マイニング・ソルジャー

立花 Yuu

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section 1

No.006

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「戦う」とレインツリーが平然と口にしたので、「おい!」と思わずヴェインは声を荒げた。
 ちょっと待て! まだ、心の準備ができていない!
 先のエイリアンとの遭遇が、まだ尾を引いていた。再びあんなのと対峙しなくちゃいけないのか!
 予想以上の迫力、というか、動きもかなり俊敏だったし、速さについていけなかった。

「でも、まだ武器も装備も買ってないし、レーザー銃一丁だけだぞ」

 造船町フィールドの景色が、夕闇に移り変わり始めた。西に傾いた陽は燃えるような緋色に対して、東の空は黒緑色した異様な闇を広げていた。

「この町の武器でも一番安い銃は、0.01~0.05ユード、今の日本円のレートで1万~5万くらいかな。それでも、レーザー銃のほうが、まだマシだよ。だったら、金を貯めて『未来都市』で性能が良い銃を買ったほうが、利口だ」

 聞いていて、末恐ろしくなった。

「1万~5万も出しても、タダで貰ったレーザー銃のほうがマシって、じゃあ、レインツリーが持ってるライフルって、いくらすんの?」

 訊くのも恐ろしかったが、滑るように口から質問が出てきた。

「既にカスタマイズしてあるんだけど、同じモデルの初期タイプなら、Cクラスのエイリアンを倒せば買えるよ。ちなみに俺がさっき倒したのはD5で、0.55ユードだったから、円に換算すると、ざっと55万くらいか。Dクラスにしてはまあまあだな」
「マジでッ! あの一瞬で、もう55万も稼いでるのかよ!」
「ユードのレートにもよるからな」

 颯爽とバイクに跨るレインツリーの横で、ヴェインは口を半開きにしていた。
 Dクラスで100万手前なら、Cクラスは確実に100万以上。なら、もっと上のクラスになると……と考えただけで、鼓動が高鳴った。
 こんなに好条件な世界が、身近にあったなんて。ここでなら、稼げる。

 稼げるが、その前に武器がとんでもなく高いので、康が言った通り、3カ月でギブアップするマイナーが多い事実にも納得がいく。
 武器がなくては、エイリアンをマイニングするには難しいどころか、不可能に近い。

 さっきのDクラスでさえ、防御力といい速さといいルーキーが遭遇したら、とてもじゃないが勝てる相手じゃないことぐらい、直感だが予想はついた。

「簡単なように見えるけど、大事なのは、倒せるようになるまでの過程だから。ヴェインの場合、インターフェイスでのガン・シューティングには慣れているようだから、その分、他のルーキーとは、既にかなりの差があるはずだ」

 バイクを修理に出してくれた康に、心から感謝した。実は、バイク屋開業を薦めてくれたのも、康だった。何かと背中を押してくれる友人だ。近いうちに飯でも行くか。
 奢るかどうかは、これからの稼ぎに懸っている。

「ソロで稼げるのは、Eクラスか、Dクラスまでだ。それ以上は、色々な意味で厳しい。D5のあいつは、ヴェインがいたから倒せたようなもんだ。ほら、指輪を出せよ」

「ん? こうか?」と指輪を嵌めた手を出した。

 レインツリーも指輪を嵌めた手を出して、ディスプレイで何か操作した。
 すると、ヴェインのディスプレイに【レインツリーから0.275ユードが送金されました】と表示された。

「エッ、ちょっと待てよ。何でくれんの?」

 日本円にすると、27万ぐらい。レインツリーは報酬をきっちり半分に山分けした。
 そりゃあ、喉から手が出るほど欲しいが、もらえる理由がわからない。

「パーティなら、自動配分される。でも、まだパーティじゃないから、手動だ。だろ」
「だろって、俺あの時、何も分からず撃っただけだし」

 レインツリーは何のことやらと言わんばかりに、バイクのスロットルを回し、気持ちが良いぐらいエンジン音を響かせた。
 電気駆動のエンジン音ではなく、ガソリン臭そうな昔ながらのエンジン音だった。

「参戦したことには変わりない。素直に受け取っとけよ。それとも、要らない?」
「要ります! 絶対、要ります!」

 とっさ咄嗟に指輪を引っ込めると、レインツリーはくぐもった声で吹き笑いした。

「やっぱり、面白いよ、お前。ほら、後ろに乗って」

 無性に恥ずかしくなったヴェインは、てのひら掌の上で踊らされているような感覚を、初めて味わっていた。それでもレインツリーの笑顔を見ると、胸が空くように落ち着いた。

 こいつのつかみどころのない自信はどこからくるのだろうか、やっぱり食えない奴。
 ヴェインを乗せたバイクは町外れに向かって風を切った。
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