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愚かな王子
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あの処刑が行われた春からたった1月。
帝国が私の祖国の戦士を撃滅し、敗戦を認めさせるのに掛かった期間はそれだけでした。
「当然だ。聖女に頼りきった捨て身の戦いしか取り柄のない弱小国家の軍など敵では無い。」
隣を歩く冷徹な目をした大男が堂々と言い放ちます。
彼は、帝国軍の総指揮を担う人物です。
頭が固く信念の強い人のようで、戦士に捨て身の戦いをさせる原因となる聖女を嫌っているみたい。
私も最初はよく睨まれていたわ。
怖いのよね、あの目。視線で人を殺せそう。
でも接していくうちに聖女ではなく、私自身を見るようになってからは態度が変わっていきました。
今では良い信頼関係を築けています。
思えば、私に対する態度の変化ぶりを誤解した彼の奥様が色目を使わないよう脅迫してきた事件が、良好な今の関係を完成する良いスパイスになったのかも。
あの時はちょっと怖かったけれどね。
今ではその奥様とも仲良くなっています。
「どうした、リュミエラ。」
「別に。今から元婚約者と久しぶりに会うと考えると憂鬱な気分になってしまうから、貴方の愉快な奥様のことを思って和んでいただけよ。」
「…アイツに殺意を向けられておいて、愉快な人間と言えるお前の豪胆さには脱帽する。」
いえいえ、本当に愉快な方ですよ。
今から会う元婚約者の王子に比べたら何百倍も。
今私たちが向かっている先には、敗戦国の捕虜としてアダム王子とフレンダが待たされています。
計画の最終段階を進めるうえで避けては通れないとは言え、あの男と生身で会って話すのは心底面倒だわ。
やがて目的地に到着しました。
目の前の扉を開けば、引き返せません。
私は覚悟を決めると、扉を開けてもらいます。
「ようやく来たか、聖女よ。」
私を出迎える声の主は帝国の皇帝陛下。
因縁の王子はというと、フレンダと共に陛下の対面の座席に座っていますね。顔色が悪いのは陛下のプレッシャーにやられているのでしょう。
そんな王子でしたが陛下の口から出た聖女という言葉に反応し、私の方を向きます。
しばらくぼーっと見つめてきましたが、どうやら私が誰か気付く気配は無さそうです。
まあ、彼の知る聖女リュミエラは美しい私と異なる、地味な魔法人形の容姿ですから仕方ありません。
ですが、私の声を聴けばどうでしょうね。
「お久しぶりですわね、アダム王子。」
瞬間、表情が凍りつきます。
「その声は、リュミエラ?いや、あの女は確かに処刑した。生きているはずが…」
狼狽。恐怖。焦燥。
それらの感情で王子の青かった顔が更にぐちゃぐちゃになっていきます。
「ええ、そうですね。貴方の国にいた聖女リュミエラは無実の罪を被せられ、処刑されました。」
今にも吐き出しそうなほど酷い顔をした王子に対し、努めて冷静に説明します。
教会の拘束や王子の勝手な女性像の押し付けから解放されるために魔法人形を作り、ずっと聖女と王子の婚約者の代わりを務めさせていたこと。
5年前には人形を置いて帝国に移り住み、今では帝国の聖女となっているけれど王子の不貞行為などは全て人形などを通して把握していること。
話を聴き終わった頃には王子の顔から生気が失われていました。
「…君は私を恨んでいるのか?」
恨み。王子は私の感情をそう判断したようです。
それも無いわけではありませんけどね。
「私は『私』を侵略するものを許さないだけです。」
私は世界の誰よりも自分を愛しています。
そんな私に聖女の姿を強制した教会も許しませんし、私に従順で地味な婚約者であることを求めてきた王子も許しません。それが王子たちへの感情です。
その後、私の祖国は全面降伏を宣言しました。
何でも王子が必死に説得したのだとか。
帝国も降伏を受け入れ、王子を引き渡した後は属国化および帝国の監査を受けることを求めました。
これにより腐敗しきった教会や貴族は淘汰され、国民の生活水準も大幅に改善される予定です。
さて、残る問題はあと1つね。
