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44.ダンジョン捜索3 四十階層の敵

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 「リーダー、三十七階層から冒険者に、一人も会わないのはおかしいですね……」 

 夜目が効くア-リンは、松明とレイピアを構えながら、先頭を歩き辺りを警戒する。

 三十七階層を過ぎて三十九階層に来るまでに、誰とも会わないのは、どう考えてもあり得ない。
 階層ごとに最低でも一チ-ム、四~六人はいるはずだ。
 この先で、何かあったのかぁ?

 「四十階層に降りるぞ」

 「この先で、何かが待ち受けているよ。気を付けな」

 ジュリアンが進もうとした時、クロエがジュリアンの前に姿を現す。

 「「わぁ~!」」

 松明の灯りがあるとは言え、魔族にはまだ慣れないア-リンとモカであった。
 ジュリアンとは、あれ以来の飲み友達なので、まったく驚いていなかった。

 響は、リストコントロールを操作して、浮き上がる空間モニターの画面を見ながら『小型遠隔ドローン・ハチ型』で、四十階層の様子を暗視モ-ドで偵察する。

 そこには、大剣を持ったミノタウロスの姿があった。

 「ミノタウロスだな…………」

 ミノタウロスの姿を見たジュリアン達は考え込む。
 
 ミノタウロスの最低レベルは、四十以上と言うのが常識なのだ。
 しかし、チ-ム『ファルコン』で、レベルが一番高いジュリアンでもレベル四十、良くてトントン、相手がレベル四十以上あれば、全滅の危険性が出て来るのだ。

 「こいつのレベルは、四十八だね!」
 
 「「「四十八!」」」

 クロエの言葉に、驚きと落胆の色をあらわにするジュリアン達だった。

 「こいつは、アタイと響で相手するから、あんた達は、周りの警戒と援護を頼むよ」
 
 「二人だけで大丈夫なのか?」

 クロエの言葉にジュリアンは、思わず聞き返してしまう。
 冷静に考えれば、森林に大穴を開ける様な二人なのだから、ジュリアン達よりも余程勝算は高いはずである。

 「響、『ダ-クショット』は、使うんじゃないよ。ミノタウロスを倒しても、『ダ-クショット』が、天井や壁にあたると崩れるからね~埋もれるのは、嫌だろ…………」

 「はいはい、分かりましたよ」

 クロエの奴、ミノタウロスを拳で倒そうと、思っているなぁ……

 クロエの両手からは、目に見える程のオ-ラが溢れ出ていた。

 響は、『ダ-クオ-ラ』をジュリアン達三人に掛けてやる。
 そして、リストコントロールを操作して、ロングコートの認識カラーの光量を上げ、辺りを照らす。
 
 「あぁ~! 王都であたし達を助けてくれたの、響達だったの!」

 響の、光を放つロングコートを見て、モカは王都で死人に取り囲まれた事を思い出す。

 「あれ、言わなかったけ?」

 響は、少しお道化て見せた。



 
「また、冒険者が来たようだな。ミノタウロスよ、またお前の餌がノコノコやって来たぞ! ここはお前に任せる、好きにやっていいぞ!」

 王国警備隊の制服を着た男は、ミノタウロスを置いて、ダンジョンの奥へと、立ち去って行く。

 これまでにミノタウロスは、冒険者を六十人以上、大剣の餌食にしていた。
 しかし、その大剣も刃はカケ、刀身は歪み、後半に戦った冒険者達は、斬られると言うよりも、撲殺ぼくさつに近い殺され方をしていた。
 そんな大剣をミノタウロスは投げ捨て、冒険者の一人が持っていた、両刃のバトルアックスに持ち変える。
 冒険者にとっては、大振りのバトルアックスも、体長五メートル近くあるミノタウロスにとっては、片手で容易たやすく扱う事が出来る代物しろものだった。
 徐に地面に座ったミノタウロスは、腰にぶら下げた袋から、食料を取出しむさぼりつく。
 暗闇の中、ミノタウロスが取り出した食料とは、血がしたたり落ちる、女性冒険者の片腕だった。
 人食いの魔物の中でも、ミノタウロスは、女性の肉を好んで食べる。
 今までにも、襲われ壊滅かいめつした村の数は数知れない…………かと言って、ミノタウロスを倒せる可能性のある者も数少ない。



 響は、ロングコートの認識カラーをオフにする。

 「何で消すのよ~暗いじゃない!」

 急に辺りが暗くなり、つまずきこけそうになるモカ・ピンチ。

 「任せろ、考えがある!」

 響は、四十階層に続く道を下りながら、ポ-チから発煙筒を取り出し、数本づつジュリアン達に渡していく。
 
 四十階層は、闘技場のように広く、天井の高さもある。
 響は発煙筒の先端をこすって、発煙筒を発火させてから、四方に投げて行く。
 あまり先までは見渡せないが、水に浸けても松明のように消える事がない分安心だ。

 「来るよ!」

 クロエが、ファイティングポーズをとる。

 響も魔剣を抜き、リストコントロールを操作する。

 ドスン! ドスン!

 ミノタウロスが、走って近づいて来る。
 その足音は、重量感があり、地面を踏み固め、地面に杭を打ち付けたような振動が、体に伝わって来た。

 「みんな、目を閉じろ!」

 響は、視覚モ-ドを変更し、認識カラーの光量を最大限に上げた。

 ミノタウロスは、岩に躓き勢い余って、スライディングする。

 響は、視覚モ-ドと認識カラーの光量を元に戻して、ミノタウロスに突っ込み、一太刀浴びせる。
 だが、魔剣で切り付けたにもかかわらず、切り傷は浅くダ-メジは少ない。
 
 あれ? クロエの奴どうしたんだ……

 響が後方を見ると、ジュリアンとア-リンが、奇襲を狙ったゴブリンの一団と、戦っていた。
 その横では…………
 
 「目がっ~」

 モカが、倒れたまま目を両手で押さえて、ゴロゴロしている。

 その手前、ミノタウロスに隠れて分からなかったが…………モカと同じように、ゴロゴロしているクロエの姿があった。

 お前もかぁ~!

 響が、目をらした瞬間、ミノタウロスのバトルアックスが、左横から響の脇腹を狙う。
 そのミノタウロスの攻撃を、響は魔剣で受ける。
 だがその威力はすさまじく、響は壁に飛ばされ、激突して壁を突き破る。

 「オラァァー! ダ-クブロー」

 クロエが、起き上がったミノタウロスの後頭部に、一撃を入れる。
 ミノタウロスは、顔面を地面に叩き付けられて、右の角が一本折れて飛んで行く。

 「痛ぁ~! 流石に五十レべ近いと、ダメ-ジあるなぁ~」

 響が飛ばされて開けた壁の先は、暗い小部屋になっていた。

 この魔剣、もう使えないな……

 ミノタウロスの一撃を受けた響の魔剣は、刀身が折れ曲がっていた。

 あれ、何だここは? 
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