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第六章・御使いの秘密
50・哀しき御使い
そうして愛し合うようになった私とキリエは幸せな時を過ごした…
どんなに忙しく、大変な役目があろうとも二人ならば耐えられる!私がキリエを支え、キリエが私を支える。
そんな日々が長く続き、もうすぐ私達は御使いとしての役を辞する…そんな予感が。
キリエとそうなって六年が過ぎたが、私達は今でも片時も側を離れない…これからもずっとそうなんだろうな。
二人で役を辞して、小さいながらも家を建てよう。
そして慎ましくとも幸せな余生を過ごそう…例え短い間であっても。
それを二人の心の支えとして長年務め上げてきた。
御使いとしての役目は大変であったが、キリエと逢えたこの幸せに勝るものなど有りはしない!あと少し、少しだけ頑張れば望みが叶う…そんなある日だった…
キリエが癒やしの力を使った後、必ず身体を振らつかせる。時には鼻血が出ることも…そんな嫌な変化を感じながらも、少し休めば戻るだろうと軽く考えていた。
その時は大陸全土に長雨が降り、作物の不作や土壌被害などが多発していた。
女神アイリスの神託を受けたキリエが解決策の指示を御使い達に出す。
この近くの河川も決壊しそうだ!と言うので、私と数名がその様子を見に行くことになった。
いざ行ってみると、まだ大丈夫な様子でこの雨が止みさえすれば危険はないだろう…そう判断した私は神殿への帰路を急いだ。
キリエに知らせて早く安心させてやらなくては!そんな思いで馬を走らせ、すっかり油断してしまっていたんだ…
ある道に差し掛かった所で、雨で緩んだ土に馬の脚が取られた…その瞬間、私は道に叩き付けられる。
そこに運悪く雨によって腐った木が折れていて、鋭い切れ端がこちらを向いていた。
──グサッ…!
余りの衝撃に心臓が止まったのかと思う。その瞬間、脇腹に鋭い痛みに襲われる。
それから一緒に来ていた御使いの大きな悲鳴が聞こえて…
余程深々と刺さったのだろうか、徐々に感覚がなくなり痛みももはや感じない。
それから御使い達によって何とか神殿まで運ばれはしたが、もう既に手遅れの様相だった。
私は遠のく意識の中で、せめて…せめて一目、愛するキリエの姿を見たいと思って、意識が飛びそうになるのを耐えていたんだ。
やがてバタバタと御使い達が集まり、その中にはキリエの姿が…
泣きながら他の御使い達に止められるのも聞かず私を抱き締め、そして置いていかないで!と叫ぶ。
「ハッシュがいなくなったら、もう生きていられないよ…愛してる!」
私はその時幸せで、もう死んでもいいと思う。その時神殿には力の強い御使いは居なかった…もうこの状態を助けられる者はいないだろう。
キリエとて、今迄長年癒やしの力を駆使してきた。もう役を辞する時間近で、体調の悪いキリエに力を使わせてはいけない!だから…
私は残り少ない命の火を今一度気力で強め、力を振り絞って伝える。
「…キリエ、絶対に癒やしの力を使ってはダメだ!使えばお前の命に関わる。あ、会えて、本当に幸せだったよ…あ、りがと…う…」
そう言い切った私は、もうお別れだ…とキリエの姿を目に焼き付けて、深い深い闇に墜ちていった。
◇◇◇◇
──うん…。あぁ…?
次に意識が戻った時、私は見慣れた天井を眺めていた…
何故だ…何故生きている?そう思った瞬間、全身を鋭い痛みが走る。
その痛みで気を失いそうになりながらも、何とか起き上がった。
見ると脇腹に包帯が巻かれ痛みにビクンとなるが、命に別状がない様子の自分に嫌な予感がする…
そろそろと立ち上がり、力を振り絞って一歩一歩と、部屋を出た。廊下には誰もおらずシンと静まり返っている。今何時かも分からずに戸惑うばかりで…
「だ、誰か、誰か居ないのか!」
その声に気付いた数名の御使いが慌てて駆け寄って来るのが見えた。それで少しだけ安心したのだが…
「御使い長様、まだ起きてはなりません!」
「酷い出血だったのですから…安静にしなくては!」
そう口々に言われるが、私はこの御使い達の中に愛するあの人が居ない事に愕然とする…
「もしや…もしかしてキリエは…」
動揺しながらも掠れた声で何とかそう言うと、その御使い達の顔がサッと曇った。
…写し身様はお亡くなりになりました──
頭を殴られたような衝撃が走る!あの人が、あの愛しい人が居ないだと!?私はその場で再び気を失った…
◇◇◇◇
神殿にはキリエの亡骸が横たえられている…
凄く綺麗な姿で、今にも動き出しそうだ…そんな事を思って泣きながらも笑いが出た。
そんな様子の私を見て、涙ぐみながら御使い達は去っていく。
──何故だ…何故癒やしの力を使ったんだ!私なんかの為に…!
