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10.個室で一杯

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 訓練を初めて二十日が過ぎた。
 クリスタルのリミッター調整が終わったので、今日の訓練後、響はケリーに案内されて『重力調整室』から個室に移った。
 ここは『重力調整室』とは違い、家具やシャワールームと小さいが窓もある。

 響は、シャワーを浴びようとしたが、裸になると身体能力調節が、効かないのではないかと不安になる。
 だが実際には、服にそのような機能は無く、『重力調整室』や連絡通路に、重力調整の負荷が掛かっていただけなのだ。

 「あら、どうしたの?」

 食事を運んで来たケリーが、服を脱ごうとして固まつている。
 様子がおかしい響を見て話しかけてくる。

 「いや、この服を脱ぐと不味いのかなと思って」

 響は、コ-トの襟を持ち上げて、ケリーを見返す。

 「ああ、もう大丈夫よ、リミッターの調整は終わったから。それに服には、リミッター機能はないわよ。後はリストコントロールで操作をすれば、力の出力調整は出来るから。防御の方は、当面服に頼らないといけないでしょうけどね」

 ケリ-の話は、響にとって分かりやすかった。
 リストコントロールで、力の出力操作が出来る。
 防御は、響自身の経験値を上げる事で、防御力が上がって行くと言うことだ。

 んっ! と言う事は、今はまだ裸の時に襲われると、危ないのか?

 響は、シャワーを浴びた後、部屋へ戻るとケリーの姿はなかった。

 ケリーの用意してくれた料理を見てみると、そこには、『カレイの煮つけ』と『カレーライス』と言った。
奇妙な取り合わせの、料理が用意されていた。
 そして飲み物は、冷えたビ-ルが……ダメでしょ!

 そう言えば、姫様が『この世界では、お酒は十五歳から』って、言ってたな……なるほど。

 響は、ビ-ルから行くのであった。

 食事を終えた響は、ベッドに横になりながら、一人考え事をしていた。

 「そう言えば……おい、クロエ! 随分おとなしいなぁ」

 ここ数日、話しかけても来ないクロエが、不気味であった。

 「そりゃあ、アンタが酷い怪我をしていたし、この世界には珍し物が色々とあるからね」

 体の中から優しい口調で聞こえて来るクロエの声は、響の事を気遣っているようだ。

 「巨大トカゲの時は、ありがとうな。お前が居てくれて助かった」

 「今さら、どうって事ないさぁ。アンタに死なれるとアタイも困るからね」

 盟友と会話しているような、一時が流れる。
 こんなに、まったりした雰囲気で、クロエと話すのも初めてのことだ。

 「そうだ、前はお前のステ-タスが見えていたのに、今は見えないのは何故だ?」

 『再生強化』を受けてから、響には見えなくなっていたからだ。

 「あんたが『再生強化』を、受けたからじゃないかい? 多分、上書きされたんだろうよ」

 ステ-タスって、上書きされるんだ……

 「上書き……かぁ。お前は、これからどうするんだ? こんな所に飛ばされて、もうお前の世界には帰れないんじゃあないのか?」

 響は、クロエがおとなしいのは、異世界へ帰れなくなったせいだと考えていた。

 「アタイは、当分おとなしく見ているよ。外に出ても、魔素を消費するだけだからね」

 この言葉を聞き、響は先程の考えを改めた。

 今までの、クロエの行動を考えると、何か善からぬことを考えているな!

 「そうだな、この世界の事も知りたいし、これからの事も考えないとな・・・・・・」

 話を合わせる、響であった。

 今さら、皆の前に出て来られても、騒動の元だからな。
 
 小窓から見える地球は、テレビ番組で見ていた景色とは違い、海の青さが何処にも見当たらない。資源の枯渇、水不足、食糧不足、資源戦争、宇宙移民、宇宙侵略、この数百年の間に、どれほど愚かな行為が行われて来たのであろうか。世の中を変える力を持ち、元の世界へ戻れるのであれば、世直しも悪くはない。

 響は、知らぬ内に究極の目的を、この時掴んだのかもしれない。

 覚えていれば……



 その後十日間は、同じメニューを繰り返しこなして来た。
 響は、『再生強化』を受けた事もあり、『剣技』『射撃』ともに、プログラムの計画レベル以上の成果を上げている。身体能力調節の方も、リストコントロールを操作して、ほぼ自己管理が出来るようになり、補助要員も必要ないと判断されて、現在は一人でこの演習場の利用が、許可されている。

 響は、演習場に入りガンベルトを外して、場内に設置されているテ-ブルに置いた。
 そして、使って空になったマガジンへクリスタル弾を装填する。前日の演習後、疲れて装填していなかったのだ。

 「メリンダさんに、知られたら怒るだろうなぁ~」

 響は、メリンダに『武器の手入れと準備を怠るな』と、毎回言われていたのだ。
 響は、ガンベルトをテ-ブルに置いたまま、リストコントロールを操作して、剣技演習用ガ-ディアンを呼び出し演習を始める。
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