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転機
第百十七話 ドラゴン
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ソレとは山岳地帯に入る前に遭遇した。
自分の想像していたドラゴンよりも遥かに大きな巨体に驚き、一緒に居るみんなを守るためにすぐさま行動を起こすことが出来たのは幸いと言ってもいいだろう。
「イレーナ、とりあえず馬車が動かないように馬たちを任せられる…?」
自分でも無理難題を言っているような気がする。既に馬たちは興奮状態になっているようで、いつ暴れだしてもおかしくない様子だ。
「いざとなったら、繋ぎを切ります…」
明らかに恐怖している彼女の表情に、自分がどんどんと冷静になっていくのが分かる。
そして馬車の小窓を開け──
「ロンドゥナ、ドラゴンだ。こいつのこと知ってたりする…?」
慌てて駆け寄ってくるロンドゥナが窓から顔を出しドラゴンを確認する。
「分からない…。だが、これだけは分かる。我らよりも上位な存在だ…」
「なるほど…」
魔法具をあらかじめ準備しておいたのは正解だったな。
もしもこの状況を予想出来ていなかったら、みんなのことを守れなかっただろう。
「じゃあ、あとは任せてくれ」
「ま、信希っ!」
イレーナの心配そうな表情が、これまでの出来事に比べても大変な事態なのだろうと予測できる。
「大丈夫だよ。みんなことはオレが守るから」
「…気をつけてください!」
この間にも襲ってこないのは少しだけ違和感を感じたが、オレはドラゴンへと対峙していく。
『そなたは何者だ』
ドラゴンと目があったと感じた時にその言葉は聞こえた。
「もしかして、あんたが喋ってる…?」
『いかにも。それで、あなたは何者なのだ』
喋っているのかは分からない。
耳から聞こえていない…でも声が聞こえている気がする。
「何者と言われてもな…。人間です?」
『ふむ…。あの馬車からは、信じられないくらいの魔力を感じる。それにあなたからもだ。この世界にこれだけ強力な力を持つものは居ないと思うが』
あまりにも流暢に話しかけてくるから、ドラゴンが喋りかけてきていることに自分が動揺していたのかと気付く。
「あー。そういえば、御使いとか言う役目を持ってるよ」
『なんと。御使い様か、通りでな』
どうやら、このドラゴンも御使いのことを知っているみたいだ。
「とりあえず、オレの連れたちが怯えてるんだけど、襲ったりはしてこないか?」
『もちろんだとも。我が暴れようものなら、始末されるのは我だろう』
とりあえず敵対の意思はないみたいで助かった。
「少しだけ聞きたいことがあるんだけど」
『うむ、なんでも答えよう』
「ここを通ってる人を襲ったりしているのか?」
『…?何故だ?別にそんなことをしているつもりも、するつもりもないが』
そう言われると、ルーファーから報告を受けた時にも、誰かが襲われているということを聞いたわけじゃないな。
「この辺りを通っている人が、怯えて通れないみたいで困ってるみたいなんだけど…」
『なるほど、それはすまなかったな。我も少し用事があったのだ』
こんなドラゴンの用事ってのはいったい何だろう…。めっちゃ気になるんだけど…。
「その用事とやら、聞いてもいい?」
『うむ、我らには時たま天啓のようなことが起きるのだ。それに従っただけのこと』
「天啓…もしかして、それがここに来いってな感じ?」
『その通り。その意味も分かった、あなたに会うためだったらしい』
なるほど…つまり、御使いであるオレとこのドラゴンを引き合わせるのが目的だったということか…? そうなれば、このドラゴンを動かしていたのは神たちといったことになるんだろうか。
「オレの名前は信希だ。林信希」
『我はこの大陸に住むレカンドだ。信希様、よろしくお願いします』
とても大きな体とこの世界の人間が恐怖する存在から、様呼びされているオレって…。
「普通に信希って呼んでくれてもいいんだよ?別に気にしないから…」
『何を言ってるのだ。御使い様には最大の敬意を、それがこの世界の常識である』
その割には、ちょいちょい言葉遣いが怪しいと感じるのは気のせいだろうか…。
「そ、そう…?」
『信希様の要望通りに、この場所から離れることにしよう。我の住む場所へ案内致しましょう。少しだけ移動してもらうが平気かの?』
どうやらレカンドはオレを案内してくれるみたいだ。
「こっちは馬車だけど…平気そう?」
『問題ない、我も歩くとするでな。では参ろうか』
レカンドはそう言うと、大きな体を動かして少し離れたところに見えている巨大な山の方へと歩き出した。
「ははは…。森とかなぎ倒していくつもりかな…?」
オレは急いでみんなの待っている馬車へと戻る。
「信希!大丈夫なんですかっ!?」
「あ、あー…。なんだか平和そうなドラゴンだったよ?それから、話をしたいみたいだから住処に案内してくれるって、ついて行けるかな?」
「「は…?」」
馬車の中から確認していた皆もオレの言葉に驚きを隠せない様子で、これまでに見たことの無い表情を浮かべていた。
「馬たちは大丈夫かな…。ほらー、大丈夫だからな。あのドラゴンについて行くぞぉ?」
オレは少し前まで暴れだしそうだった馬たちを撫でて、落ち付いているか確認していく。
