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転機

第百十八話 天啓

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 前を歩いているドラゴンのレカンドと一緒に二時間ほど進んだだろうか。

 谷があると聞いていた手前に川が流れていて、その川沿いにずっと進んでいるような感じだ。 体感になるがそれなりの上り坂なんだと思う。

 前を歩いている巨体のレカンドはと言うと、驚いたことに木々をなぎ倒しているわけではなかった。木々が生えているところは地面から浮いているみたいだ。それが魔法なのか、飛んでいるのかは分からない…。でも歩いているように見えるので、魔法で浮いているのではないかと予想している。



「ど、どこまで進むんでしょうね…?」

「さぁねぇ。しばらく歩いてきたけど…」



 最初こそみんなは驚き怯えていたみたいだけど、オレの落ち着きようを見て徐々にだが平常運転に戻ることが出来たみたいだった。



 これだけの時間が経てば、イレーナの様な疑問が浮かんでくるのも無理はない。 それもそうだろう。時々見えている山にかなり近くまで寄ってきているみたいだからな。



「かなり遠くに見えていたけど、ここまで近づくとでっかいな」

「そうですね…有名な山岳地帯ですから…」



「おーい、レカンド!まだ着きそうにないかぁ!?」

『もうすぐだ。我からは見えている距離だ』

「わかった!ありがとうな!」



 イレーナたちの心配も尤もなので、オレはレカンドへ確認していく。



「え」

「ん?」



「信希はドラゴンと話せるんですか…?」

「え?レカンドは普通に喋ってるよな?」



「信希が独り言を言っているように聞こえますけど…」

「あ、あー…?」



 まーた特殊な能力があったりするんですかね…?

 こちらを見つめるイレーナの瞳が、徐々に光を失っていきオレを化け物認定しているみたいだ。



「ま、まって!多分レカンドは一人ずつにしか話しかけられないんだよ!」

「そう…ですか?」



 レカンドのことなんてよくわかっていないに、これ以上距離が遠くなってしまうのが怖くなって出鱈目なことを口走ってしまった。



「多分…」

「……」



 でもその考えは嘘かもしれない…。

 そっちの方がマイナスの印象になると思い、そう付け加えておく…。



 どうしたものか。オレ自身も特別なことをしているつもりは無いし、もしかしたらレカンドがオレに向けて喋っているだけかもしれない…。そう信じておこう…。



「イレーナはドラゴンを見るのは初めて?」

「そうですね…。竜族の方なら幾度か見たことがありますが…」



「さっきロンドゥナが自分よりも上位の存在って言ってたな。そのことを知ってたりする?」

「わ、分かりません…。ですが、ロンドゥナさんが眷属の種族がいると言っていましたよね…?」



「確かに、もしかしたらそういう意味なのかな」



 そのロンドゥナは、馬車の中に居るみんなの面倒を見てくれているみたいだ。

 慌てている人も居たようだし、たしかにいきなりこんなに大きなドラゴンを見たらビビってしまうよな。



「でも、レカンドの話を聞く限りだったら、神たちからの天啓でさっきの所に来ていたみたいだよ」

「天啓…ですか?」



「うん。オレに会うのが目的だったみたい。レカンドも全てを理解していなかったみたいだけどね」

「は、はぁ…」



 先ほどから、イレーナは呆気に取られているみたいだ。



「神たちがオレとレカンドを引き合わせるのが目的なら…どういうことを望んでいるんだろうね」

「確かに…、それはレカンドさん?には伝えられてなかったのですか?」



「みたいだね、その相手が御使いだということも知らなかったみたいだ」

「なるほど…」



 イレーナは先ほどの状況を聞いても自分にも分からないといった感じで、ここで話していても進展することはなさそうだった…。



「まぁ、レカンドが案内してくれる先で考えようか」

「そうですね…?」



 そんな話をしていると、林を抜けて少しだけ開けた場所に出た。



『着いたぞ。我の住処はもう少し上の方だが馬車では進めない、ここまで来れば問題はないだろう?』

「ああ、もう大丈夫だ」



 オレが振り返っているレカンドに向けて話しかけているのを、飛び上がったように驚きながらイレーナが聞いている。



「びっくりした?レカンドの声は聞こえてない…?」

「そうですね…。信希がいきなり話しているようにしか…」



「なぁ、レカンド。みんなにも声が聞こえるように出来る?」

「ああ、すまぬな。あれは信希様に直接話しかけているのを忘れておった」

「ほ、本当に話している…」



 今度は口が動き、レカンドの言葉が音としてみんなにも聞こえているようだ。

 周囲の確認をするために、オレは馬車を停めてレカンドの方へ近づく。



「ふぅ、よかった」



 とりあえずの心配事が、これ以上大きな問題になることは無かった。



「みんなは大丈夫かな──」



 馬車の中に居るみんなのことが心配になって、様子を確認しようと馬車の方へと振り返る。



「な、なんだこれ…」

「信希?どうしたんですか?」



 オレの視界に映ったのは、遥か先に見える水平線と恐らくイダンカであろう街が小さく見えていて、背後にある山が左手に見える限りずっと続いて行っているような絶景だった。



「めちゃめちゃ綺麗な景色だな…」

「本当ですね、ワタシもここまでの風景を見るのは初めてです」



 オレは馬車に駆け寄りみんなのことを呼んでいく。



「みんな、大丈夫か?」

「もちろん」



「もう着いたよ。出てきても大丈夫!」



 オレの言葉に連れられるように、みんなが続々と馬車から出てくる。



「気持ちの良いところだな」

「すっごーい!」

「こんな景色があるんですね…」



「まぁ…なんて立派なドラゴン…」

「確かに、ここまでのドラゴンは見たことも聞いたこともない…」

「美しい…」



 みんなそれぞれの驚きを確認しているみたいだった。



「そういえば、ドラゴンさんは信希のことを『信希様』って呼ぶんですね…」

「あ、あー…?」



 ──。
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