虚飾城物語

ココナツ信玄

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序章

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「ローディ、私はお前を憎む。お前の今までを、未来を、愛するもの全てを憎み続ける」

 玉座に座る男は、両腕を騎士に掴まれ膝を床に付けている目の前の青年に言い放つ。

「お前はこれから最も愛するものを、愛する者達を、失うだろう」

 その声は割れ、しわがれている。
 だがそれは彼が年老いているからではない。頬を濡らす熱い滴の源となるものに、喉を締め付けられているのだ。

「お前を愛するものもまた、災厄にみまわれるだろう。けれどもその災いの原因はロディウス、お前だ」

 罪人然と跪いていた青年が不意に顔を上げる。しかし彼は言葉を発さず、ただ獣のように唸った。さるぐつわをかまされていたのだ。
 決して会話は出来ぬと分かっているのに、玉座に座る男は青年へと喋り続けた。

「私はお前を呪う。その呪いはお前を蝕み、愛するものを蝕み、お前を苦しめるだろう。しかし呪いはお前を、お前の全てを食らいつくすまで止まることは無い。何故ならそれこそが私の望みだからだ!」

 罵り続ける男の目から涙が止むことは無く、それを見て首を横に振る青年の青い瞳からも、滂沱と涙が流れている。
 その様は、まるで鏡を間にしているようだ。
 そう。
 対峙する二人の男は面差しが似ていた。
 玉座の男が金の髪を持っているのに対し、膝を付いている男が銀の髪なのを除けば、二人は、元は一つであったものを無理矢理二つに分けたかのように、とても似ていたのだ。
 豪奢で静謐な玉座の間に、震える声が響く。

「さらばだ、ローディ」

 男は手に持っていた黒い小石を足下に落とす。
 それは音を立てる事なく、毛足の長い絨毯に身を横たえた。

「さらばだ、トルトファリアの銀の宝玉」

 男は泣きながら、黒い石を踏み砕いた。
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