男しか存在しない世界に女として転生した私の幸福な毎日。

ココナツ信玄

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転生幼児は友達100人は作れない18

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「最初は、テリオンは兄の友人だったんだ」

 テスのオメガ父スルトと1歳年上のアルファ父テリオンは、兄とテリオンという子ども同士が仲良しだった事と、狭い村の中で知らない仲じゃない事から、家族ぐるみで仲が良かったのだと言う。そうして子供達は二の村に行って、村人としての教育中にテリオンとスルトは恋人同士になった。


「兄にしてみれば友人を俺に奪われたようで面白くなかったのだろうと思う……」

 兄としてスルトを気にかけることはしてくれていたが、弟に親の愛情を取られたような気分は世の『お兄ちゃん』同様に味わっていたのだろう。そこへ来て更に友人まで弟のモノになるとは。彼には到底認められなかったのだ。
 もちろん親の愛情も友人も、取る取らないの問題ではなく、多い少ないは生じるものの共存し並び立つものだ。



(ーー反抗期が来たクラスメイト達は親とか兄弟を鬱陶しがってたけど、私はずっと羨ましかったなぁ)

 両親の写真と留守電の声だけしか私は持っていなかったので、みんなが嫌がる妹弟という存在すらも羨ましかった。

 まったく持っていないのと、有りはするけれど家の中で自分より与えられている存在を見せつけられ続けるのと。どちらが悲しいのか私にはわからなかったけれど。



「何となく兄との間が気不味くなった頃に、テリオンと兄の性が発現したんだ。テリオンはアルファ、兄はベータ、そして半年遅れて俺がオメガとなった」

 うちの村、部族では二の村で性が発現するとアルファは一の村、オメガは三の村、ベータは教育を受けている二の村に生涯住むことになる。なので発現後、三人は別れて暮らすことになった。


 
 ベータの気質は本来温厚だ。
 オメガのフェロモンに当てられはするが、アルファほどそれに左右されることは無く、アルファのフェロモンで思考出来なくなることも無い。アルファのように肉体的頭脳的に特別優れていなくても、部族の四割はベータで占められている。子供達の教育を引き受ける性であることもあり、ベータという性も重要な立場だった。
 しかしそれを認識できる人間だけが世界に存在しているわけではない。




「俺の性が判明してすぐ、兄はオメガ差別主義者になってしまったんだ」

 二の村では結構有ることだったようだ。
 触れるもの皆傷つけるとんがったお年頃でもあり、スルト達の父親はやんわりと嗜める事はしても基本は流していたらしい。性発現後すぐにかかる麻疹のようなものだと、目が覚めたら毎晩真っ赤になってベッドでのたうち回る姿を見せてくれるのだろう、とでも微笑ましく思っていたのだろう。
 しかし兄はオメガ蔑視にかぶれ続けた。むしろ悪化していった。

「家族の団欒の日でも俺を無視するようになって、父親に注意されてもオメガを悪様に言うことしかしなくなった」

 いつまで経っても発現後の幼稚な精神のままの我が子にスルト達の父親二人は途方に暮れた。しかし何も出来ないまま時は過ぎ、スルトとテリオンは結婚した。

「オメガの弟が憎くて堪らなかったんだろうな……兄は、番い場にまで来て最初の夜を邪魔してきた」

 私はテスに抱きつかれたまま、ものすごい勢いでスルトを振り返ってしまった。

(つがいば。通い場じゃなくて、最初の夜を過ごすための番い場なんてものもあるの?!)

 何と言う破廉恥で素敵な場所なのか。
 確かに通い場はファミリー向けの宿泊施設であるとするなら、そこで大人の運動会は出来ない。やはりそれ専用の、言うなればラブホテルのようなものが必要だろう。

(そこに行けば、イケメンたちの濡れ場が見れる……?)

 前世現代日本で覗きは犯罪だったが、今世ではどうなるのだろう。褒められたことではないと思うが、中世ヨーロッパの王侯貴族は家臣たちに見守られながら初夜を行ったと言うし、ワンチャンあるかもしれない。
 興奮して鼻息が荒くなったら、泣くのを我慢していると思われたらしく、タウカによしよしとあやされてしまった。全くの誤解だったが、父親に優しく宥められて良い気分になったので、テスと一緒に細マッチョな胸板に頬をくっつけておく。

「それは、まあ……大変だった、よな」

 トールの相槌が不思議に歯切れが悪い。
 見上げてみれば、タウカも私が持って帰ってきた土筆つくし(村での呼び名:春の棒(正式名称不明))を初めて食べた時みたいな顔をしていた。あの時、灰汁を抜くのを忘れていたのは申し訳ないことをした、と今も反省している。

「大変なんてもんじゃ無い! 初めての夜だったのに!」

 スルトは手の中のカップに覆いかぶさるようにして俯いた。

「ああ、まあ、それは……」

「スルトの気持ちはわかるが、その、なぁ……?」

「うーん、その、でも、アイツの気持ちも分かるって言うか……」

「オメガのトールがなんで兄の気持ちがわかるって言うんだ!!」

「だからそれは……なあ?」

「うん、その、なあ?」

 スルトは憤慨しているが、タウカとトールはなんとも言い難い変な顔をしている。
 私はピンッと来た。

(これは! 色恋沙汰だ!)

 伊達に私もBL漫画を読み漁っていない。性欲だけの爛れたBLも好きだったが、私は主に恋愛感情から発生するBL関係が大好物だったのだ。
 前世で鍛えられた私の勘が叫んでいる。

(絶対! スルト兄はテリオンが好きなんだ!)

 そうだとすれば、タウカとトールのモゴモゴした様子も納得がいく。人様の恋愛感情を他人が代弁するのはお門違いだから何も言えないのだ。
 そんな二人の様子から、スルト兄の切ない恋は結構な人数にバレているように思う。

 オメガ蔑視を放っておくことは部族としてあり得ない。
 村の存続のためにはオメガは絶対に必要だ。いや、三つの性全て無ければ村の繁栄は成し得ない。それなのに、友人と弟の初夜をぶち壊すオメガ差別主義者を今までほうっておくことは有り得ない。それなのに、スルト兄は今現在まで元気に弟を中心としたオメガ差別をしている。

(褒められた行動じゃないのに誰もスルト兄を止めてないってことは、周囲の人間は口を挟むのを躊躇ってるってことじゃないの?)

 村の責任を負う村長達が躊躇ってしまうことで、関係はない他人であるタウカとトールがきまり悪げに「ベータの気持ちが分かる」と言ってしまうなら。

(それは絶対! スルト兄はテリオンが好きで、横から掻っ攫った弟に腹を立てていて、尚且つまだ全然諦めてないってことだ!)

 昼ドラ並みのドロドロなBL現場に心臓が高鳴ってきたが、私にしがみついていたテスが身動ぎしたことで血の気が引いた。

(ってことは、……いつも元気なテスが、父親に横恋慕してる伯父に号泣するようなことをされたって事か!)

 私は小さな友人の背中に回した両手に力を込めた。

 



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