不死鳥は歪んだ世界を救わない

凛音@りんね

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偽りの愛

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 兄のサミュエルを愛したために堕天し、悪魔となったジョシュアは突如、天井から差し込んできた陽光に目を細める。

「これは……?」

 寝所では不死鳥フェニックスのヨクサルが一方的な情事を終え、痛めつけられた体の傷を自らの燃える翼で治癒していた。

 と、部屋の外から亡者の歓喜にも似た嘆き声が聞こえてきた。
 ジョシュアは立ち上がると、鉄製の扉から様子をそっと窺う。

「――なんという事だ」
「あの、ご主人様……?」

 ヨクサルは衣服に袖を通しながら、不安そうにジョシュアを見上げる。

 下腹部に感じる鈍痛と快楽の余韻。
 悪魔へ仕える前、父親であるダニールに教えてもらったよりも乱暴な営みだったが、何度も何度も愛情を注がれたヨクサルの女性性は悦びに打ち震えている。

「どうやら冥府の門が開かれたようだ」
「冥府の門が……なぜですか?」

 肉体こそ子孫を残せるように成長しているのものの、ヨクサルは他の不死鳥からすればまだ赤子のようなものだった。

 小鳥のように首を傾げる仕草に、ジョシュアはまたしても湧き上がる加虐心に支配されそうになるが、ぐっと堪える。

(ここから早く逃げ出さなければ――)

 まだ幼いヨクサルは足手まといになるだろう。
 けれど彼を一人、地獄へ残していくことは考えられなかった。

「ヨクサル、ここはたちまち亡者によって正真正銘の地獄へと成り果てる。そうなれば我々悪魔とてひとたまりもない」
「そんな……!」

 主人であるジョシュアに対する忠誠心を愛だと錯覚し始めていたヨクサルは、恐れ慄くように華奢な体を縮こませる。

「大丈夫、亡者に捕まらなければ魂を吸い取られることはない。だから共に行こう、地上へ」
「はい、ご主人様」

 地上には偽りの自由を謳歌している不死鳥たちがいるだろう。
 彼らは悪魔に対して忠実だ。
 亡者から主人を守るために、喜んでその身を捧げるに違いない。

 だがヨクサルだけは手元に置いておきたかった。

(ああ、私の可愛いヨクサル――)

 ジョシュアは耐えきれず、彼の林檎のように赤く熟れた唇に自身の唇を重ねる。
 互いの舌を絡ませ合うと、甘い吐息が漏れ出た。
 唇を離す際、名残惜しそうに混ざり合った唾液が糸を引く。

「さあ、行こう」
「……はい」

 ジョシュアはヨクサルを抱きしめると、地上へと向かって漆黒の翼を広げ、亡者がひしめく地獄から飛び去った。
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