『お前の部屋がきたねぇだけだろ。おら、どけ』
バカにやった部屋の掃除をした。何回、何十回も。
『リュウジさんって、おばあちゃんの豆知識みたいなレベルで家事のコツ知ってるよね』
『褒めてるのか、貶しているのかはっきりさせてほしいんだが』
『貶してる』
『年下に貶されたくねぇなあっ、おい!!』
あの子に家事全般のコツを聞かれた。答えたら褒め言葉なのか、貶しているのか分からない言葉が返ってきた。最終的に貶している言葉だと発覚した。
『あ、それ、俺のヒーローユニホームじゃん!! 返せっ!!』
『・・・・・・お前、これ、臭すぎんだろーがっ!! 洗えや!!』
バトル以外で会ったアズマが持っていたヒーローユニホームの臭いを嗅いだ。死ぬほど血の臭いと、汗の臭いがした。絶対に洗濯していないのが分かった。
『あ、え、リューさん、これ』
『オムライス。ガキ共が好きだった。お前の相方の奴はチャーハン好きだったけど』
ヴィランになったイブキにはオムライスを作ってやった。それ以降もあいつがオムライスを食べたいと言ってくる度、オムライスを作ってやった。それ以外の料理をしてやったこともあった。
最後に食べたのは、焼きそばだった。
──――もう、二度と、やらないと誓った。だって、やればやるだけ、思い出してしまうから。
「なあ、ヒーロー。ヴィランってのはさ、人間なんだよ。後ろを見られない人間。前しか見ない人間」
「あんたは、一度も後ろを見たことなかったのかよ、リュー。いや、竜二郎」
成長した、うるさいガキの言葉に苦笑いを浮かべてしまう。あの頃より落ち着いたな、なんて脳内で関係ないことを考えてしまう。
呼ばれたオレの名前。どうせ、自分で捩っちまったから、呼びづらくて本名で呼ぶしかなくなっているんだろうな、なんて思ってしまった。
「・・・・・・言うなぁ、お前。あるよ。何度も、何回も」
「なら、なんで」
「だからだよ」
「だから?」
「振り返っちまったから、前しか向かないんだよ」
オレの言葉にガキは、リュウジは黙る。
「今のオレは誰にも手加減しない最っ低の悪役で、卑怯なことしかしないし、絶対的なヒーローの敵で共闘なんて絶対にしない。したくない。そして、家事が絶望的」
「最後のは違うだろ」
「ここ数年やってないから、絶望的な腕前になったんだよ、バーカ」
即座に入ってきたツッコミに笑ってしまう。
痛みが走る。我慢できない、体中に走る痛み。ああ、こいつ、手加減って言葉も知らねぇんだなと頭の片隅で考える。でも、納得した。幼少期、世話したのはオレだった。オレが手加減をするって教育をしてなかったわ。
「とにかく、ヒーローさんは、そういうふうにオレのこと、見てればいいんだよ」
──お前はヒーロー「リュウジ」だ。お前はヒーローなんだよ。だから、そうでいてくれ。
他のヒーローならこんなことは言わないし、思わない。こんなことを言うし、思うのは相手がお前だから。
「ヒーローはヒーローらしく、ヴィランはヴィランらしく。そういう関係なんだよ、オレらは」
──―オレのことを救わないでくれ、ヒーロー。
「オレを助けるな、ヒーロー」
たった一つ願った。願ってしまった。そのために、『オレ』は『オレ』を捨てた。
ガキが、バカが、あの子が、アズマが、イブキが、笑える世界を作りたかった。
叶わないと分かっていても、無理だと分かっていても、自分を偽る必要があったとしても、オレはその願いを願ってしまったんだ。
──――無責任だとは分かっている。でも、願ってしまう。
──――ダメだったオレの代わりに、いつか、誰かが、皆が笑える世界を作ってくれますように。
そんな、そんな、正義の偏見。そんな、そんな、妄想。
・・・・・・それは確かに事実だが、それが全て、真実だなんて誰も言ってはいない。
