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2章 西ドワーフの村
53.魔石
しおりを挟むそれを見たタスクの目の色が変わる。
「それは…!」
「タスクさんが、これらは高値で売れる極上の魔石だから大切にしろと仰っていたものです。村を救ってくだって、翠蓮さんと釘さんのご子息の仲間でもある皆さんに持って行ってもらいたいという村の総意で職人に急ぎ加工してもらいました」
装飾品には一目でわかるほど魔力を発している強力な魔石が嵌め込まれている。
アルアスルはざっと勘定して思いつくその総額に頭が痛くなる思いがした。
「こんなええもん…!」
「皆さんの旅路に神の祝福を」
村人は嬉しそうに、職人らしき人々は誇らしそうに一行を見つめている。
神父は下がり眉をさらに下げてにっこりと微笑むとトレーを莉音に押し付けた。
莉音が膝をついて恭しく受け取ると、村人は口々に喜びで騒いだ。
村人たちは別れの挨拶をして次々に家へと帰っていき、広場には一行と神父だけが残された。
「ほんまにええ人らばっかりやったな」
アルアスルは呟いて莉音を見る。
莉音は何度か瞬きをするとアルアスルを見上げて誇らしげに微笑んだ。
「ほなこれひとりひとつ貰おうか」
タスクはトレーの上から明らかに大きな厳ついアームレットを持ち上げる。
金の細工に派手な装飾が施され、中央には力強いはっきりとした赤の魔石が嵌っていた。
「これは俺のやろな。皆には大きすぎるやろ」
「それじゃあこれはあたしのかもね」
等加は自分の額についているくすんだ飾りを外すと、トレーの上に乗っていた雫型のサークレットを付け直した。
光を吸って黄色みを帯びた透き通るような緑の雫は真っ白な等加の肌の上で小さく揺れる。
「あては…」
「莉音はこれじゃない?」
迷う莉音の手を取って等加はトレーの上でも一際大きな琥珀色の石を触らせる。
莉音の聖女の杖に嵌っている石とほとんど同じような大きさやデザインのものだが、よく見ると飴玉のようなその石の中には花が閉じ込められていて随分と幻想的なものだった。
等加は莉音の代わりに杖の石を嵌め直す。
その隙にアルアスルが残ったふたつのうちのひとつをぶん取った。
「俺これにする!綺麗やし!」
アルアスルが手にしたのは鮮やかで深い緑色の石が編み込まれたアンクレットのようなものだ。
同じものに手を伸ばそうとしていたたてのりは一瞬眉間に皺を寄せるも黙って残ったペンダントを手にした。
黒がまだらに混ざった金色の石が嵌め込まれたそれをたてのりは剣の柄に巻きつけた。
それぞれの石が妖しくぼんやりと朧げな光を放って、心なしか胸が軽いような感覚に陥る。
「なんかすごい…力ぁぁ湧いてくるなぁぁ」
一瞬にして駆け出したアルアスルの言葉はドップラー効果で歪んで聞こえる。
普段から走り出したら目では追えないが、今は駆け出したことにも気が付かなかった。
「これは…すごいものを貰ってしまったな」
剣を振るたてのりがしみじみと呟く。
世界へと旅立つ少人数のパーティが最初に受け取るに相応しいものだった。
「食料も貰ったし、これでサマクまで行けるね。覚悟して行こう」
等加の言葉に全員が神妙な面持ちで頷く。
時間はかかったものの結果的には良い結果になった。
気分よく門の方へと向かう一行の中で、少し暖かくなってきた日差しを見ながらアルアスルはなんとなく面倒な気配を察していた。
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