「久しぶりね、ローデリカ。いえ、真の聖女様と呼んだ方が貴方にとって嬉しいかしら?」
帝国が私の祖国の戦士を撃滅し、敗戦を認めさせるのに掛かった期間はそれだけでした。
「当然だ。聖女に頼りきった捨て身の戦いしか取り柄のない弱小国家の軍など敵では無い。」
隣を歩く冷徹な目をした大男が堂々と言い放ちます。
彼は、帝国軍の総指揮を担う人物です。
頭が固く信念の強い人のようで、戦士に捨て身の戦いをさせる原因となる聖女を嫌っているみたい。
私も最初はよく睨まれていたわ。
怖いのよね、あの目。視線で人を殺せそう。
でも接していくうちに聖女ではなく、私自身を見るようになってからは態度が変わっていきました。
今では良い信頼関係を築けています。
思えば、私に対する態度の変化ぶりを誤解した彼の奥様が色目を使わないよう脅迫してきた事件が、良好な今の関係を完成する良いスパイスになったのかも。
あの時はちょっと怖かったけれどね。
今ではその奥様とも仲良くなっています。
「どうした、リュミエラ。」
「別に。今から元婚約者と久しぶりに会うと考えると憂鬱な気分になってしまうから、貴方の愉快な奥様のことを思って和んでいただけよ。」
「…アイツに殺意を向けられておいて、愉快な人間と言えるお前の豪胆さには脱帽する。」
いえいえ、本当に愉快な方ですよ。
今から会う元婚約者の王子に比べたら何百倍も。
今私たちが向かっている先には、敗戦国の捕虜としてアダム王子とフレンダが待たされています。
計画の最終段階を進めるうえで避けては通れないとは言え、あの男と生身で会って話すのは心底面倒だわ。
やがて目的地に到着しました。
目の前の扉を開けば、引き返せません。
私は覚悟を決めると、扉を開けてもらいます。
「ようやく来たか、聖女よ。」
私を出迎える声の主は帝国の皇帝陛下。
因縁の王子はというと、フレンダと共に陛下の対面の座席に座っていますね。顔色が悪いのは陛下のプレッシャーにやられているのでしょう。
そんな王子でしたが陛下の口から出た聖女という言葉に反応し、私の方を向きます。
しばらくぼーっと見つめてきましたが、どうやら私が誰か気付く気配は無さそうです。
まあ、彼の知る聖女リュミエラは美しい私と異なる、地味な魔法人形の容姿ですから仕方ありません。
ですが、私の声を聴けばどうでしょうね。
「お久しぶりですわね、アダム王子。」
瞬間、表情が凍りつきます。
「その声は、リュミエラ?いや、あの女は確かに処刑した。生きているはずが…」
狼狽。恐怖。焦燥。
それらの感情で王子の青かった顔が更にぐちゃぐちゃになっていきます。
「ええ、そうですね。貴方の国にいた聖女リュミエラは無実の罪を被せられ、処刑されました。」
今にも吐き出しそうなほど酷い顔をした王子に対し、努めて冷静に説明します。
教会の拘束や王子の勝手な女性像の押し付けから解放されるために魔法人形を作り、ずっと聖女と王子の婚約者の代わりを務めさせていたこと。
5年前には人形を置いて帝国に移り住み、今では帝国の聖女となっているけれど王子の不貞行為などは全て人形などを通して把握していること。
話を聴き終わった頃には王子の顔から生気が失われていました。
「…君は私を恨んでいるのか?」
恨み。王子は私の感情をそう判断したようです。
それも無いわけではありませんけどね。
「私は『私』を侵略するものを許さないだけです。」
私は世界の誰よりも自分を愛しています。
そんな私に聖女の姿を強制した教会も許しませんし、私に従順で地味な婚約者であることを求めてきた王子も許しません。それが王子たちへの感情です。
その後、私の祖国は全面降伏を宣言しました。
何でも王子が必死に説得したのだとか。
帝国も降伏を受け入れ、王子を引き渡した後は属国化および帝国の監査を受けることを求めました。
これにより腐敗しきった教会や貴族は淘汰され、国民の生活水準も大幅に改善される予定です。
さて、残る問題はあと1つね。
「久しぶりね、ローデリカ。いえ、真の聖女様と呼んだ方が貴方にとって嬉しいかしら?」
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