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第三章・予期せぬ計略
22・恋慕(ルイスSide)
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「何をしておる?そんな簡単な事も出来ないのか!?出来ないのなら、今すぐに死んで詫びろ!」
アルベルト王の怒号が響いて、その場が凍り付く。
この国の宰相が取り成そうとするが、全く聞く耳を持たない。
王の怒りを買った伯爵は、ガタガタと震えて恐怖で言葉が出ない。
これは血を見るかも知れない┉と誰もが諦めかけた時、まるで光を纏ったような美しき王妃が現れた。
「お鎭まり下さい我が王よ。伯爵も反省しております。私に免じて、今回だけはお許しいただけませぬか?この者も、次こそは成果を出せましょうし。」
美麗な笑みを浮かべながらそう王に進言し、何とか伯爵を擁護しようとする。
その言葉に王は┉途端に笑顔を見せて、目の前の王妃の手を取った。
「王妃よ┉お前が心配せずとも良いのだぞ?この者には罰を与えねば┉だけど、王妃の顔を立てて今回だけは許そう。次はないからそう思え?去れ!」
伯爵は床に頭をこすり付け、何度も何度も詫びながら、去って行った。
この場に残った者達は、次は自分では?と一様に緊張する。だが┉
「ではもう今日は終いだ!私は王妃と共に行くとしよう。」
先程までとは打って変わって、にこやかに去って行く王を見ながら、皆がホッと息をつく。
そして誰もが、王妃様が居なかったら┉と、心底ゾッとしていた。
そして王妃ルイスと王は、寄り添いながら歩き、そして王の自室に入る。
「ふーーっ!」王は大きな息を吐き、その瞬間二人はパッと離れた。
「王妃様、あれで良かったでしょうか?おかしなところはなかったですか?」
今までの高圧的な態度は一変し、何処かオドオドしている。
「大丈夫だよ、エイダン。ご苦労さまでした。明日には王がお帰りになるから┉そなたも一息つけよう。」
私も緊張から解かれて、フッと息を吐き、長ソファに寝そべった。
それから目の前の男に目をやる。
──この男は、王の影武者だ。小さな頃にこの国まで連れて来られ、王そっくりな影武者になるように育てられた。名をエイダンと言う。
初めて会った時、余りにも似ていて凄く驚いた。だけど、性格は真逆だ┉。
先程の茶番劇は、事前にこのエイダンからそう言うように頼まれていた。
私だって、血を見たくはない┉。だからその提案にのって伯爵の命を救った。
あれが本物の王だったら?間違いなく殺されているだろう。
この影武者は、王が国に居る間は城内の隠し部屋でじっとしている。物音も立てずに、ただただじっとしているのだ┉。
私は、この者に同情した。何故、このような目に合わなければならないのか?┉と。
元は何処かの国の貧乏貴族の子息だったらしいが、王に似ているというだけで知らぬ土地に連れて来られ、何人かの同じような見た目の子供達と育てられたと聞いた。
そして一人減り、二人減り┉似ていないところが見つかると、殺されていくのだろう。
そして、最後に残ったのがこのエイダンだ。
「王妃様、本当にありがとうございました。伯爵が殺されずにすんでホッと致しました。」
そう言って笑顔を見せるエイダン。
自分もいつ殺されるか分からぬ立場で、人の命の心配をしている場合か!?と思うが┉。
だけど、あの人アルベルトもこの者のようにほんの少しだけでも情があると良いのに┉と思ってしまう。
──アルベルトは、全く子供達を愛していない!ただ、私だけを愛している┉。
あの人の子供達への冷たい仕打ちを見ていると、空恐ろしい気持ちに。
前の王妃のお子達┉殺された小さな命の事を思うと、遣る瀬無い思いがするのだ。
はぁーっ┉と、大きな溜め息をついて、明日にはまた気の張り詰めた暮らしに戻るのだ┉と嫌な気持ちになる。
「エイダン、今の内に隠し部屋に食料や、何か本など時間を潰せる物を持ち込んでおいた方が良いのではないか?侍従に気を配らせて補充はさせるが┉。そうだ!良ければ私の本を貸してやろう。カリシュから持って来た大量の蔵書があるのだ。あれならば暇も潰せよう。」
私がその本を取りに向かおうと立ち上がると、エイダンは焦った様子でそれを制止する。
「王妃様!それは余りにも恐れ多い事です。王妃様の大事にされている本を私などの為に┉とは。王妃様は本当にお優しい方ですね。もちろんお姿も光り輝いておられますが、私にはその光は王妃様の内面から見えております。御子様達もお幸せです┉そのような立派な方が御母上で。」
温かな微笑みで、私の事をそのように言ってくれるエイダン┉。
私はその言葉で、今まで誰にも言ったことも気付かれたこともない自分の一部が、救われたような気がしたのだ。
見た目が美しい┉それだけで、誰も私の本質を見てなどくれなかった。
アルベルト王も、故国の父でさえも┉。
カリシュでは私が一番父王のお気に入りのように言われていたが、そんなのは違う!本当に父に愛されていたのはシルバだ。
ガルド王が沢山の兵を伴って現れた時、シルバを王から守ろうと、その他大勢の息子達だと言って王の注目から外させた。結局は招宴で見初められてしまったのだが┉。
──私は一筋の涙を流した。何をやっても心は報われない!そんな私の奥深いところに触れてくるこの男は┉?