御使い達から、既にキリエの変わりとなる者が選ばれたと聞いた。新たな写し身となる者が…
──キリエの変わりなど何処にも居ないのに?その者がキリエの変わりになどなるものか!
やり切れない想いのまま、明日荼毘に付されることになったキリエに一晩中付き添う。
私は泣きながらその冷たくなった頬を撫で、そしてこんな場所に横たえられて寒かろうと、身体を擦りながら話し掛けた…
そうしている内にいつの間にか気を失うように眠ってしまって…次の瞬間、闇の中に光るものを感じて目が醒める。
目を擦りながらその光の方を見ると、そこには我が目を疑う光景が…!
キリエの亡骸から光の玉が出ていた。フワッと握りこぶしほどの赤い光が漂う。
その光の玉はやがて三つに分かれ、まるで去り難いと思っているように私の周りを漂い続ける。私は何故かその玉がキリエのような気がした。それで思わず一つを掴んでみる。
すると、すーうっとその光が身体に染み込んだ…その瞬間、何故か自分の身体の痛みが少しだけ軽減されたような気がした。
──癒やしの力…?
これは癒やしの力ではないのか?キリエの身体に残っていた癒やしの力なのか!?
そしてあと二つの光の玉の行方を見ていると、女神アイリスの像の後辺りに漂い進んでいく。私も引き寄せられるように像の後に行くと…
像の足元、そこには切り込みが入っていて何か仕掛けのような物があるのが判る。
そしてその場所にすうーっと光が消えていった。
なんだろう?とそっと近付いてその場所を探ると、上から見ても分からないが横に僅かな窪みがあった。その窪みを押しながら手前に引くと…箱のようなものが引き出せるようになっていた。恐る恐るその中を覗くと…
中には綺麗な朱色の玉が収められていた。
どんなに忙しく、大変な役目があろうとも二人ならば耐えられる!私がキリエを支え、キリエが私を支える。
そんな日々が長く続き、もうすぐ私達は御使いとしての役を辞する…そんな予感が。
キリエとそうなって六年が過ぎたが、私達は今でも片時も側を離れない…これからもずっとそうなんだろうな。
二人で役を辞して、小さいながらも家を建てよう。
そして慎ましくとも幸せな余生を過ごそう…例え短い間であっても。
それを二人の心の支えとして長年務め上げてきた。
御使いとしての役目は大変であったが、キリエと逢えたこの幸せに勝るものなど有りはしない!あと少し、少しだけ頑張れば望みが叶う…そんなある日だった…
キリエが癒やしの力を使った後、必ず身体を振らつかせる。時には鼻血が出ることも…そんな嫌な変化を感じながらも、少し休めば戻るだろうと軽く考えていた。
その時は大陸全土に長雨が降り、作物の不作や土壌被害などが多発していた。
女神アイリスの神託を受けたキリエが解決策の指示を御使い達に出す。
この近くの河川も決壊しそうだ!と言うので、私と数名がその様子を見に行くことになった。
いざ行ってみると、まだ大丈夫な様子でこの雨が止みさえすれば危険はないだろう…そう判断した私は神殿への帰路を急いだ。
キリエに知らせて早く安心させてやらなくては!そんな思いで馬を走らせ、すっかり油断してしまっていたんだ…
ある道に差し掛かった所で、雨で緩んだ土に馬の脚が取られた…その瞬間、私は道に叩き付けられる。
そこに運悪く雨によって腐った木が折れていて、鋭い切れ端がこちらを向いていた。
──グサッ…!
