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七章

51.犬猫戦争編⑥<シャーレンとマシマ>

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私の部屋で作戦会議をした後のこと。

私は出て行こうとするマシマを呼び止めた。

「今回の件、いつまで長引くと思う?」
「……まぁ、長期化はするだろうな」

これをみよがしに「はぁ……」とため息をつくマシマ。

「第一、敵か味方かわからないエレンを助けるとか……」
「てか、敵であることは間違いねぇんだろ?ミス・クロウ?さんを殺そうとしたらしいしな」

それを助けるって……助けるって言葉が正しいかさえ怪しい。

「そこで、だ。新しい情報が入るまで待機なんて私達らしくないと思わないか?」

私もニヤリと笑い、マシマもニヤリと笑う。

「でも、一国の王妃がそんなことしていいのか?」
「あら、いけないのかい?」

マシマの顔は、仕方ねぇか……の顔。

私が一度言い出したら諦めない性格であることを知っているからこその顔だ。

「さぁ行くよ。久しぶりの出航だ!」

背後で、青い旗がなびいた気がした。

 ◆

さて、どうしたものか。

昼間に捕まってから、もう随分時間がたって夜になってしまった。

敵が目の前に現れた時、私も捕まればエレン・ガーウェンの居場所が分かるかと思ったのだが……。

まさか隣の牢獄に捕まってるとは思わなかったな。

夜は囚人も寝れる少ない時間(だと聞いた)のにずっと寝ずに

「アマテラス様……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

と、もう声も出ないようなしゃがれ声で言い続けている。

うるさくてこっちも寝られないし、このままだとあいつ、二度と声出なくなるぞ。

仕方なく、魔法で喉を治して眠気を宿して眠らせる。

すぐに「すー……すー……」と規則正しい寝息が聞こえて来た。

どうやらここは神通力は使えないが、魔法は使えるらしい。

ならば牢獄から抜け出すのは容易いが……この広そうな屋敷を抜けるにはやはり神通力無しはキツいだろう。

仕方ない、寝るか。

そうして微睡に身を任せようとしたその時。

「ミス・クロウ……?ミス・クロウ……?」

かなり遠くからだが、囁く声が聞こえる。

マシマ……か?

慌てて魔法でミス・クロウの姿に化ける。

いつもは神通力で行うので、時間がかかったがギリギリセーフ。

「マシマ……ここだ……!」

私もささやき声でそう答える。

向こうは私の声に気付いた様で、一切の音を響かせることなく牢獄の前に現れた。

マシマと……誰?

「無事でよかったです、ミス・クロウ」
「あんたがミス・クロウかい。ミーシャの母だ。いつも娘が世話になってるね」

ミーシャの母……ってことは王妃か。

たしかクロ時代に何度か会った。

その頃の面影があるな。

いや、本当に何でここに居る?

「初めまして、クロウだ。このたび城の魔法使いとして常勤させて頂くこととなった。ミス・クロウとよんでくれ」
「さぁ、こんなことしている場合じゃないんです。逃げますよ」

何かと思えば、柵をナイフで切ろうとするマシマ。

「あぁ、この柵に魔力感知は無いし、私もそうしたいところなんだが……。隣の独房を見てくれるといい」

私の言葉で、二人がエレン・ガーウェンの方を見たのが分かる。

「エレン……?何故捕まって……?」

まぁ普通なら仲間に捕まらんだろうな。

私の殺害をミスして怒られとるんだろう。

どうにかエレンだけでも連れて帰れんか、と言おうとした時、とても小さな音だが床と犬の爪がすれる音がした。

「おい、犬が来た……。バレると危険だ。取り敢えず帰れ」

声を潜めて二人に呼び掛ける。

二人は無言で頷いて、上にジャンプしたかと思うと消えた。

マシマといいメカニックルーム王妃といい……この国は一体どうなっているんだ?

すぐに魔法を解いて猫の姿に戻り監視の犬をやり過ごすと、一晩、マシマと王妃の正体について考えながら眠りについた。

さぁ、明日の夜にはこのエレンとかいう犬神を連れて脱出できるかな。
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