「大丈夫みたいだな。よし、じゃあ行こうか」
「……」
みんなはしばらくの間、固まったままだった。
──。
自分の想像していたドラゴンよりも遥かに大きな巨体に驚き、一緒に居るみんなを守るためにすぐさま行動を起こすことが出来たのは幸いと言ってもいいだろう。
「イレーナ、とりあえず馬車が動かないように馬たちを任せられる…?」
自分でも無理難題を言っているような気がする。既に馬たちは興奮状態になっているようで、いつ暴れだしてもおかしくない様子だ。
「いざとなったら、繋ぎを切ります…」
明らかに恐怖している彼女の表情に、自分がどんどんと冷静になっていくのが分かる。
そして馬車の小窓を開け──
「ロンドゥナ、ドラゴンだ。こいつのこと知ってたりする…?」
慌てて駆け寄ってくるロンドゥナが窓から顔を出しドラゴンを確認する。
「分からない…。だが、これだけは分かる。我らよりも上位な存在だ…」
「なるほど…」
魔法具をあらかじめ準備しておいたのは正解だったな。
もしもこの状況を予想出来ていなかったら、みんなのことを守れなかっただろう。
「じゃあ、あとは任せてくれ」
「ま、信希っ!」
イレーナの心配そうな表情が、これまでの出来事に比べても大変な事態なのだろうと予測できる。
「大丈夫だよ。みんなことはオレが守るから」
「…気をつけてください!」
この間にも襲ってこないのは少しだけ違和感を感じたが、オレはドラゴンへと対峙していく。
『そなたは何者だ』
ドラゴンと目があったと感じた時にその言葉は聞こえた。
「もしかして、あんたが喋ってる…?」
『いかにも。それで、あなたは何者なのだ』
喋っているのかは分からない。
耳から聞こえていない…でも声が聞こえている気がする。
「何者と言われてもな…。人間です?」
『ふむ…。あの馬車からは、信じられないくらいの魔力を感じる。それにあなたからもだ。この世界にこれだけ強力な力を持つものは居ないと思うが』
あまりにも流暢に話しかけてくるから、ドラゴンが喋りかけてきていることに自分が動揺していたのかと気付く。
「あー。そういえば、御使いとか言う役目を持ってるよ」
『なんと。御使い様か、通りでな』
どうやら、このドラゴンも御使いのことを知っているみたいだ。
「とりあえず、オレの連れたちが怯えてるんだけど、襲ったりはしてこないか?」
『もちろんだとも。我が暴れようものなら、始末されるのは我だろう』
とりあえず敵対の意思はないみたいで助かった。
「少しだけ聞きたいことがあるんだけど」
『うむ、なんでも答えよう』
「ここを通ってる人を襲ったりしているのか?」
『…?何故だ?別にそんなことをしているつもりも、するつもりもないが』
そう言われると、ルーファーから報告を受けた時にも、誰かが襲われているということを聞いたわけじゃないな。
「この辺りを通っている人が、怯えて通れないみたいで困ってるみたいなんだけど…」
『なるほど、それはすまなかったな。我も少し用事があったのだ』
こんなドラゴンの用事ってのはいったい何だろう…。めっちゃ気になるんだけど…。
「その用事とやら、聞いてもいい?」
『うむ、我らには時たま天啓のようなことが起きるのだ。それに従っただけのこと』
「天啓…もしかして、それがここに来いってな感じ?」
『その通り。その意味も分かった、あなたに会うためだったらしい』
なるほど…つまり、御使いであるオレとこのドラゴンを引き合わせるのが目的だったということか…? そうなれば、このドラゴンを動かしていたのは神たちといったことになるんだろうか。
「オレの名前は信希だ。林信希」
『我はこの大陸に住むレカンドだ。信希様、よろしくお願いします』
とても大きな体とこの世界の人間が恐怖する存在から、様呼びされているオレって…。
「普通に信希って呼んでくれてもいいんだよ?別に気にしないから…」
『何を言ってるのだ。御使い様には最大の敬意を、それがこの世界の常識である』
その割には、ちょいちょい言葉遣いが怪しいと感じるのは気のせいだろうか…。
「そ、そう…?」
『信希様の要望通りに、この場所から離れることにしよう。我の住む場所へ案内致しましょう。少しだけ移動してもらうが平気かの?』
どうやらレカンドはオレを案内してくれるみたいだ。
「こっちは馬車だけど…平気そう?」
『問題ない、我も歩くとするでな。では参ろうか』
レカンドはそう言うと、大きな体を動かして少し離れたところに見えている巨大な山の方へと歩き出した。
「ははは…。森とかなぎ倒していくつもりかな…?」
オレは急いでみんなの待っている馬車へと戻る。
「信希!大丈夫なんですかっ!?」
「あ、あー…。なんだか平和そうなドラゴンだったよ?それから、話をしたいみたいだから住処に案内してくれるって、ついて行けるかな?」
「「は…?」」
馬車の中から確認していた皆もオレの言葉に驚きを隠せない様子で、これまでに見たことの無い表情を浮かべていた。
「馬たちは大丈夫かな…。ほらー、大丈夫だからな。あのドラゴンについて行くぞぉ?」
オレは少し前まで暴れだしそうだった馬たちを撫でて、落ち付いているか確認していく。
「大丈夫みたいだな。よし、じゃあ行こうか」
「……」
みんなはしばらくの間、固まったままだった。
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