金なし道中竜殺し

しのはらかぐや

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4章 ファオクク島

第61話 国の終わり

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それはもう、大変な騒ぎであった。
王政の廃止と現在の院の解散を求められた常盤院は新王に詰め寄って考えを改めるよう懇願し、群青院は愚かな血筋だと嘲り笑い、何百年と続いた制度が崩れることに民は戸惑った。
何度も何度も時間を問わない会議が開かれ魔女裁判のように詰問されたたてのりは、最初こそ民主制の意義をこんこんと話していたが、あまりに頭の硬い者どもにとうとう剣を出して暴れ周囲を威嚇した。
結局、人に言うことを聞かせるのに手っ取り早いのは暴力だ。
そう仏頂面で話すたてのりに前エルフ王は人生で一番笑ったと言っていた。
何百年も続いた王政を変えるのは一朝一夕ではいかない。
それでもたてのりが描いた夢はそれなりに形になり、次の月にある「日和の儀」の際には院の構成を決めるための民意選抜式を行うことに決まった。

「お前には迷惑をかけるが…指導者という立ち位置で見守っていてくれ。俺はこういうのは向かないからな」

「ふう…わがままな男だ」

今後の院の見守り役には前エルフ王が、ただの「ジャンシア」としてつくことになった。
この数十年のエルフ島を平和にまとめたその手腕と、血族を重んじない図太い性格を買ってのことである。
政治的な権力は持たない、上等な絹の衣装も豪奢な冠もない正真正銘のお飾りだ。権力を象徴するように長くずっていた薄金色の髪を適当に短く切り揃え、一般的なエルフが身にまとう平素な服に着替え、ただの質素な椅子に腰掛けたジャンシアはどこかすっきりした顔をしていた。

「…それでこそスリジエの名にふさわしいな」

「やめてくれ…スリジエは滅んだ。俺は、傭兵のたてのりだ」

「意味もわからない、大層な名だ」

山積みの書類にため息をつきながらジャンシアは呆れたように笑う。
その瞬間、ノックもなしに奥の扉が勢いよく開かれた。

「た、た、たてのーん!!!」

「たてのり!」

飛び込んできた、久しぶりに見る馴染みの連中にたてのりは眉を顰める。
勢いのまま長身と巨体に抱きつかれたたてのりは、そのまま書類の山に突っ込んだ。

「うわー!」

ジャンシアの叫びもものともせず、飛びついたアルアスルとタスクは目をキラキラさせてたてのりだけを見つめた。

「監禁状態で詰められ続けてたのが、暴れて終わったって聞いて来たんや!!ほんまどうなるかと思ったで!」

「よかったー!」

男どもが暑苦しい抱擁をしている後ろから、等加に手を引かれた莉音とその後ろに従って歩くセバスチャンが入ってくる。

「いい選択だったんじゃないかい?どこで知ったんだ、民主制なんて。どの国でも取り入れていないんじゃないか?」

涼しい顔で尋ねる等加に、たてのりは男どもを引っぺがしながら仏頂面を極めた。

「…別に、俺も詳しいわけでは…。母さまが、そういう国がよかったとずっと言っていたからな」

「へぇ」

何か言いたげな等加を無視して、たてのりは絡みつく男どもを引き摺りながら怒肩でずんずんと進んで部屋を出ていく。
この後は、きっと適当な酒場か部屋で酒盛りをして過ごすつもりだろう。
アルアスルの安堵した表情を思い出しながら等加はにっこり笑って莉音を抱き抱え、ジャンシアに一礼すると自室へと戻った。
数千年続いたエルフ族の王政は、今日この日をもって、終わりを迎えた。

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