『リューちゃん、これ買ってやー!』
『リュウジー! オモチャありがとな!!』
『・・・・・・お前ら、煩い。騒がしい』
『ごめんなさい、リュウジさん。静かにするように言っとくね』
『・・・・・・いいや、いい。子どもは煩いくらいが丁度いい。お前だって、もっと煩くして良いんだ。というか、煩くしろ。要望を言え』
『ふふっ。なら、スカート、買ってくれる?』
『それくらい、買ってやる』
『ありがとう、リュウジさん』
騒がしかった子ども達の声。おもちゃを一人一つ買ってやっただけで、そこら中を駆け回る奴らだった。
あの子には、彼女には、たった一度、スカートを買ってやっただけだった。煩い奴らの面倒をいつも見てくれていたから、そのお礼で買ってやった。最初で最後の彼女に対しての誕生日プレゼント。白いスカート。十万もしなかった。
でも、あの子はたったそれだけのもので、いつも以上に顔を綻ばせて笑った。
──――守りたかった。そのまま平和な時間が続けば良いなんて、考えていた。
『おい、糞ガキ。立ちやがれ。オレはこんな死にかけに負けるだなんて認めない』
『死にかけ、なんて、言うなっ! 俺は、お前を、絶っ対に、ぶっ倒してやるんだよっ!!!!』
『うるせぇ。やるなら、やってみろ。真っ正面からコテンパンに叩きのめしてやる』
『こっちだって、あんたをコテンパンにぶっ潰してやるよっ、ヴィラン、リュー!!』
『はっ、やってみろっ、ヒーロー、アズマっ!! オレを倒してみろよっ!!』
お互いに真っ正面から何度もぶつかり合った。殴り合った。それはヴィランとして、ヒーローとしての関係だったけど、お互いがお互いに別の奴に倒されるのが嫌だった。だから、いつも戦いあった。
だから、だから、だから──――──
〈ヒーロー「アズマ」、ヴィラン「つぶら」により討伐との連絡あり〉
何度も、何度も、何度も、何度も、その通知を見直した。見間違いだと思った。だから、何度も、何度も、何度も。
でも、彼と会うことは二度となかった。
────約束だったのに。約束だったのに。どうして。
『おい、糞坊主。お前、アズマの後継者だな。確か、名前はイブキ、だったよな』
『あなたは、確か、ヴィラン「リュー」』
『そうだ。・・・・・・敵の敵は味方。今回は休戦と行こうぜ、ヒーロー』
『・・・・・・分かりました。必要なら、ヒーロー達を説き伏せます』
『話が通じる奴で良かったよ』
あいつの後継者。初めてその顔を見たときはあまりにもあいつと違いすぎて、腑抜けかと思った。でも、話してみれば話が通じて、あいつよりもやりやすいとすら思ってしまった。
でも、一つだけ文句があるとすれば──
『僕の相方、リュウジというんですけど』
『あ?』
『あなたに育てられたとか言ってました、彼。だから、育ててくれた人であるあなたの名前から捩ったヒーロー名らしいです』
『それ、なんでオレに言うんだよ、お前』
『何となく』
『ふっざけんなっ!!』
分かっていながら、オレの地雷を踏むこと。絶対に分かっている。絶対に全部分かっていて、オレの地雷を丁寧に一つずつ踏んでいった。
『ヴィラン「リュー」っていうのも、リュウジがそうあなたのことを呼んでいたから、そう呼ばれるようになったんですよね』
『そこまで話してんのかよ、あのガキ』
まさか、オモチャ一つ買ってやっただけで喜んでいた子どもの一人が数年後にヒーローになっているとか、誰が思うか。誰も思わねぇ。
さらにそいつが、オレの地雷を踏み抜くヒーロー「イブキ」の相方なのも納得いかねぇ。どうして、イブキを選びやがった、お前。こいつはオレの地雷を悉く踏み抜く天才なんだぞ。
──――地雷を踏み抜くヒーロー。それでも、ヒーロー「イブキ」はヒーローだった。
