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王都

第二十話 邂逅

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 大通りを進んでいくと立派な噴水が見えてきた。

 そして、広場と聞いていたところに入ったあたりで─



「まさきー!こっちこっちー!」



 レストの元気の良い声が聞こえてきた。

 オレは彼女たちが集まっているところに向かう─。



「おかえりぃ」

「ああ、ただいま」



 元気よく呼んでくれていたレストが、我先にと抱き着いてくる。



「疲れてる?」



 レストは勘が鋭いのか、オレの不調をすぐに見抜いて不安そうな表情を浮かべる。



「大丈夫、ちょっぴり疲れがたまってたみたい」

「すぐにお休みしよ?」

「ああ、イレーナは─」



「イレーナおねーちゃんは、あっちで買い取りしてる」



 そう言ったレストが、指さす方向へ視線を向けた時に丁度イレーナが商会らしき豪華な建物から出てくるところだった。



「あ、信希。おかえりなさい」

「ああ、ただいま」



 彼女たちの優しい笑顔が、これまでの疲れを吹き飛ばしてくれるようだった。

 だが、イレーナの表情がすぐに曇ってしまった。



「信希、そちらの女性は?」

「オレもよくわかってない。何か話を聞きたいらしいけど、疲れてしまったから街で聞こうとお─」



 オレの言葉の途中で、急に慌てた様子のイレーナがぱたぱたと走り寄ってくる。



「大丈夫なんですか!?怪我をしたとか?」



 明らかに動揺しているイレーナを落ち着かせようとする。



「大丈夫だよ。休んだらよくなると思う」

「そうですか…?」



 途端に不安そうな表情になったイレーナ視線が、オレの全身をくまなくチェックしている。



「では、すぐに宿に行きましょう。良い店を聞いてきましたから、三分も掛からない距離です。歩けますか?」

「ああ、そのくらい大丈夫だよ」

「すぐに行きましょう」



 随分と慌ててしまったイレーナは、新しい客人などお構いなしといった具合にオレの身を気遣ってくれた。



 ──。



「イレーナ、王都では獣人への迫害はないの?」

「ええ、大丈夫ですよ。そんなこと気にしなくいいですから、早く宿をとりましょう」



 イレーナがオススメされたと言っていた宿は、綺麗な見た目をした少し豪華そうな建物だった。

 オレの心配をよそに、イレーナは手早く宿の手続きをしてくれる。



「信希、一泊は一人当たり15ゴールドですが、平気そうですよね?」

「ああ、もちろんだ。七人分で─」

「ああ、お金はワタシが。先ほどの買取の分からで構いませんよね」

「そうだった、助かるよ」



 イレーナはとても頼りになる。すぐに全部の手続きを済ませてくれた。



「店主、食事を済ませてすぐに休みたいのですが、構いませんか?」

「もちろんです。食事は宿代に含まれていますので、食堂の方へ行かれてください」



「信希、食事をとって休みましょう」

「ありがとうイレーナ」



 ──。



 オレたち一行は、手続きを済ませてすぐに食堂へ向かい料理を注文する。

 メニューの数こそ少ないものの作り置きの類が多かったのか、五分と待たずに食事の用意をしてくれた。



「いただきます」



 王都に来てからの初めての食事だが、かなりおいしいものだった。肉をメイン料理にパンが主食のようでスープやサラダといった感じの付け合わせで、文句なしの食事だった。

 そして、料理を食べ終わるときに─



「それで、オレに話って─」

「信希、休まなくて平気ですか?」

「大丈夫だよ、ありがとうね」



 イレーナは随分心配してくれているが、ついてきた美女を放置するわけにもいかなかった。

 それに食事を済ませる頃には、話すのは問題ないくらいに回復していた。



「オレに何か用があるのかな?」

「私の名は『ロンドゥナ』」

「オレは信希だ、よろしく」



「ああ、先ほどのフォレストバジリスクの討伐は見事だった。話というのは他でもない、あの獣人を治療したのはお主の力か?」



 ん?あの襲撃現場を見てたって言ったっけ。



「ああ、無事に治ったみたいで良かった。おかげでこっちは体調不良だけどね」

「ふむ…」



「信希!?その治療とやらで力を使ったんですか?」

「あ、ああ。でも特に何ともないよ?」

「みんなが心配しますから、加減してください…」

「わ、分かったよ…」



 そして、ロンドゥナの名乗った彼女の口から初めて聞く単語が飛び出す─



「─もしかして、お主は神の使いか何かかの?」



 その時、これまで穏やかに談笑しつつ食事していた皆の空気がピりついて、明らかに変わったことを感じ取る。

 神の使い?何の話だ…。



「どういうことか分からないけど、そんな言葉は初めて聞いたな?」

「ふむ、なるほど。それでは、狐人と鬼人が同行しているのは何故だ?」



「イレーナとミィズの事か?イレーナはオレの監視と冒険仲間で、ミィズは怪我をしているところを治療させてもらっただけだ」

「監視?」



「ああ、他の獣人の子たちが迫害されている町から来たんだ。その時、オレが彼女たちに危害を加えないかどうかの、だよね?イレーナ」



 オレの言葉を聞いていなかったのか、ロンドゥナの方を見ているイレーナをもう一度呼ぶ。



「イレーナ?」

「は、はい!そうですね…」



「ミィズが同行する理由は詳しく聞いてなかったね?」

「何、簡単なこと。これだけ強力な力を持っているのだ、一人や二人程度で良いから、孕ませてもらおうと思ってな?」



「──ふぁっ!?何言ってんの!」

「かかかっ、本気じゃよ。気付いてないのは信希だけじゃ」



「え、ええ…?」



 オレのこれまでの直感でイレーナが怒っていると思い彼女の方を見やるが、意外にも怒っているようには見えなかった。



「ま、まぁ。ということらしいけど…。話はそれだけ?」

「ああ、感謝する。そして、謝罪をさせてくれ」



「謝罪…?」

「そうだ。あのフォレストバジリスクは我ら竜人の眷属。末端であるとはいえ、暴走して街を襲うようだったら始末しようと見ておったのだ」



「見てたなら、獣人たちを助けてあげても良かったんじゃないか?」

「我々も好きでやっているわけではない。それに、人間たちの街や国とは難しい関係で問題でもあるのよ。おいそれと我々の力を見せるわけにもいかない」



「だからって─」

「お主の意見ももっともじゃ。だから、街を壊すようなら始末するつもりだったと」

「そう…か」



 なんだかうまく丸め込まれたような感じもするが、他種族や関係のない国に迷惑をかけるわけにもいかないので、これ以上は踏み込まないようにする。



「他に聞きたいことは?」

「いや、もう十分だ。この国に居る間だけでも良いから、お主の近くに居っても良いかの?金は自分で出す」



「え…?」

「?」



 これまた突然だが、オレはこの展開の時が良くない物だと知っている。女性陣へ確認しようとするが─



「信希、構わないと思います。それよりも、信希の体が心配なので早く休みませんか?お部屋に行きましょう?」

「あ、ああ」



 イレーナの言葉を聞き呆気に取られてしまうが、すぐに本題へ意識を戻す。



「だ、そうだから。宿とかは自由にして?」

「感謝しよう」



「じゃあ、みんな先に休ませてもらうね?ほどほどにして休んでね」

「「はーい」」



 後のことは皆に任せて、オレは急かしてくるイレーナに連れられてすぐに部屋へ行き、この日は気を失うように眠りについた。



 ──。
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