【完結】お別れするあなたに一言だけ。あなたの恋は、叶うことはないのだと…

MEIKO

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第三章・もう一つの人生

34・衝撃のデビュタント

 落ち着かなきゃ…しっかりするのよ!私はクリスティーヌ・ミンチェスター。イェガーなんかじゃないわ!そうは思ってみても、身体は小刻みに震える。すると…

 そんな私の髪を優しく撫でる手が。こめかみの辺りから、後頭部へと優しく何度も撫でる。それに驚いて見上げると、そこには癒しの紫の目が!

 「大丈夫だ…私が付いてる。君はもうミンチェスターなんだから。それにこれだけの参加者…その中の一人の顔なんて、分かりゃしない!だから堂々としてくれ…なっ?」

 それからオリヴァーは、怖がらなくていい…とでも言うように明るい笑顔を見せる。それには心強い思いに…

 ──そうだわ、だってまともにお会いしたこともないのよ?それなのに私の顔を知っているとは思えない。堂々としていよう!

 それから領主様は一段高い壇上に上がられ、祝いの言葉がデビュタント参加者に贈られる。内容なんか一切頭に入らない…ただ、ごく短いものだったことを憶えているだけ。そして挨拶を終えた領主様は、壇上をスッと降りられ去って行かれる。それにホッとすると…ええっ!

 ほんの一瞬だけど、目が合ったように感じた。そして止まらずに行かれたので確証はないけど…あの見事な碧眼と、一瞬だけ目が合ったような…気のせいなの?

 「今からデビュタント舞踏会を開催します!」

 そうこうしているうちに、デビュタントを取り仕切っているロウ男爵が高らかに舞踏会の始まりを宣言する。すると音楽が再び鳴り始めて…

 「さあ、今夜は踊ろう!クリスティーヌ…」

 「え、ええ!」

 少し気にはなるけど、今日は私達のデビュタント。この日までに精一杯準備をして、色んな人達に協力してもらっている…だからもう考えない!そして舞踏会に集中することにする。

 元々ダンスは得意ではなく、公爵家に嫁ぐ前にほんの少しの間先生から習った。そんな程度だったから、この日の為に相当練習してきた。
 お手本にお祖母様とドノバン卿が踊ってくれて、その完璧なダンスには大いに驚いた。お祖母様はともかく、ドノバン卿が!?って。そんな二人からみっちり習い、そしてオリヴァーとも事前練習して来たのだからその成果を出さなきゃね。そういえば、ドノバン卿はどこで習ったのだろう…

 そして参加者達は一組、また一組と踊り出し、ホールは踊っている人達で一杯になる。何度か足を踏みそうになるけど、オリヴァーの華麗なステップがそれを避ける。音楽に合わせてクルクル回り、やがて会場全体が不思議なくらい盛り上がってきて…

 「フフッ、楽しいわね。オリヴァー、誘ってくれてありがとう。こんなに楽しい気分になるのは初めてかも?」
 
 そう言って私は微笑む。そして当然微笑み返してくれると思っていた…だけど少しそれとは違っていて。口の端を上げ、端から見たら笑っているように見えるんだと思う。だけど私分かるほんの少しの違和感が。緊張なの?どうしたのかしら…

 「これよりお祝いの冠が授与されます。まずは令嬢方からになりますので、こちらにお並び下さい」

 そのことで理由は聞けずじまい。オリヴァーとは別れ、令嬢達と一緒に並ぶことになる。今回のデビュタント参加の女性は三十人ほど。身分の順から横に二列で並ぶ。上は伯爵令嬢で、殆どが下位貴族の令嬢達。私の今の身分は子爵家の令嬢だから二列目の真ん中ほどの位置になる。

 一番最初に並んだ令嬢の名前が呼ばれ、スッと前に出ると白いカスミソウの冠が被せられる。カスミソウの花言葉は『幸福』や『清らかな心』。今後の人生の幸せを願って贈られるもの。すると会場中が割れんばかりの拍手に包まれて…

 ドキドキしながら自分の順番を待つと隣の令嬢が呼ばれ、いよいよ私?と緊張する。すると…

 「ミンチェスター子爵家、クリスティーヌ・ミンチェスター」

 名を呼ばれた瞬間、おぉーっとざわめく。きっとここに居る人達の中には、突然現れたミンチェスター家の孫娘を見に来た人もいたのだろう。予想外に注目を浴びてしまったけれど、尚更失敗出来ないと気をしっかり持って前へ出る。

 「クリスティーヌ・ミンチェスター、おめでとうございます」

 ──この方がロウ男爵?

 このデビュタントの運営を任されているロウ男爵らしき人から、そっと花冠を被せられる。そして「ありがとうございます」と笑顔で礼を返す。すると…目の前のロウ男爵は、目を見開き固まっている。それに何だろうと思ったけれど、きっとこの方も同じくミンチェスター家の私を間近で確認したかったのだろうと、一礼しながら去って行く。そして全員が終わり次は…

 「次は令息方、お並び下さい」

 次はオリヴァーの番だと元いた場所に目を向けると、緊張の面持ちのオリヴァーがいる。それにさっきの違和感の意味が少し分かったような気になって…これに緊張していたのね?
 それで私は少しでもオリヴァーの緊張を解そうと、ヒラヒラと手を振る。それを見たオリヴァーは少しだけ笑って、他の令息達と前に出て行く。オリヴァーはこの領地から出たこともなく、家庭教師を付けて勉強した為に学校にも行けていないと聞いた。だから私なんかよりずっと、この晴れの場を渇望していたのかも…

 そんな祈るような気持ちで見つめていると、私の時とは違ってどうも子爵家の令息だと一番後ろになるようで。男性だと違うのね?と思いつつオリヴァーを見守る。

 ──今回ここに来れなかったドノバン卿やお祖母様にこの勇姿を伝えなきゃ。オリヴァー、頑張って!

 そして順番に名を呼ばれ、男性には月桂樹の冠が被せられてゆく。月桂樹の花言葉は『栄光』や『勝利』、そして『名誉』…この場にぴったりだと言える。順に贈られていき、そしていよいよ最後はオリヴァー!それを待ちかねていた。だけど…

 「メイソン子爵家…」

 名を読み上げる係の者が、突然その後の言葉を続けられずにいる。それにはどうして?と唖然とする。それからその者はキョロキョロと辺りを見渡し、どうしてよいのかと決められない様子で…
 
 ──どうしたの?せっかくのオリヴァーの晴れ舞台なのに…

 「そのまま名をお呼び下さい」

 するとその場に響くオリヴァーの声。そしてあんなに緊張していた筈なのに、その顔を見れば凄く落ち着いて見える。それに私はまた違和感…

 「は、はい!」

 上ずった声で返事をした係の者は、何度か咳払いを繰り返している。まだ躊躇している?とこの場にいる全ての者達が視線を向ける中、やっと読み上げようと口を開いて…

 「オリフェルト・ルード・アーガソン!」

 その名を聞いた瞬間、この場は水を打ったように静まり返り、身動きする者さえいない。そして…

 「オ、オリフェルト?アーガソンって誰なの。それにアーガソンというのは、そもそも皇族の名ではないのかしら…」

 そして私は運命という渦の中に、再び巻き込まれていくことになる。
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