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4章 ファオクク島
85.作戦
しおりを挟む降り立ったファオククの島の森は深く、木が密集しているにも関わらず優しい木漏れ日が差し込んで明るく神聖な雰囲気を醸し出していた。
ドワーフの村に行くまでに抜けた山々や砂漠までの森と比べても自然そのものの恐ろしさが剥き出しになっていることもなく、鳥が歌い蝶が舞い温かく優美で高貴ささえ感じる爽やかな森を進む。
「なんや暑くもないし寒くもないし、気持ちええ森やなぁ」
「季節の初夏だな。もう数日もすれば汗ばむようになる」
ファオククは寒い時期がなく、肌寒い春と暖かな夏を繰り返す穏やかな気候の島国だ。
肺いっぱいに新緑の気配を吸い込むタスクに、たてのりは収納空間を開くよう促した。
「なんや?あ、エレジーか?こいつもここの馬やもんな」
「あぁ…いや」
たてのりはエレジーと勝手について出たガウの他に海賊からもらったガラクタをいくつか取り出した。
黒く塗られていることで光を遮る眼鏡に、大きめの帽子を被る。心地よい気温には相応しくない装いである。
「なんやたてのん!それ!あっはっは似合わへん」
アルアスルに馬鹿にされても、不審者を見るような目で等加と莉音に見られてもたてのりは無言でその怪しい眼鏡と帽子をかけたままさっさと進んでいく。
「…何?怪しいね」
「いや、ほら…あれちゃう?たてのりはコンプレックスあるからな」
「あぁ…」
前を行くたてのりの後ろで他のメンバーが声を顰めて変装の理由を邪推する。
身分を気にするプライドの高いたてのりは、純粋なエルフの前でハーフエルフの耳を晒すのが耐えられないのではないかという意見でおおよそ一致した。
「…ただ、それならばタスク、莉音…お前たちや俺の方がまずいのではないか?」
「え?」
セバスチャンの意見に、莉音をガウに掴まらせていたタスクは目を丸くする。
「確かに、エルフは王族制で身分が絶対的やし…種族の差別は一際よな。ドワーフや機械族なんか普通に歩いてたらけちょんけちょんかもしれへん」
アルアスルの考え込むような仕草に、莉音は旅の最初にツェントルムの街でいきなりエルフに蹴飛ばされたことを思い出して眉を顰めた。
そうこうしている間に森は綺麗に舗装された道へと変わり、豪華なツリーハウスのような木と融合した建物が立ち並び始めた。
どこかで談笑する声や人の気配が少しずつ肌に触れてくる。
「…どちらにせよ王様の前には出してもらえないだろうね。今まで酒の席で、給仕の者以外でエルフ以外の種族なんか見たこともないよ」
小声で話す等加に一行は神妙な面持ちで頷く。
「そもそも、街歩いてて殺されるかもしれへん。タスクは一目ではわからへんと思うけど、莉音ちゃんとセバスチャンは…」
どこからどう見てもドワーフと機械であり、誤魔化しようがない。
ガウにしっかりと掴まったまま莉音は不安げにアルアスルを見上げた。
「…わかった、俺にいい考えがあるわ」
「何?」
「おい!たてのり!ちょっと来い、作戦会議や」
振り返ることもなく勝手知ったる様子で前を歩いていたたてのりは嫌そうにしながら引き返してくる。
全員が円状に集まってアルアスルの声に耳をそばだてた。
「とにかく、手だけは出されへんようにせなあかん…そこでや…」
アルアスルは悪戯な笑顔を等加に向けた。
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