NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶

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58.二人の女性

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 メディカルポッド内、ア-ムに捕まれた三センチ程のダイヤ形をした赤いクリスタルが、響の胸に戻される。
 赤いクリスタルには、亜空間エネルギ-の流れが戻り、エネルギ-供給の止まっていた所に、亜空間エネルギ-を送り出して行く。

 「何なのじゃ! この力の流れは? 先程とは違うではないか~」

 魔王ベルランスは、座っていた椅子から飛び上がり、響に目をやる。

 「クリスタルのメンテナンスが終わったようだな。これからお互いに長い付き合いになりそうだ!」

 響と魔王の距離が、高速ベルトコンベア-にでも乗っているかのように離れて行き、その間には白いもやのような何層ものプライベ-トシ-ルドが、二人の間をさえぎるかのように地面から現れて来る。
 
 



 「マスタ-が覚醒するよ!」

 「………………」

 琴祢の声を聴いたティスは、その手を止めて響の入るメディカルポッドを見つめる。
 その目からは、先程よりもさらに大きな涙が溢れ出て来る。
 自分にはどうする事も出来ない気持ちが、ティスの胸に刺さる。

 メディカルポッド内のナノマシン溶液が抜けて行き、メディカルポッドが開かれる。
 響は体をおこし、メイドに差し出されたガウンを羽織る。
 そして、目をらし響を見つめるティスの元に、ゆっくりと歩み寄って行く。
 ティスの目は、迷子になった子供が助けを求めるような、いとしさを響にもたらす。
 
 「私には………もう、何も出来ないぃ………ワァァァ~」

 ティスは、響の胸の中に駆け込み、胸が張り裂けんばかりに大声で泣き叫ぶ。
 今まで見た事もないティスの姿に、響はその体を両手で包み、ティスが落ちつくのをただひたすら待っしかなかった。

 こんなに、自分の感情を表に現したティスを見るのは、初めてだなぁ。
 そうだった!

 響は思い出す。
 ティスが自分と同じ、十七歳である事を………
 いつもは落ち着きのある頼れる女性だが、今の彼女は、生まれたての子犬のように、か細い体を震わせながら響に、感情をぶつけて来るのであった。



 メディカルルームに置かれるソファ-に響は座り、その足を枕にティスは、泣き疲れて眠ってしまっていた。響は、アリシアのメディカルポッドを見つめながら、小さな声で琴祢に話しかける。
 
 「琴祢、元の世界に戻ってアリシアの体を再生強化出来るように、コールドスリ-プモ-ドで保管してくれ………あっ、それから、アリシアのリングを俺の所に転送してくれ」

 「了解」

 響の左手の中には、一瞬でアリシアのハメていたリングが、転送される。
 ティスの金髪ショ-トの髪の毛をそっと右手で撫でながら、左手を開き中を見ると、そこには青く冷たい輝きをしたリングがあった。
 響は、そのリングを右手で取り、ティスの左手中指にハメる。
 そして、左手を横たわるティスの体の上に置き、右手でティスの髪の毛を撫でると、響は目を閉じる。

 響の目の前には、岩を掘ったようなダンジョンに似た通路があり、その奥には一枚の木の扉があった。
 木の扉に近づき扉を開くと、そこにはベッドで膝を抱えるアリシアがいる。

 「響さん!」

 扉から現れた響の姿を見たアリシアは、ベッドから飛び掛かるように、響に抱き着いて来る。
 抱き付くアリシアは、涙を浮かべ張り詰めた感情が、解き離れたように一つ大きくため息を吐いた。
 響の首に絡み付く腕は白く、ほんのりと赤みを帯びて来る。

 「あれ? 髪が伸びたね!」

 兜を被る為、銀髪ショ-トだったアリシアの髪が、腰のあたりまで伸びていた。
 一時が過ぎ落ち着いたアリシアが、響から離れてこちらを見ている。
 アリシアは、薄生地の水色ワンピ-スを着て、白いローヒ-ルの靴を履いていた。
 この世界で膝丈のワンピ-スを着た女性を、響は見た事がなかった。

 そう言えば、この姿は………可愛い!

 響が思い出したのは、アリシアの服装が、自宅の壁に貼ってあった好きなアイドルのポスタ-で、アイドルが着ていた洋服その物だった事だ。

 そう言う事か!

 響は、魔王ベルランスと交わった事で、今自分達に起きている事が、頭の中で整理され理解出来るようになっていた。
 アリシアのレベルが低い為、無意識で響の思考が優先して、この空間に作用しているのだ。
 ようするに、アリシアのこの姿は、響が一番好きな服装だと言う事なのである。

 アリシアと落ち着いて話をするために、まずはプライベ-トシ-ルドを張り、響はこの空間を大きく広げ、南国風のリゾ-トでよく見るコテ-ジに設定して行く。
 実体のないアリシアにとって飲食は必要ないが、それでは寂しいので冷蔵庫とダイニングキッチンを用意して、料理が出来るようにしておいた。
 もちろん冷蔵庫内の飲み物、食材などは取出し放題である。
 そして、戸棚には缶詰とジャンクフ-ドのオンパレ-ドだ。
 バス、トイレもモダンに、バスはジャグジ-付きで、ゆうに五人は入れる大きさがある。
 寝室には、大きなベッドに壁一面のクロ-ゼット、その中には響好みの服がいっぱい入っている。
 リビングには、大画面のモニタ-にロングソファ-、壁には読み切れない程の本が並んでいる。
 コテ-ジの外には、白い浜辺と青い海、空には青い空と太陽。
 天候や時間の流れは、外の世界とリンクさせると、辺りは月明りだけの薄暗い世界が広がっり、部屋の中に灯りが灯った。

 アリシアは、響が行っている作業を、目を丸くして見ていた。
 作業が一段落した所で、響は冷蔵庫からレモネ-ドを出して、タンブラ-に注ぎリビングのテーブルに運ぶ。

 「アリシア、説明するからこっちに座ってくれるかなぁ」

 響は、ロングソファ-を叩いて、アリシアに横に座るように促す。
 アリシアは両手を口にあて、辺りを見回しながらロングソファ-に座る。
 ふわっとした水色のワンピ-スのすそからのぞく、アリシアの白く細長い脚は、響にとっては目の毒である。
 響は、これまでの事をひと通り、アリシアの目を見つめながら話し始めるのであった。
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