【完結】お別れするあなたに一言だけ。あなたの恋は、叶うことはないのだと…

MEIKO

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第二章・新しい私

19・アルフォンソの憂鬱

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 アルフォンソは浮かぬ顔でここまでやって来た。どうしても足が進まない…そうして深い溜め息を吐く。それには理由があって…

 「何をやってるんだ?早く執務室に入りたまえ!」
  
 そう一喝したのはガレリア帝国の皇太子であるブロン皇子。そしてアルフォンソを怪訝そうに見ている…

 そんなアルフォンソは、執務室にいるはずの皇子が後ろから現れたことに驚いて、不敬だとは思うが皇子の顔と執務室の扉とを交互に指差す。すると…

 「ほら、早く報告を!」

 怒り心頭で執務室に入る皇子と、その後をトボトボと付いていくアルフォンソ。そして椅子にドカッと皇子は腰掛け、その前にアルフォンソは遠慮がちに立つ。すると…

 「どうだったんだ?クリスティーヌ夫人は。元気にしていたのか…」

 さっきまでとは違って、落ち着いた声でそう尋ねる皇子。それにアルフォンソは顔を曇らせる。そして… 
 
 「今までの任務で、一番楽しく…また一番心苦しいものでした。俺はあれほど健気で…無邪気で、そして優しい人を知りません。いくら任務とはいえ、そんな人を騙すような真似はしたくはありません!」

 叱責覚悟でそう本音を告白するアルフォンソ。その顔には一切後悔はない。それに皇子はというと、複雑そうな顔をしていた。それから俯いて…

 「だろうね…今回は私が悪かったよ。話術が達者な君が適任だと頼んだこと自体が…でも守ってくれたんだろ?夫人をさ。それでいいんだ…」

 皇子は俯いたまま、独り言のようにそう呟く。それは己に言い聞かせているように。そんな皇子にアルフォンソは、本気の本音をぶつける!

 「ええ…守りました。汽車の中でクリスティーヌに対して不埒な思いを抱くものを蹴散らし、お金を盗もうとする者をも…。だけど本当にあの冷血な男の妻が、クリスティーヌなのですか?あの男とは全く似合わない人です。純粋で可愛らしくて…信じられない!」

 アルフォンソはそう吐き捨てるように言い皇子を見つめる。すると皇子はそんな視線を受け、少し哀しそうな顔をする。それから顔を上げると…

 「そうだ…ロベルトの妻だ。だが、ロベルトは私の幼馴染み…あれで私にとっては掛け替えのない友だ。その言い方はよしてくれ!君の言い分も分かるがな…」

 まるで昔を懐かしむように遠くを見つめる皇子。そんな皇子の気持ちはアルフォンソには理解出来ない… 

 アルフォンソは平民出身の騎士で、その実力でブロン皇子の護衛になる。それからは皇子の側近の一人として任務をこなし、そしてロベルトとも顔を合わせてきた。だが公爵家の嫡男のロベルトと、今は男爵の身分となったが元平民のアルフォンソとは、まるで水と油…交わることは決してない。最近ではお互いの顔すらも、見ようとしなくなっていた…

 そんなアルフォンソに、皇子はある日任務を言い渡す。

 『イェガー公爵夫人であるクリスティーヌを見張れ!』

 当初アルフォンソは、どういう意味なのかも分からなかった。イェガー公爵本人ならまだしも、その夫人を?と。それでも遠くから見張り、そして思い詰めた表情をしているクリスティーヌを見るにつけ、どんどんその理由を知りたくなる…そしてあの日。

 帝国一の高級店であるクレランス宝石店。メイドと護衛を引き連れてクリスティーヌは行く。だがあろうことか、店の前で夫ロベルトと会ってしまう…それから因縁の相手侯爵令嬢であるカレンとも…

 怒り出すかと思えば、そうじゃなかった…始終クリスティーヌは諦めた顔をしていた。既に何日も見張っていたからこそ分かるその変化。どこか可怪しいと思った…その静かな表情と態度が。そのうちその宝石店で騒動が起こって…

 イェガー家メイドのロリーが、血相を変えて店から飛び出てくる。大声で「奥様!」と何度も叫びながら…
 それに驚いて辺りをキョロキョロ探すと、ある馬車が目に入る。中に座ってマントを目深に被っている女性がロリーをじっと見ていた。それも涙を流しているのか、何度も目頭を押さえている…

 直感で分かる!その人がクリスティーヌだと。その乗り合い馬車を追って馬を走らせたアルフォンソは、駅でクリスティーヌを見つける。そしてその後は偶然を装い近付いて…

 それからのアルフォンソは罪悪感に苛まれた。知れば知るほどクリスティーヌという人は好ましい人物だったからだ。悪名高い夫とは違って…何故だ?そう疑問に思う。それはクリスティーヌと別れた後も…

 「どうしてなのです?クリスティーヌはそもそも、見張られるような人ではありません!そっとしておいてやる訳には…」

 それに皇子は厳しい顔をして頭をフルフルと振る。そしてアルフォンソを見つめて…

 「ロベルト・イェガーの暴走を止める為に、居場所を知ろうとしただけだ。危害を加えようとか、拘束しようなどとそんな気は更々ない…だから安心してくれ!」

 そう真剣に伝えてくる皇子に、アルフォンソはほんの少し安堵する。まだ気を抜くことは出来ない…取り敢えずクリスティーヌが無事なことは間違いないこと。そして…

 「ノースブルグのミンチェスター子爵家に身を寄せています。お祖母様が当主だとかで…」

 そのアルフォンソの言葉に、ブロン皇子は心底驚いた表情をする。目を見開き唖然としていて…それを逆にアルフォンソは驚いて見つめる。

 「ミ、ミンチェスター家だと?子爵家だが由緒ある家門だ…あの辺り一帯の大地主で。その力は領主でさえも無下には扱えないと聞く。その当主が祖母だと?初耳なんだが…おまけにそこはイェガー家の領地。一体どうなっているんだ…」

 二人で難しい顔をしながら考える。どう考えてもあるはずがないことだからだ。そこに突然侍従の声が…

 「ブロン殿下、お客様がお見えですが…お会いになりますでしょうか?」

 それに皇子とアルフォンソは顔を見合わせる。よりによってこんな時に?と。
 
 「うん?約束などはなかった筈だが!」

 皇子がそう厳しい調子で返すと、侍従はなおも困った様子声を掛けてくる。すると…

 「ですが…妃候補筆頭であるシュタイン侯爵家のカレン様です。本当にお断りなさいますか?」

 「な、何だと…カレン嬢が!どうしてだ?」

 そして皇子とアルフォンソは黙り込む。このタイミングは本当に偶然なのかと…
 そんな困惑した空気の中、皇子は微かな声でアルフォンソに耳打ちする。

 「ロリーに連絡を取れ…分かったな?」

 それに真面目な顔をしてコックリと頷くアルフォンソ。すると皇子は…

 「分かったよ。では、カレン嬢を応接室に通してくれ!」

 そう言ってブロン皇子は、今までとは全く違うよそ行きの笑顔を貼り付ける。それからその顔のまま自分の執務室から出て行った。
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