太陽の向こう側

しのはらかぐや

文字の大きさ
上 下
62 / 87
3章 サマク商国

61.活気ある街並み

しおりを挟む

「新規商人…髪結いのミツアミとそのモデル、所持物問題なし、はい通ってよろしい」

「おおきに~」

門の下に立っていたアルアスルと同じような皮膚のある猫人に簡単なチェックをされて呆気なく中へと通される。
アルアスルは顔を見られることを恐れていたが、巻いていたスカーフを取られても特に気付かれることもなかった。

「わぁ…っ!」

いち早く中に入った莉音が歓声をあげる。
舗装された道には所狭しと露店が並び、活気ある呼びかけが飛び交っている。
潮の香りに乗って何か美味しいものを焼く匂いが充満し、莉音の視界にもわかるほど輝きを放つ色とりどりの装飾が吊り下げて売っていた。
アルアスルのような猫人、フトンのような二足歩行の猫から中途半端なものまであらゆる猫が客を手招き、それをさらに様々な種族が物色している。
ドワーフ村のように土と緑に覆われた場所ではない、熱く渇いた土煙と砂を固めた粘土やレンガで覆われた灼熱の街だ。
奥の広場からは楽しげな音楽とそれに合わせた手拍子が聞こえてくる。

「す、す、すごいお店の量や…!」

器用ゆえの自給自足と物々交換が主流で店というものがほとんど存在しないドワーフ村で過ごした莉音にとっては信じられない光景だ。

「すごい買い物のしがいがあるね。ここの気候に合わせたドレスと地酒が欲しいな」

「ドレス……!」

等加と莉音は露店に繰り出したくて仕方がないとうずうずしながらアルアスルを見上げる。
アルアスルはセバスチャンの抱えたたてのりの様子と目を輝かせる女性陣を交互に見て、ため息をついた。

「ほな、セバスチャンはたてのんのこと先にホテルまで連れてってくれる?俺らは先に露店に行くから…後で合流しよう」

「わかった」

「これ今日のホテルの先払い代とお前の小遣いな」

アルアスルが小袋を渡すと、セバスチャンはそれをしっかりと握りしめて露店とは違う方向へと歩き始めた。
セバスチャンを見送ってふと視線を戻すと足元で莉音がキラキラした目をして両手を出していた。

「なぁ、なぁ、ア…ミツアミちゃん、あても!あてもピカピカでお買い物してみたい!等加とお買い物行く!」

「あたしらにも小遣いおくれよ、経理担当」

アルアスルはうんざりとした顔で逡巡する。
西大陸で一番大きな街の一番大きな酒場の一番人気の踊り子と、世間知らずで金の価値など知らないドワーフである。
有り金を渡した日には何もかも一瞬でなくなる可能性も大いに有り得る。

「まぁまぁ、ア…ミツアミ。俺がちゃんと見とくから、経験もさせたってえや。ついでに俺にもお小遣いくれ」

「みんなしてもぉ~!しょうがないなあ!ちょっとずつやぞ!エルフ島ついたらちゃんとクエストも受けるんやからな!」

アルアスルは観念して全員にお金を渡す。
手元に残ったのはほんの僅かでアルアスルはさらに長く長くため息をついた。

「俺は食材の買い出しに行くから、あんまり羽目外したらあかんぞ。危ない場所もあるからあんまり露店の大通りからは離れるなよ」

「はぁい。いこ!等加!あてが着られるお洋服もあるかなぁ」

「なかったら仕立てさせればいいよ」

最初から恐ろしい会話が聞こえたが気のせいだと思うことにしてアルアスルはひとり食料を売っている露店の方へと歩き始めた。
しおりを挟む

処理中です...