【完結】初恋のあの人との結婚。だけど私のこと覚えてないんですね?

MEIKO

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第六章・御使いの秘密

49・最上の愛

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 「キリエ、今日は御神託あったかい?」

 愛しい人にそう声を掛ける。そして少しでも近くに行きたくて駆け寄った。

 「ハッシュ!御神託はなかったよ。良かったね何もなくて。」と言いながらキリエは私の胸に飛び込んでくる。

 その身体をぎゅっと抱き締めながら、何もない日を感謝した。
 御神託があるという事は、何か重大な事が起きていることを意味する。だから何もない方がいい…
 私はこの神殿の御使い長を務めている。このグラン聖国の大神殿で。

 
 ◇◇◇◇

 
 私が御使いとしての『印』を発現したのは十四の時だ。
 男爵家の三男として生まれた私は、小さい頃から神童と呼ばれていた。
 たぐいまれな頭脳を持ち、その辺の高位貴族さえも舌を巻く…
 だけど、所詮貴族とは名ばかりの男爵家の人間だ…
 それほどの頭を持ちながらも、この先はその高位貴族に利用されて一生を終えるのだろう
と覚悟していた。

 そんな風になかば諦めていたところに御使いの力が!それも御使い長候補者としてだ。
 御使い長というのは他の御使い達とは違い、癒やしの力の強弱ではない…その頭脳と行動力を見込まれて選ばれる。
 そして、前任者がその資格を失った時に次の者が選ばれる。
 だから十四歳という年齢になってからだったらしい。

 それから私は水を得た魚のように、自分の頭脳を惜しみなく使って神殿の運営に邁進まいしんする。
 神殿とは言っても、支給される神殿費の運営方法や、御使い達の管理、選ばれる御使いの出身家への補償。そして役を辞した者達への支援…そんな多岐に渡る仕事に溢れている。
 そんな忙しい日々を送って、あっという間に御使いとしての年数を重ねていた私に、女神アイリスからの贈り物が…

 ──キリエが現れたのだ。

 前任者の写し身様が高齢になり役を辞した。その変わりに神に召された平民出身の写し身がキリエだ。

 一目その姿を見た時から惹かれていた…。だけど十という年齢差と男同士だということに躊躇した私は、そっと見守る事くらいしか出来ない…

 ──嫌われるよりはいい筈…写し身様として素晴らしい働きをするキリエにだけは嫌われたくない!

 そうして時は経ち、私は二十九にキリエは十九歳になっていた。
 ある日、役目を終えた私は自分の部屋に戻っていた。
 神殿を抜けた先にある居住区には御使いそれぞれの部屋がある。私はその中で一番大きな部屋を与えられていた。

 「今日も頭を使う業務が続いたな…流石に疲れた」
 
 そう思いながらいつの間にかソファで眠り込んでいた私は、ある違和感で意識が戻った。

 …誰かが頬を触っている?

 驚いて目を開けると、そこには何故か愛しいキリエが立っていた。
 思っても見ないことに言葉が出ない私をじっと見て、頬を赤らめながら言った…

 「ごめんなさい!ハッシュ様…良く寝ておいでだったので」
 でもこんな事、頬を触る理由になんてなりませんよね…と悲しげな表情になる。

 だけど次の瞬間、あろうことかキリエが私の胸に抱きついてくる。
 キリエが自分の身体を抱き締めるその感覚に私は緊張した!だけど嬉しさは隠しきれない。
 そんな私の感情の変化を察したキリエはじっと見つめながら…
 
 「僕、今日大人になりました!十九歳です。だから…気持ちを伝えたくて。ずっと前からハッシュ様をお慕いしていました…迷惑でしょうか?」

 その驚きの告白に言葉も出ない!キリエが?この人が私を?慕っているなどと信じられるものか──

 そんな思いに囚われた私だったが、もしも嘘だったとなっても本望だ…例えそれによって命を取られたとしても、何の恨みも抱かないだろう。私にはキリエの他に、失うものなど元よりないのだから…と抱き締め返した。
 そんな私の行動にキリエは更に顔を赤らめて、嬉しい…と呟く。

 キリエの頭を撫で、そして頬を撫でる。
 それから神衣の詰襟を緩めれば、右の鎖骨には赤いアイリスの花が…

 そこにそっと口づけて伝える。キリエ、愛しているよ…
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