だから、だから、だから、だから──――ヴィランとして死ぬなんて、思いもしなかったんだ。
『リューちゃんって、料理得意だよな』
『黙れ』
うるさいガキにはチャーハンを作ってやった。
『リュウジって、きれい好きだなー』
『お前の部屋がきたねぇだけだろ。おら、どけ』
バカにやった部屋の掃除をした。何回、何十回も。
『リュウジさんって、おばあちゃんの豆知識みたいなレベルで家事のコツ知ってるよね』
『褒めてるのか、貶しているのかはっきりさせてほしいんだが』
『貶してる』
『年下に貶されたくねぇなあっ、おい!!』
あの子に家事全般のコツを聞かれた。答えたら褒め言葉なのか、貶しているのか分からない言葉が返ってきた。最終的に貶している言葉だと発覚した。
『あ、それ、俺のヒーローユニホームじゃん!! 返せっ!!』
『・・・・・・お前、これ、臭すぎんだろーがっ!! 洗えや!!』
バトル以外で会ったアズマが持っていたヒーローユニホームの臭いを嗅いだ。死ぬほど血の臭いと、汗の臭いがした。絶対に洗濯していないのが分かった。
『あ、え、リューさん、これ』
『オムライス。ガキ共が好きだった。お前の相方の奴はチャーハン好きだったけど』
ヴィランになったイブキにはオムライスを作ってやった。それ以降もあいつがオムライスを食べたいと言ってくる度、オムライスを作ってやった。それ以外の料理をしてやったこともあった。
最後に食べたのは、焼きそばだった。
──――もう、二度と、やらないと誓った。だって、やればやるだけ、思い出してしまうから。
「なあ、ヒーロー。ヴィランってのはさ、人間なんだよ。後ろを見られない人間。前しか見ない人間」
「あんたは、一度も後ろを見たことなかったのかよ、リュー。いや、竜二郎」
成長した、うるさいガキの言葉に苦笑いを浮かべてしまう。あの頃より落ち着いたな、なんて脳内で関係ないことを考えてしまう。
呼ばれたオレの名前。どうせ、自分で捩っちまったから、呼びづらくて本名で呼ぶしかなくなっているんだろうな、なんて思ってしまった。
「・・・・・・言うなぁ、お前。あるよ。何度も、何回も」
「なら、なんで」
「だからだよ」
「だから?」
「振り返っちまったから、前しか向かないんだよ」
オレの言葉にガキは、リュウジは黙る。
「今のオレは誰にも手加減しない最っ低の悪役で、卑怯なことしかしないし、絶対的なヒーローの敵で共闘なんて絶対にしない。したくない。そして、家事が絶望的」
「最後のは違うだろ」
「ここ数年やってないから、絶望的な腕前になったんだよ、バーカ」
即座に入ってきたツッコミに笑ってしまう。
痛みが走る。我慢できない、体中に走る痛み。ああ、こいつ、手加減って言葉も知らねぇんだなと頭の片隅で考える。でも、納得した。幼少期、世話したのはオレだった。オレが手加減をするって教育をしてなかったわ。
「とにかく、ヒーローさんは、そういうふうにオレのこと、見てればいいんだよ」
──お前はヒーロー「リュウジ」だ。お前はヒーローなんだよ。だから、そうでいてくれ。
他のヒーローならこんなことは言わないし、思わない。こんなことを言うし、思うのは相手がお前だから。
「ヒーローはヒーローらしく、ヴィランはヴィランらしく。そういう関係なんだよ、オレらは」
──―オレのことを救わないでくれ、ヒーロー。
「オレを助けるな、ヒーロー」
たった一つ願った。願ってしまった。そのために、『オレ』は『オレ』を捨てた。
ガキが、バカが、あの子が、アズマが、イブキが、笑える世界を作りたかった。
叶わないと分かっていても、無理だと分かっていても、自分を偽る必要があったとしても、オレはその願いを願ってしまったんだ。
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