私は初めて恋をしたのだ┉決して好きになってはいけない男に。恋などしたら┉破滅だ!
アルベルト王の怒号が響いて、その場が凍り付く。
この国の宰相が取り成そうとするが、全く聞く耳を持たない。
王の怒りを買った伯爵は、ガタガタと震えて恐怖で言葉が出ない。
これは血を見るかも知れない┉と誰もが諦めかけた時、まるで光を纏ったような美しき王妃が現れた。
「お鎭まり下さい我が王よ。伯爵も反省しております。私に免じて、今回だけはお許しいただけませぬか?この者も、次こそは成果を出せましょうし。」
美麗な笑みを浮かべながらそう王に進言し、何とか伯爵を擁護しようとする。
その言葉に王は┉途端に笑顔を見せて、目の前の王妃の手を取った。
「王妃よ┉お前が心配せずとも良いのだぞ?この者には罰を与えねば┉だけど、王妃の顔を立てて今回だけは許そう。次はないからそう思え?去れ!」
伯爵は床に頭をこすり付け、何度も何度も詫びながら、去って行った。
この場に残った者達は、次は自分では?と一様に緊張する。だが┉
「ではもう今日は終いだ!私は王妃と共に行くとしよう。」
先程までとは打って変わって、にこやかに去って行く王を見ながら、皆がホッと息をつく。
そして誰もが、王妃様が居なかったら┉と、心底ゾッとしていた。
そして王妃ルイスと王は、寄り添いながら歩き、そして王の自室に入る。
「ふーーっ!」王は大きな息を吐き、その瞬間二人はパッと離れた。
「王妃様、あれで良かったでしょうか?おかしなところはなかったですか?」
今までの高圧的な態度は一変し、何処かオドオドしている。
「大丈夫だよ、エイダン。ご苦労さまでした。明日には王がお帰りになるから┉そなたも一息つけよう。」
私も緊張から解かれて、フッと息を吐き、長ソファに寝そべった。
それから目の前の男に目をやる。
──この男は、王の影武者だ。小さな頃にこの国まで連れて来られ、王そっくりな影武者になるように育てられた。名をエイダンと言う。
初めて会った時、余りにも似ていて凄く驚いた。だけど、性格は真逆だ┉。
先程の茶番劇は、事前にこのエイダンからそう言うように頼まれていた。
私だって、血を見たくはない┉。だからその提案にのって伯爵の命を救った。
あれが本物の王だったら?間違いなく殺されているだろう。
この影武者は、王が国に居る間は城内の隠し部屋でじっとしている。物音も立てずに、ただただじっとしているのだ┉。
私は、この者に同情した。何故、このような目に合わなければならないのか?┉と。
元は何処かの国の貧乏貴族の子息だったらしいが、王に似ているというだけで知らぬ土地に連れて来られ、何人かの同じような見た目の子供達と育てられたと聞いた。
そして一人減り、二人減り┉似ていないところが見つかると、殺されていくのだろう。
そして、最後に残ったのがこのエイダンだ。
「王妃様、本当にありがとうございました。伯爵が殺されずにすんでホッと致しました。」
そう言って笑顔を見せるエイダン。
自分もいつ殺されるか分からぬ立場で、人の命の心配をしている場合か!?と思うが┉。
だけど、あの人アルベルトもこの者のようにほんの少しだけでも情があると良いのに┉と思ってしまう。
──アルベルトは、全く子供達を愛していない!ただ、私だけを愛している┉。
あの人の子供達への冷たい仕打ちを見ていると、空恐ろしい気持ちに。
前の王妃のお子達┉殺された小さな命の事を思うと、遣る瀬無い思いがするのだ。
はぁーっ┉と、大きな溜め息をついて、明日にはまた気の張り詰めた暮らしに戻るのだ┉と嫌な気持ちになる。
「エイダン、今の内に隠し部屋に食料や、何か本など時間を潰せる物を持ち込んでおいた方が良いのではないか?侍従に気を配らせて補充はさせるが┉。そうだ!良ければ私の本を貸してやろう。カリシュから持って来た大量の蔵書があるのだ。あれならば暇も潰せよう。」
私がその本を取りに向かおうと立ち上がると、エイダンは焦った様子でそれを制止する。
「王妃様!それは余りにも恐れ多い事です。王妃様の大事にされている本を私などの為に┉とは。王妃様は本当にお優しい方ですね。もちろんお姿も光り輝いておられますが、私にはその光は王妃様の内面から見えております。御子様達もお幸せです┉そのような立派な方が御母上で。」
温かな微笑みで、私の事をそのように言ってくれるエイダン┉。
私はその言葉で、今まで誰にも言ったことも気付かれたこともない自分の一部が、救われたような気がしたのだ。
見た目が美しい┉それだけで、誰も私の本質を見てなどくれなかった。
アルベルト王も、故国の父でさえも┉。
カリシュでは私が一番父王のお気に入りのように言われていたが、そんなのは違う!本当に父に愛されていたのはシルバだ。
ガルド王が沢山の兵を伴って現れた時、シルバを王から守ろうと、その他大勢の息子達だと言って王の注目から外させた。結局は招宴で見初められてしまったのだが┉。
──私は一筋の涙を流した。何をやっても心は報われない!そんな私の奥深いところに触れてくるこの男は┉?
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