太陽の向こう側

しのはらかぐや

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2章 西ドワーフの村

52.出発

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一行は村の中でも比較的豪華で綺麗な翠蓮と釘の家に招かれて座らされていた。
長身のタスクとアルアスルはドアよりも背丈があるため少し窮屈そうにしている。
お茶請けに並べられた石のようなものをタスクと莉音以外は手を出せずにただお茶だけを啜っていた。

「匡のお仲間だなんて…素敵だわ。いつもありがとうね」

「い、いえ…こちらこそ…」

訛りのない綺麗な言葉で話す翠蓮はさすが外交役といったところだ。
棚にはドワーフ村ではあまり見かけないような装飾品などが飾られている。

「鉱石を売りに行っててな…全然知らへんかったわ。キメラのようなものね…」

釘は石を齧りながら物思いに耽った。

「街でそういった話は聞いたか?」

「…あ、そういえば…」

話を振られた翠蓮はお茶のおかわりを淹れる手を止めて緩慢に一行の方を振り返る。
ヒューマンの幼子ほどの背でされる優雅な振る舞いは不調和な色気があった。

「鉱石をお求めになった猫人の…タマ様が、サマクの治安が最近さらに悪いようなことをぼやいていらっしゃったような」

「タマ?名前からしてサマクの宝石商やろな…」

アルアスルが名前に反応して尻尾を左右に振る。
隣に座っていたたてのりは邪魔そうにそれを捕まえて自分の太ももの下に敷いて押さえつけた。
そのさらに隣に座っていた等加が太ももからはみ出た尻尾の毛を触る。

「サマクの治安が悪いのは元からやけどな…もしかしたらキメラの影響もあるんかもしれん」

「もしかしたら討伐クエストとかも出てるかもしれへんな!どうせエルフ島に行くのに通るんやし、早よ行って受注して狩り尽くして金稼ごや」

ドワーフ村では結構な期間を過ごしてしまった。
特に目的や駆られる時間がないために旅はゆっくりとなってしまう。
数日過ごしても新たなキメラは発生せず、村は平和に戻っていた。

「タスクはもうええんか?」

「ああ、農具も武器も、図面から作り方までバッチリや!次襲われてもなんとかなるで」

タスクは収納空間から図面を取り出して全員に見せる。
見たところで一行は誰もわかりはしないが、釘は綻んだように笑った。

「これは匡が?…立派になったな」

「もちろん!父さんの子やからな」

眩しいまでの優しく理想な家族を一行は目を細めて見つめる。
気まずそうなたてのりが立ち上がったところで、全員は出立の意思が固まった。
タスクは皆の顔を見て、両親を見下ろすと笑顔で手を取る。

「ほな、俺らもう行くわ。次来るときは世界中の土産話持ってくるからな」

「気をつけて行くのよ」

「皆さんと仲良くな。これ持っていきなさい」

優しい声と少量の金貨や食料に送られて一行はタスクの実家を後にする。

「そういえば、食料とかを貰いに来たんやったな…この村に…」

釘に物品を渡されたことで当初の目的を思い出したアルアスルは焦ったように呟いた。
門の方に勇ましく向かっていた足取りは急に重たくなる。

「…教会に戻るかい?」

「あー…どう…どうするか…」

等加の提案にたてのりとアルアスルは莉音の方を見る。
復興したての村に食料や金品を要求するのは気が引けるというのが正直なところだ。
タスクが釘から受け取った食料の中身を確認して全員は悩ましげに眉間に皺を寄せる。

「ほんまにギリギリやな…」

「いやギリギリ無理やろな…」

悩みながら広場まで出たところには村人と聖職者たちが集まっていた。

「あれ?皆…」

莉音が声をかけると村人は次々に麻の袋に入ったものを差し出した。

「もしかしてもう出るんか!?世話になったなぁ」

「これ持ってってえや!」

「神父様から他種族が食べられるもんちゃんと聞いて詰めたあるさかい大丈夫やで!」

たてのりが押し付けられた麻袋の中身を確認すると、野菜や非常食になりそうな干物がそれぞれ少しずつ入っていた。
貧しい村人が持ち寄ってくれたものだ。

「皆さん…」

「これもおもちなさい」

大衆の後ろからトレーを両手で持った神父が歩み出てくる。
トレーの上には5つの装飾品が乗っていた。
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