【完結】冷遇され臣下に下げ渡された元妃の物語

MEIKO

文字の大きさ
2 / 57
第一章・突然の廃妃

1・忘れられた存在

しおりを挟む
 誰もが寝静まっているであろう夜半すぎ、また誰かが私のところにやって来ている。
 もう慣れっ子ではあるが、やはり知らない者に自分の寝顔を見られるのは少しだけ抵抗があるものだ┉。

 その者は、ただじっと黙って寝顔を見ているだけで、触れようとは決してしない。  
 そもそも私などに触れたくもないのだろうが┉。

 ──男の妃である私など。

 私がこの大帝国にやって来たのは二年前。私が十六の歳だ。
 この大陸で、最弱の存在のカリシュ国の第四王子として生まれた私は、最強で最大の存在の大帝国の王ガルドの第十六妃になるべくやって来た。

 カリシュ国の王族では、昔から男の身でありながら子供が産める特殊な腹を持つ半性身の者が多く生まれた。
 その半性身の者が産んだ子供は神の祝福を受けた者だとされ、その国に繁栄をもたらす存在になるとの言い伝えがある。
 市井しせいの者からも半性身が生まれる場合もあるが、その祝福は王族だけのもの。
 
 最弱の存在のカリシュでも未だに国として存在出来ているのだ。

 婚姻で以って国同士を結びつけ守護して貰う。
 対外的に何の特産物も有利な条件も持たないカリシュが、他国に侵略されずに未だに存在し続ける。
 それはひとえに、その半性身の者のお陰である。

 ──だから私は、この国に一人嫁いで来た。

 現王から二人の半性身が産まれたが、見た目が輝くばかりに美しい兄と違って、貧弱で平凡な容姿の他に、何の特技も持たない私がそれも大帝国に┉そう言われたが、私にはその選択が出来る立場ではない。
 ただ、父に言われて嫁いだだけ。

 だけど、この国での扱いは元々大人しい性格で控え目だと言われていた私でさえも、耐え難いものであったのは確かだ┉。

 王であるガルドのお渡りがあったのは、初夜の一度きり。
 ガルドに抱かれたのはその一度だけなのだ。
 その初夜は次の日の夕方まで絶えず抱き続けられ、これが毎日なのか┉と心配になる程だったが、蓋を開けてみればそれきりで┉。
 きっと最後のお情けというか、祖国に対しての礼儀というのか、王は始めから最初で最後と思っておられたのだろうな?
 それでは私の自尊心が打ち砕かれるのは当たり前だろう。

 それから二年が経ち、今は二十四妃までいて、尚且つ男は私一人ではない。だけどこの後宮でそんな扱いを受けるのはただ一人、私だけだろう。

 そんな二十四人もいる中で、王の目が行き届く筈もなく、こうして時折様子を見に来る者が居るのだ。

 健康に問題はないか、何か困っている事はないか、何処かに消えてしまっていないか┉を。

 意外と王は独占欲が強いのかもしれないな?
 こんな忘れられた存在の私でさえも、こうして人を寄越すのだから。

 以前他の妃にそんな存在の私を非難され、妃として支給される手当てを取られた時期があったが、こうして見に来てくれたお陰で解決した事がある。
 
 その妃は今も離宮に軟禁されている┉。
 この後宮に居る者達は、その処分の重さにおののいた。
 だから明らかな悪事も出来はしないのだが、ただここは後宮だ┉。

 人を妬んだり、追い落とそうとしたり馬鹿にしたり┉そういう醜い思いが渦巻いている所だから。

 王からの寵愛の深さで位が決まる後宮の中で、一番位が低いのは私で間違いないが、もうとっくに慣れた。
 僅かばかり残っていた、カリシュ国の王子としての誇りも、こうして打ち砕かれてきたのだから。
 この先は、諦めてじっと耐えているのみだ。

 いつまで?きっと己が死ぬか、王が亡くなられて妃全てがここを去らねばならない時だろう。

 それまでに私は早く死ねるといいな┉って、漠然と思う。

 ──そんな私が、何故か?
 
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間

華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~ 子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy
BL
⭐︎毎朝更新⭐︎ 兄の身代わりで望まれぬ結婚を押しつけられたライネル。 冷たく「帰れ」と言われても、帰る家なんてない! 仕方なく寂れた村をもらい受け、前世の記憶を活かして“投資”で村おこしに挑戦することに。 宝石をぽりぽり食べるマスコット少年や、クセの強い職人たちに囲まれて、にぎやかな日々が始まる。 一方、彼を追い出したはずの旦那様は、いつの間にかライネルのがんばりに心を奪われていき──? 「村おこしと恋愛、どっちも想定外!?」 コミカルだけど甘い、投資×BLラブコメディ。

処理中です...