62 / 63
4章 ファオクク島
第61話 国の終わり
しおりを挟むそれはもう、大変な騒ぎであった。
王政の廃止と現在の院の解散を求められた常盤院は新王に詰め寄って考えを改めるよう懇願し、群青院は愚かな血筋だと嘲り笑い、何百年と続いた制度が崩れることに民は戸惑った。
何度も何度も時間を問わない会議が開かれ魔女裁判のように詰問されたたてのりは、最初こそ民主制の意義をこんこんと話していたが、あまりに頭の硬い者どもにとうとう剣を出して暴れ周囲を威嚇した。
結局、人に言うことを聞かせるのに手っ取り早いのは暴力だ。
そう仏頂面で話すたてのりに前エルフ王は人生で一番笑ったと言っていた。
何百年も続いた王政を変えるのは一朝一夕ではいかない。
それでもたてのりが描いた夢はそれなりに形になり、次の月にある「日和の儀」の際には院の構成を決めるための民意選抜式を行うことに決まった。
「お前には迷惑をかけるが…指導者という立ち位置で見守っていてくれ。俺はこういうのは向かないからな」
「ふう…わがままな男だ」
今後の院の見守り役には前エルフ王が、ただの「ジャンシア」としてつくことになった。
この数十年のエルフ島を平和にまとめたその手腕と、血族を重んじない図太い性格を買ってのことである。
政治的な権力は持たない、上等な絹の衣装も豪奢な冠もない正真正銘のお飾りだ。権力を象徴するように長くずっていた薄金色の髪を適当に短く切り揃え、一般的なエルフが身にまとう平素な服に着替え、ただの質素な椅子に腰掛けたジャンシアはどこかすっきりした顔をしていた。
「…それでこそスリジエの名にふさわしいな」
「やめてくれ…スリジエは滅んだ。俺は、傭兵のたてのりだ」
「意味もわからない、大層な名だ」
山積みの書類にため息をつきながらジャンシアは呆れたように笑う。
その瞬間、ノックもなしに奥の扉が勢いよく開かれた。
「た、た、たてのーん!!!」
「たてのり!」
飛び込んできた、久しぶりに見る馴染みの連中にたてのりは眉を顰める。
勢いのまま長身と巨体に抱きつかれたたてのりは、そのまま書類の山に突っ込んだ。
「うわー!」
ジャンシアの叫びもものともせず、飛びついたアルアスルとタスクは目をキラキラさせてたてのりだけを見つめた。
「監禁状態で詰められ続けてたのが、暴れて終わったって聞いて来たんや!!ほんまどうなるかと思ったで!」
「よかったー!」
男どもが暑苦しい抱擁をしている後ろから、等加に手を引かれた莉音とその後ろに従って歩くセバスチャンが入ってくる。
「いい選択だったんじゃないかい?どこで知ったんだ、民主制なんて。どの国でも取り入れていないんじゃないか?」
涼しい顔で尋ねる等加に、たてのりは男どもを引っぺがしながら仏頂面を極めた。
「…別に、俺も詳しいわけでは…。母さまが、そういう国がよかったとずっと言っていたからな」
「へぇ」
何か言いたげな等加を無視して、たてのりは絡みつく男どもを引き摺りながら怒肩でずんずんと進んで部屋を出ていく。
この後は、きっと適当な酒場か部屋で酒盛りをして過ごすつもりだろう。
アルアスルの安堵した表情を思い出しながら等加はにっこり笑って莉音を抱き抱え、ジャンシアに一礼すると自室へと戻った。
数千年続いたエルフ族の王政は、今日この日をもって、終わりを迎えた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる