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3章 サマク商国
84.海賊との別れ
しおりを挟む宴の夜から数日も経たないうちに潮の流れは穏やかになり、見たことのない植物で生い茂る島や生き物が現れた。
そして、ちょうど昼食の時間を過ぎた頃に目の前に周りとは比べ物にならないほど大きく緑の森で埋め尽くされた大陸が見えた。
「おぉい、ファオクク島だー!」
見張りの声に一行は全員甲板に上がりその方向を見る。
まだ人の気配はないが、豊かな植物と生き物の息遣いが聞こえてくるようだ。
遊びかけのカードゲームや賭けで手に入れたガラクタなどをそれぞれ手に一行は甲板に出て目的地を見る。
「うぉお…これがエルフが住む島、ファオクク…」
「俺も初めてきたけど…たてのんの出身国やな。あ、等加ちゃんもファオクク島出身か」
「え、等加の故郷なん?」
はしゃいでいたタスクとアルアスル、莉音の視線が等加に集まる。
「エルフってあんまり下界に出て子をなすことはないから、純粋なエルフはみんなファオククやと思うで」
「あ…いや…そ、そうだね。実は幼い頃にもう国を出てたから…でも、多分ここなんじゃないかな」
等加は何かを誤魔化すように笑いながら微妙に肯定した。
船内の掃除をしていたセバスチャンが鯱と彪を連れて甲板に出てくる。
「あ、しゃっつぁん」
「正規の船場の裏にある森に船を寄せるから、そこからすぐに降りろ。あまり長居はできない」
「ほんま色々ありがとなぁ~!しゃっつぁんも彪の兄貴も…」
エルフは好戦的で縄張り意識が強く、その上森で暮らす特性上目が良くて遠距離の攻撃も得意な種族だ。
こんなに派手で大きな海賊船が島の護衛にでも発見されようものなら総攻撃を喰らうだろう。
満足げな笑みを浮かべる鯱の後ろで怖い顔をしている彪にも慣れたものだ。
アルアスルは動物的なスキンシップでふたりに身を摺り寄せて感謝を示した。
「もう行っちまうのかよぉ」
「また絶対会おうな」
海賊たちは気のいい一行との別れを惜しんで寂しさを口々に訴えた。
船に乗せてもらって宴をして以降、鯱だけでなく船員全員と打ち解けて仲良くなった一行はしきりに海賊になることを勧誘された。
盗賊猫の正体が高い賞金がかかっているアルアスルだと気が付いてから、どうせ追われる身ならば一緒のことだと口説かれ満更でもなくなっている。
元々莉音以外は目的のない旅をしているのだからこのまま海に出ても問題はなく、海上での生活や海賊たちを気に入ってしまったことで少々心が揺れていた。
ただ、船長の決定で勧誘は打ち止めになった。
「これほど愉快で惜しいことだが、仲間にはできない。金の虫は養えないのでな」
それはおそらく鯱の長い海賊人生で最も価値ある輝かしい英断だった。
結局、こんな機械族がうちにも欲しいなという要望をタスクが形にした全自動小型掃除機を贈ることで今後の関係を誓う形となった。
勧誘ができなくなった海賊たちはまた会う約束だけを取り付けて荷物をまとめて収納空間に放り投げる一行を見守っている。
「もう着く。彪、送れ」
「わかった」
海賊船が木の生い茂る島へとどんどん近付く。
彪に船から順番に降ろしてもらいファオクク島に到達した一行はその巨大な船を見上げて大きく手を振った。
「またな!」
「ありがとー!」
「お前らも元気でな!」
海賊船が見えなくなるまで一行は手を振っていた。
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