余りの衝撃に心臓が止まったのかと思う。その瞬間、脇腹に鋭い痛みに襲われる。
それから一緒に来ていた御使いの大きな悲鳴が聞こえて…
余程深々と刺さったのだろうか、徐々に感覚がなくなり痛みももはや感じない。
それから御使い達によって何とか神殿まで運ばれはしたが、もう既に手遅れの様相だった。
私は遠のく意識の中で、せめて…せめて一目、愛するキリエの姿を見たいと思って、意識が飛びそうになるのを耐えていたんだ。
やがてバタバタと御使い達が集まり、その中にはキリエの姿が…
泣きながら他の御使い達に止められるのも聞かず私を抱き締め、そして置いていかないで!と叫ぶ。
「ハッシュがいなくなったら、もう生きていられないよ…愛してる!」
私はその時幸せで、もう死んでもいいと思う。その時神殿には力の強い御使いは居なかった…もうこの状態を助けられる者はいないだろう。
キリエとて、今迄長年癒やしの力を駆使してきた。もう役を辞する時間近で、体調の悪いキリエに力を使わせてはいけない!だから…
私は残り少ない命の火を今一度気力で強め、力を振り絞って伝える。
「…キリエ、絶対に癒やしの力を使ってはダメだ!使えばお前の命に関わる。あ、会えて、本当に幸せだったよ…あ、りがと…う…」
そう言い切った私は、もうお別れだ…とキリエの姿を目に焼き付けて、深い深い闇に墜ちていった。
◇◇◇◇
──うん…。あぁ…?
次に意識が戻った時、私は見慣れた天井を眺めていた…
何故だ…何故生きている?そう思った瞬間、全身を鋭い痛みが走る。
その痛みで気を失いそうになりながらも、何とか起き上がった。
見ると脇腹に包帯が巻かれ痛みにビクンとなるが、命に別状がない様子の自分に嫌な予感がする…
そろそろと立ち上がり、力を振り絞って一歩一歩と、部屋を出た。廊下には誰もおらずシンと静まり返っている。今何時かも分からずに戸惑うばかりで…
「だ、誰か、誰か居ないのか!」
その声に気付いた数名の御使いが慌てて駆け寄って来るのが見えた。それで少しだけ安心したのだが…
「御使い長様、まだ起きてはなりません!」
「酷い出血だったのですから…安静にしなくては!」
そう口々に言われるが、私はこの御使い達の中に愛するあの人が居ない事に愕然とする…
「もしや…もしかしてキリエは…」
動揺しながらも掠れた声で何とかそう言うと、その御使い達の顔がサッと曇った。
…写し身様はお亡くなりになりました──
頭を殴られたような衝撃が走る!あの人が、あの愛しい人が居ないだと!?私はその場で再び気を失った…
◇◇◇◇
神殿にはキリエの亡骸が横たえられている…
凄く綺麗な姿で、今にも動き出しそうだ…そんな事を思って泣きながらも笑いが出た。
そんな様子の私を見て、涙ぐみながら御使い達は去っていく。
──何故だ…何故癒やしの力を使ったんだ!私なんかの為に…!
御使い達から、既にキリエの変わりとなる者が選ばれたと聞いた。新たな写し身となる者が…
──キリエの変わりなど何処にも居ないのに?その者がキリエの変わりになどなるものか!
やり切れない想いのまま、明日荼毘に付されることになったキリエに一晩中付き添う。
私は泣きながらその冷たくなった頬を撫で、そしてこんな場所に横たえられて寒かろうと、身体を擦りながら話し掛けた…
そうしている内にいつの間にか気を失うように眠ってしまって…次の瞬間、闇の中に光るものを感じて目が醒める。
目を擦りながらその光の方を見ると、そこには我が目を疑う光景が…!
キリエの亡骸から光の玉が出ていた。フワッと握りこぶしほどの赤い光が漂う。
その光の玉はやがて三つに分かれ、まるで去り難いと思っているように私の周りを漂い続ける。私は何故かその玉がキリエのような気がした。それで思わず一つを掴んでみる。
すると、すーうっとその光が身体に染み込んだ…その瞬間、何故か自分の身体の痛みが少しだけ軽減されたような気がした。
──癒やしの力…?
これは癒やしの力ではないのか?キリエの身体に残っていた癒やしの力なのか!?
そしてあと二つの光の玉の行方を見ていると、女神アイリスの像の後辺りに漂い進んでいく。私も引き寄せられるように像の後に行くと…
像の足元、そこには切り込みが入っていて何か仕掛けのような物があるのが判る。
そしてその場所にすうーっと光が消えていった。
なんだろう?とそっと近付いてその場所を探ると、上から見ても分からないが横に僅かな窪みがあった。その窪みを押しながら手前に引くと…箱のようなものが引き出せるようになっていた。恐る恐るその中を覗くと…
中には綺麗な朱色の玉が収められていた。
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