【完結】初恋のあの人との結婚。だけど私のこと覚えてないんですね?

MEIKO

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第六章・御使いの秘密

56・愛の言葉

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 「そして、あの日…キリエ様が亡くなった時の事をお話し致します。」
 一層暗い表情になったその御使いは、自らを落ち着かせるように一度だけ深呼吸して、それから話し始める。

 ──あの日の真実…


 ◇◇◇◇


 
 「大変だ!御使い長様が酷い怪我をされて。凄く危険な状況なんだ…」

 一人の御使いが、そう言って神殿に駆け込んできた!もうすぐ連れて戻るからと…
 実際運んで来た姿を見て、誰もが絶望感に襲われて無言になった。これではもう助からないのでは…と。

 私はそんな状況に声も出せない…だけどハッ!と気付いて叫んだ。

 「キリエを…写し身様を呼んで!今直ぐ!!」

 祭壇で祈りを捧げていたキリエは、血相を変えて駆け付けてきた。だが、御使い長のあまりの惨状に言葉を失う…

 「ハッシュ!どうして…こんな事に!」
 ワナワナと震えて虚ろな表情のキリエ。
 もう恐らくは…そんな仲間の発言に我を忘れて叫ぶ!

 「嘘…でしょう?な、なんで!私を置いていかないでハッシュ!!」

 御使い長はそんなキリエに最後の力を振り絞り愛しげに話しかける。自分には決して癒やしの力を使ってはいけないと。出逢えて良かった…そう言って完全に意識を失った…

 ほんの僅か息があるようだが、命の灯火はもう消える寸前。キリエは真剣な顔をして、迷わず癒やしの力を使おうとする。
 だけど御使い達は口々に死んでしまうから止めろと言う。
 そんなことは全く耳に入っていないかのようなキリエが、力を使おうとした瞬間…耳には女神アイリスの声が!

 ──直接声がしたのだ…
 
 祭壇にいるのでもなく、祈っている訳でもない…そんな私達に声が届いた。
 力を殆ど失い既に御神託が受け取れていなかったキリエの耳にも何故か聞こえて…
 
 『御使い長を助ける方法がある。だから今直ぐ祭壇に来るように』

 そんな奇跡のような声が、確かにそう聞こえた。

 私は喜んでキリエと共に祭壇へ行こうとする。だけどその瞬間、眩い光と共に…全ての癒やしの力を愛する御使い長に注いで、キリエは息絶えた…

 「もうキリエは、あなたを失う恐怖に囚われて正常な判断が出来なくなっていたのでしょう。それだけあなたを一途に愛していたのです」

 それから私はあなたが目覚める前に悲しみで神殿を離れました。キリエが居なくなった所になんて一時もいたくは無かった!と、言うよりもあなたを見たくなかったのかもしれません。親友…そう言いながらも、私もまたキリエを愛していましたから…
 
 そして各国の神殿を転々として過ごし、ここに辿り着いていました。
 そして今、あなたの持っている御神体を見て、女神アイリスがあの時伝えたかったのは、その事だったのだと納得がいきました。

 これが全てです!とその御使いは真実を告白して、目を閉じた。その瞬間、一筋の涙がこぼれ落ちた… 

 その話を聞いた御使い長は愕然とした…私の、私のこの十五年は一体何だったのか…?と。
 
 ──もう疲れた…キリエのところに行きたい!
 そうして茫然自失の御使い長はヨロヨロと歩きだした…

 そこにアラン王子が立ちはだかる。ハッシュはそんなアランを力の無い目で見た。
 
 「あなたこそ御使い長だ…私はもう抜け殻です。癒やしの力も尽きた只の人間…そして心の中も…」と悲しそうに笑う。

 「私はある人の声を聞いてここに来ました。そして頼まれた事は…」
 そう言って、アランはハッシュの手を掴んで…癒やしの力を注いだ。

 …何故?何故癒やしの力を私に!?

 すると足元に転がっていた御神体の朱色の玉から、小さな光が飛び出す。
 そしてゆらゆらと揺れながらも迷わず真っ直ぐにハッシュの元に向かう。

 そして辿り着いたハッシュの身体に溶け込んでいく┉
 するとハッシュはハッと気付いて…見たこともない本当に幸せそうに笑った。

 ──キリエか?キリエの癒やしの力が…。あの時、最後にキリエの身体から飛び出して来たあの光…
 私を迎えに来てくれたんだな…そう嬉しそうに呟いて意識を失い倒れ込んだ。

 その場は一体どうなったのかと騒然とする。
 それにアランはスリジャの方を見て言った。
 
 「二度目の癒やしの力は眠ったままになるんですよね?」

 そうか!毒になるんだ。

 「この人は恐らく、もうこのまま目覚める事はないでしょう。きっと十五年前、キリエ様が亡くなった時に命運が尽きていたんでしょうから。恐らくこのまま眠るように逝くのでは?…と。それが狂気に囚われたこの人を救う唯一の方法…女神アイリスとキリエ様の願いだったのですから!」
 
 そう言ってアランは微笑んだ。その顔はいつになく晴れ晴れとしていて、以前のような執着に囚われていたアランは居なくなっていた。
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