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第38話
しおりを挟む「帰りたくないね‥‥」
神社の階段に座ってポツリと柊生が呟いた。
「なんでそんなに帰りたくないの?」
「正直生きてても意味がないとか言ったのは構って欲しくて言っただけ。ももちゃんが来てくれるか試したんだ」
「そうだったんだ」
「ドン引きだよね、男のくせして情け無いし」
「そうは思わないよ。だって助けを求めてたんでしょ?」
「‥‥‥」
「今の柊生見たら分かるよ」
柊生は少し間を置いてゆっくり話してくれた。
「ももちゃんと別れてすごく辛かった。だからももちゃんの事考えないように必死で、家にいると‥‥一人でいると考えてしまうからずっと外に出てた」
「‥‥ごめん」
「謝られるともっと傷つくからね」
柊生が私の方を見て微笑んだ。
「‥‥うん」
「それでも会いたくて時々店に覗きに行ってた」
「そうだったの?全然気付かなかったよ」
「でもその度に仲良さそうにしてる二人を見て嫉妬で頭がおかしくなりそうになってた‥‥」
柊生がどんな気持ちだったのか考えもしなかった。私は呆気なく柊生を捨てて、冬馬さんと呑気に過ごしてたなんて‥‥。
私はそっと柊生を抱きしめた。
「柊生の側にいるよ」
「‥‥俺の側に?」
「うん。約束する」
「じゃあ店長は?」
「ちゃんと話してくるよ。すごく怒ってると思うけど、素直に謝るつもり」
「信じてもいいんだよね?」
「当たり前じゃん、柊生の辛い顔もう見たくないから」
「ももちゃん‥‥」
私たちは勇気を出して帰る事にした。
駅に着き、タクシーに乗る。
タクシーの運転手さんは不思議そうな顔で私たちを見ていた。
周りから見れば柊生が結婚式に乗り込んで花嫁を奪ってきた風に見えるのだろうか。
まずは柊生の家に向かった。
「落ち着いたら連絡するから」
「うん、待ってる」
私はタクシーに乗ったまま柊生だけ降りた。まずどこに行けばいいのか悩んだ。今更式場に行っても誰もいないだろう。そう思った私はとりあえずアパートに帰る事にした。
玄関の前に着くと部屋の明かりがついている。冬馬さんいるんだ‥‥。心臓がもう飛び出しそうなくらいどきどきしていた。
ガチャッ。
鍵は開いていた。
恐る恐る入るとリビングに続く廊下の向こうに扉が一枚あるが物音一つしない。
廊下がすごく長く感じた。
そして扉を開けるとそこにはリビングテーブルで缶ビールを飲んでいた冬馬さんの後姿があった。
「おかえり」
冬馬さんは振り向くことなく言った。
「ただいま」
私の声は震えていた。
「座んなよ」
「うん」
冬馬さんの向かいに回り座る。
どうしよう‥‥冬馬さんを直視出来ない。今どんな表情をしてるかも分からない、きっとすごく怒ってるはずだ。そう思っていると冬馬さんが口を開いた。
「どうしようか。俺怒りで頭が今回らないんだよね」
「ごめんなさい‥‥」
「こっち見て」
顔をゆっくり上げるとそこには怒ってると言いながらもいつもと同じ優しい顔の冬馬さんがいた。
「冬馬さん‥‥私‥‥」
「分かってる。ももが優しすぎるのも優柔不断なのも」
「冬馬さんに話さないといけない事があるの」
「もも疲れてるでしょ、とりあえずシャワー浴びておいでよ」
「その前に話を‥‥」
「そんな汚れた格好でいて欲しくない」
「‥‥わかった」
冬馬さんに汚れた格好と言われた私は脱衣所に行った。
冬馬さんの表情からは何を考えてるのか分からない。もしかしたら話を聞く気がないのかも。
色々話さないといけないしあの後どうなったのかも聞かないといけない。もちろん今後の事も。
「入ってきたよ」
私は落ち着く為にゆっくり入った。
「髪濡れてんじゃん、ちゃんと乾かしなよ」
「あっうん」
こんなぎこちない会話初めてだ。
「まぁいっか、こっちきて」
「えっうん」
私は、ソファに移動していた冬馬さんの横に座った。机にはビールの缶が数本置いてある。
「髪濡れてる方が色っぽいね」
そう言いながら私の髪を手で避けると首筋にキスをしてきた。
「今はそんな気分じゃ‥‥」
「もも‥‥」
「冬馬さん酔ってるの?」
冬馬さんは私の話を聞き入れようとせずソファに押し倒した。
そして徐に私の服を脱がすと隈なく舌を這わせた。気持ちとは裏腹に体は正直だった。
しかし私が感じている最中も冬馬さんは一言も喋らなかった。
身体的にも精神的にも疲れていた私は事が済むとソファで眠ってしまった。
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